2021/07/07 のログ
ご案内:「学生通り」に妃淵さんが現れました。
妃淵 >  
──さて、世間はどうやら七夕…というイベントの日らしい
スラムで生活していた時代は対して縁もなかったわけだが、此方…学園の区画に来てからは
多少はそういったイベントや催し物に対しての知識も否応なく深まった

なぜならそういったものと関連する販売品や、広告が必ず出るからである

相変わらずバイト生活な以上はそんなものに触れる機会も多く、多少なりそんな知識が得られるわけで

「っても、相変わらずのコレじゃな」

透明なビニール傘をたんたんと叩く雨
土砂降り、というわけでないが件の梅雨はしとしとと続いていて
厚めの雲の向こうに高い陽が見えつつも…

「天の川とやらも、増水決壊危険水域とかなんじゃないか」

バイト帰りのコンビニ袋を手下げたまま、やれやれと小さく肩をあげる少女であった

妃淵 >  
短冊に願い事をしたところで叶う筈もなく
確か願うものも基本的に学業のことだったかなんだっか
学生としてはソレで十分な気もするが

「…まー帰ったらアイツの願い事の一つでも聞いてやるか…──ん」

しとしとと降り続く雨の中で、ふと足を止める
路地の隅のほうから、ちょっとした聞き慣れない音がしたからだった
小さく、か細く、高い
道を車なりが走っていたら聞き逃してしまいそうなくらい
そんな鳴き声

「──…なんだ。ズブ濡れだな」

当たり前か
そう呟きながら通りの端、
雑居ビルと建物の隙間の入り口にしゃがみ込むフェイエンの前には濡れてふやけきったダンボール箱
そしてその中に、小さく、痩せた───薄汚れた小さな白い子猫がいた

妃淵 >  
猫は子供で
飢えているのか、濡れているせいなのかやけに細っこく見えた
鳴き声も甲高く細い、まあ──ひと目で捨て猫とわかる風貌

「なんだ。捨てられたか?」

指先を差し出してみると、猫は両手で抱えるようにして牙を立てた
全く痛くないのは甘噛みなのか、強く噛む体力も残っていないのか

大方、手に余った飼い主が捨てていったのだろう
単独で生き残る術を持たなければ、このまま死ぬに違いない

「(──ま、いくらも見てきたな)」

スラムを根城に育った少女からして見れば、この光景も人と動物の違いでしかない
差し出した指先に確かに感じる子猫の力は必死に生きようとしている小さな生命の力か
そんな僅かな力も、誰かに見つけられなければ簡単に消えていくのだろう

「うーん…見つけちゃったしなあ」

とりあえず色気もクソもない透明なビニ傘を屈んだ自分と猫の上になるように置いて、これ以上濡れるのを防いでやる

さてそれは良いとして、どうしよう

妃淵 >  
まず、ズブ濡れだしほっとけば病気で死ぬだろう
で、このまま誰にも拾われなければ、当然飢えて死ぬだろう
雨が降っていなければカラスの格好の獲物にもなるかもしれない
タチの悪い生徒に見つかれば弄ばれて死ぬかもしれない

他人の力を借りなければ、詰んでいる状態に見える
逆に、誰かの力で助けられればワンチャンあるか

「……なンか、どっかであったよーな話だナ」

どことなーく親近感を感じながら、指に子猫をじゃれさせていた

妃淵 >  
傘をこのままこうしておいて、コンビニで買ったパンでも置いていってやれば
今日くらいは生き延びるかもしれないがまぁその後死ぬだろう

そういえば、いずれ自分がしてもらったことを誰かにする時が来るだろう、なんてことを
誰かに言われたこともあったけなと考える

アイツは一時的な施しだけじゃなく、一緒に暮らすこと、過ごすことで
自分をスラムでの二級学生…いわゆる『詰んだ状態』から脱させたわけだ

「──ま、似た者同士ならナンかの縁だ」

濡れること、汚れることも厭わず子猫を制服の胸元へと抱え上げる
やや暴れれるものの、微々たる抵抗である

「おい暴れるな。助けてやろうってんだぞ」
 

妃淵 >  
みゃーみゃーと喧しかったが、
パニックがおさまり、じわじわと体温が伝わりはじめると子猫は大人しくなった

拾ってくださいとも書いていない、毛布なども見当たらないダンボールを一瞥して立ち上がる

「やれやれ …お」

立ち上がり通りの向こうを眺めると雲の切れ間から陽光が差し込んでいた
まだ小雨は降っているものの、夜には少しは晴れてくれるのかもしれない

「──さて」

傘を肩と腕で固定しつつ、すっかり大人しくなった子猫を抱いて、歩きはじめる

「……堅磐寮ってペット飼えたっけ」

同居人のアイツはダメだとは言わないだろうけど
どうだったかなー、などと、首を傾げていた

妃淵 >  
そもそも猫を飼うのも結構大変だろう、とか
名前とかどうするんだ、とか
色々考えなければいけないこともあるわけだが

まぁいいか、二人で考えれば、と

アレと一緒に何かをすること、が基準になってることに少しだけ、気恥ずかしさを感じながら

しとしとと小雨の降る中を、濡れた子猫を抱いて寮へと帰っていった

「帰ったら速攻でシャワーだな……」
 

ご案内:「学生通り」から妃淵さんが去りました。