2022/10/24 のログ
ご案内:「学生通り」にセレネさんが現れました。
セレネ > 毎日の日課であるお散歩、もといウォーキング。
今日は何処まで行こうかと悩みながら大通りを歩いていると
自販機の明かりに照らされた人影から何とも残念がるような、
そんな声を耳が捉えふと足を止めた。

「…どうなさいました?」

パンプスのヒールを鳴らし、其方へとゆっくりと近付いていく。
己が近づけば常に纏う甘いローズの香りも相手に届くかもしれない。
何か困り事なのだろうか、と蒼にも些か心配そうな感情が浮かんでいるだろう。

千草 >  
膝を地面につけてめいいっぱいに腕を伸ばして。
たかが百円って言っても、無駄にしていい物じゃない。
もうちょっと、もうちょっと……。

「うぇっ?」

不意に声をかけられれば、体が跳ね上がる。
みっともない姿を人に見られた恥ずかしさと、制服を着て何をしているのかという自戒と。
聴こえた声に覚えは無くて、少しだけ砂埃がついた頬をそちらに向ける。

綺麗な月白髪の髪、柔らかな印象を与える女性を見上げればバラの香りがした。
クラクラするような、甘い香り。なんだか既視感がある。
これは、先輩の女性とエレベーターで一緒に乗った時……?

「あっ、いえっ、その……小銭を落としてしまって……」

暫く、ぼーっとしていた気がする。
ハッとして、お恥ずかしいと笑って視線を地面に落とす。
本当に恥ずかしくて、まともに顔を見る事もできない。
ひとりでに早くなる胸の鼓動が、その子供っぽい自分の余裕の無さが、本当に恥ずかしい。

セレネ > 自販機の下にある物を取ろうとしているのだろうか、
必死に腕を伸ばしていた相手が、己の一言で振り返った。
頬に土埃が付いて、汚れているその顔は可愛らしいと言える子だった。
青い色が己を見る。

「あら、お金を…。
それは、なかなかに困りましたね。」

相手が理由を答える合間が少しばかり開いていた。
それに対し己は特に気にする様子もなく、眉を下げて困り顔。
青を落として恥じらっている様子も何だか非常に可愛らしくて、
微笑ましくて笑ってしまいたくなる気持ちを何とか抑えながら
顎に手を添えて考え込む。

見れば相手は生活委員の腕章を付けている。
制服も見るに、郵便関係の所属なのだろう。

「…少しだけ待って頂けます?」

魔術を使って落としたお金を手元まで寄せる方が手っ取り早いか。
そう相手に告げれば、片手を上げ、軽く動かす仕草を。
すると自販機の下を攫うようにやや強い風が吹き、
相手が落としたお金が転がって出て来るだろう。
一緒に自販機の下にあった枯れ葉や誰かが落とした他の硬貨等も転がってくるかもしれないが、
それは致し方ない事。

千草 >  
「えっ? は、はい」

少しだけ、その言葉に嘘偽りがない事は数度瞬きをする間に吹き抜けた一陣の風が証明してくれた。
ベージュのコートから覗く細くて白い手指。
指揮棒のように緩やかに振るわれるそれに呆けて見とれている間に、
長きに渡って積もってきたのだろう物の山が吐き出されていた。

「あ、ありがとうございます! お姉さん」

吹かれた風の余韻に流されて消えていく朽ちた葉の奥。
泥に汚れた硬貨を拾いあげてペコリと頭を下げる。
困ったことに他にもいくつか同じ額の硬貨があるから、もしかしたら取り違えてしまったかも知れないけれど。

「何かお礼を……」

お礼を……何が渡せるっていうんだろう。
帽子から鳩でも出せたら良かったのかも知れないけど、そんな手品もできない。
飲み物でも買って渡そうかと思ったけど、本末転倒という他ない気がする。

「そ、その……切手のセットくらいしか無いんですけど」

不定期に郵便課から発行される特殊な切手。
高価な物では無くて、記念品としてかぼちゃのお化けが印刷されただけの物。
切手なんてもう殆ど使う人が居なくなったから、要らない人からしたらゴミになっちゃうかな……

セレネ > 「いえいえ、お気になさらず。
私が出来るのはこれくらいなので。」

硬貨の一つを拾い上げ、
律義に頭を下げて礼を言ってくれた相手に
ゆっくりと首を振っては言葉を告げよう。

「切手?
まぁ、可愛らしいデザインですこと。
…ふふ、折角なので頂いてしまいますね。」

取り出された切手のセットには、
この季節らしいジャック・オ・ランタンが印刷されていた。
手紙は殆ど出さないから、こういった物に触れられる機会があるのは良い機会だと思った。
特殊なものや、高価なものである必要はない。
気持ちが、想いがこもっていれば、それだけで充分に嬉しいのだ。

喜んでその切手セットを受け取るとしよう。

千草 >  
「これくらい、ですか」

平然と言ってのける女性に、立ち上がってもう一度ペコリと頭を下げて。
パンプスのせいか、一回り背丈の高く感じる姿を見上げる。
大人っぽさというのだろうか、背を伸ばすと強く感じる甘い香りに目がぐるぐる回る。

「はい! 今年は僕もデザインに参加させて貰っていて……
 あ、僕は郵便課の千草って言います」

切手を受け取った女性からの礼にハッとして。

「これ、僕が作った奴なんです」

気恥ずかしそうに、それでも採用して貰えた嬉しさを隠せずに、
手渡した切手のセットの一番下を指をさす。
飴の沢山入った籠を握ったお化けのデザイン。
記念品だけど、使ってくれるのが僕たちとしては何よりも嬉しい。

セレネ > 「イベント物のデザインって可愛らしいものが多いですよねぇ。
――私は三年のセレネと申します。
宜しくお願いしますね、千草さん。」

柔らかく微笑んでは、己も名を告げよう。
相手の名と顔を覚えつつ。

「貴方が?へぇ…それは、猶更嬉しいですよね。」

渡されたセットの一番下。
そこに蒼を向ければ、このデザインも実に可愛らしいもので。
一目で気に入ってしまった。

「機会があれば使ってみようかしら…有難う御座います。」

折れたりしないよう、大切に小さなバッグに仕舞い込めば
ついでに白いレースのハンカチを取り出して。

「お顔、先程の事で汚れてしまっているようです。
もし良ければお使い下さいな。」

汚れている箇所をトントンと軽く指差しては、
ハンカチを差し出そうか。
無論、持っているのならそれはそれで構わないけれど。

千草 >  
嬉しいと、そう述べられればくしゃりと顔を笑みに歪ませて。

「えっ!?」

かと思えば汚れを指摘されればわたわたと慌てるばかり。
地面についた自分の手の汚れを見れば泥に近い。
手持ちのハンカチはもちろんあるけれど、
自転車の外れたチェーンを直した際の油汚れを拭った後。
油で汚れた布で顔を拭くのと、人から借りた物を汚す事に逡巡して……

「すみません……何から何まで」

差し出されたハンカチを手に取って、頬と髪についた汚れを拭う。
すると柔らかく香る柔軟剤の香り。
違和感のあった部分を一通り拭い終えて見れば、清潔そうな色味のハンカチは茶色く汚れていて。

「ありがとうございます。これ洗って……
 えっと……どうしましょう……」

洗ってお返しします。そう言いかけてまた、頭がグルグル回る。
お預かりして、帰るの? おかしい……よね。
コインランドリーまで走ってハンカチ一枚の為に回すの?

セレネ > 笑っていた顔が、己の一言により慌てる表情に変わった。
その七変化が可愛らしい。内心で微笑ましく思っても、
それを表に出す事はしない。
気心知れた仲なら兎も角、まだまだ初対面なのだし。

「汚れたままだと他の方から驚かれるかと思いまして。
お気になさらず。」

借りた物を汚すのは、躊躇われるのは己だってそうだから。
逡巡するのは大いに分かる。
無理強いするつもりはなかったが、どうやら使ってくれるらしい。

「あぁ、そこまでせずとも大丈夫ですよ。
お仕事もお忙しいでしょうし、このまま返して頂ければ。」

己の服が汚れた訳でもないし、元より汚れる事も分かった上で貸したのだ。

「もしどうしてもと仰るなら、寮の号室でも教えましょうか?」

郵便課なら、号室のポストにハンカチを入れる、という事も出来るだろうし。
選択肢は与えたものの、どうするかは相手次第。
どれを選んでも、あるいは別の事を選んでも、己はそれを受け入れよう。

千草 >  
「あはは、顔を汚したまま帰ったら他の郵便課の人に何を言われるか分からなかったので……」

乗っている自転車に補助輪を付けられるかもしれない。
過保護とかでは無くて、愛のあるからかいとして。

「そうですね……」

そのまま返しても構わない、と言われて悩む。
自分が汚してしまったという良心の呵責のような物と、
持ってかえって同僚の人や同居人にでも見られたら困る。
特に同僚に見つかったら半日くらい突っつきまわされそうだ。

「……すみません、お返ししますね。汚しちゃいましたが。
 ただ間に合わせじゃなくてちゃんとお礼のお渡ししたいので、
 お部屋の番号だけでもお伺いして良いですか?」

レターセットで良いだろうか。
女性の喜ぶ物なんて分からないけど、そもそも贈り物の定型も知らない。

「あっ……」

あたふたしている内に、短くなっている陽は山の向こうに隠れてしまった。
そろそろ帰らねば、それこそ何かあったかと心配をかけかねない。
配達終了の報告からそんなに時間は経っていないけれど。

「そろそろ帰らないと、心配されそうなので……すみません。
 ありがとうございます、セレネさん」

セレネ > 「ですよねぇ…。」

普段がそういう人なら兎も角として、
普通なら心配なりするだろうし。
補助輪を付けられた自転車で走れば、色んな意味で知れ渡ってしまいそう。

「いいえ、貴方が汚れたままより何倍も良いので大丈夫ですよ。
分かりました、号室は――。」

己が住んでいる女子寮の号室を告げては
お礼は何だろうか、楽しみにしながら待つとしよう。

「ん、気付けばもう陽が落ちてましたね。
此方こそ引き留めてしまったようですみません。
道中お気をつけて。」

見ればそろそろ空には月と星が浮かんで来る時間帯。
ハンカチをバッグへ仕舞うと、軽く会釈をして見送ろう。

ご案内:「学生通り」から千草さんが去りました。
ご案内:「学生通り」からセレネさんが去りました。