2021/11/09 のログ
ご案内:「商店街」にフィーさんが現れました。
■フィー > 「いろんな店があるわねぇ…」
きょろきょろと、商店街の道の真ん中で、スマホの地図と周りの景色を照らし合わせる。
今日は、買い物だ。沢山買う予定なので…買い物袋と、バックパックを持ってきている。
ご案内:「商店街」に黛 薫さんが現れました。
■黛 薫 >
「なんか、随分気合ぃ入ってんな……」
そして此方は買い物について来た同居人。
『視線』から逃れるためか、距離が近い。
黛薫にとって『沢山』買うという行為は無縁。
持ってきたのはいつものショルダーバッグだけ。
「どこの店行くかとか、決めてんの?」
■フィー > 「とりあえず寝具屋と魔法店かな。ほら、寮の布団薄かったから…これからの季節考えると必要かな、って。魔法店は…私の杖と、薫のも見繕おうかな、って。後は台所用品とか、まぁ適当に目についたもの買おうかな、ってぐらい」
薫と共に暮らすようになって、まず気になったのが寝具であった。
あの薄さで冬を越すのは…私は兎も角、薫が風邪をひきそうというのが率直な感想であった。
魔法店については自分の杖を元の持ち主に返したこともあり、新調せねばならなかった。
それに合わせて、薫が将来使うであろう物に関しても考えておきたいな、という理由だ。
■黛 薫 >
「あぁ……うん、確かに。フィーの住居のベッド、
あったかかったもんな……アレに慣れちまうと
確かに寝心地は良くなぃよな……」
真冬の寒さをパーカーと拾った布だけで凌いだ
かつての生活を思い出す。快適な生活を知った
今は同じことが出来るのやら。
「……魔導具は、あーしまだ……いぁ、願掛け?
みたぃなモノだと思ぇば、アリなのかな。
んじゃ、行こう。善は急げって言ぅし」
せっつくように貴女の背を押す。本人は意図して
口に出さないようにしているが、商店街の通りは
『視線』がぶつかりやすくて怖いのだろう。
■フィー > 「……先に魔法店の方に行きますか」
後ろの薫の様子を見て、提案する。
人通りの多い商店街だ。薫の異能を考えれば、できるだけ早く魔法を使えるようになって、視線を避けたほうが良いだろう。
「急ぎましょう」
離れないように、薫の手を掴もうとする。
■黛 薫 >
「う、うん」
手を引かれるまま、貴女に着いていく。
思えば貴女との生活も長くなってきた。
しかし表の街で一緒に買い物をするのは
これが初めて。
繋いだ手に伝わる感触からは黛薫の歩調が伝わる。
ふらり、ふらり。不規則に揺れるような足取りだ。
本来『視線』そのものに物理的な圧力はない。
だが触れられている、押されているという感覚は
心理的な圧迫を感じさせる。お陰で時たま大勢の
視線がぶつかると、黛薫は押しのけられたような
反応を見せる。落第街よりも基礎人口の多い表の
街では真っ直ぐ歩けない。
「ご、ごめん。も少し、くっついてイィ?」
■フィー > 「…えぇ、大丈夫ですよ」
視線がキツイのだろうと考え、抱き寄せるような形で薫を引き寄せる。
薫を視線から守るために、端の方を歩きながら、歩を進める。
少し歩けば、魔法店に着くだろう。
■黛 薫 >
店の中に入れば大通りほどの視線はない。
ようやく一息つけたが手は繋いだまま離さない。
「そいえば、今まで使ってた杖はフィーナに
返したんだよな。アレってやっぱりイィ杖
だったのかな。質が下がると支障が出たり、
そーゆー不都合ってあったりすんの?」
他の客がいた場合迷惑にならないよう、そして
視線を集めないように小声で囁きながら店内に
視線を巡らせている。落第生したとはいえ元々
魔術を志していた身。興味を惹くものは多い。
■フィー > 「うーん…ずっとあの杖使ってたから良し悪しはわからないんですよね。とりあえず見繕ってはみますが…」
そう言って杖を置いてある場所を見て回る。が………
「…………うーん……」
フィーが使っていた杖は、異世界由来の物であり、魔術を『並列起動』出来る代物。
そんな代物が、商店街にあるはずもなく。お眼鏡に叶うものがない。
「……とりあえずこれと、これでいいかな…」
携行性が高そうな小さめの杖を二つ、手に取る。値札を見れば…ウン十万という値段がつけられていた。
迷いなくこれをカウンターへ持っていき、購入した。
「とりあえず…隠蔽魔術かけますよ」
試運転がてら、杖を一つ持って術を掛けてみる。
ミシリ、となんだか嫌な音が鳴ったが。取り敢えず術式の発現には成功したようで、薫の周囲に水の膜が出来上がる。
■黛 薫 >
「……???」
フィーと暮らし始めて以降、金銭で苦労はしなく
なったが、黛薫は元々違反学生で貧乏人である。
値札を見て4桁だと尻込みするし、5桁を超えると
そもそも買えるものだという感覚がない。例外は
最低価格が高いクスリくらいだろうか。
故に6桁の値札を見ながら『これでいいかな』と
呟いて購入を決めた貴女の行動に混乱している。
そんな金銭感覚で大丈夫か。
「何か今不穏な音しなかったか……?フィーの
魔力に耐え切れてなぃってパターンじゃ……」
やっぱりあの杖ヤバぃやつだったんじゃん、と
嘆息混じりに呟きつつ、視覚遮断の水泡術式を
観察してみる。
「起動自体には問題なさそう。んでも、コレって
触れると割れるんだよな?ぶつからなぃよーに
歩くのが商店街だと大変ってのもあるけぉ……
手ぇ繋げなくなんのよな……」
■フィー > 「……これ、消耗品感覚で使ったほうが良さそうですね」
見てみれば、杖にヒビが入っていた。あと2~3回使えばボッキリ折れてしまいそうだ。
隠蔽魔術に関しては魔力の消費は、実はそこまで多くはない。どちらかと言えば術式が複雑であり…恐らくは杖の容量が足りないのだろう。
「あぁ、触れても水の膜が揺れて遮蔽がおかしくなるぐらいで、多少の維持は可能ですよ。それに…」
ぽよん、と。薫に張った水膜の中に入って。
自らの身の小ささが故に、二人入っても問題は無い。
「こうすれば、手はつなげるでしょう?」
そういいながら、手を差し伸べた。
■黛 薫 >
「……因みにフィー、日常的にどんくらぃ魔術
使ってる……?コレ、1本で何十万って値段で、
あと2〜3回で壊れるってコトは……大雑把に
10万で魔術1回分として、つまり……?」
フィーの貯蓄は一応8桁に届いていると聞いたが。
(複雑な魔術でなければ一応負担は減るとしても)
何万という単位でお金が飛んでいくと思うと……。
「フィー、あーしちょっとくらぃ見られたって
大丈夫だから。お金は、うん。大切にしよぅ」
黛薫は貧乏性である。感性が貧乏人である。
どう考えても大丈夫じゃない反応を晒した後だが
洒落にならない高コストを見て見ぬフリは無理。
「いぁ、ありがたぃんですよ?あーしのために
術式組んでくれたコトも嬉しぃし、こーして
手ぇ繋げるコトにホッとしたのもホントです。
でもな?1回の行使にかかる値段を考えると、
吐きそぅになんの。それはそれで怖ぃの」
全部本音だが、未だに大通りの視線を怖がって
手を離さないあたり、そっちはそっちであまり
大丈夫そうじゃない。
■フィー > 「…………最悪、自前で杖作りますよ。魔力結晶をベースにつくれば、ある程度の代物は…多分作れますし。あれ、一応発動体にもできますから」
薫がお金の心配をしているようなので、代替案を考えてみる。自前で作る分安上がりにはなるだろう。落第街から離れている分には、戦闘になることも少ないだろうし、多少自分の魔力が減っても大した問題にはならないだろう。
「最悪の場合スクロールで対応します。使い捨てにはなりますが、多分一番安上がりになると思いますし」
本来杖はこういった魔法陣等を省略する為に作られたものだ。
なら、その省略を除いて、本来の魔法陣を使うという手段。
術式が複雑なので大きな紙が必要になるが…それでも杖を使い捨てるよりはマシになるだろう。
「代替案はいくらでもあります。杖は、万が一の時の為に置いておきましょう」
そう言いながら、魔法店を物色している。スクロールに使う羊皮紙やインク、宝石等。杖に比べれば桁が3つか4つ落ちた値段だ。
羊皮紙とインクを見比べている。
■黛 薫 >
「……うん、そっちなら、まぁ……」
金銭的な不安もあるが、何よりフィーの価値観が
不安だ。母体から諸々を引き継いでいるとはいえ
怪異として生まれた存在で、その上個体としては
生まれて間もないのだから。
お金の使い方に限らず、自分では気付けない
価値観の齟齬はいくらでもあるのではないか。
そう思うと、買い物中は目を離したくない。
「スクロールは記述の手間がある分コスト面では
優れてるよな。いぁ、逆か。その手間を大きく
減らせる杖やら魔導書がどーしても高コストに
なっちまぅ、って言った方が正しぃんだろな」
杖やスクロールは万人が使えるようにする場合は
別だが、個人用にするなら自分で選ぶか専門家に
任せるのが確実。フィーが自作するのなら黛薫に
口出し出来る部分はないだろう。
貴女が必要品を物色している間、手持ち無沙汰な
黛薫は適当に近くの棚に置かれた品物を見ていた。
宝石が並んだ棚に目を惹かれたようだ。
(……フィーのイメージに合ぅ石、あるかな?)
瞳の色に揃えるなら青、髪色に揃えるなら白?
取り留めなく考えながら並んだ宝石を眺める。
■フィー > 「今の所仕事もありませんし、時間はありますから。」
学生証が無いせいで身分証明…出来たとしても怪異なのだが。それにより表でアルバイト等が出来ない。勿論違反部活等で活動することは可能ではあるが…そういう場所では相応の扱いになるし、そもそもフィーの体はフィーナが元となっているため、労働には向かない。
一番楽なのは落第街で露天でも出して麻薬成分を抜いた魔力結晶等を売るのが一番なのだが…残念な事に今は落第街には近付くことすら危うい。
「気になったものがあったら言って下さいね」
羊皮紙とインク、そして書くための羽ペンをかごに入れながら、薫に声を掛ける。
宝石もその特殊性ゆえ魔力を含むことがある。そしてその成り立ち、意味を持つそれは魔力の方向性まで付与することがある代物だ。
宝石という事もあって値段は分相応だが。
■黛 薫 >
「……とばっちりだよなぁ、今回の件は」
追いやられた者が集まる街と秩序を守る集団。
譲歩は出来ても理解し合うことは叶わない溝には
常に緊張の糸が張られていた。いずれ来るべき
戦火だったとはいえ、表で生きる場所を失くした
住民からすれば迷惑以外の何物でもない。
働き口が無いのは黛薫も同じ。とはいえ金銭は
フィーが負担してくれるので労働の動機なんて
社会復帰か、フィーに頼らずに買いたいものが
ある場合くらい。……後者は麻薬が当てはまる。
「見てる分には楽しぃですけぉ、あーしに必要な
品物は当分無ぃのでへーきです。買ったって
使ぃ道がねーんじゃもったいなぃだけなんで」
■フィー > 「家…と言っても借り物ですけど。ぶっ壊れちゃいましたからねぇ」
砲撃によって大破した住宅を思い出しながら。自分がスライムでなければ恐らく下敷きになってぺしゃんこになっていたに違いない。
「…私は買っておいたほうがいいと思うんですけどね。薫が魔術を使えるようになる、っていうことは『今まで以上に狙われることになる』んですから」
そう、薫が魔術を使えるようになったとて…問題が解消されるわけではないのだ。
供儀体質。
それは、魔力を失っている今でさえ怪異を誘引する匂いを発しており、魔力が戻ればそれ以上の誘引体質になることは明白だ。
万が一の時の為にも、今のうちに買えるものは買っておきたい。
■黛 薫 >
「外装はともかく、中身は落第街じゃ頭ひとつ
抜けて快適だったもんなぁ。……あーしじゃ
どーにも出来なぃ前提の上で聞ぃとかねーと
なんですけぉ。潰れた家っていくつも部屋が
あったワケじゃなぃすか。それで……その。
フィーが部屋を借りれなぃ都合上、堅磐寮は
一室を共有してますけぉ。フィーは1人部屋が
良かったみたぃな……そーゆー不満あります?」
黛薫が気にしているのは恐らく貴女の生活水準の
低下とプライバシーの問題。慣れない狭い部屋で
ストレスが溜まらないか、自分に見られたくない
プライバシーがあるのではないか、と。
若干不安そうな声音から察するに、黛薫本人は
不満がないどころか貴女と離れるのを怖がって
いるくらい。でももし不満があると言われれば
野宿も辞さない構え。
「でもあーしが魔術を支えるようになったら
……いぁ、ごめんなさぃ。何でもねーです。
そっすね、身を守る手段は必要になるかと。
つってもいくら理論を理解してたところで
今まで実践が出来なかった分、すぐに身を
守れるくらぃに使いこなせるなんて希望的
観測は止めとぃた方が無難だと思ぅのよな。
それこそ使用者を選ばなぃスクロールとか。
あーしが自分の身ぃ守れるようになるまでの
繋ぎみたぃな、初心者でも扱えるような物が
あったらイィのかな」
元々は『素質』を取り戻したらフィーの餌になる
想定でいた……と言いかけたが、流石に自重した。
フィーは『フィーナ』だった頃から随分変わった。
先日聞いた『怖いもの』の話から考えても、今は
自分を喰うつもりは無い……と思う。
■フィー > 「んー、特にはないですね。元々あそこは薫の為に借りてた場所ですし。その前は廃屋を利用した巣みたいなところで休んでましたが。
まぁ、それに…薫と一緒に寝るのは好きですから。」
共に住むようになって、薫の発する香りの耐性も出来てきた。見られて困るようなものも…………多分、無い。
そもそも巣ではプライバシーもクソもなかった。
「それでも、危険を犯して買いに出るよりかは、先に買っておいて出来るようになった時に練習出来る環境を作っておいたほうが楽だとは思いますけどね?
まぁ、後は……本当に、万が一。私の理性が耐えられない、という可能性もありますから」
慣れた今では大して理性は揺さぶられなくなったものの、それでも不安が潰える事はない。共に寝るときだって怖かったのだから。
■黛 薫 >
「ん……そんなら、イィけぉ」
返事には淡い安堵が滲む。世話になって良いかと
聞いてきたのはフィーの方だし、一応暮らすなら
屋根のある場所で、という価値観は身に付いたと
考えて良いのだろうか。
「ってコトは、この後寝具も買ぃにいくとして、
分けなくても構わなぃって認識であってます?」
そういえば本格的に堅磐寮に拠点を移してからは
ずっと同じ布団で寝ているのだな、と今更ながら
気付く。フィーが好きだと言うなら今後もそれで
構わないのだが、意識すると急にむず痒くなる。
「……耐えられなかったら、別に食べられたって
あーしは構ぃませんよ。んでも、先日の話から
考えるに……フィーは、イヤなのかな」
スクロールの素体になる羊皮紙に触れながら呟く。
■フィー > 「薫が分けたいと言うなら分けますけど…そうじゃないなら二人で寝れるように大きな物を買いたいですね。きちんと寝れるやつを」
一応、家主の意見も聞いておく。資金面ではこちらが世話をしているが、住居に関してはこちらが世話になっている。
今まで薫はずっと『世話になりっぱなし』を嫌がる傾向にあった。
今は、対等になれているだろうか。
「そりゃ、嫌ですよ。せっかく一緒にいて楽しいって思える人を、どうして食べようだなんて思うんですか。それに……魔力を頂く方法は、食べる以外にもありますからね。例えば…粘液から摂取する、とか。この辺りは古来からあるらしいですね」
古来からの方法。性接触による魔力の交換。
そういった性に関する知識はあるが、フィーには羞恥心というものがない。
なので寮でも普通に肌を晒す…というか今でも服を擬態させてるだけなので裸同然なのだが。そういった羞恥心が無く、単に『肌を見せると騒がれるから』という理由で擬態しているに過ぎない。
だからこういう話も周囲の目があるのにしてしまう。
■黛 薫 >
「あのサイズの布団じゃぴったりくっつかなぃと
はみ出すもんな。フィーは昨晩とか寒かったり
しなかったか?流石に気温下がってきたし……」
(フィーが眠れなかった日はともかく)黛薫は大体
貴女を布団に収めようとして自分がはみ出ている
傾向にある。パーカーと拾った布だけで落第街の
冬を2度も乗り越えた経験は伊達ではないのだ。
無闇に譲歩したがる黛薫のスタンスは共に暮らす
上では悪癖とも言える。しかし少なくとも住居を
提供しているという立場があるからか、落第街で
世話になっていたときほどの強情さはない。
「ね、ン゛っ……そゆコト、あんま外で言っちゃ
ダメ、ですからね。いぁ、フィーからしたら
そんな、気にするコトでも、なぃのかも……
いぁやっぱダメ、ダメです」
未だに離そうとせず繋ぎっぱなしの手から伝わる
体温の上昇。元々落第街暮らしで、しかも貴女と
出会って以降も少なくとも数回はヤられて帰って
来た人間とは思えない初心な反応。
「……スライムって、その。そーゆー行為への
心理的抵抗がねーのは見てりゃ分かりますが。
魔力を得るためとか繁殖のためにそっち系の
手段取ったりするワケで。いぁ、欲があって
やるんじゃなく魔力の多い分泌物に惹かれた
結果そうなるってのは分かってますけぉ。
あーしは人間で、文化的にも色々意味とか?
ありますんで?はぃ、そゆコトです」
■フィー > 「私は大丈夫ですが…薫が大丈夫じゃない気がしまして。目が覚めたら薫が布団を被ってないことがありますし」
自分の寝相の悪さが理由でないことは知っている。抱き合って寝ているときでも、薫は自分に布団をかけ、はみ出していることを知っているからだ。
「…あれ、駄目ですか。落第街だとよく見かけるんですけどね。改めます」
人としての価値観が落第街に染まってしまっているが故、性行為もそういうものだと認識していた。
「でも、人間も同じですよね?繁殖は勿論、古来からこういう方法があるんですから。まぁ、そもそも…スライムは知性を有しているのは稀ですからね。その辺りの常識の齟齬は許して下さい。出来る限り、改善はしていくんで」
色々詰めたかごをレジカウンターに載せ、話す。
そもそもスライムは服を着るということすらしないし、繁殖も無性生殖が可能なので隠れてやる、ということもない。魔力補給に関しては食事なのである。
そこに羞恥心を見出す価値観が、なかった。
■黛 薫 >
「あーしは慣れてっからへーき。屋根があれば
雨と風は当たんなぃから。フィーと会う前に
比べりゃ、あんでもあったかぃくらぃだもん」
ここでの『平気』は『死なない』という意味で
体調を崩さない、精神的に問題ないとは別の話。
まず生態からしてかけ離れている貴女ほどでは
ないにせよ黛薫も落第街での暮らしで価値観は
多少狂っている。
会計を終え、店員に声が届かなくなるまでは
返答を保留。内容が内容だけにあまり大きな
声では話したくないし。
「それは落第街の治安が悪ぃ所為なんだわ。
表の街でやったら公安に叱られるからな。
そーゆー事情が無くても社会的価値観?の
中で育つと、単純に恥ずかしかったりして
やろうとも思わねーんだろーけぉ……」
古来からそういう手段が認知されているのは
実用性だけでなく行為への欲求、それに伴う
快楽があるからだろう。
(……そもそも、フィーにはそーゆー感覚なぃのか)
見た目がヒトとはいえスライムの怪異。以前なら
疑問にさえ思わなかったが、今は少し引っかかる。
母体となるフィーナから受け継いだ魔術の才。
ヒトとスライムの混血で、現在はヒトの遺伝子が
強く現れたのか別の姿に変化出来ないと聞いた。
もし……ヒトとして母体から受け継いだ物が他にも
あるとしたら?例えば心境の変化や先日垣間見せた
感情の発露がそれに起因するものなら?
フィーは今後『ヒトとして』の性質も獲得して
いくのかもしれない。であれば今まで不要だった
文化習俗もいずれ知るべきときが来るのかも。
(ま、そんときはそんときか)
■フィー > 「…私が言うのもなんですが。どんな環境で今まで生きてきたんですか貴方」
過去、スライムの巣で『食事』を提供していた面々でさえ、休ませる時はちゃんと布団を被せていたというのに。
「…成程。つまり落第街が例外…というわけですか。勉強になります」
落第街で生きてきたが故に落第街の常識だけがあったが、それは間違いだということに気付けた。
「また、変なことがあれば教えて下さい。この辺りは…薫のほうがよく知ってますから」
寝具店へ足を進めながら、お願いする。
表で生きていく以上、表の常識に慣れなければいけない。『人間』としての側面が強く出てきている今では尚更だ。
■黛 薫 >
「落第街の環境ってピンキリだかんな。あーしは
底辺に近ぃから、手に入らねーもんも多ぃんだ。
つっても、あーしよりもっと苦労してるヤツも
いるっちゃいるんだけぉ」
もっとも、そのレベルになると長く生きられない。
黛薫はギリギリ死なないラインにしがみつくのが
上手かった。それだけは幸運と言える。
「そーゆー、落第街じゃ日常茶飯事なのに表じゃ
許されなぃコトって多分山ほどあんだけぉ……
あーしは半端に表の街の価値観も知ってっから
『そんなコトするはずなぃ』っつー先入観?も
あるのよな。だから先んじて伝えんのは難しぃ。
そんときになってからじゃねーと言えねーから
フィーも気ぃ付け……いぁ、それが難しぃから
こーゆー話になってんだよなぁ」
うだうだと悩みながらも寝具店に到着。
比べなければ気にならなかったかもしれないが
店で売られている1番安い寝具でも、新品という
だけで今部屋にある布団の何倍も良質である。
「んーと……床で寝るなら布団でイィんだけぉ、
2人で寝るならベッドを買うって手もあるか。
枕……は、どうやって選べばイィんだろ……」
黛薫、ベッドも枕も買った試しがない。
■フィー > 「…落第街って、力のない人には残酷ですよね」
自分には力があったから、底辺ではなかった。薫は…戦いに関する能力はほぼ皆無と言っていい。だからこそ、そんな環境にいたのだろう。
「気付いたことがあれば話してくれると助かります。
間違ったことをしてしまうのは…この際多少目を瞑りましょう。二回目を起こさなければいいんです」
寝具店に入って、寝具を見ていく。
店員に聞けば、展示してあるものは試して見てもいい、ということなので。
「わ、これ楽しい、楽しいですよ薫。私ベッドが良いです」
ぎし、ぎし、と。トランポリンのようにベッドの上で跳ねて楽しむ様子が見れるだろう。
それは、身長も相まって…まるで、子供がはしゃいでいるように見える。
■黛 薫 >
「……そだな。そーゆー点を思えば、フィーに
力があって良かったよ。フィーナに感謝だな」
自分に力が無かったことを嘆かず、ただ貴女が
同じ食い物にされる立場でなくて良かった、と。
「うん、そだな、楽しそうだな。でも待ってくれ。
一旦降りて。それもやっちゃダメなやつなんだ」
そんな感傷は長く続かずベッドの上で楽しそうに
跳ねる貴女を宥めてから店員に頭を下げている。
「えっとな、このベッドは店の売り物なワケだろ。
んで、あーしらは買おうが買うまぃがまだ金は
払ってねーだろ?もしも乱暴に扱って売り物が
壊れたりしたら店は丸損だ。だから勝手に商品
傷付けたら、傷付けた側は責任持って買い取り
しねーとダメなんだわ。そーなると買う側は
選ぶ余地が減る上に壊れた品を買うしかなくて
損するだろ?だから店のものは乱暴に扱っちゃ
ダメ。OK?」
地頭の良いフィーなら、怒らなくてもきっちり
説明すれば事情は理解してくれるだろう。
事情をしっかり話した後、改めて店員に謝罪。
見た目が子供であったのも幸いして叱られずに
事を収められた。
■フィー > 「まぁ…力があるからこそ私が生まれた、という経緯もあるんですけどね」
他に類を見ない才能であったからこそ、そういう事が為された。それを引き継げたというのは、確かに幸運ではあったが。
「あー…それは考えてませんでした。申し訳ありません」
薫と一緒になって、頭を下げる。
「でもこれ、ふかふかで気持ちいいよ?ほら、薫も」
行動を改め、本来の使い方…横になることで試している。
誘うように、掛け布団をあげて薫が入るスペースを開ける。
■黛 薫 >
「そんだけフィーナが規格外だったってコトだな。
才能があるだけじゃなくて、それを腐らせずに
磨き上げたからフィーナはそこまで上り詰めて、
だからフィーが生まれたワケか」
そうでなければフィーに出会えなかったと思う
反面、才能と努力が合わさって起きた奇跡には
僻むような感情を抱いてしまうのも事実。
ベッドの上で跳ねるフィーの姿は視線を集めたが、
容姿のお陰か微笑ましく見守るような視線が大半を
占めていた。フィーの前でパニックを起こさずに
済んで内心胸を撫で下ろす。
「あ、えっと。あーしはやめとく。あんまり
キレイな身体じゃないし、売り物に触んの
良くなぃかも、だし。……表で暮らすなら、
洗濯とか入浴とかも気ぃ使うべきかな……」
貴女に衣食住を用立てて貰っていた間はともかく、
落第街暮らしで贅沢に水を使う生活活動は難しい。
「……特に煙草の匂ぃはキラィなヒトいるからさ。
商品に匂い残すと傷付けるのと変わんなぃくらぃ
売れなくなる可能性もあるのよな。
どーする?フィーが気に入ったなら買っても
イィと思ぅんだけぉ」
■フィー > 「ただ…魔力に関してはあまり引き継げなかったようで。実は前までフィーナ頼りだったんですよ」
フィーが魔術を使う時、結晶を砕く理由はこれだ。
自ら魔力を生み出す能力が低いが故、結晶を魔力タンクとして使用していた。
「あー…なら、その辺りの物品も買っておきましょうか。確か家電のところに洗濯機なるものがあるとか」
気を使う薫をみて、更に提案。行く先が増えた。
「成程……匂いで売れなくなることもあるんですね。
そうですね、気に入りましたし…一式買っちゃいましょうか」
店員を呼び出し、購入の手続きをする。
無理を言って今日中に宅配してもらうようにしたようだ。その分お金は払ったが。
■黛 薫 >
「稼ぎが取れなくなったってのはそれが理由かぁ。
そいえばフィーの服って擬態っつーか、自前で
作ってるんです?洗濯不要なら洗濯機を買うに
しても小さめサイズで済ませられんのかなって。
あ、いぁ。寮だと共用スペースあたりに置いて
あんのか?あぁもぅちゃんと見とけば良かった」
黛薫に人並みの常識はあるが、経験値は不足気味。
今後の生活に必要なものを考え始めると目が回る。
「風呂はー……大浴場もあるけぉ、ユニットバスが
部屋に備え付けてあったよな。あーし、大浴場は
使いたくなぃから……。大浴場ならシャンプーも
タオルも備え付けてありそぅだけど、部屋の風呂
使ぅんならそれも買わなぃとか」
■フィー > 「……一応、擬態ではあるんですが…薫の話を聞く限り、買っておいたほうが良さそうなんですよね。ふとした瞬間に擬態が解ける、という事もありえますし」
寝具店での買い物が終わり、今度は家電量販店へと歩を進める。
「洗濯機といえば、落第街だとコインランドリー?とかいうので洗濯機がありましたね…。最低限あれぐらいは要るんですかね?」
落第街では水道が通っていないこともよくあり、住居に洗濯機が備え付けていないところも多い。
そこで活躍するのがコインランドリーなのだが…フィーの中ではそれが『最低限』だと思っているらしい。
「使うなら掃除用具も買わないとですね。洗わずにお風呂を使って感染症になりました、は洒落になりませんから」
スライムである意識が大きかった過去であれば、恐らくはフィーが汚れを食べて掃除する、などという提案があっただろう。
しかしそれは汚れを気にする薫を見て、意識が改められたのかもしれない。
■黛 薫 >
「待って、ちょっと待って。擬態が解けるって、
フィーは今ヒトからスライムに戻れなぃワケで、
その状況で擬態が解けるってのは……」
つまり、スライムに戻ってしまうのではなくて。
「ごめん家電後でイィから。先に服買ぃに行こ」
心配し過ぎかもしれないが、自分のパーカーを
フィーに被せつつ方向転換。粗末な身形もあって
視線は刺さりやすくなるが必要経費と割り切った。
今は買い物という目的がある以上、隠蔽術式も
使いづらい。
「コインランドリーの洗濯機は1番大きいくらぃの
タイプじゃねーかな……個人や家庭で使うんなら
もっと小さくて平気。掃除用具は……掃除機さえ
あれば何とかなるけぉ、念のため箒と雑巾くらぃ
揃えといて損はねーかな?」
■フィー > 「え、別にそんな簡単に解けるわけじゃ………」
といいつつ、パーカーを着せられ方向転換。この状態だと薫も辛いだろうと考え、早足で服飾店へ向かう。
「あれ、そうなんですか?掃除用具は…そうですね、薫が言っているのと…お手洗いと風呂用の物も用意してもいいかもしれません。他にも便利そうなのがあれば買いましょう」
そう話しながら、服飾店の戸を開ける。大きな店のようで、服のバリエーションが多い。選り取り見取りだ。
「どんな服が良いですかね…」
服装について気にしたことがなかったフィー。ファッションについては欠片も知識は無い。
■黛 薫 >
「あぁ、そっか。風呂とトイレはブラシと洗剤?
足りなきゃ買い足す方向で。つってもフィーは
風呂はともかくトイレに縁はねーかもだけぉ」
食物どころか無機物まで余さず消化してしまえる
悪食の代名詞のような怪異。ちょっと便利そうで
羨ましいと思ってしまったのは内緒。
そして服飾店に到着したは良いのだが……。
「ごめん、フィー。コレばっかりはあーしにも
さっぱり分かんなぃから、店員さんに聞ぃて」
黛薫、入学時(3年前)に買ったパーカーを未だに
着続けている人間。ファッション?知りません。
当然服飾店にもあまり縁がなく、店員を探すにも
一苦労する有様。何より本人の衣服が粗末なので
店員からの視線が痛い。
ひとまずフィーに合いそうなサイズの服がある
場所を聞いてみたのだが……。
「……うん、まあそうなるな……」
常世島は異世界からの種族も多く集まる土地。
服飾も様々なニーズ、種族、体格に応えるべく
努力している。しかしやはり多数派に向けた服は
良く売れるため多く、限定的な体型に向けた服は
需要も限定的であるがために少ない。
つまるところ……身長は子供並みだが出るところは
しっかり出ているフィーに似合いそうな服はかなり
限られている。売っているだけ良かったと思うべきか。
■フィー > 「そんなことはないですよ?どうしたって老廃物は出ますから。スライムはそのまま垂れ流しですが…私は、人の型を取ってるので。」
人の形を取り、人として食事をすれば、そういう物もちゃんと出るということだ。
「とりあえず、着てみますか」
試着室があるとのことなので、いくつか見繕い、そこで着替えてみる。
さて、ここで思い出して欲しい。
フィーは今まで擬態によって服装を誤魔化していた。
擬態を解けば裸であり、そこから服を着替え……
「どうかな?」
試着室から出てきたフィーは、服は着ていた。下着はつけていなかった。
■黛 薫 >
「ふぅん……こーやって話してると、あーしって
案外フィーのコト知らなぃもんなんだな」
貴女が試着室にいる間、黛薫は物思いに耽る。
思えば落第街にいた時期は研究の話ばかりして
フィーの事を知ろうとしていなかった気がする。
自分がフィーに色々聞かれたことならあったが、
それも研究に必要な内容だと信じていた節がある。
(……これから知っていけばイィだけ、なんだけぉ)
思考の最中、貴女が試着室から出てきて意識が
引き戻される。貴女に近付き、角度を変えながら
その姿を確認して。
「ん、よく似合ってる。フィーって顔もキレィだし
プロポーションもイィから割と何着ても可愛ぃと
思ぅのよな。擬態の服も似合ってたけぉ、今のも
負けてなぃと思ぅ」
無自覚ながら、割とベタ褒めである。
なお、下着選びは完全に失念している。
■フィー > 「まぁ、話してなかったですしね。聞きたいことがあれば応えられる範囲で答えますよ」
ぐ、と伸びをしたり腰を回したり、色々動きを確認してみる。
その度にたわわに実った胸が振り回され、その先端が強調されている。
「うん、動きやすさもそれなりだし…良いかもですね」
軽く、ポーズを取ってみる。胸に服が引っ張られ、やっぱり先端が強調されてしまう。
■黛 薫 >
「……いや待った。ちょっ、あの、待って」
ただ着ているだけなら気付かなかった。
しかし体勢が変わり、生地が張れば話は別だ。
強く主張する果実の先端部、それが意味するのは。
「……フィー、擬態解いて着直したってのは、
その、つまり……下着まで全部ってコト?」
他に誰が聞いているというわけでもないのだが、
何故か酷くいけないことをしている気分になって
声を潜めている。
■フィー > 「……下着ってなんです?」
まずそこからだった。
■黛 薫 >
「……そっかー……そこからかー……」
こめかみを指で押さえ、思案する。敢えて視線を
逸らしているものの悩ましそうな様子は貴女から
見ても良くわかるだろう。
考えてみれば、擬態をするのに中身まで真似る
必要はない。外面を丸写しすれば良いのだから。
「んーーっと……服って、目に見える1枚だけじゃ
なくて、何枚か重ねて着たりするんだけぉ……
その1番内側、肌の上に直接重ねる服が下着。
服って防寒とか機能的な意味合いだけじゃなくて
似合うかとか気に入るかも大事だろ?だからって
そのために着心地とかを犠牲にすんのは本末転倒。
だから1番下、見ぇねートコに機能性……肌触りや
防寒耐暑に気ぃ使った下着を身につけんの。
あーしには縁がねーけぉ、フィーみたぃに
大きいモノぶら下げてるなら重さの軽減も
必要になってくるワケだ。
あと、アレな。出来れば理解してて欲しぃけぉ、
裸を晒すのって、良くなぃから。それを守るって
意味合いもある。つっても、下着も裸に近いから
それよりマシってだけで見せるべきじゃねーけぉ」
微妙に早口な説明。視線は逸らしっぱなしだし
顔もやや赤い。黛薫も一応乙女なので。
■フィー > 「……あー、成程…。」
そう言えばフィーナの服…というかあれはドレスだが。あれを着ていた時も下に着ていた気がする。胸はドレスがカップ代わりになっていたのでつけていなかったが。
「んー、でも私は別に重さとか着心地とか気にならないし…服を着てるなら見えないですよね?なら、これで大丈夫じゃないですかね…?というかなんで顔赤くして目逸らしてるんです…?」
服に出来上がった出っ張りに気付いていないフィー。心配して、顔を覗き込む。
■黛 薫 >
「……その辺は、デリケートな話題だから……
深く考えずに服を着るなら下につけとかないと
良くなぃって認識でいてくれると嬉しぃ……」
とりあえずフィーを試着室に押し込み直す。
理由は誰かの『視線』を感じてしまったから。
意図したつもりはないが、所謂壁ドンの姿勢。
黛薫は異能の範囲拡大に伴い、直接見られずとも
視界範囲内に居れば触覚反応を返すようになった。
それはつまり、近くにいれば別の何かを見ている
視線の影響も受けてしまうということ。
フィーのたわわの先端部にいやらしい視線が
向けられていた……とは流石に言えないので。
「それに、ほら。フィーもヒトの姿取ってる以上
老廃物は出るって言ってたろ。肌の角質だって
例外じゃねーだろ多分。後は汗とか?そーゆー
自分で意識しなぃよーな物から服を守る役割も
あるので?不要に見ぇても素人考えで除くのは
良くねーって話です。あーしだって下着の役割
全部知ってるワケじゃねーーですが」
「……そゆワケなんで。店員さん呼びますから、
採寸して選んでもらってくださぃ。いいな?」
有無を言わさぬ調子で一方的に言って試着室から
出て行った。黛薫はズボンの裾直しを頼めずに
ハーフパンツを買い続けていた程度のコミュ障、
(自分の物でないとはいえ)店員に採寸を頼むのは
非常に難易度の高い行為だ。しかし……それでも
背に腹は変えられなかった。
■フィー > 「わ、分かりました」
半ば押し込まれる形で壁に凭れる。たわわに実った胸が薫に触れる。
フィーは視線に気付いていない。例え気付いていたとしても意識することはなかっただろうが。
「あぁ、それなら薫も一緒に採寸を…って。あぁ、行っちゃった。薫の分も買っておこうと思ったんだけど。」
裸を晒してはいけない、という言葉を聞いて、一応カーテン越しに店員を呼び、採寸をお願いする。
下までつけていない素っ裸だったので、驚かれたが、採寸してもらい、サイズの合う上下の下着を見繕ってもらった。
そして、下着を着用し、待っているであろう薫を呼ぶ。
「薫、ちゃんとつけれてるか見てほしいんですけど」
試着室に入れば、少しズレた感じで下着を着用しているフィーがいるだろう。
■黛 薫 >
「んん……」
黛薫はパーソナルスペースが広い方である。
『見られる』のが怖いから踏み込ませたくなく、
踏み込まない。それ故距離感の近さにはあまり
慣れておらず、ましてそれが下着姿での接触と
なれば落ち着かないのも無理のないこと。
「いぁ、ちょい待って……あーし大きいサイズの
ブラ付けたコトなぃから、やり方分かんねー、
ってか、触んの悪ぃだろ」
とりあえずサイズの大きいブラジャーの整え方を
検索する。欲しい情報より先にアダルトサイトが
引っかかってスマホをぶん投げそうになったが、
どうにか堪えて検索を継続する。
■フィー > 「薫なら構いませんよ」
簡単に言ってのける。それもそうだ、フィーの認識では服を擬態してたとはいえ裸で一緒に寝たのも同然なのだ。
今更何を、という感じである。
「あ、成程そういう手が」
置いてあったスマホを取り、自分も検索する。
同様にアダルトサイトに引っかかり、そのまま閲覧している。
■黛 薫 >
「んん゛ーー……!」
常識の齟齬に頭を痛めつつ、とりあえず手で
フィーのスマホの画面を隠した。顔が真っ赤。
「今のは参考サイトじゃねーーですからね!
ヒトには性欲っつー感情があって、それを
……発散させるコンテンツ?が集まってる
サイトだから、フィーには縁がねーヤツ!
あとそーゆーコンテンツを餌にした詐欺が
山ほどあるから危険なヤツです!」
場所が場所だけに声を潜めてこそいるものの
語気は荒い。すごく動揺している。すごく。
フィーに任せても状況が悪化するだけと判断し、
半ばやけっぱちで豊満な胸をブラジャーの中に
押し込めて形を整え始める。
(うわ柔らか、っつーか重っっも?!
ええぃ、縁が無さすぎてわっかんねー……。
何、コレマジでどうすんだ?ココをこう……)
本人は至って真面目だが、閉所で胸をまさぐって
いるという非常に誤解を招きそうな絵面だ。
■フィー > 「あれ、違うんです?脱がせてる場面あるからそうかな―って思ったんですけど…あぁ、そういう詐欺は一杯ありそうですね…欲って抗いがたいですし」
確かに、スライムには性欲はない。しかし、半分人が混じっているフィーは、そうじゃないかもしれない。
そして実際、豊満な胸を弄られると…
「んっ…胸、触れると、こんな感じなんですね」
ちょっと艶めかしい声が漏れる。
■黛 薫 >
「恥ずかしくなるからあんま声出さなぃで」
それも本音だが、何より縁のなさすぎる作業は
思いの外難易度が高くて集中力も必要になる。
どうにか参考になりそうなサイトを見つけ出し
片手でスマホを持ちながら整えようと試みたが、
当然ながら片手でどうにか出来るはずもなく。
どこまでやったか分からなくなってスワイプで
前に戻ったら、整えていた胸が溢れてやり直し。
「ごめ、フィー。ちょっとスマホ持ってて」
フィーにスマホを持たせ、肩越しに画面を見つつ
再挑戦。貴女から見ると背後から密着されている
姿勢になるだろうか。全然上手くいかないので
ちょっとムキになっているかもしれない。
真剣に取り組み始めた分、少し羞恥は薄れた。
手順通りに整え、数分の奮闘の後ようやく正しく
ブラジャーを着用させることに成功した。
その過程で手がたわわの中に沈んだり指が先端を
掠めたかもしれない。しなかったかもしれない。
■フィー > 「んっ、でも、勝手に出ちゃって」
誰かに自分を触れさせる経験が無いせいか、知らない感覚を敏感に感じ取っている。
頼まれてスマホを持つも、ムキになって奮闘している内に息が荒くなってくる。
「お、終わった…?」
振り返って、手を止めた薫に確認する。頬が少々紅に染まっている。
■黛 薫 >
「よし、よし……コレでイィな?間違ってなぃな?
おっけ、大丈夫そう。サイズも……ぴったりだな」
一仕事終えた黛薫は違う意味で息が荒い。
ため息と共に疲労を吐き出して最終確認。
「んじゃコレも買ってこ。いちお言っとくけぉ、
あーしは毎回手伝えるワケじゃねーからな?
参考サイトブクマしといたからフィーも自分で
着けれるようになっとぃて。面倒だからって
着けなぃのは絶っっ対ダメだかんな」
一旦試着室の外に出て、貴女が擬態し直すのを
待っている。ブラジャーに加えて、ショーツや
キャミソール等の下着も一揃い購入する。
「しっかし胸が大きぃとブラ付けんのも一苦労
なんだな……アレを毎日やんのってぶっちゃけ
すげー大変そ……」
ハンカチで汗を拭きつつ、次に何を買うか考える。
洗濯機と掃除用品を買って、途中何か欲しい物が
見つかったら都度購入。帰り次第ベッドを含めた
家具家電類の設置と位置調整。
「表の街で暮らすって、忙しぃんだな……」
落第街は残酷な街だったが、身軽でもあった。
■フィー > 「分かりました。出来るようにしておきます」
ブックマークしてもらったサイトを見ながら、服を擬態していく。
途中で買ったの着ればよかったんじゃ…と思ったけど、考えないことにした。
服を擬態し終え、試着室を出るなり。
「じゃあ、薫のも選びましょっか」
そう言って、薫の手を握って売り場へと向かおうとする。
せっかく来たのだ。使い古されている薫の服も新調したほうが良いだろう、と思っての行動だ。
■黛 薫 >
「いぁ、あーしのはまだ着れるし……」
辞退の言葉を口にしたときには手を引かれていて。
気付いた頃にはもう売り場まで連れられていた。
黛薫にとって服は破かれるか奪われるかしたとき
中古で買い直すもの。まだ着回せる服があるのに
買うなんて経験はなかった。
(フィーといると、初めてのコトだらけだ)
ため息をこぼしつつ、ざっと視線を巡らせる。
見るのは値札とサイズ。無地の白シャツを1枚と
3枚入りのキャミソール、ショーツを無造作に
買い物籠に放り込む。あとは厚手のタイツ1枚。
どれも並んでいる物の中で1番安いやつを選んだ。
ハーフパンツは以前ヤられて奪われた際に
買い直したからもうしばらく問題ないだろう。
「……コレでイィ?」
試着もデザインの精査もなく、必要だから買う。
出費は抑える。染み付いてしまった習慣だ。
■フィー > 「んー…薫がそれでいいなら良いんですが…ブラは買わないんです?」
あれだけ熱意を持って言われた下着のうちの一つ。それが入ってないのがちょっと気になった。
服装に関しては薫が着るものだし、薫が選ぶのが良いだろう…そう思っていた。
■黛 薫 >
「あーしはイィの。収めるモノが無ぃから」
ぺす、と手のひらで自分の胸を軽く叩く。
服の上からは一切の膨らみが見えない絶壁。
着ているシャツが伸び気味だから余計に。
「あと……外で言ぅのは良くなぃ話だけぉ。
ブラとショーツはヤられるとき真っ先に
盗られっから、その度に買い足してっと
出費が痛ぃんだわ。ショーツなしは流石に
恥ずぃけぉ、ブラは胸が無きゃイィやって
思っちまぅから、ずっと買ってなぃ。
いぁ、下着のコトすら知らなかったフィーに
その辺の感じ方の機敏は伝わんねーだろーけぉ。
多分そのうち分かるように……なんのかなぁ。
あーしの感性も大概狂ってっから……」
ヤなコト思ぃ出した、と呟きため息を溢す。
■フィー > 「んー…でも、暫くはこっちで過ごすんだし、その間ぐらいはつけてても良いんじゃないかな?ほら、薫も素人考えで除くのは良くないって言ってたし」
自分に買わせておいて、薫が買わないのはおかしい。
それぐらいの気持ちで反論する。
「こっちの方は、治安が良いんでしょう?なら、気にすること無いと思う」
■黛 薫 >
「……はぁ。フィーがそー思ぅならイィですけぉ」
自分の言葉を出されて反論されると弱い。
金銭面に関しても、今は困っていないわけだし。
現状一着も持っていないので、着回せるように
1番小さいサイズを3つ購入する。
「表の街の感覚を知らなぃ前提で順応しようと
してるフィーより、あーしの方が落第街から
抜けれてねーんだろな……」
ぼやきながらレジで支払い。合計金額はおおよそ
5000円くらい。この値段でも身を硬くしたことを
見るに、黛薫がどれだけお金に苦労していたかは
想像に難くないだろう。
「んでなんだっけ?あとは洗濯機と掃除道具か。
風呂掃除の道具は忘れなぃように買わねーと。
何か思ったより汗かいちまったし……」
大きい胸をブラジャーに収めるのがあんなにも
重労働だとは思わなかった。
■フィー > 「せっかく争いの少ない場所に居るんですもの。ここに居られるのならずっと住みたい気分ですよ」
元来、フィーは争いを好まない。必要があれば戦いもするが…今は戦うこと自体が制限される。
自身の魔力も心もとないからだ。
「んー……そうですねぇ…薫、疲れてるんだったら一休みします?商店街ですし、飲食店ぐらいはあるでしょう。何だったら娯楽店でもいいですし」
薫の様子を見て、提案する。ずっと買い物ばかりでもしんどいしつまらないだろう、と思っての提案だ。
■黛 薫 >
「……そだな。ずっといられんなら、その方、が 」
言葉が途切れる。それ以上先を言えなかった。
繋いでいた手が強張り、痛いほどに握られて
──何事もなかったかのように力が抜けた。
「休憩なぁ……ん、それもイィかもだ。
フィーは行きたいトコ、あったりする?」
疲れを指摘されての休憩だったのに、行き先の
希望はないようだ。研究に没頭していたときも
そうだったが黛薫は休むのがあまり上手くない。
休みを『息抜き』より『体力回復』と捉えている。
■フィー > 「……薫?」
痛いほど握られて、様子を伺う。何か、拙いことを言っただろうか?
「うーん…」
行きたいところ。今ある知識では特にはなくて…キョロキョロと、店の外を見渡す。
「…映画館、ですか」
百貨店のものと比べると規模は小さいが、大きな広告がフィーの目に止まった。
「映画館、どうですかね?私初めてなんですけど」
■黛 薫 >
「映画館……は、あーしも行ったことなぃな……」
暗いって聞くから視線も気にならないかも、と
言いかけて飲み込む。そんな動機で入るのは
失礼な気がしたから。
「行ってみるか?つってもどんな映画やってるか
分かんなぃから、何が見たぃかとかはフィーに
任せるコトになりそーだけぉ……」
ポスターを見てみる。海外で人気のアクション、
連作の大ヒットファンタジー、サスペンスホラー、
有名アニメの劇場版、サメ、ゴリラ、成人指定……。
(ヤバぃ、さっっぱり分かんねー……)
黛薫は流行に疎い。持てる時間のほぼ全てを
魔術の研鑽に費やした結果、それ以外の趣味に
手を出す時間がなかったのだ。
■フィー > 「興味ありますし…行ってみましょう」
そうして薫を連れ、映画館へ。
上映しているものは沢山あり…目移りは、残念ながらしなかった。
アクション、ファンタジー、ホラー、成人指定。この辺りは落第街でお腹いっぱいになるほど見た。
となるとアニメやサメ、ゴリラ等だが…サメとゴリラはなんだか出来が悪そうだし、アニメは元を知らないから興味をそそられない。
そうして絞られた選択肢は…日常系、それも恋愛モノだった。
「これ、どうです?」
参考までに、薫の意見も聞いてみる。
■黛 薫 >
「あーしも映画の良し悪しは分かんねーからな。
ピンと来たなら先入観ナシで見てみんのも
面白ぃんじゃねーかな。行ってみる?」
恋愛モノが自分に理解出来るだろうか、という
不安こそあったものの、興味がない訳でもない。
「えっと……あそこで並んでチケットを買う?
んで、ドリンクとスナック……上映中って
飲食OKなのか。オススメはポップコーン?
それからシアタールームに……」
念のためスマホで下調べ。不慣れさが目立つ。
■フィー > 「じゃあ、観ましょう」
そう言ってチケットの購入へ向かう。
不慣れながらも店員に誘導されながら、なんとかチケットやドリンク、スナックを購入出来たようだ。
「えーと…こっちですね」
薫の手を引きながら、地図とチケットを確認して上映場所へ向かう。
客が少ないようで、座席はまばらに空いている。その中でも席は真ん中あたりを指定されたようだ。
■黛 薫 >
「えっと……ドリンクはココに置くのか。
あとは上映まで待てばイィのかな」
疎らに空いた席。あまり人気はないのだろうか。
部屋の暗さ、背もたれの高さも相まって視線は
遮りやすいかと思ったが、人数が多いお陰なのか
思ったより視線の感触は多い。
上映前の時間、巨大なシアター画面には上映中の
注意事項やマナーを解説する動画が映っていた。
(みんな画面を見てるんだろーし、変質する前の
異能だったら、快適だったのかもしれねーな)
やがて部屋の照明が落とされ、上映が始まった。
■フィー > 「………」
マナーに従い、映画を観ている。
上映された映画は日常の中で主人公がヒロインに打算的な目的で出会い、そこから恋へ落ちていく物語。
主人公は気持ちに戸惑い、ヒロインは信頼したいのに出来ない。そんな気持ちのすれ違いを描いたものだった。
「………なんだか、似てるな…」
ぼそり、と。誰にも聞こえないように、呟いた。
■黛 薫 >
目的ありきの接触。恋ではなく、愛ではなく、
利を求めて近付いた相手に惹かれていく心。
心境の変化に戸惑い、心の置き場が無くなって。
自覚し始めたその気持ちは打算で動いた過去と
衝突し、乗り越える道を、折り合いを探す。
好きなのに/好きだから、その気持ちに戸惑う。
対するヒロインはその打算を知っていた。
知っていたからこそ、誰より早く主人公の心境の
変化に気付いていた。しかし彼女は打算に満ちた
主人公の言葉を、表情を、行動をも知っていた。
だから、その愛の誠を誰より知っているのに
受け入れられない。直視することが出来ない。
惑い、すれ違い、けれど主人公は諦めなくて。
目を逸らし、逃げながらもヒロインは見限らない。
心が織り成す物語、人間関係のドラマが展開される。
黛薫は無言で画面を見つめていた。
■フィー > 「………」
自分と、主人公は、よく似ていた。
利を求めて薫と接触し、関わっていって。
心境の変化に戸惑って。自覚した今でもその感情の名前がわからない。
この感情は、何なのだろうか。
そう思いながら観ているうちに、転機が訪れた。
主人公はヒロインの元を去る。下心から接した自分は相応しくないと。
そしてヒロインは主人公を追った。幾多の苦難を乗り越えて。
そうして主人公とヒロインは再会し、幸せなキスをしてハッピーエンド。
よくある恋愛ストーリー。
しかし、フィーは似通った主人公に感情移入し、最後には…涙を流していた。
■黛 薫 >
(……ハッピーエンド、ね)
苦難ひとつ、障害ひとつが描写されるたびに
この映画は幸せな結末で終わらないのでは、と。
そう不安になっていた。
乗り越え、解決するたびに安堵を覚えると共に
ちくりと胸が痛むような感覚があった。
どうしてだか、すれ違いの気まずいシーンが
1番心穏やかに見られたような、そんな感覚。
苦難を乗り越えた末の幸せな結末。
カタルシスはあれど、自分の心に去来するのは
感動とはまた別の、形の曖昧な重たい気持ち。
良い映画だったかと聞かれれば頷くだろう。
しかし何処が良かったかと聞かれたら……
自分は、ちゃんと答えられるのだろうか?
固い抱擁を交わし、唇を重ねるシーン。
黛薫は無言でシアター画面を見つめている。
■フィー > クレジットが流れ始め、まばらに帰る人達が出始める。
フィーは流した涙に気付かず、余韻に浸っている。
「面白かったですね」
クレジットも流れ終え、明かりが付いたところで、薫に顔を向け話す。
いつの間にかドリンクもスナックも食べ尽くしてしまっていた。
■黛 薫 >
黛薫の方はというとLサイズのジュースが空っぽ、
しかし同じくLサイズで購入したポップコーンが
半分近く残っていた。
「ん……面白かった。それはあーしも認める。
でも、やっぱ恋とか愛って難しぃなって……」
と、呟きながら貴女に顔を向けてぎょっとする。
「って、おゎ……フィー、そんな気に入ったの?
めちゃくちゃ泣ぃてんじゃん、ちょい待って、
ハンカチ鞄にしまっちまってる」
慌ててハンカチを取り出し、貴女の目元を拭う。
「いぁビビった……確かに感情豊かになったとは
思ってましたけぉ。感動して涙流すほどって。
むしろ情緒が育った直後だから敏感なのか?」
先んじてシアタールームを後にする観客たちを
横目で観察する。泣いている人も少なくはない。
客入りから見て前評判は微妙なのかもしれないが
名作と呼べる映画だったのだろう。
■フィー > 「え、え、泣いてました?私」
されるがままに、涙を拭われる。
「その、日常が新鮮だった、というのもあるんですが…その、主人公が自分に似てて、ですね。その…なんというか。ええと…」
言葉が出てこない。こういう物語などに触れるのは初めてで、感情移入という言葉を知らない。
「…そう!自分が主人公になったみたいに、感情が出てきちゃいまして。映画って面白いですね…」
そうして、この映画を観て。自分は、気付きを得た。
「……そっか。私は……恋、してるのかな」
■黛 薫 >
「良かったじゃん、そこまで感情移入できたなら。
フィーの『好きなモノ』が見つかったってのは
喜ばしぃコトだよな。落第街に居たときなんか
研究一筋、そのためなら他人の犠牲も辞さなぃ
って感じだったもんな」
口元に薄く笑みを浮かべて貴女の瞳を見つめる。
それから、数秒思案する様子を見せて。
「んで、だ。こないだフィーとフィーナと会って、
あーし、それからずっと考えてたコトがあった。
帰ってから言ぅつもりだったけぉ……フィーが
『好きなモノ』を見つけた今のタイミングなら
丁度イィかなって」
『好きなモノ』。黛薫の中では映画か、或いは
恋愛モノのジャンルを指しているのだろうけれど。
「あーし、フィーに名前を付けるにあたって
適当に付けたくなぃって言ってたろ。んで、
フィーは呼び慣れた響きに近い方が良いって
言ってたから、後で寄せる前提でフィーって
呼ぶようになったワケだ」
「だから、ずっと考えてたんだよな。
フィーの名前、何にしようかなって」
長い前髪の下、蒼い瞳に貴女が映っている。
▼
■黛 薫 >
「フィール《feel》。あーたの名前、どぉ?」
思う、知る、感じる。それに──想う、触れる。
そんな意味が込められた言葉を、捧げよう。
■フィー > 「………とても。とても、良いと思います。」
名前という、とても大事なものを。
好きだと自覚したばかりの相手から、送られる。
「フィール」
口にする。
「フィール」
幸せを、噛みしめるように。
「フィール」
嬉しいのに、涙が出て。
「こんな素敵な名前をくれて…ありがとう、薫」
気付けば、薄暗い映画館の中で、抱きしめていた。
■黛 薫 >
「……いやホント感受性豊かになったよな」
ぽんぽん、とその頭を軽く撫でる。
貴女が泣き止むまで、ずっとそうしていた。
「落ち着ぃたら、買い物の続きしよーな。
買わなきゃいけなぃモノはまだあるし……
何なら、フィーが買いたぃモノ見つけたら
買ってもイィし。この調子なら好きなモノ
たくさん見つけられそーだもんな」
■フィー > 「…ん、ありがと…」
優しくされて、それが心地よくて。涙が更に溢れてくる。
フィールはこんな感情を知らなかった。今までこんな事、なかった。
「知りませんでした…。人って、幸せでも、泣いちゃうんですね」
自覚してしまえば、もう留まることを知らない。
薫が好きだ。
薫を愛している。
薫に、恋している。
でも、口には出せない。
口に出したら、今の関係が、壊れてしまいそうで。
■黛 薫 >
「ん……そーだな、嬉し泣きってヤツ……」
気まずそうな、微妙に渋い顔をする。
嬉し泣きにカウントして良いのかは曖昧だが、
緊張が切れてボロボロに泣いた経験があるので。
「呼び方どうする?愛称のまんまフィーで通すか、
それともフィールって呼んだ方がイィのかな」
貴女が泣き止んだら手を引いてシアタールームを
後にしよう。上映が終わった部屋をあまり長々と
占拠するのも良くない。
とはいえ、シアタールームの外に出たら黛薫は
視線に縮こまって貴女の背に隠れてしまうのだが。
微妙に格好が付かない。
■フィー > 「…それは、薫が呼びやすい方で。でも…」
シアタールームを出て、歩きながら、思う。
せっかく贈られたのだ。大好きな人に。だったら。
「フィール、って呼んでくれたほうが、嬉しいかな」
そう、呼んでくれるだけで。自分は薫の物になっている気がするから。
「お土産は…いいか。残ったポップコーンはどうします?」
■黛 薫 >
「ん、それじゃ改めてよろしく、フィール」
半分以上残ったポップコーンを指摘されると、
あー……と呟きながら考え込む。
「いぁ、美味しかったのは美味しかったんすけぉ、
思ったより量多くて食べ切れそーにないのよな。
良ければフィール、残ったの食べてくれます?」
黛薫は食が細い。生き延びられるギリギリの量の
食事を続けていたお陰で胃が小さくなったのかも
しれない。それも貴女と同居を初めてからは大分
改善されているのだが。
ポップコーンに関してはお店に持ち帰り用の蓋が
用意されていたので受け取っておく。
「じゃ、買い物の続きだ。洗濯機は2人分の服が
洗えりゃ良くて……それ以外の機能はあんまし
分かんなぃから、値段とオススメの兼ね合ぃで」
■フィー > 「こちらこそ、よろしく。薫」
つけてもらった名前を呼ばれて、嬉しくなってしまって、顔がにやけてしまう。
「ん、それじゃあ頂きます」
ポップコーンを受け取り、家電量販店へと向かう。
あとは洗濯機と、掃除機、その他諸々。
「そうですね…この辺りは私も知識がないので。良さそうなのあればそれ買っちゃいましょうか」
サクサクと、ポップコーンを頬張りながら。食べる速度はそこそこ早く、家電量販店に着く前に食べきってしまうだろう。
■黛 薫 >
「フィール、食べるの早ぃな……」
そう言いつつ辿り着いた家電量販店。
見慣れたコインランドリーの古錆びた洗濯機とは
全く異なる、白くてコンパクトな品が並んでいる。
「……ランドリーのヤツは家庭では一般的じゃ
ねーって言ったのあーしだけぉ。改めて見ると
見慣れなさすぎて使ぃ方が分かんねーな……」
一応入学前は普通の洗濯機がある家庭で育ったが、
家事手伝いをした記憶もないので使ったことはない。
ボタンに書かれた表示を熱心に読んでいたものの、
途中で面倒になって基本の洗濯メニューだけ覚えて
投げ出した。
■フィー > 「ふむふむ…へぇ、これは乾燥機付き…こっちは風アイロン…?」
ランドリーのものと同じドラム式のものを眺めている。
機能が多すぎでどれが何の意味があるのかあまりわかっていない。
「うーん…乾燥機と風アイロン付いてるのが楽で良いですよね…?」
勿論、機能がついている分値段も相応である。
■黛 薫 >
「風アイロン?は、正直良く分かんねーけぉ、
乾燥機は便利そーだな。えっと、両方あんのは
コレとコレ……何が違ぅんだろ?あ、サイズか。
あーしらは2人分洗えれば良ぃから小さぃ方だ」
これで洗濯機も購入完了。備え付けの家具家電しか
なかった殺風景な部屋も生活しやすくなるだろう。
「あと掃除用具だけ買ぇば当初の予定は達成か。
買ぃ終わったらどーする?一度帰って休んでも
イィし、他にも買ぅモノあれば付き合ぃます」
買い物デート継続か、お家デートにシフトか。
黛薫にそんな意図があるかどうかはともかく、
今後の予定について尋ねてきた。
■フィー > 「そうですね…あ、あれなんでしょう?」
フィールがテレビの区画に顔を向ける。
先程映画館で映像作品をみて、感動して。興味を持った。
それと似たようなものが、ずらりと並んでいる。
「えーと…テレビ?っていうんですかね。あれも気になります」