2022/04/23 のログ
ご案内:「学生通り」に千草さんが現れました。
千草 > 赤色の自転車に跨って緑の制服を纏い、春の陽気を掻き分けて。
舗装された車道の端っこをゆるゆると、キィキィと音を立てて車輪は回る。
人通りの多い区画用の自転車特有の脚の負担が、辛くはあるけれど心地良く。

「普段原付頼りで運動不足ですかね……って、わぁぁっ」

不意に吹き寄せた風。
小気味良いブレーキの音を響かせて帽子を押さえる。
一瞬浮き上がったそれが飛ばされなかった事に胸を撫でおろして、辺りを見渡す。
他にも同じようにしている人がいたり、間に合わなくて飛んで行った鞄の中身を追いかけている人もいて。

「……平和だなぁ」

道路脇に植えられたツツジの向こうには真新しい衣服に袖を通した新たな学生達。
期待や希望、瞳にそんな色を携えた人々の姿。
お休みの日だというのに見え隠れする初々しさに、思わず頬も綻んで。

「僕も早く授業に慣れなきゃですね……それにお仕事にも」

自転車の後ろ、緩衝材と荷物を詰め込んだ赤色のキャリーボックスには郵便課の印。
茶色の肩掛け鞄の中には色とりどりのいくつかの手紙を携えて。
薄く汗をかきながら、また自転車をこぎ始めます。

千草 > 『郵便屋』
それが生活委員会の一角として僕が与えてもらったお仕事。
郵便や配達はこの島では技術の発展に追いやられて廃れつつある文化です。
指先1つで紡いだ言葉が電波に乗って即座に届く世の中ですから。
いつか、数を減らしたと聞かされている郵便課の席も綺麗さっぱり無くなるのでしょうか。
でもこのお仕事が、僕は好きです。
便箋や封、筆跡に宛名書き。二つとして同じ物が無い。
誰が誰にどんな思いを込めて綴っているのか……なんて。
中を垣間見る事こそありませんが、勝手ながらに思いを馳せたりして。

「こんにちはー」

店の前で植木に水をあげている人に挨拶を。
笑顔で、元気よく。
知り合いという訳でもありませんが、そうされて気を悪くする人もそうそういませんから。

千草 > 「はい、確かにお渡ししました!」

最後の一通。本人確認と引き渡しを終えて今日の業務はお仕舞です。
そうしたら最後に電話で完了報告をして、あとは自由時間。
商店街のチラシや数件の郵便、小包サイズの配達なんかがメインのお仕事ですから、
日によってその量も終わる時間もマチマチですが、今日は少し早かったでしょうか。

自転車を端に停めて自販機でサイダーを買って。
駅の外にあるベンチに腰かけてプルタブを上げます。
火照った身体に染み渡る冷たさ、その後に喉奥に炭酸の刺激。
舌の上に流れていく砂糖の甘さが、ただ心地よくて。
少しずつ落ちていく夕陽を見上げて、人の行き交う駅を眺めて―—

千草 > 駅の流れは人の流れ。
慌てた様子で駆けていく人は、もうすぐ出る電車に乗れるのでしょうか?
大きな買い物袋を提げた親子連れが行ってきたのは百貨店でしょうか。
そんな取り留めもない事に思いを巡らせて。

「っと、あんまり遅くまで出歩いてると怒られちゃいますね

横に置いていた帽子を被り直して立ち上がります。
もうすぐ陽が落ちる。
遠く向こうの山に隠れて、明日になるまで光はお預け。
道路沿いは街灯も多いとはいえ、夜になるとやはり暗い物で。

自宅へ、歓楽街の方へとむけて自転車を漕いでいきます。
買い物は済ませてくれているかな、夕飯は何だろう。
それから、それから――

ご案内:「学生通り」から千草さんが去りました。