2023/10/31 のログ
ご案内:「学生通り」に魔女さんが現れました。
魔女 >  
祭りの由縁などわからずともよい。
知っていればより楽しめる程度で。

トリック・オア・トリート!トリック・オア・トリート!
ハッピー・ハロウィン!

知識という財産が、秘密という資産が、大きく内実と相場を変じたこの時代でも、未だ残る万霊節。
魔女祭り―――だなどと嘯く街もある。海を超えた遠い果てに。
それもまた、今は関係のないこと。

菓子を求める精霊たちの間を縫う黒衣は、幅広い帽子の下、白い細顎を覗かせていた。
紅い唇は上機嫌に緩み、足取りはこれまた精霊のように、人混みをすりぬける軽やかさだ。

「ありがとう」

サービスで配布しているホットワインを受け取り、口をつける。
どこかスパイシーな風味を添加されたそれを、視線の高さまで翳して矯めつ眇めつ。

「アルコールは?」

白い布をかぶった幽霊は、布越しに浮かぶ肩を竦めてみせた。
ぶどうジュースだ。まあ、学生の島、公に配るともなればそうなる。
微笑みを返してグラスを掲げ、湯気をたなびかせながら足を進めた。

魔女 >  
赤道近く、十月の暮れ。
それでも身体を温めるホットドリンクは有り難く、頬の火照りが心地よい。

「――――ん」

足を止めて顔の向きを動かす。
認めたのは嗅覚だ。そちらに足を向けて、屋台のまえに近づいた。

「……おっ」

列の最後尾に立ち、身体をななめに傾ける。
何目当てに並んでいるのか、肩越しに覗き見た。
そこにあるのは、ほくほくのパイだ。

「イイね」

好物の予感がして、しばらく魔女はそこに、とんがり帽をとどめていた。

魔女 >  
「みっつちょうだい。
 ひとつはすぐ食べるから」

静かながらに異常なほどよく通る声に、顔を上げた店員の学生は。
鍔元に覗くその瞳にはたと目を見開き慌てたような色を見せた。

「――ちゃんと払うよ。アリガトウ。ハッピーハロウィン」

パックにふたつ、そして紙包みにひとつ。
そしてまた、魔女はするりと人混みのなかに紛れた。
背に視線を追いすがらせたが、すぐに見えなくなろう。

「ぁむ」

白い歯を立てる。
さくりとした生地の奥に、暖かな甘みがあった。
よく潰されたパンプキンクリームは、かぼちゃの割合が随分と多めで、
おそらく今年の農業科がずいぶんと張り切ったのだろうと笑えた。
ご機嫌なカボチャパイの滋味に、鼻歌を歌う。

「ふたりで食べよう、なんて言ったらあいつも喜ぶかな」

魔女 >  
帰り道。向かう先は、歓楽街と呼ばれる場所。
人混みに紛れたこの魔女は、つい先日も"やらかした"犯罪者だ。

今年もまたハロウィンが。HELLOWEENが。#02が。
お騒がせの不法占拠が。大規模なライブが。ブラックマーケットが、お祭りが。
同時多発で起こったばかりの、渦中の人、いつものこと。
まるでハロウィンの精霊のように、それは騒ぎを起こしては島の喧騒に紛れゆく。

顔見知り。顔なき音楽家。ノーフェイス。
ワインとパイで武装して、鼻歌交じりに歩くそれは。
さて、今宵も悪を許さぬ者との"決闘"が控えているものだから。

軽やかに、密やかに。次の賑やかしまで、黄金の魔女は闇に溶ける。

また会いましょう。

ご案内:「学生通り」から魔女さんが去りました。