2022/10/23 のログ
ご案内:「学生通り」に千草さんが現れました。
■千草 >
「これで最後っと」
カタリ、と音を立てて郵便受けに滑り込ませて。
念のために自転車の後ろに付けたボックスを確認したけれど、
赤色のボックスの内側に張られた真っ黒な緩衝材以外の感触は見つからない。
「はい……はい。学生通りの担当ルート、配達終わりました」
お疲れ様です、そう言って携帯の向こうの先輩に見えもしないのに頭を下げて。
ふぅ、と息を吐きだして通話を終了ボタンを押すと、ドッと疲れが押し寄せてきた。
両手の指を組んで伸びをすると腰のあたりで乾いた音が鳴ってなんだか恥ずかしい。
「重かったなぁ……」
思い返すのは箱の中にあった学生街宛ての同じ差出人の白い小さな便箋の山。
触れると僅かに堅い、小さなメッセージカードを内に秘めた白い便箋。
届けるだけの僕たちにその中身が分かるような物ではないけれど、
噂やニュースで聞こえる良くない事と結びつけるとその重さがなぜだか想像できてしまう。
■千草 >
道路の脇、通行の邪魔にならない所に自転車を留めて自販機に向かう。
一日頑張った自分へのご褒美のサイダーには少しずつ寒くなってきたけれど。
肩に残る何かに掴まれたみたいな重さを振り払うために、弾けるような炭酸の感触がただ恋しかった。
『パラドックスには気を付けてね』
行ってきますね、と言った背中に投げかけられた心配の声が頭の中で繰り返されて。
何が目的なんだろう、と小さな疑問が降って湧いた。
辛い事があったのかも知れない、この島に恨みがあるのかも知れない。
だけど、それが誰かを傷つけて良い理由になんてならない。
「あっ……」
知らず知らずのうちに、指が震えていた。
そのせいなのか、小銭が指から滑り落ちて自販機の重たい鉄箱の下に消えていく。
「あぁぁ……」
一日の終わりの楽しみが、微妙に手の届かない所に行ってしまって。
人通りの少なくなった時間の学生街に、情けない声を響かせてしまう。