2020/09/14 のログ
■干田恭支 >
「……?
は、はあ。そうなんですね……?」
きょとんと。
いまひとつ理解が及んでいないような顔で首を傾げる。
本土に住んでいる異邦人じゃない相手に異邦人街の商品を売ってどうするんだろう。
その点が恭支には理解出来なかった。
が、まあそういう事でもお金になるからそういう商売をしてるのだろう、と納得しておくことにした。
「いえいえ、それが俺たちの仕事っすから。
常世島での当たり前の生活を当たり前のまま維持する。
それだけの事っす。すんげー地味っすけどね。」
もっと評価されても良いのに、と不満を零す生活委員も少なくは無い。
それでも、評価されない事そのものが自分たちの仕事の成果だろう、と恭支は思う。
きゅるる、と三度目の腹の虫が泣いた。
「あ、そろそろ庁舎戻って酒屋の件、俺からも報告しとかなきゃなんで。
それじゃ、真乃さん。お仕事頑張ってください!」
よっこいせ、と再びリアカーを引く体勢に。
ここから先は飲食店が増える。心を強く持って挑まなければならない。
■真乃 真 > 外国のもの珍しい商品を買うような感覚で異邦人街の物を買う人は多い。
特に最近は本土の方でちょっとしたブームが来ている。
「一番すごいと思うよ!地味でもないしさ!!
生活委員が派手に動いてるって事はそれだけ生活がままなってないことが多いって事だしね!」
生活を維持するという事が一番大変な事なのだ。
当たり前というのはとても簡単に崩れる位置にある。
……また、お腹鳴った。
「ああ!!干田さんも頑張りなよ!……そうだ!」
そう言って鞄から取り出したのは異世界の言語がパッケージされたお菓子の袋。
棒状でそこそこ食べ応えがありそうなサイズ感。
それをはいっと投げ渡す。
「これウチで売ってるやつだから!また今度会った時にでも味の感想聞かせてくれな!!」
そういって真はどこかへと走り去っていった。
包みを開ければ異国情緒の溢れるスパイシーな香りがするはずだ。
スパイシーな味付けのそれ…小腹を満たすにはぴったりだろう!
ご案内:「商店街」から真乃 真さんが去りました。
■干田恭支 >
異文化が物珍しさから流行化する。
そういうのもあるのか、と恭支が感心したのは後日の授業でのこと。
「寮の夕飯にも間に合せないとなんないんで、ちょっと急がなきゃなんないっすけどね。
……はい?」
差し出されたお菓子の袋を受け取り、真乃の顔と袋とを交互に見る。
簡単な説明に、ははあ、と納得した顔で頷いて。
「わかりました、取り敢えず帰ったら夕飯後に食ってみることにします!
あざっしたー!」
走り去る真乃の背へと手を振って、その姿が小さくなる頃、リアカーを引きながら恭支も酒屋さんへと向かうのだった。
その後は生活委員庁舎に行ってから男子寮へ夕飯までに帰ったりと中々に忙しかったのだが、
委員会を褒められて、少しだけ気持ちが楽だったのはここだけの話──
ご案内:「商店街」から干田恭支さんが去りました。
ご案内:「商店街」にラピスさんが現れました。
■ラピス > 今日は、なんとなくだが肉屋が作った本格的な揚げたてメンチカツが食べたかった。
だから、授業を終わらせて、保健室の当番もこなして、自由時間に商店街へと繰り出した。
目指すは肉屋。夕飯時だから、良い感じに最初の揚げ置きロットが売り切れている頃合いだろう。
ともすると、注文したらその場で揚げて出てくる、あちあちの揚げたてが堪能できるのではないか。
そんな期待を胸に抱き、へっぽこ教師はずんたかたった。商店街の通りを進む。
「うーにゅ、家に持って帰ったりすれば、ビールのお供に良さげですけれど。
とは言え、今日の先生が抱いているメンチカツ欲求はその場で齧り付くレベルですからねー」
どうしましょ、どうしましょ。悩んでいる内にやって来たるは肉屋の前。
パライゾにいざや行かん。ぽてってと歩み寄り、店主に声をかけて注文。
折角だから、明日の朝のパンに挟む事も考えて、メンチカツ3つにコロッケ2つを注文。
こう、ソースがシャバシャバのしっとりコロッケパンの濃い味とか美味しくないです?です?
ともあれ、注文したらやっぱり揚げ置きは売り切れの様子。よっしゃー、と楽しむ待ち時間。
■ラピス > 目当てのものは、今頃フライヤーの中で琥珀色の海に沈んでいる。
じゅわぁ、という耳触りの良い音。仄かに香る揚げ物特有の香ばしさ。
出来上がりつつある楽園への片道切符。じゅるりと口の中に涎が溢れる。
「うぅ、この待ち時間が、飢えた心身という最後のスパイスを与えるのです……!」
やがて、ぴー、ぴー、とフライヤーのタイマーが鳴り、がしょん、と自動的にメンチカツは油の外へ。
ぽたぽたと余分な油を切ると、からっと揚がったきつね色の楕円が5つ、紙の袋に入れられて。
「ん、ふふ、待ってましたー!というわけで、ありがとうございますっ!」
湯気立つ熱々のそれを受け取ると、少しばかり歩いた先にある休憩所のベンチへと移動。
木製の簡易テーブルに紙袋を載せると、そぉっと中に手を入れて、ずっしり感のある楕円を一つ取り出した。
ふぅ、ふぅ。口の中を火傷しないように少しだけ吹き冷まして、それから――。
「はむっ……んふっ、あふあふっ――はふっ……!」
齧り付く。まずは、ざくりとした衣の食感。ついで、粗挽きの肉の弾力がくる。
同時に中からは肉汁がじわっと溢れ出て、口内にたっぷりと拡がった。
火傷する寸前の高温。贅沢な一口をはふはふと、呼吸で冷ましながら味わう。
やがて、熱の中にしっかりと効かせたスパイスの味わいと肉の旨味が湧き上がる。
ソースなどかけなくとも、これだけで十二分に美味い。こく、と一口を嚥下する。
ぽわわん。幸せー、と言わんばかりにホクホク笑顔のへっぽこ教師がそこに居た。
■ラピス > はぐはぐ、むぐむぐ。美味しいものは食べ終わるまでも早く、メンチカツはすぐ無くなった。
一つをきっちり食べ終わると、指先をぺろりと舐めた後、なんとも言えない充足感に浸って。
それから、ほこほこと暖かな紙袋に視線を向けて、と少しだけ悩む素振りを見せてから。
「……ふふ、明日用のコロッケですが、一個食べちゃいましょうか」
ごそごそ。紙袋から、先のメンチカツよりも平べったい楕円形を取り出す。
こちらも熱々のホクホク。湯気立ち上る一品だ。ザラリとした衣の感触も期待をそそる。
さぁさぁ、これにも齧り付いてしまいましょう。あーん、と口を開けて、さくり。
「んふっ――はふっ……んふふぅっ、おいふぃ……!」
小気味よい衣の食感。中身は潰したじゃがいもとひき肉。それだけの素朴な味わいだ。
よくある惣菜のコロッケとは違う、甘み控えめなじゃがいもは、滑らかな中に時折粒がある。
粒がほっくりと崩れることで、食感が一辺倒にならない。中々に憎い工夫だと思う。
二口目を頬張れば、先より若干冷めた分、僅かに効かせた胡椒の冴えすら感じ取れる。
ひき肉から出る旨味も相まって、コロッケもまた極上の逸品。口福を得るには十分すぎた。
■ラピス > コロッケもメンチカツも、申し分ないお手前で。
けぷ、と満足そうに小さく一息つくと、お腹も程よく満たされた様子。
いやはや、こんなに簡単に幸せが味わえるなんて良いものだ。
一人で打ち頷くと、紙袋の残りをしっかり閉じて、ひょいと立ち上がる。
残りは今日の夜飯と明日の朝食にするつもり。メンチとコロッケのサンドイッチだ。
パンという新たな要素が加わることで、幸せの新たな1ページが刻まれる。
揚げたてとは違う、しっとり衣も美味しいものだ。なんていろいろ考えながら。
へっぽこ教師はふらりと雑踏に紛れ、自分の寮まで帰っていく――。
ご案内:「商店街」からラピスさんが去りました。