2020/07/05 のログ
ご案内:「商店街」に天月九郎さんが現れました。
■ナレーター > エクサドライブ!それは全長16cmのボディに無限の可能性を秘めた新世代ホビーである!
リモコンなどの操作装置は不要、手首に装着したリンクデバイスがドライバーの声を、意思を汲み取りマシンと一心同体のバトルを実現させるのだ。
ルールは簡単、マシンをスクラッチしてタイヤを回転させエネルギーをコアにチャージ。
そして楕円系のバトルフィールドにシュート。
あとはコアに蓄積されたエネルギーを使い走る、攻撃する、必殺技を発動させるなどして相手とぶつかり合い、先にリングアウトするとか行動不能になった方が負けとなる!
今最も熱いホビー(営業的表現)である!
そして今商店街主催大会の決勝の大将戦が始まろうとしていた!
■天月九郎 > 「ついに決勝か……ここまで長かった」
最初は本当に些細なきっかけだった。
商店街大会に出場するはずだった吉田が家庭の事情で欠場する事になってしまった。
曰く『だって家族で寿司に行くって言うから…』
寿司じゃ仕方ねえ、中学生男子にとっては頷くしかない理由であった。
もしもここでそんな事より大会に来いよ!などと言ってしまえば自分達が寿司チャンスを掴んだ時にやり返されかねない。
吉田とはそういう男であった。
■天月九郎 > 相対するは謎の仮面ドライバー。
エントリーネームも謎の仮面ドライバーである。
彼の部下と思われる黒マントのドライバーたちにより仲間たちは一勝一敗、決着は九郎の手に託されていた。
『行くぞ!シュートスタイルはウェスタン!』
仮面ドライバーが宣言する。
シュートスタイルは言ったもん勝ち、イニシアティブを取れなかった方が負けという勝負の世界はいつだって無慈悲だ。
ピン!とコインが指で弾かれ、くるくると回りながら宙へとその身を躍らせる。
「うおおおおおお!」
カタパルトデッキにマシンを押しあてホイールを回転させる事でエネルギーをチャージしていく。
ウェスタンスタイルはコインを投げ地面に落ちるまで何度でもチャージをしてもいい、しかしコインが落ちた時にシュート体勢に入っていなければファールを取られる数あるシュートスタイルの中でも特に競技性が高いと言われているスタイルだ。
チン!と音がなった瞬間、二人はすでにシュート体勢に入っていた。
決勝まで戦い抜いた強豪ドライバーの姿がそこにあった。
「シュート!」
九郎は身体を捻りながらマシンを打ち出すスタイル。
対して仮面ドライバーはハイジャンプから打ち降ろしてくるスタイル。
決戦の火蓋が切って落とされる。
■天月九郎 > 「行け!ブレイズジョーカー!」
手の中から放たれたのは黒いボディに青い炎を模したペイントに金の縁取り、鋭角的な切っ先のようなボディラインに鋭い剣がフロントに装着されている。
『喰らえ!サイクロンファング!』
こういう時は喋るカメンドライバー。
打ち出されたマシンは純白の獣を模したボディに牙のように突き出したグラップルクロー。
コロシアムの中央で互いのラインが交差すると火花が飛び散り、初手はブレイズジョーカーが大きく相手を弾き飛ばしバトルフィールドに着地。
火花を散らしドリフト走行を見せながら追撃体勢に入る。
■クラスメイト > 「なんだって!?九郎のブレイズジョーカーは機動性重視の高速セッティングのはず!」
「なのにパワー型セッティングの相手を吹き飛ばした!?」
すでに試合を終えたクラスメイト達が選手応援席から驚愕の声を上げる。
目の前で繰り広げられたのは小兵が大男を投げ飛ばすような光景だった。
「いいえ……それはタイヤがフィールドを蹴ってからの話し。初手はシュートインが大きく影響しますよ」
「「ハカセ!」」
いつも白衣と眼鏡を装着したクラスの知恵者の登場であった。
頭良さそうな雰囲気を出しているが彼らの仲間という事でお察しである。
「ライフル弾はきりもみ回転をする事で空中で安定し貫通力を高めているんです。九郎君のシュートはまさにその効果を狙っての事でしょう
流石ですね」
■天月九郎 > タイヤがギャリギャリとフィールドで火花を散らし、マシンとマシンが幾度も激突する。
エクサドライブにはバッテリーというものが存在しない。
シュート時にチャージしたエネルギーをありとあらゆる行動で消費しながら決着へとひた走るのだ。
「ぐぅ!パワーじゃ分が悪いか!」
小刻みな方向転換を折り混ぜ相手のアタックをかわし続けていたが相手のほうが一枚上手、軌道の先読みをして一直線に横合いから喰らいつき、グラップルクローがボディを捉える。
そしてエネルギーの奪いあうという側面があるためアタックは相手の体勢を崩す他に速度を失わせエネルギーロスを誘う手段でもある。
タイヤがフィールドを離れてしまった以上リンクデバイスにいくら命令を送ろうがマシンは応えてくれない。
『素人にしては悪くなかったな。だがここまでだ』
勝ちを確信した仮面ドライバーが口元に笑みを浮かべるとマシンをスピンさせ加速。
そのままクローを開放しブレイズジョーカーを場外に向かって投げ飛ばす。
その瞬間、ギャギィ!と激しい音が響いた。
■クラスメイト > 「ああ!ダメだ!」
「あの空中じゃもう手も足も出ない!」
当然だ、エクサドライブはタイヤで地面を蹴り、時に跳躍すらして見せるが空中での制動装置を持っていない。
こうなってしまえばもはや敗北は確定である。
通常であれば。
「いいえ……彼はまだ死んではいませんよ」
「「ハカセ!」」
「投げ出される瞬間、フロントのソードパイルを打ち出しサイクロンファングにアタックを仕掛けていました。
あれは投げられたのではなく自分から飛んだのです」
ハカセの解説が終わると同時、フィールドの外周を囲む壁にブレイズジョーカーがぶつかりバウンド。
そしてその勢いを殺さずに猛烈な勢いで緩くバンクしたフィールド外周を巡り始める。
■天月九郎 > 『なにぃ!まさかお前、俺のサイクロンファングを!』
「ああ!お前の自慢のパワーを利用させてもらったぜ!」
一流のドライバーはインパクトの瞬間に敵の運動エネルギーをかすめとるという。
もちろんそんな高等テクニックは九郎には使えない。
だが敵に組みつかれ動きが止まった瞬間、複雑な軌道を読む必要はなくなりアタックの瞬間を見極めれば良かった。
自分に実力も経験も足りないのは百も承知、だから自分の手札で勝ち抜くため、このチャンスを待っていた。
輪郭が円盤のように霞むほど激しいスピンを行いながらマシンはぐんぐんと加速していく。
させるものかとサイクロンファングは何度もアタックを仕掛けるが、スピードに乗ったブレイズジョーカーを捉える事は難しく。
また軌道を先読みしたアタックを仕掛けても高速回転するボディに弾かれてしまう。
「お前の熱が伝わってくるぜ!ブレイズジョーカー!今なら……出来るよな?」
エクサドライブには三つの行動パターンがある。
フィールドを駆ける、アタックを仕掛ける。この二つだけでも幾千幾万の手筋が存在する。
しかしその決め手になる華、それが必殺技である。
マシンとドライバーが一体となり、ドライブ魂が燃え盛る時。
人機一体の技が発動するのだ。
■天月九郎 > 「ドライブバースト!」
お前なら出来る、俺ならやれる。
その確信が強く拳を握り締めさせる。
瞬間、明鏡止水。
目を閉じ己の心象にブレイズジョーカーのコアが重なり、輝きを放つ。
「ブレイジング!ソードブレイカー!」
握った拳を手刀に揃え、空を切り裂くように振り上げる!
■クラスメイト > 「あれは…剣!?」
「雲を切り裂いて巨大な剣がフィールドに突き刺さった!どういう事だ!」
驚愕の声を上げる仲間たち。
8チームしか参戦していない町内大会とはいえ九郎があんな技を出すのは初めての事であった。
「あれはドライブ魂の共鳴ですよ」
「「ハカセ!」」
「ドライバーの持つ熱いドライブ魂、それが共鳴しあい彼の思い描く必殺のビジョンを共有しているんです!」
「でもハカセ!」
「突き刺さった瞬間俺髪の毛がぶわって風で巻き上げられたんだけど!」
「ビジョンです!」
「「ハカセ!!」」
■天月九郎 > 回転するマシンが風を切り裂き、風の空隙をボディのウィングが受け止め空へと舞い上がる。
それはまるで実体のない巨大な剣の刀身を駆け上がるように見えるのだった。
「行っけぇ!」
『負ける、ものかあ!』
仮面ドライバーが始めて上げた感情を込めた叫び。
その瞬間互いのドライブ魂が共鳴しあう。
0.1秒の間に会話が成立してしまうほどに。
空に焔の軌跡を刻み急降下を仕掛けるブレイズジョーカー。
超高速のアタックに対しギリギリまで引き付けようと機をうかがうサイクロンファング。
「っ!」
『貰った!』
インパクトの瞬間、サイクロンファングが急加速しつつ今日始めて見せるドリフト走行。
流れるように滑っていくラインがギリギリのところでブレイズジョーカーのドライブバーストを回避する。
悲鳴を上げるクラスメイト達。
優勝商品の焼肉食い放題チケットが!
「まだ、まだぁ!」
『!?』
地面に切っ先が触れた瞬間、跳ねるようにボディを打ち上げタイヤでフィールドを削りながら着地。
同じくドリフト走行に入る焔の軌跡は途切れない。
これで相手が今までどおり氷のような冷たいファイトをしていればフィールドギミックを盾にこちらの攻撃そのものを不発に誘い込んだだろう。
だが彼は勝負した。
何もない、互いの心象風景のように真っ直ぐな地平の上で腕を競い合おうとした。
だから最後まで勝負を仕掛ける事が出来た。
焔と牙。
弧を描く互いの軌跡が交差し……吹き飛んだのは純白のボディだった。
■クラスメイト > 呆然とその決着を見る仮面ドライバーの口元に始めて笑みが浮かび……激しいバトルに耐え切れなかったのかその仮面いヒビが入る。
そして、吹き飛んだサイクロンファングをキャッチした瞬間、硬質な音を立て仮面が砕け、地面に落ちる。
「あれは……!」
「吉田の兄ちゃん!?」
その仮面の下から出てきたのは紛れもない!クラスメイトの吉田の兄であった。
「あの野郎!寿司に釣られてなんか重要イベントすっ飛ばしたぞ!」
「吉田ー!ちょっと、吉田ー!」
■天月九郎 > 「勝った……」
それは走り始めた戦士が勝利を味を噛み締めた瞬間であった。
戦い終えた熱いハートには今爽やかな風が吹きわたる。
自分の全力を出しつくした感覚、相手と魂をぶつけ合った実感。
その全てが浮世のしがらみを全て忘れさせてくれる。
「テスト勉強もせずになにしてんだろうな、俺」
ふっと見上げた空はどこまでも青く、抜けていた。
激走!エクサドライブ!!商店街大会激闘編!ここに決着!
ご案内:「商店街」から天月九郎さんが去りました。
ご案内:「商店街」に蒼崎 宙さんが現れました。
■蒼崎 宙 > もう随分と熱くなったながらも、夕方になればそれなりに過ごしやすい気候となったそんな時間帯。
時折涼しい風が吹き、なんとも心地よい中を一人の女学生が歩いていた。
「~♪」
イヤホンから流れる音楽を小さな声で歌いながら商店街へとやってくる。
なぜそんなに楽しそうか?その理由こそたった今立ち止まった店にある。
「ふふ~…クリームたいやき3つくださいな!」
商店街の入り口脇にあるたいやき屋さん。年老いた老夫婦が作るこのたいやきを食べに来るのがつかれた時の日課だった。
いつもありがとうねぇ…と、優しい声をかけるおばあさんに良い笑みを返すと近くのベンチに座って一匹目を頭からがぶりついた。
■蒼崎 宙 > その女子生徒が着る服は、僅かに汗が滲んでいるのかどこかしんなりと湿っている。
ここまで歩いてきたのではなくそれなりのハイペースでやってきたのだろう。
というのも…。
「…はぁ…あと5日かぁ…。一応、最低限は抑えきった…かな?
あんまり成績悪いと先輩にいじられそうだからなぁ…。」
5日後に迫るテストである。
普段、学校が終われば妙にあるお金に物を言わせてスイーツ巡りと洒落込んでいる彼女。
流石に勉強しないと不味いこの時期はカフェだとかに入り浸るのを止めていた。
「…まー、ここのたいやき。美味しいから十分だけど……ほあ……この、ね…市販とは違う甘ったるいだけじゃなくて舌に絡みつくこのクリームが……良い……。」
疲れた脳に染み渡る糖分にふやけた顔でもぐもぐと食べ進めていく…。
■蒼崎 宙 > そんな至福そうな表情も、硬直するように動きが止まる。
二個目のたいやきを今度は尻尾から咥えると、ポケットからスマートフォンを取り出してその画面を見つめる。
イヤホンから聞こえていた音楽が、メールの着信音に変わったからだ。
「んー…それにしても、最近仕事もよく回ってくるな…。
落第街の方が最近活発なのかな……。」
ボソリと人混みに飲まれるような声で呟く。
もっとも、調査の仕事である以上、この指令も早急なものでもないし、大体テスト期間にまで仕事などしていたら身が持たない。そのための成人だろうと、しっぽをかじった。