2022/08/09 のログ
ご案内:「商店街」に杉本久遠さんが現れました。
■杉本久遠 >
真夏の常世島、学生街。
一日の暑さの盛りも過ぎて、燦々とした太陽がようやくその視線を地平線に収めようといった時間。
耐火熱プラスチックで作られた提灯で、商店街の一つは赤や橙で彩られていた。
「――うむ、今年も盛況だな」
学生街は商店などの部活施設が大半を占める街だ。
その中の一角、所謂商店街と呼ばれる路地の幾つかが協力して行う、ささやかな夏祭り。
神輿が通ったり、大きな花火が上がる事はないが、屋台が並び陽が落ちても賑わう様子は、普段の商店街とはいささか異なる光景だろう。
毎年この時期になると、久遠は商店街の人たちの手伝いに走り回り、夏祭りの設営をしているのだ。
エアースイム部のささやかな部費が降りるのは、こうした久遠のボランティア活動が様々な小中部活から評価されての事だ。
そして、今年。
そんないつも通りの手伝いに忙しくしている最中、ふと思ったのだ。
『ああ、彼女とここを歩けたら楽しいだろうな』と。
思い立ったが吉日。
長い間、日々の挨拶程度の連絡しかしないような、甲斐性のない男が、想い人を夏祭りへ誘ったのだ。
まさに青天の霹靂である。
久遠の妹である、杉本永遠に曰く。
『兄ちゃんがついに熱中症でおかしくなったかと思った』
とのことである。
そんなわけで、久遠はこの日、一つの商店街の入り口にて、夏祭りを主張する大きな赤提灯の下で想い人を待っているのだった。
(――うーむ、迷ったりしていないだろうか)
そわそわと、時々携帯端末をのぞき込みながら、周囲の賑わいへ視線を送る。
普段のTシャツ、運動着姿と違い、紺色の甚平に雪駄である。
団扇を片手に仰ぎながら、想い人を今か今かと待つ久遠だった。
ご案内:「商店街」にシャンティさんが現れました。
■シャンティ > 数日前、女の元に男から連絡が入った。曰く、一緒に夏祭りを回らないか、と。そういった内容であった。
女はくすりと笑った
そして、今日という日。女は約束の場に足を運ぶ。場を整えるのが自らの仕事。そう考えた女は、祭りの場にふさわしいように、薄青い下地に、色とりどりの金魚が大小様々に泳ぐ浴衣に身を包んでいた。
「ふふ。お祭、り……ね、ぇ……そう、いえ、ば……普通、の……こう、いう、催し、は……はじめ、て……だった、かし、ら、ねぇ……?」
からんからんと下駄の音が小さく鳴る。
『商店街の入り口には、赤や橙の灯りを灯す提灯が飾られている。奥には無数の人々が動き回っている。白地に青のストライプの浴衣を着た男が女の横を足早に通り過ぎる。前からうすいピンクの浴衣の女が……』
謳うように言葉を紡ぎかけ――すぐに閉じる
「……に……ぎ、やか……な、のは……すこぉ、し……大変、ね、ぇ……」
ぽつり、と小さく口にする。どことなく口調もいつもより気だるかった。
「ま、ぁ……いい、わ。確認、は……でき、た、し……」
顔を向けた先には商店街の入口に立つ男の姿があった。そちらに、からんからんと小さな音を立てて歩み寄っていく。
『男は、そわそわと、時々携帯端末をのぞき込みながら、周囲の賑わいへ視線を送る……』
小さく謳うようにつぶやきながら、ゆったりと迷うことなくまっすぐに歩く。
「……おま、たせ……した、かし、らぁ……?」
いつもの、気怠い口調で男に声をかけた
■杉本久遠 >
落ち着かなく待ち人を待つ久遠の耳に、いつからか聞き慣れるようになった、謳うような声が届いた。
「ん、おう――」
声の出どころへ視線を向けて、右手を挙げようとして、中途半端に固まった。
涼し気な色の生地、大人っぽい彼女にしては可愛らしい、金魚の泳ぐ柄。
それはとても魅力的な愛らしさを持っていて、久遠の思考を停止させるには十分な破壊力だった。
「――お、おお、いや、その、ぜんぜん。
というかその――すごく、可愛いな」
語彙が消え去ってしまうような、可愛らしさだった。
声を聞けば心臓が大きく跳ねて、顔が熱くなるようだ。
自意識過剰かもしれないが、自分のためにこの浴衣を用意してくれたのかもしれないと思うと、嬉しさに小躍りしてしまいそうになる。
「なんだ、えっと、とても似合ってる。
うん、綺麗で、可愛い」
そんな途切れ途切れの誉め言葉を、不器用に口にして。
我を取り戻すように大きく咳払いを一つ。
もちろん、まだ顔は熱かったが。
「――それじゃ、早速いこうか。
ヒトが多いからな、なるべく離れないようにしよう」
そう言いながら、左手を差しだす。
彼女と一緒に歩けるように、距離を縮めて。
■シャンティ > 『男は……』
口にしかけて、少し考えて言葉を止める。
――右手をあげかけて、動きを止める。「――」「――」………
「あ、ら……久遠、どう、した、のぉ……? 同じ、こと……繰り、返し、てる、わ、よぉ……? ふふ。でも、ま、あ――褒め、て……くれ、た、のは――あり、がと、う……ね。」
くすくす、といつもの笑いを浮かべて男に答える。女には自分がどうなっているのか、見ることはかなわない。人からの評価をもらうことは、自分の理解にもつながる。
「そ、う……ねぇ……人、多い……みた、い……ね? 反応……悪、かった、ら……ごめ、んな、さい、ねぇ……?」
そして顔は差し出された手に向ける。意図を確認するように、見えない目で見る。
「あ、ぁ……そう、ね……じゃ、あ……遠慮、な、く……」
差し出された手をゆったりと取る。
「それ、で……今日、は……なに、を……見せ、て……くれ、る、の、かし、ら、ぁ……?」
■杉本久遠 >
「うぐ――いや、君が可愛すぎるから、こう、言葉が、な」
いつもの笑みにも、艶より、少女らしさが見える。
彼女の魅力に踊りだす心音が、彼女に聞こえていないだろうか?
聞こえていたら、ますます照れ臭くなってしまいそうだった。
「ん――?
ああ、気にしなくていいさ。
自然な君で居てくれれば、オレがなんとかするからな」
ゆったりと重ねられた手を、優しく、それでもしっかりと握る。
腕を組むくらいはした方がいいかと迷ったが――。
「そうだなぁ。
君は知識が豊富だし、出店がどんなものかは知ってそうだが。
なにか、実際に体験してみたい物とかあるか?
あとは、そうだな――食べてみたい物とかか?」
彼女と距離を近づけて、いつでもリードできるよう、周囲の様子に気を配る。
ヒトの出入りが多いので、エスコートが下手糞では彼女を振り回してしまう。
ヒトの流れにうまく乗りたいところだ。
■シャンティ > 「久遠、の……語彙、が……少、ない……なん、て……言って、は、いない、けれ、どぉ……ふふ。ま、ぁ……それ、は……いい、わ」
耳には聞こえず、目には見えない。しかし、魔性の本は心臓の早鐘を暴き出す。それを女は心にしまいながら、いつもの顔でいつものように笑う。
「ふふ――それは、ありが、とう……ね。人、多い、と……すこ、し……聞き、づら、い……か、ら……ね」
握られた手から残された感覚が体温と鼓動を読み取る。それは、本から読み取る情報とはまた違った新鮮さがあった。それを女は面白く思った。ここから読み取れるものがあれば、それはそれで面白いのだろうけれど。
「そう、ねぇ……実、の……とこ、ろ……お祭、り……みた、い、な……もの、は、ぁ……あま、り……くわ、し、くは……ない、のよ、ねぇ……特、に……こう、いう……地域、限定、みたい、な……もの、だと……なお、さら……ね?」
有名な大きな祭りとなれば多少のことは知っていたかもしれない。ただそれ以前に、女自身、あまり催し物には興味がなかった。今日の装いにしても、ニホン的な祭りならこういった格好がいいかもしれない、というあやふやな情報に基づいたものだった。
「だ、か、ら……久遠、の……お、す、す、め……聴き、たい、わ、ね……?」
自身は距離が遠かろうと近かろうと入ってくる情報に変わりはない。ただ、相手にも聞こえやすいように、やや顔を近づけて問いかける。
■杉本久遠 >
「ん、そうなのか」
少し意外だった。
なんでも知っていそうな彼女。
けれど、意外と日本食を知らなかったり、こうした催しには疎かったり。
余り遊びに出かける機会など、少なかったのだろうか。
そう思うと、誘ってよかったと思えた。
「ふーん、おすすめかあ。
となれば、とりあえずは王道なところからだろうな」
縮まった距離に少し照れつつ、ゆっくりと彼女の手を引いて歩き出す。
ヒトの流れに乗って、商店街の出店が並ぶ中へと紛れていく。
(うーむ、音や目で楽しむものは、やはり少し難しいか?
とすると味覚――あとは触覚、匂いか)
ヒトの流れに乗りながら、体の大きさを活かして彼女の歩みに合わせて進む。
周りを眺めて、さて、なにをしようかと思い。
「うむ、ならまずは、果実飴あたりからいこうか。
おうい、先輩!」
声を掛ければ、出店のオヤジ(32才学生)が威勢よく声を返してくる。
『おう、杉本の兄の方じゃねーか!
なんだぁ、その美人は。
いいねえデートかぁ?』
「うっす、そんなところっす!
彼女、こういうお祭り初めてなんですよ。
それでやっぱ、まずは定番の果実飴をと思ったもんで!」
そう言いながら出店の前に、彼女の手を引いて並び。
『そうかあ、よし、お姉ちゃん、好きなの選びな。
定番のリンゴに、イチゴ、オレンジ、変り者だと柚子に、とっておきだとドリアンもあるぜ』
「いや、ドリアンはどうなんすか?
――ええと、どうする、シャンティ」
色とりどりの果実飴が並ぶ前で問いかける。
手を繋いだ彼女の、興味を惹く者はあるだろうか?
■シャンティ > 「王、道……いい、わ、ねぇ……そう、いう、の……」
情報がないのであれば、逆に定番中の定番に行く、というのは悪くない、と女は思う。
「果、実……飴……?」
名前からすれば、果物味の飴だろうか、と推定する。しかし、祭りの時期にそういったものを発売するというのはどういう特殊性があるのだろうか。少し、心のなかで首を傾げる。
『「――」男は店の男に声をかける。「――」大きな張りのある声で男は答える。』
デート……確かに、そういう見方もあるか。女は今更ながら思う。自分に関することはどこまでも興味が薄いことを改めて自覚する。男としてはそういったつもりだっただろうか、と思いを巡らせる。思いを巡らせている間に、手を引かれ店の前に連れて行かれる。
「……そう、ねぇ……」
見えはしないが、色とりどりの飴があることは理解できる。
『店に並ぶのは飴の中に封じられた果物たち。左からリンゴ、イチゴ、オレンジ、柚子、ドリアン……』
「あぁ……そう、いう……なる、ほど……んん……そう、ねぇ……」
人差し指を唇に当て、暫し考える。ここはやはり、定番からだろうか。それでもいくつか選択肢はある。ある、が……
「じゃ、あ……イチゴ……かし、ら……? 他、は……食べ、きれ、ない……かも、しれ、ない、し……久遠、は?」