2021/06/06 のログ
ご案内:「学生通り」に藤白 真夜さんが現れました。
藤白 真夜 >  
常世島には本来存在するはずのない、『梅雨』。
強い雨脚は、未だ弱まることもなく。

学園の、通学路。
本来、級友と話しながらの帰り道を楽しんでいるはずの生徒たちの姿は数少なく。
代わりに、全てを覆い隠すような真白く煤けるような雨が降り続けているのでした。
……まあ、私に帰り道に一緒にお話をするような友達は居ないのですけれど。

「……はあ。たまに、無茶な課題が出るんですよね……」

ただでさえ少ない生徒の、もうほとんど帰る生徒も居ないころ。
遅れた理由は、祭祀局からの依頼や課題を一通り話し合う小さな会議を終えた後でしたから。
小さなため息の理由は、その会議の内容にありました。

この異常な雨量の理由。

それが神霊や霊的存在、それに準ずる"なにか"であることは明確でした。
けれど、その理由は?この雨自体に異常性は無いのか?そもそもの根源の正体は?
……ただでさえ、この雨で活性化する水棲の怪異や妖魔の対処だけでも忙しくなるというのに、
私の所属する部門はそういう細かい――判別できなくとも問題の無い――部分にやたらとこだわるのでした。
……つまるところ。
この雨を調べろ、というのが、私に下った任務。
そもそも、雨自体が異常であるかどうかと、異常気象の原因とはなんの関連も無いというのに。

「たまになら、雨が続くのも嫌ではないと思うんですけど、ね」

傘を叩く雨粒の音を聞きながら、誰もいない通路を歩んで。
水気の混じった少し肌寒い風が吹く。
……やっぱり、雨はそんなに悪く無いと、思うのです。

ご案内:「学生通り」に黛 薫さんが現れました。
黛 薫 >  
学生通り、名前の通り常世学園の学生が集う区画。
一応学生としての籍はあるが、不良学生の自覚が
あるだけに居心地の悪い場所だ。

風紀に咎められた際、無抵抗に連行されることが
多いお陰で、違反学生としては顔が知れている方。

そのお陰で時折刺さる『視線』が痛くて出来れば
近寄りたくない学生通り。足を伸ばすのには当然
それなりの理由がある。

(ああ、いたいた)

わざわざ勤め先──祭祀局に話を聞いて所在を
教えてもらった知り合いの学生。借りっぱなしの
ハンカチをいい加減返さなければと慣れない表の
街にまでくり出して来た。

それは良いのだが。

(……自分から声かけるって、どーすんだ?)

いざ見つけて声をかける段になってうだうだ悩む。
黛薫はコミュ障である。挨拶の仕方から分からない。

とはいえ、ここまで来て引き返せるわけもなく。
雨合羽を羽織った姿で背後からそっと近付く。

「……こんちは、っす。真夜……であってますよね?」

藤白 真夜 >  
……とはいえ、今の私はそんな風流だかもわからない天気の機微を楽しんでいる暇は無いのでした。

(仮に。この雨の原因が、神霊だとかそういうものだとして。
 その理由が、ただそこに居るだけで周りに雨を齎すようなモノでなく。
 "意図的"になにか雨を降らせる理由があるのだとすれば。)

祭祀局の上の考えはともかく、私たちの会議で出た答え。
自然現象に匹敵するような神霊なら、放っておけばいいし、どうにかするのも難易度が高い。
問題は、なにかの意思や意図的なものがあった、"場合"。
実際にどうかは、考える段階に無いのだ、と。
……ものすごく確率は、低いと思うけれど。

「……そんな事言われてもなぁ……。
 そもそも、雨を降らせるにしても、なんだかやり方が迂遠すぎますし……。
 ……雨の神様とか、雨乞いの行き過ぎたなにかとか、そういうの、かなぁ……」

ぱしゃぱしゃ、と歩道にすら貯まる、水たまりを超えてほとんど浅い川のようになった水嵩を、靴先で蹴飛ばしながら、歩く。
結局のところ、そういう神霊に干渉するような、技術も技量も無い私には、頭で考えるくらいしかできることは少なくて。
……神性などに特別詳しいわけでもない私がやったところで、下手な考え休むに似たりにしかならないのですけれど。

――そんな、ぶつぶつと呟きながら頭を回転させてぽつぽつと歩いているところに。
かけられる、声。

「は、はひ!?あってます、けどっ」

すっかり、他に誰も居ないと思っていた私は軽く飛び上がる勢いで、どっきり。
雨の中、合羽を羽織る姿に、一瞬戸惑いますけれど、その声と呼び方に。

「……あ、薫さん!はい、こんにちはっ。
 お久しぶり、ですね」

……内心、考え事に耽っていたり、そもそも声をかけられるのがそうそうなかったりで、ばくばくと心臓が早鐘を打つくらいにはびっくりしていたんですけど。
なんとか、持っていた黒い傘を少し持ち上げて、挨拶の代わりに。

「……はぁ、すみません、少しびっくりしてしまってっ。
 雨だと、周りのことに意識が行かなくなってしまうと、いいますか……」

びっくりするなんてまた失礼をしてしまったかなとか、慌ててどこも変でありませんようにと取り繕いつつ、ご挨拶を。

黛 薫 >  
「あーいや、分かりますよ。つーか、いきなり声
かけたあーしの方が悪ぃですし。雨が降ってると、
ってか雨の中で傘差してると、音とか景色とか?
周りの様子、よく分かんねーですよね」

足首まで隠れるビニール製の安っぽい雨合羽。
水滴で見えにくいが下にはいつものパーカーを
着用している様子。服装は素より、靴まで以前
出会ったときと同じで、防水対策は雨合羽だけ。

声の掛け方に迷ったばかりだったので、取るべき
行動を間違えたと感じてしまう。バツの悪そうな
表情で視線を彷徨わせた。

「んで、その。あーし、真夜に用事?あって。
それで追っかけて来たんすけど……あー、んー、
どうしよ、雨……考えてなかった……」

目的こそはっきりしているものの、それ以外は
全て行き当たりばったり。彼女がどこにいるかも
分からず勤め先に話を聞きに行き、そのまま後を
追ってきたのは良いが、借り物を雨の下で渡すと
濡れてしまうのではないかと思い当たる。

藤白 真夜 >  
「い、いえ、考え事しちゃっていて、私も悪いですからっ。
 雨合羽のほうが動きやすくて良いと思うんですけど、傘が雨を弾く音とか、私好きで……、
 って、な、なんだか子供っぽいんですけど……!」

……そもそも、通学路で話しかけられたことなんて、あっただろうか。
色々恥ずかしいことをしたり話してしまったりでそわそわするうちに、変な方向に思考が走りそうになるけれど。

「私に、用事……?
 ……ふふふ。
 私にできることならば、力の限り尽くさせて頂きます……!」

想像していなかった言葉に、ついまた恩返しの機会が来たかと早とちりしてやる気を出してしまいます、けど。
……思えば。
雨の中でもここは一応通学路で、私たちは同級生のはず。
……以前見た時と変わらない姿に、私だってわかる。彼女にも、理由はあるだろうけれど。

「……私、寮に泊まっているんですけど。
 帰り道が一緒なら、帰りながら聞きましょうか?
 雨宿りできる場所くらい、あると思いますし。
 ……あ、あと、こうすれば、雨もマシ……です、よね?」

……気持ち、ゆっくり。慎重に。
彼女の隣に並んで、二人の間に傘をさす。
……別に変なことはしていないはず。雨合羽だと、ちょっと水とか入る時あるし……。
帰り道に友達と話すのなら、そんなに変でない、はずだから。

黛 薫 >  
「え?えぁー……張り切ってるトコ悪ぃんすけど、
頼み事とか、そっち系の用事ではねーです、はい」

隙あらば恩を返そうとしてくるのはいつもと同じ。
理由こそ聞けたものの未だ実感は湧かず、返すと
言われても相変わらず戸惑いの方が大きい。

「帰り道……あーし寮住まいじゃねーんですよね。
不良学生なんで、そーゆーちゃんとしたトコ?に
留まんの、落ち着かねーってか、メーワクかける
コトになりそーで嫌ってか……」

半分本当で、半分嘘。違反学生の身で寮の部屋を
借りられないのは本当だが……一時期は堅磐寮で
暮らしていたこともある。

結局のところ『視線』に耐えられないから人気の
多い場所にはいられないのが一番の理由。

差し出された傘を上目遣いで見上げ、雨合羽が
あるのだからと一度傘の外に出ようとしたが……
此方が無自覚とはいえ、相手は恩を返したがって
いる立場。遠慮し過ぎると、自分が濡れるのも
構わず傘を押し付けて来そうな予感がした。

そんな下らない理由で相手を雨晒しにするのも
気が引けたので、軽く合羽の裾を払って水滴を
落とし、素直に傘の中に収まった。

貴方より階段の段差ひとつ分ほど背が低い薫は
見上げるような姿勢でそちらを見ている。
雨に濡れた長い前髪から水滴が一筋、首を伝って
鎖骨の辺りまで落ちた。

藤白 真夜 >  
「あッ……。
 す、すみません、私また早とちりを……!
 ……。
 ……も、もしかして、私なにかやってしまいましたか……?」

頼み事では無い、となると。
自分のせいで何かが起きた、というのは身に覚えが少し……大分、あったから。
思わず、顔を青くしながら恐る恐る、聞いてみる、けれど。
……ハンカチを貸した時のことは忘れていないはずだけれど、当の本人はあげたような認識で思い出そうにもひっかからなかったり。

「不良学生……。
 ……私はあんまり、気にしたことは無いんですけど。
 ここは、この学園は、そういう区分を造りたがるようですから。

 ……もう少し、好きにやらせてくれればいいのに、ね」

今までの彼女を見ていれば、少しは想像はできた。
……二級学生や、風紀委員の取締を見れば。
私はやっぱり、どこか諦観を含んだ声で、視線を下ろす。
生徒や、ましてや独りの人間ではどうしようもない、なにか。
……でもきっと、ここも、どこでも、この世界はそういうものだと、私は諦めていたから。
ただ私は、そこにちゃんと立てていないだけだから。

もう一度あなたを見つめる時には、その瞳は、どこか涙を堪えるかのように煌めいたかもしれない。

「……あ」

けれど、現実的な問題を前にそんな朧げな感情は露と消えた。どうしようもないもののように。

「あの、寒くはありませんか?
 雨合羽って、雨脚が強いと水が入りますから……。
 ハンカチ、どこに仕舞ったかな、……――あ!」

雨に濡れる薫さんを前に、やはり自分のことを尻目に、傘を彼女のほうに追いやる。どうせ、私は風邪など引かない。
ごそごそとポッケを探して、猫が走り回っているイラストのハンカチを取り出して、……思い出した。

「……も、もしかして、用事って私の貸したハンカチのことだったり、します……?」

……どうしても、私よりかは小さな薫さんのことを見ていると心配してしまう。
許されるなら、濡れたあなたの前髪をそーっと、ハンカチで拭おうとしながら。

黛 薫 >  
「いぁ、真夜がやらかしたとかでもねーですよ。
てかそーゆーのは真夜の方にも覚えが無ぃんじゃ
ねーですかね?そっちに粗相の記憶がねーのなら
堂々としててイイんじゃなぃすかね」

とはいえ、自己評価の低さや卑下が度を過ぎて
してもいない悪事に怯えるのは自分も覚えがある。
励ましと呼ぶには些かぶっきらぼうだが迷惑など
かけていないと極力優しい声で伝えてみる。

「ま、んなこた真夜が気にしなくても良ぃんすよ。
不良だのなんだの言われるヤツは自業自得なんで。

事情がある人なんかほんの一握りで、大体が馬鹿
やって自分がしたコトのツケ払ってるだけですし?
学園が悪ぃわけでもねーです。真面目にやってる
生徒が割を食わずに済むようにしてるだけっしょ」

見上げた赤い瞳が潤んで見えたのは雨の所為か。
泣きそうな顔をしているように見えて、慌てて
弁解したが、普段散々嫌っている学園の体制を
正当化するのは妙な気分だ。

「あーあー、やると思ぃましたけどダメっすよ。
それやったらそっちが濡れるでしょーに、もぅ。
で、あー、うん、はい。そうっす、ハンカチ……
借りたまんま返せてなかったんで……」

此方側に押し付けられた傘をぐいと押し返す。
上等でないとはいえ、一応此方には雨具がある。
優先すべきはどう考えてもそっちだろう、と。

密着すれば濡れた合羽が貴方に触れてしまうから
付かず離れずの距離でされるがままに濡れた額を
拭われる。ハンカチを返す予定で来たというのに
またハンカチを使わせてしまったとため息ひとつ。