2020/06/27 のログ
シュシュクル > 抱きついたシュシュクルからは、磯――否、花の香りがする。
さっきまで花畑ででも遊んでいたのだろうか。
テストだ何だと皆が忙しくしている中で、のんきなものである。
そう、何にも縛られないのが、彼女らしさであり。
その『彼女らしさ』に巻き込まれてしまった斬鬼丸もまた、
奇異の目線を向けられることとなっているのである。

『素敵ねー』と言わんばかりに顔を輝かせながら
通り過ぎていく若者たちの視線。
そこへ、斬鬼丸が危惧した通り、『そういう趣味か』とでも
言わんばかりの冷たい視線が混じっている様子である。

首筋に顎を乗せて、すんすんと鼻を鳴らすシュシュクルはご機嫌で、
にっこり笑うとこう言うのであった。

「シュシュクル、なんでもするー! ころけの、おれい!」


魚を咥えながら逃げていた野良猫も彼らを見れば立ち止まり。
その魚が――落ちた。

水無月 斬鬼丸 > 意外にも鮫臭くない少女。
むしろいい香りだ。
いや、変な意味ではなく。当然、もちろん、普通にいい匂いがするという意味で。
……どっちにしてもダメそうだ。
とにかく、少女は花の香りをまとっていた。
まぁ、言動見た目…テストや勉強や学会などとは無関係であることはだれでもわかる。

「あー…えーっと…なんだぁー……ぁー」

受け止めてしまった腕。
っていうか、いっそサメ臭いくらいであればよかったのに
いい香りだったりするもんだから、女の子として意識してしまう。
いや、まて、小さな女の子になつかれたと言うだけならキョドったほうがむしろやばくないか?
そう、冷静になれ。Cool!Cool!!視線がCoolなのは気にするな!
でも、なんだこいつ…………めっちゃガッツリ抱きついてくるじゃん…
匂いまでかぐじゃん…なんか恥ずかしいだろ!

「なんっ!?なんでもとか、あー…いいから!おれいしなくても!」

猫すら驚いている。
俺も驚いてるって言ってんだろうが!!
この少女ときたら突拍子がないというかなんというか…

シュシュクル > 「おれい、いらないか~……シュシュクル、
いっぱいばななやろうおもった。
ざんきまる、まるまるなるくらい、いっぱいばなな」

シュシュクルは、しゅっと抱きついていた腕を離す。
しゅんとシュシュクルの耳が垂れ下がる。
尻尾も力なくゆらゆらと揺れる。


「ざんきまる、なんでもいう! 
ざんきまるいらなくても、シュシュクルおれいする!
シュシュクル、たべもののおれい、ぜったいする!
ざんきまる、こまってることないか? ないないか?」

両腰に手をやり、ふんとふんぞり返るシュシュクル。
それが彼女の誇りであるらしかった。
そうして斬鬼丸の顔を見上げれば、
シュシュクルは首を傾げてそう聞くのであった。

水無月 斬鬼丸 > 「ぁぁぁ…えっとそうじゃなくてぇ!あの、あれだ
お礼いらないとかじゃなくて今!そういまは!
今はほら、コロッケ食ってお腹いっぱいだから!!」

あからさまに元気をなくす少女シュシュクル。
やめなさい。人の目があるんだから。
抱きつくのもアレだがしょぼくれるのもアレだ。
どちらにせよ世間体的にはアウトだ。
頑張って言い訳を考えつつも、はなれたことには少し安心。

「ああ、おう、うん、ありがとなー…
食べ物…は…うん、いまはうんないな。ない。
だから、困ったらまた頼むから、その時!そのときでいいか?」

むしろ食事的な意味でちゃんと食べているのか心配になるのは彼女の方なのだが。
鮫とか食ってるし…バナナ…バナナ?買ってるのだろうか?
まさかこの島のどっかに実ってるとかそんな訳はあるまい。
とりあえずなだめるように視線を合わせて。

シュシュクル > 「わかった~! いつでもいう! えんりょするな! ざんきまる!」

そう言って彼女がすっと、胸元から取り出したのは一本のバナナ。
そのバナナには、何やら薄っぺらい何かがくっついていた。
そんなことは露ほども気にせず、斬鬼丸の前でシュシュクルはバナナを剥く。

薄っぺらい何か、それは――


『こら~~~っ!!!』

商店街の奥側から、中年女性らしい甲高い声が響き渡る。
ずしずし、のしのしと地を踏みしめながら、血走った目でシュシュクルめがけて
走ってくるではないか。
薄っぺらい何か。それは、売り物であることを表すシールであった。

「ひゃーーっ!? なんだなんだー!?」

目を白黒させながら、慌てるシュシュクル。状況が分かっていないようだが、
とにかく追われていることは分かったらしい。

「ざんきまる、またあうーーー!!」

そのままシュシュクルは、追い立てられた羊のようにぴゅうと走り出す。

水無月 斬鬼丸 > 「あ、っはい…え?それ…えぇぇ……」

返事を返し丸くおさまる。それで終わると思っていた。
てか、それどこに隠してたんだ。
むしろ、どこに入っていたんだ。イリュージョンか。
野生にも手品とかあるのか?むかれていくバナナと彼女の顔を交互に見つつ首を傾げ受け取って…
かしげ…かしげ?
なんだ、それ。シールのような……

その時響く怒号。
思わず体が緊張する。
中年女性の怒号というものはどうしてこう…強い不快感と恐怖を覚えるのか。
ってか、こっちきてない?

「え?な……なんだなんだ!?」

こっちも状況はわかってない。
わかってないが……わかってしまった。
ああ、これは…

猛スピードでかけていくシュシュクル。そして、手にはバナナ。

「…………」

なにかを察したように足を揃えて
女性の方に向き直る。
そこでみせたのは…それはそれは見事な土下座だったという……

シュシュクル > ――かくして。
商店街を巻き込んだ小さな波乱は、
斬鬼丸の男気により幕を閉じたのであった。

さてさて次は、どんな波乱が巻き起こることやら。

ご案内:「商店街」からシュシュクルさんが去りました。
ご案内:「商店街」から水無月 斬鬼丸さんが去りました。
ご案内:「商店街」に日下部 理沙さんが現れました。
日下部 理沙 >  
「なっ……!」
 
商店街の売店横のカフェテラス。
クソ教授の採点手伝いを片付け、一息ついた研究生……日下部理沙は溜息を吐きながら、サービスで置いてある新聞紙を読んで目を丸くしていた。
億劫そうに翼を引っ込め、眼鏡を不景気な面で掛けなおし、簡単に縛った茶髪を軽く掻きあげながら……まぁ、文化欄くらいは読んでおくかと、まぁその程度の動機で手に取ったのだが、それには相応しくない表情である。
新聞を読むのは日課である。
この常世島の情報はインターネット上だと心底信頼できない。
デタラメが多すぎるのだ。
それよりはまだ、正規の新聞社から発行されている新聞の方がまだいくらか確度が高い。
まぁ、スピードで言うなら圧倒的にネットの方が優位なのは間違いないが……確度を求めるなら、やはりまだまだ新聞が強い。

閑話休題。

それはそうとして、今理沙が驚いている理由は……その夕刊の新聞に載っていた、とある事件についてだった。

「学術大会で……異邦人が暴行を……?!」
 
理沙は、ズレ落ちた眼鏡を掛けなおした。

日下部 理沙 >  
理沙からすると、まるで他人事ではない問題だった。
理沙の知人には、異邦人が多い。
恩師も異邦人だし、異邦人に間違えられやすい異能者の知人もいる。
……むしろ、自分だってそれの筆頭だ。
何度、異界の有翼人や天使と間違えられたか知らない。
その度にテンプレートな挨拶をして誤解をといてきてはいるが……面倒でほっといている場合も当然ある。
そういった諸々の動機から……近代魔術を専攻しながらも、異邦文化学についても微力ながら貢献したいと日頃レポートを提出して罰点をくらったり、専門の方々からもあれこれお言葉を頂いたりしている。
そんな立場の理沙からすると……この問題は、全く無視が出来ない問題だった。

「暴れたのは……オーク種、武威に優れる種族……ですか」

日下部 理沙 >  
オーク。
語源はラテン語のオルクス……ローマ神話の死の神の名が、古英語に使われたもの。
だが、今では語源のそれより、英国の有名な作家の作品のイメージが根付いている。
名前だけはポピュラーな種族といえるだろう。
実際、理沙も常世島にくるまではテレビゲームでしか名前を聞いたことはなかった。
勿論、持っているイメージも「野蛮で凶暴な蛮族」程度のものだったし、それ以上の事を考えた事は当然なかった。
だが、この常世島……いいや、《大変容》以後の世界では、その認識だけでは到底足りない。

「異界の言葉を喚きながら、暴れ……んん?
 対異能用の強化金属を使われた手摺を引き千切った!?」

常世島の備品は基本的に丈夫である。
以前、理沙も諸所の理由で自販機に拳をくれた事があるのだが……その時も、自販機は全く無事で、壊れたのは理沙の拳のほうだった。
それくらいに……異能者や異邦人が使う事も想定されている自販機は、怖ろしく強固で頑丈に作られているのである。
一応、精密機器である自販機ですらそれなのだ。
最初から咄嗟の負荷が掛かる事は十分想定されている上、複雑な機構を一切有しないが故に強度に特化できる手摺ともなれば、その強度は折り紙付きといえる。

それが、意図も容易く引き千切られたというのだ。

……騒ぎになるのも道理といえる蛮行だった。

日下部 理沙 >  
軽い頭痛がしてきた気がする。
指の腹で眉間をぐりぐりと揉み解しながら、理沙は溜息を吐いた。
非常にまずい。
昨今、何だか知らないが、風紀と落第街も何やら揉めていると風の噂で聞いている。
簡単に言えば、今の常世島は一種の緊張状態にある。
普段は気にもしない事だって、今なら神経質に騒ぎ立てられるかもしれない。
そんな世相に「これ」である。
……この配慮から名を伏せられている「暴れた当事者」は勿論、他の何の罪もない異邦人や、体の変異が著しい異能者にも恐らく……この問題は波及するだろう。

そうなれば……自分の知己は勿論……自分の恩師にも、何か「良からぬこと」が起きるかもしれない。

気にしすぎ、と言われるかもしれない。
だが、それこそが間違いだと、理沙は確信して言える。
……そう言う事が平気で起きる場所なのだ。
この常世島……いいや、「この世界」は。
……本島、日本国でだって、理沙の記憶している限りですら外国人の暴行問題を「一例だけ取り上げて」大きく報道している事例を何度も見た。
それは日本に限らない。全世界がそうだ。
それくらいに……この世界の人間は、「余所者」に厳しい。
それはもしかしたら……人間という種が持つ、抗い難い宿痾なのかもしれない。

それくらいに、偏見は恐ろしく、感情は制御できないもので……時に、例え何の害意も悪意も無くても、他者を傷つけてしまう事を……理沙は身をもって知っていた。

「……今は祈る事しかできませんね」

ただの一般人で研究生でしかない理沙には何の力もない。
いや、力があったところで……こういった問題に対しては全くの無力だ。
出来る限り、自分が襟を正し、周囲に声を掛ける事しかできない。
それは……外も此処も、何も変わらない。

日下部 理沙 >  
もし、理沙が常世島の権威者か強大な異能者だったら、その権能と暴力で持って全てを黙らせることも出来たかもしれない。
だが、そんなことをしても……「こういう問題」に対しては全くの無駄だ。
表面上はある程度抑えられるかもしれない。
口端に登る罵詈雑言を押し止める事も出来るかもしれない。
だが、「それだけ」だ。「それだけ」しかできない。
恐怖と暴力で出来ることは「その程度」でしかない。
建前の体裁を整えさせることしかできない。
生命の危機を利用して出来合いの配慮を添加することしかできない。
それだけなのだ。
恐怖と暴力が偏見に出来ることは……本当に、たったそれだけなのだ。
人の本音は変えられない。人の中身は変えられない。
建前をいくら取り繕わせたところで、中身が伴わなければ……外圧がなくなった途端にどうせ元通りになる。
哀しい程に……「実際的な力」は、人間の持つ思想や感情に対して、無力なのだ。
それは……人類史が何度も証明している。
その末路がどれも悲惨で空虚だったところまで含めて……何度も。

「……この人も、無事だといいな」

祈るように、理沙はそれを口にする。
この人。加害者。会場で暴れた誰とも知らぬオーク。
恐らく、話の出来ない手合いではない筈だ。
少なくとも、理由もなく暴れる手合いでは絶対にない。
もし、そういう手合いだとしたなら……そもそも、学術大会の会場にいられないはずだ。
対話も出来ず、理由もなく暴れる異邦人はそんなところにまず辿り着けない。
もし、暴力以外のコミュニケーション手段を持たない「何某か」だったなら、移転荒野の「門」から吐き出された時点で……常世島の誇る絶大な暴力に駆逐される。
その暴力を掻い潜ってここに居る以上……最低でも一度は対話が出来たはずなのだ。
委員会の厳しい審査や検査に全て応じて、異邦人としての権利を得た誰かのはずなのだ。
それは、狭き門だ。
常世島のチェックはザルじゃない。
異邦人相手となれば……下手をすれば不法入島者より徹底している。
だから、この人だって、この暴れた誰かだって。

きっと……「暴れた理由」があるはずなのだ。
それも恐らく、その当人にとっては「正当な理由」が。

「それでも……『現実の報道』はこうなる」

理沙は……苦渋の表情を浮かべた。
 

日下部 理沙 >  
理沙は、悔しくてたまらなかった。
叫び出したくてたまらなかった。

自分は、何も出来ない。
何も出来てない。
あの時と何も変わらない。
あの頃と何も変わらない。

復讐は終えたはずだった。
かつて、一人称が「私」だったころの自分に対して。
誰に対しても建前で喋って、本音を隠して、愛想笑いをして、距離を取って……この世の全てを諦めきっていたあの頃。
それとは決別したはずだった。
「私」は「俺」と決別して、自分自身への復讐を終え……克己し、不安定ながらも一人で歩き始めたはずだった。

そして、今度は誰かの歩みを「助けたい」と思ったのだ。
恩師が自分に、そうしてくれたように。

「だってのに……俺は……!!」

新聞紙を握り締める。皺が寄った新聞紙の記事はもうとても読めたものじゃない。
文字が歪んで、文字が欠けて、全く本来の用をなしていない。
まるで、今の自分のようだ。
理沙は……己を呪った。
無力な己を。怠惰な己を。
先輩風を吹かせる以外に何も出来ていない自分を。

「……救うべき人に、助けるべき人に……何も、できちゃいない……!!」

かつて、理沙は一人だった。
望みもしないし、役にも立たない異能。
背中から生えた「偏見」に、理沙は追い立てられ、責め立てられ、ついにそれに耐えきれず……この常世島まで逃げてきた。
本島にはいられなかった。
日本にはいられなかった。
そこは人間の島だ。人間の国だ。
「背中から翼が生えてるくせに飛べない化け物」の国じゃない。
だから、理沙は逃げてきたのだ。
バケモノの島に。バケモノの国に。
そこで、一人のバケモノとして……憐れんでもらいに来たのだ。
そんな過去とは、すっぱり決別したはずだった。
バケモノならバケモノなりに生きると決めて、未熟でも何でも飛行魔術まで収めた。
風紀委員会に所属して、違反部活生ともある程度渡り合えるだけの武威も手に入れた。
理沙は異能者になった。怪物になった。バケモノになった。
そう呼ばれても誇れる自分に、そう揶揄されても折れない自分に。
自分の恩師がそうであるように、自分もそうなったつもりだった。

それなのに。

「……そっか、俺、考えてみたら」

日下部 理沙 >  
 
「実家……一度も帰ってないや」
 
 

日下部 理沙 >  
結局、それが答えだった。
理沙はまだ、答えを出せていない。
一つは答えを出したかもしれない。
だが、それは……数ある問題のたった一つでしかない。
それだけで、全てに向き合えるはずがない。
それだけで、全てに立ち会えるはずがない。

わかっていたはずだ。
わかっていたはずなのに。

それでもきっと、理沙は……目を逸らしていたのだ。

まだ、「本当の問題に立ち向かえない自分」を……見ないようにしていたのだ。
研究生になったのだって……その言い訳じゃないのか?
何かしていたかっただけじゃないのか?
高等部を卒業して、風紀委員でいられなくなって……「次の寄生先」を求めただけじゃないのか?
 
「……ハッ」

答えは、出ている。
理沙は……漸く自覚した。
やっと、「それ」に気付いた。
今度も一杯、遠回りしながら。
それでも……気付いてしまったのだ。
 


――復讐は、まだ終わっていない。
 
 
 

ご案内:「商店街」から日下部 理沙さんが去りました。
ご案内:「商店街」に日下部 理沙さんが現れました。
ご案内:「商店街」から日下部 理沙さんが去りました。