2022/05/12 のログ
ご案内:「商店街」に『シエル』さんが現れました。
■『シエル』 >
季節、春。
暖かい日差しの中で、軽やかに風が舞う。
思わず眠気を催すような、心地良い日だ。
賑やかな商店街の入口を前に、
日溜りの下で立ち尽くす人形が一つ。否、一人。
動かずにじっとただ、一点を見つめているが為に人形と見紛うそれはしかし、
行き交う学生たちを前にぱちりと瞬きを一つ行う。
そうして、己が紛れもない生者である証を示すのだった。
暖かな日差しの中にぽう、と溶けてしまわないかと
心配になるほどの白い肌の少女。
彼女は顎に手をやりながら商店街の入口の片隅に、
静かに――路端の石ころの如く静かに佇んでいた。
さて、待ち人は――
ご案内:「商店街」にハインケルさんが現れました。
■ハインケル >
「お待たせえ~」
ぽかぽか陽気によく似合う?間延びのした声が静かに佇む少女へとかけられる
そちらに目を向ければ、長い髪を揺らしながらそちらに駆けてくる人影
「んふふ、晴れて良かったー。
せっかくお出かけする日に雨だと悲しくなっちゃうもんねぇ」
佇む少女の前へと辿り着きくとて、よく晴れた空へぐるりと視線を巡らせ、少女の顔へと
走ってここまで来たのだろうが息を乱した様子もなく、軽やかに笑いかけていた
■『シエル』 >
「大した時間ではありません。2分と40秒弱――私の方が、
少々早く到着し過ぎてしまいました」
こくり、と頷く少女の顔には何の色もなく。
制服に包まれた人形は、警戒を解くようにして
長髪の少女の方へと向き直った。
「近頃はなかなか『外』に出ていなかったもので――
以前にお願いした通り、今日は案内を頼みます。
特にここは、慣れない場所なので……」
言葉通り、近頃は落第街の拠点に引きこもりがちであった。
だからこそ、表の世界を――『外』によく出歩いている彼女に
案内を頼んだ。
裏の世界ばかり見ていても、
本当の姿を見ることはできない。
エルヴェーラ――『シエル』はそう考えていた。
だからこそ、ちょっと眩しい日差しを疎うことなく、
信頼のおける彼女と此処に立っているのだ。
■ハインケル >
『待った?』『そうでもないよ』
日の当たる場所での生活の中では当たり前のやり取りも、
こんな場所で彼女と交わすのはなんだか新鮮
そして以前かわした約束の通り、案内を頼む彼女に満面の笑みを返す
「任せといて~♪でもその前に…」
快い返事
しかし歩きはじめるのではなく少女の隣に立ち、携帯を取り出してカメラモードを起動しつつ、顔を近づける
「はいココ見て~」
頬と頬が触れそうなくらい近づけて、ぱしゃり
制服エルちゃんとのツーショットをゲット、大事
満面の笑みの少女と、感情の色を見せない少女はどこか対比的に写るのだろうか
「よっしゃーそれじゃいくぞぉ~!
まずは服!服見よー!制服もかわいいけどかわいー私服、選んだげる♪」
さ、いこうー!と、手を引いて歩きはじめる
色とりどりとも言えるお店の数々が並ぶ風景…
慣れない場所という彼女に、アレは何のお店、コレは何のお店!そしてこっちは多分そんな感じのお店!
と、ものすごく雑な説明をしつつ歩いてゆく
■『シエル』 >
「はぁ」
肯定と呼ぶにはあまりに素っ気なく聞こえる音ではあったが、
拒んでいる訳ではないらしい。
まさになすがまま、そのまま口吻だって拒まないだろうが。
眼前の少女が端末を取り出すのを視線で追うのも数瞬のこと。
燦々と輝く太陽と、物言わぬ氷の表情が二つ。
アンバランスに並んだ制服女子二人の写真が撮れたことだろう。
「服、ですか? 身体を十分清潔に保つだけの数を、
既にきちんと所有しているのですが……。
しかし……服……そうですね、やはり馴染む為には
必要でしょうか……」
ぱちぱち、と瞬きをしつつハインケルを見やる。
「はぁ」
そうして彼女が案内する様々な店を眼球に映しては。
「ほう」
静かに瞬きを繰り返すのだった。
「なるほど……」
ぱちぱち。
そうして。
服屋が立ち並ぶエリアに辿り着こうという時。
ハインケルが説明を行う前に、ここに来て初めて
『シエル』が自ら口を開いた。少し、小さな声だ。
彼女が指さす方向――
「ハインケル。
最近は、蛙の卵を食すのが流行っているのですか?」
――二人の前には、ド派手なピンク色をこれでもかと放つ、
タピオカ屋があるのだった。
その周りには談笑しながら黒い粒を飲む学生達――。
■ハインケル >
「馴染む…うーん、それも理由の一つではあるね!
いつも同じ服だったり、遊びに行くときに制服でばっかり、なんて子はあんまりいないねぇ。
色とりどりの服を着て、お洒落をして、自分の個性を表現する、っていうのかな…?」
難しい話は苦手
自分で言っていてよくわからなくなったのか、言いながら首を傾げていた
こういうのをうまく噛み砕いて彼女に理解るように説明するには力不足かもしれない
それから──
「え゛? カエルのたま……ご」
そんな流行聞いたこともありませんがと、唐突にそんなことを聞くエルちゃんの視線の先を追ってみると
「あー、アレか~。あれねぇタピオカ!流行り始めたのは結構前だけどまだまだ人気あるねぇ」
「ふふ、せっかくだし試してみる?」
微笑んでそう問いかける
独特の食感だし、食に関して事情のある彼女でも楽しめるかもしれない
そんなことを思ってみたりして
そして返事を聞くよりも早くハインケルは足早にお店に向かっていて──
ほどなくして二人分のタピオカミルクティーを抱えて戻ってくると、
近くに備え付けられたベンチを指差して笑顔を浮かべるのだった
■『シエル』 >
「……なるほど、十分伝わりました。ありがとうございます」
一生懸命説明をしてくれるハインケルに対し、
『シエル』は深く頷きながら、ぽつりとお礼を言った。
「タピ……?」
虚ろな瞳はそのままに、こてんと首を傾ける。
「しかしなるほど、蛙の卵ではなかったのですね」
明確な否定の言葉は無かったものの、彼女の反応を見て
自らの間違いを悟ったようであった。
「いえ、私は――」
遠慮しておきます。
そんな小さな声を置き去りにして、小走りに店へと向かう
ハインケル。
その背中を見つめていると、彼女はすぐに帰還した。
そうして彼女が指差したベンチを見れば、
ちらりとハインケルと彼女が抱えた蛙――もといタピオカを
見やった後に、ベンチへと腰掛けるのだった。
タピオカミルクティーを受け取れば、静かにそれを眺める。
幻想の物語、その一場面を切り取ったかのような少女の姿。
そんな細い手に収められた、少しばかり前の流行り物。
これもまたアンバランスではあったが。
薄っすらと赤みが見える唇をストローに宛てがい、
人形は遠慮がちにミルクティーを飲む。
沈黙、数瞬。
「もちもちしています」
その後に、この世で最も味気ない食レポが繰り出されたのだった。
味覚が無いゆえ、仕方ないところではあるのだが。
それでも、その触感は嫌いではないのか、
すぐにもう一度ストローに口を当て。
「面白いですね」
そうして人形は、同行者に向けて何の抑揚もない声でそう口にした。
彼女に表情があれば、笑っていたのかもしれないが――。
■ハインケル >
「こうやってタピオカミルクティー飲むことを『タピる』っと言うのだよ~。
カエルの卵とは違うね…!似てるけどねっ…!」
遠慮がちにストローを加える少女を満足気に眺めるハインケル
本当にそうなのか怪しい知識を追加しつつ、自分もタピることを楽しむ
ここまでそこそこ歩いたし、小休止にも丁度良い
「んふふ、不思議な食感でしょ~?」
味は兎も角としてもその触感は伝わる筈
面白いですねという反応だけでも、新しいものを経験させてあげられたことを嬉しく思っていた
抑揚のない声と、感情の感じられない表情…彼女が普通の人であったならば、きっと、もっと
ハインケルはなぜか彼女のそういった部分を愛らしい、と捉えており──
「エルちゃんのほっぺくらいもちもちしてるねぇ~♪」
表情の乏しいそのほっぺを指でつついたりしているのだった
こちらはこちらで、そんなに?と思うほどには感情が顔に出る
通行人からも対照的に映るだろう二人であった
「気になるものがあったらなーんでも聞いてね♪ぜんぶ教えちゃう!」
どーんと胸を張るハインケル
教えるといいつつ、雑な説明なのはわかりきっていることだが
■『シエル』 >
「なるほど。それでは、しっかり『タピる』とします」
遠慮がちだった飲み方が、改めて少し積極的に。
沢山のタピオカをストローで器用に、音も立てず吸い取っていく。
「ええ、とても不思議ですね。
それに、水分も不足していたので有り難いです」
指でほっぺをつつけば柔らかな頬、
そしてその向こう側にあるタピオカの感触がむにゅ、
と指先に伝わるだろう。
「頼もしい限りです。やはり、貴女にお願いして良かった。
……しかし、気になるものが多すぎて困るところですね。
『あちら』には無いものも沢山ありますし。
今日だけでは到底回りきれなさそうです」
そう口にして、最後のタピオカをしゅっと吸い込むと、
空の容器を近くのゴミ箱へそっと入れた。
周囲には、学生向けの店が数多く立ち並んでいる。
右手を見やれば、
お菓子詰め放題のキャンペーンをしている駄菓子屋が。
また左手を見やれば、
何やら大きなロボットを展示しているプラモデル屋が。
多種多様な店が立ち並んでいた。
そうしてまっすぐ行った先には、服屋が立ち並ぶエリアがある。
お洒落な格好をした男女が和気藹々と行き交いする姿を、
『シエル』は誰かに座らされた人形のように、身動きもせず
見守っていた。
■ハインケル >
可愛い
何だこの可愛い生物は…
犯罪的にぷにっとしてるし…
ハインケルちゃん、いけない気持ちになっちゃいそう……
「……はっ」
心の中の両手がわきわきしていることに気づいてハッとする
真っ昼間から別の意味で狼になってはいけない…
「も、もー何度だって引き受けちゃうよ!
こっちではあんまりエルちゃんと遊べなかったから、
いっぱいいっぱい連れていきたいところがあるんだもん!」
その度に彼女の新鮮な……うんまぁ表情とかは変わんないんだけど、反応が見れるのなら
それは自分にとっても十分なご褒美なのだ
「よし、それじゃ服見ようよ!」
同じようにくずかごに容器を捨てると、立ち上がる
そう、見るべきものはたくさんある
一度や二度といわず何度でも一緒に来ればいいのだから、それはたいした問題じゃない
ハインケルが真っ先に服屋を選んで手を引いたのは…
「今日はまずエルちゃんに似合う素敵な服を買って──」
「おめかしして、二度目また来ようよ♪」
■『シエル』 >
「はい、よろしくお願いします」
何度でも引き受けるという言葉を受ければ、
目をすっと閉じて、ぺこりと頭を下げる。
「服……そうですね。
ハインケルの言っていたように個性を表現するというのは
私には少々荷が重いですが。
それでもお洒落というものを経験してみるのも、
良いのかもしれません。『理解』に繋がるでしょうし」
お洒落を楽しむなどという境地には程遠いが、
それでも服を買うことに対して、前向きになったようであった。
それがハインケルへの信頼に依拠したものであることは、
言うまでもない。
「はい、それではご教示いただきたいと思います。
おめかしというものを。
……お金は持ってきていますので、ハインケルも好きな服を
買ってください。ハインケルはオシャレ、好きでしょうし」
そう口にして、『シエル』も立ち上がる。
その足取りが、どこか気配を殺す所作を残したそれではなく――
少しばかり少女らしく、
軽やかな足取りに見えたのは気の所為だったろうか――。