2022/08/10 のログ
杉本久遠 >  
 
「――ん?
 君がイチゴなら、オレもイチゴにしようかな。
 折角なら同じ体験を共有したいしな」

 そう答えて、オヤジ(32才独身彼女無し学園二年)にイチゴ飴を二つ頼む。
 飴を受け取ると、彼女の手を取って、繋がない方の手へと持ち手を握らせた。

「普通の飴のように舐めてもいいし、齧ってもいい。
 歩きながらゆっくり食べよう」

 と、また改めて手を繋いで、ゆっくり歩きだす。
 久遠の歩みは、自然とヒトの流れが少ないところを進んでいく。

「――ん、飴の部分もしっかりイチゴ味なんだな。
 こういうの、飴の部分はどれも同じだと思ってたぞ」

 一人だと意外と食べない果実飴。
 久遠にとっても、新鮮な体験だった。
 

シャンティ > 「あ、ら――ふふ。共有、ね? together、か……share、か……ね。分け、合う……の、も……悪く、なか、った、わ、よ? これ、だと……小さ、い……かも、だけれ、ど……」

手にしたイチゴを軽く振って、くすり、と笑う。


「さ、て……そ、う……舐め、る、でも……齧、る……で、も……ね? 飴、も……そう、だ、もの、ねぇ……じゃ、あ……」


薄くピンクに色づいた唇に、小ぶりな飴がけのイチゴを近づける。赤い舌を少し伸ばし、飴を舐めてみる。


「ん……あま、い……ま、あ……当然、よ、ねぇ……イチゴ、の……味…… ふふ。お祭、り……の、特別、な……味、なの、かし、ら……?」

ちろりちろり、と味を確かめるように少しずつ舐める。
足は、引かれるままにゆったりと歩みを進めていく。


「定番……なの、も……わか、る、わ、ねぇ…… あ、ら……久遠、も……初、めて……な、の? 私、は……祭り、なん、て……初め、て……だった、けれ、ど……」

歩みを進めながら、何気ない質問を投げかける。

杉本久遠 >  
 
「分け合う――シェアか。
 それは思いつかなかったなぁ」

 イチゴ飴を半分くらい齧って食べながら、彼女の様子を窺う。
 いつもなら、飴を舐める様子に色艶を感じていたかもしれないが、今は初めての体験を楽しむ愛らしい少女にしか見えなかった。

「ああ、祭りで食べると、普通のものもいつもと違った味に感じるもんなんだよなぁ」

 不思議なものだが、明らかにさして美味そうでもない焼きそばなんかが美味しく感じたり、どこでも売ってるような唐揚げがやたらと食べたくなったり。
 祭りという空気の中での飲食は、普段と違った味わいを楽しませてくれるのだろう。

「あー、うん、オレも飴を食べるのは初めてだなぁ。
 いつもは男友達か、妹と来てたからさ。
 食べるモノと言えば焼きそばとかたこ焼きとか――お、っと」

 彼女に応えながら、彼女の手を引いて抱き寄せる。
 彼女の身体を腕の中に収めると、その少し後に久遠の身体にぶつかる、少年たちのグループだ。
 体幹の強い久遠はぶつかった衝撃にも微動だにしないが、彼女が巻き込まれていたら転ばせてしまったかもしれない。

『す、すんません』

「おう、気を付けて歩くんだぞー」

 そう謝る声に答えれば、小さく頭を提げながら少年たちは去っていく。
 ふう、と一つ息を吐いてから。
 ふと、腕の中の体温と柔らかな感触に気づいて固まった。
 

シャンティ > 「ふぅ、ん……?」

女は考える。いつもと違った味。それはおそらくは感覚的なものだろう。おそらくは文字列には現れない、いわゆる行間、といわれるようなもの。本来の読書と同じく、想像を巡らせるか。実際に体験をするしか無いもの。


「いつ、もと……違う、ね……ふふ。それ、は……興味、深、い……わ、ね?」


存分に舐めたところで、かり、と飴に齧りつく。やや硬い食感がどこか心地よい。なるほど、定番になるわけだ、と思う。


「男、友達、か……妹、さん、ね……? 女、友達、は……と」


わかりきった問かもしれないが、それを口にしかけたところで……少年たちのグループがやってくる。男がかばって女を抱き寄せる。特に抵抗することもなく、腕の中に収まる。男の体温がしっかりと伝わる。鍛えられた肉体は、硬く、大きい。


「あ、ら……ご、めん、な……さい?」


男の庇う意図は行間で読めた。腕の中に収まりながら、下から見上げて礼を述べる。


「さす、が……鍛え、られ、てる、わ、ねぇ……」


くすり、と笑った

杉本久遠 >  
 
「す、すまん、咄嗟でつい」

 見上げられ笑われると、顔がかぁっと熱くなる。
 咄嗟に離れようとして――

「――その、もうすこし、いいか?」

 繋いだ手はそのままに、抱き寄せて背中に回した腕で、彼女を支える。
 照れくさく、恥ずかしかったが――触れ合った感触、体温から離れるのがとても惜しく。
 言葉通り少しの間、彼女の体温を感じて。

「――すまん、その、ありが、とう?」

 なんと言えばいいのか、わからずになぜか久遠の方からも礼を言ってしまう。
 背中に回していた手を下ろして、彼女がいつでも離れられるようにするだろう。
 

シャンティ > 「あ、ら……ふふ。ほんと、に……咄嗟……? わざ、と……じゃ、なく……?」


くすくすと笑って答える。未だ、その体は男の手の内にある。


「す、こし……? すこ、し、で……いい、の、かし、らぁ……?」


笑いを続けたまま、続ける。そして、一回。またイチゴを齧る。かり、と……乾いた音が響く。


「私、は……どち、ら……で、も……いい、けれ、どぉ……ふふ。」


ちらちらと好奇の目で見るものがいるのは見えている。自分はどうとも思わないので、何もそこに感じるところはない。さて、男の方はどうだろうか。


「意外、と……大胆、ね……?」


くすくすと小さな声の笑いが小さく響く

杉本久遠 >  
 
「――う」

 小さく、たじろぐような声が漏れる。
 これは試されているのだろうか?
 それとも、誘われているのだろうか。
 久遠の頭の中でぐるぐると回って――。

「その、君が魅力的すぎて、だな」

 言いながら、背中に回していた右手でそのまま彼女の髪に触れ、頭を撫でて――。
 半歩下がった。

「今はまだ、その、少しでいいんだ。
 君に甘えて、許してもらっても、それはなんだか違う気がするしな」

 なんて言っておきながら、今は随分と甘えてしまった気がするが。
 顔を赤くしているのが自分だけなのが情けない。

「――ん、ん。
 さて、次の店にいこうか。
 そうだな――型抜きとくじびき、どっちをしてみたい?」

 わざとらしく咳払いをして、久遠もまた少し赤いままだが、いつもの笑顔を向ける。
 外からの視線を気にしないのは、久遠も同じだった。
 

シャンティ > 「あ、らぁ……私、の……せ、い? ふふ。それ、は……もうし、わけ、なか、った、わ――ね?」

悩んだ末に、半歩下がる選択をした男。久遠に、相変わらずのくすくすとした笑いを向ける。一挙手一投足。様々に思い悩むさまは見ていて面白い――などと女が思っているのは、本人に伝わればどう思われることだろうか。


「あま、える……ゆる、し、て……もら、う……」


そういう視点はなかった、と女は考える。なるほど、これは確かに許している、と言えるのかもしれない。正確には違う心の動きではあるが、久遠は気づくだろうか。気づいてしまうだろうか。しかし、それは女にはどちらでもいいことでもあった。


「ふふ……久遠、は……難、しい、こと……考、えて……いる、の、ねぇ……? あなた、が……そう、思う、なら……それ、で……いい、わぁ……じゃ、あ……次、ね?」


提示された店のことを考える。


「そう、ね、ぇ……器用、さ……は、自信、ない、しぃ……運、は……これ、も……自信、は……ない、けれ、どぉ……まだ、まし、だか、らぁ……くじ、に……しま、しょう、か? 久遠……器用、さ、とか……運、は……自信、あ、る?」

杉本久遠 >  
 
「あ、いや、けして君のせいというわけじゃなくて、だな!
 それだけ今日の君が素敵で――ああ、もう、そうやって君はオレで楽しんでるんだな。
 オレもなんとなくわかってきたぞ」

 そこに少なからず好意が含まれているのを感じるから嫌ではないが。
 想い人の手のひらの上で転がされるばかりというのも、なんとも情けない気がして肩を落としてしまう。
 とはいえ。
 そんな彼女の言動も魅力的に感じてしまうのだから、久遠は心底参ってしまっているのだろう。

「難しくは――オレはただ、誠実で居たいんだ。
 こうして今、オレと一緒に居てくれる君に」

 そして改めて手を握り直し。

「器用さは、それなりかな。
 運については――たはは、自信ないなあ。
 ああでも。
 君に出会えたことを考えると、幸運なのかもしれないな」

 うん、と神妙に頷き。
 真面目にそんな事をのたまう。
 ゆったりと歩いて出店に向かい――くじの店までやってくる。

 くじは、所謂ヒモくじで、選んだ紐の先に繋がっている商品を貰えるというシンプルなものだ。
 屋台のオヤジ(47歳妻子持ち一年生)は、代金を貰うと明るく『一本ずつ選びな』と声を掛けてくれる。
 商品の多くは駄菓子のような物だが、一等は最新ゲーム機、二等は米俵三つ、三等は学生街高級ホテルでのディナー券、四等がトコヨパンダの限定ぬいぐるみ。
 なかなかの羽振りの良さ――もしくは、客引き用で当たらない様になっているのか。
 恐らく当たりが入っていても、二等の引換券くらいまでだろう。
 
「――うーむ。
 どれにするか」

 数十本も垂れている紐の中から一つを選ぶ。
 さてさて――どれがいいか。

「よし、オレはこれにしようかな」

 と、自分の引く紐を決める。

「シャンティはどれにする?
 折角だ、同時に引いてみないか」

 運試しだ、と笑って選んだ紐を握りながら。
 

シャンティ > 「あ、ら……バレ、ちゃ、ったぁ……? ふふ。ごめ、んな、さい、ねぇ……? 私……人、が……人、の……気持ち、の……動き、が……好き、だか、ら……そう、いう……女、よ?」

ぺろり、と赤い舌を薄い唇の間から覗かせる。
嘘は一切言っていない。むしろ、真実を開示していると言える。女は、どこか価値観のズレている、どこか普通と違っている自分を自覚している。


「誠、実……そう、ね……久遠、は……そ、う……いう、人――よ、ね。ええ……それ、は……きっと、美徳、なの、よ……ね」


握られた手を軽く握り返す


「ふふ……気障、な……とこ、ろ、も……ある、の、ねぇ……?」


本人は至って真面目に本気で言っているだろう、言葉。女はそう思いながらも、傍から聞けばキザと取られそうなそれについつい、いつもの笑みを浮かべてしまう。
無論、それは別に久遠への拒否感が生まれるようなものではなかった。

「……へ、ぇ?」

そして連れられてきたのはヒモくじの前。無数の紐が目の前に垂れているのが読める。女が想像していたのは、くじを引き抜いて番号を当てる。そういったくじ引きだった。それゆえに、紐を引く形のこのくじは想像外のものであった。それが、興味を引いた。

「……ん」

どれにする、と問われ紐を眺める……ようにして考える。その気になれば、女はすべての紐の行く先を見ることはできる。しかし


「……それ、は……無粋、よ、ねぇ……美、しく……ない、わぁ…… じゃ、あ……」


何も考えずに手をのばす。見えない中で、情報だけを頼りに適当に伸ばした手の先に当たった紐を選ぶ。

「そう、ね……こ、れ……で……ね?」

紐を持ち上げ、久遠の紐を持つ手に寄せる

杉本久遠 >  
「――よし、じゃあ引いてみるか!」

 彼女が紐を選んだのを確認して、『せえの』と声を掛けて紐を引く。
 久遠の引いた先に合ったのは――

「たはー!
 うめえ棒セットかぁ。
 まあ、一本だけじゃないだけよかったかな」

 そう言いながら、商品を受け取り。

「シャンティの方はどうだ?」

 と、紐の先についているものをのぞき込んだ。
 

シャンティ > 「……ん」

手を引く。何かの手応えを女は感じる。ずるずると、それを引き上げていく。


「あ、ら……?」


引き上げたものを交換に回す。出てきたものは……


『ほら、駄菓子セットだよ。惜しかったねえ』


「……だって?」


渡された袋を久遠に見せる。中には定番といえる駄菓子が様々に詰め込まれていた。


「……こ、れ……当た、り……なの、かし、らぁ……? こう、い、う……の、は……いま、いち……わか、ら、ない……わ、ね? ふふ。で、も……似た、感じ……の、もの、を……当て、た……みたい、ねぇ」


人差し指を唇に当て、少し考えるようにしてから聞く。

杉本久遠 >  
 
「たはは、運試しは引き分けだなあ。
 いや、君の勝ちかな。
 おじさん、手提げ袋とかもらえますか?」

 オヤジから袋を貰い、自分の当てたうめえ棒セットを入れて、袋の口を開けて彼女に向ける。

「さて、次はどうするかな。
 おなかすいたり、疲れたりしてないか?
 下駄で歩くのも、慣れてないだろう?」

 そう、彼女の様子を窺って、気遣うようにたずねてみた。
 

シャンティ > 「私、の……勝、ち……? そ、う? ふふ。じゃ、あ……久遠。いう、こと……聞い、て……もら、おう、か、しらぁ……なん、て……冗談」


女はくすくすと笑いながら、袋にお菓子を詰める男を見守る。そして、袋の口を差し出されれば自分の駄菓子もそこに詰め込んでしまう。


「あ、らぁ……中、一杯……ね、ぇ……?」


女は駄菓子で袋が一杯になったのを見て取り、楽しそうにする。


「次……ね、ぇ……ん……」


人差し指を唇に当てて、考える。


「疲れ、は……平気、よぉ……さっ、き……誰、か……さん、が………支え、て……くれ、た、し? そう、ねぇ……下駄、は……たし、かに……なれ、ない、けれ、どぉ……ヒール、より、は……バランス、は……いい、から……まだ、平気、かし、ら……ね。」


喋りながらまとめていくように、考えたことをつらつらと言葉にしていく。


「そう、ねぇ……な、ら……他、に……祭り、の……食べ、もの……とか。他、にも……久遠、の……オススメ、が、あれ、ば……それ、でも?」

空腹、というほどではないが物珍しさといえば、そういうのもあるか、と女は考える。

ご案内:「商店街」から杉本久遠さんが去りました。
ご案内:「商店街」からシャンティさんが去りました。
ご案内:「商店街」に杉本久遠さんが現れました。
杉本久遠 >  
 
「――お、いいぞ、折角のお祭りだしな。
 オレに出来る事ならなんでもするぞ」

 なんて、冗談に本心からさらっと安請け合い。
 これで言った通り、本当になんでもやる気でいるのだから、お人よしが過ぎるというもので。

「ほお、そういうものなのか。
 たしかになぁ、ヒールは大変そうだもんなあ」

 女性の足元をそれほど気にしたことはないが。
 運動をする人間として、あれほど足に負担をかける履物はないのではと思ってしまう。
 とはいえ、鼻緒で足を痛めてしまったりしないかと心配になるのは、やはり好きな相手だからか。

「他に食べ物と言えば、焼きトウモロコシとか、綿あめとかかな。
 歩きながら食べるなら、綿あめがいいか」

 言いながら少し背伸びをして、近場の綿あめの屋台を確認する。

「しかし他にか。
 ――そういえば、君は金魚がすきなのか?」

 ゆったりとヒトの流れに逆らいながら、彼女が歩きやすいように庇いつつ。
 その浴衣の柄についてたずねてみた。
 

ご案内:「商店街」にシャンティさんが現れました。
シャンティ > 「あ、ら……冗談、よぉ……? ま、あ……そう、いう……な、ら……覚、えて……お、こう、か、しらぁ……?」

冗談に真顔で答える男。おそらくは本気なのだろう、と読み取るまでもなく読み取れる。それはとても久遠らしく、面白い。そう女は思った。


「ま、あ……私、は……あま、り……たか、い……ヒール、つか、わな、い……けれ、どぉ……バランス、とる、の……苦手、だ、し」


もともと身体能力もさほど高くない。その上、視界がないのでバランスをとるのは尚更得意ではない。同じ事情で、空を泳ぐのもさほど上手くはない。


「焼き、とうも、ろこ、し……綿、あめ……? とう、もろ、こ、し……焼く……と、ポップ、コーン、では、なく、て……? それ、に……飴……綿……?」


言われた言葉を文字として認識するが、イメージは沸かない。こういうことがあるから、世の中は油断がならない。それはそれで、新しい知識を仕入れられる、ということで興味は尽きない。


「……ん。あぁ……こ、れ?」


金魚、と言われ一瞬考え込んだ。柄のことは実は女自身は関わっていない。店員に聞いてそれらしいもの、を選んでもらっていた。ただ、そのとき「金魚」という言葉は聞いていた。


「……実、は……ね。これ、選ん、で……もら、った、から……あ、まり……わか、って、ない、の、よぉ?」

杉本久遠 >  
 
「おう、覚えててくれていいぞ!」

 ここで自信満々に答えるのだ。
 きっとこういう所も、久遠らしいと思われる所なのだろう。

「ポップコーンにはならないんんだ。
 ええと、そうだな。
 焦げ目がつくように炙るって感じかな。
 こう、とうもろこしにタレを付けて、炭火の上に置いてさ」

 確かにトウモロコシを焼く、炒めたらポップコーンになるイメージが強いのかもしれない。
 久遠はすっかりその存在に慣れてしまっているが。

「わたあめは、その名前の通りに綿みたいにふわふわの飴なんだ。
 すぐそこに店があるから、行ってみよう」

 そう言って、久遠は彼女を案内する。
 金魚への問いに、選んでもらったと答えてもらうと、なるほどと頷いた。

「その人には感謝しないとな。
 おかげで、こんなに可愛いシャンティが見れたんだからな。
 ――ああ、えっと。
 祭りの定番と言えば、金魚すくいっていうのがあってだな。
 プールに放流された金魚を、専用の道具で掬い取る遊びなんだ。
 掬って取った金魚は、持って帰っていい事になってるのがほとんどだな」

 途中、正直に言い過ぎたのに気づいて、照れ臭くなったらしい。
 金魚すくいの説明はほんの少し早口に聞こえただろう。
 

シャンティ > 「炙る……へ、ぇ……? ふわ、ふわ、の、飴……?」

女はそもそも食に関心があまりなく、この間などはデパートで困惑するばかりであった。それゆえに、説明を受けて少し考えてみるが想像はつかなかった。


「意外、と……色々、ある、の、ねぇ……? 食、の……追、求……す、ごい、わ、ねぇ……」


自分にはないものなので、素直に感心する。呆れた部分もないわけではないが、やはり新しい出会いは面白いものである。


「ふ、ふ……今日、は……口、が……すべ、る……わ、ねぇ……久遠?」

女はくすくすと笑う。今日はいつにもまして、褒めはやす言葉が多い。それをどうと思うこともないが、普段と違うのは少し面白い。今日は久遠も少しなにか違う、ということだろうか。


「持って……かえ、る……あ、ぁ……ペット……? 変わっ、た、こと……する、の、ねぇ……?」


素直にペットショップなりに買いに行けばいいと思うのだが、それをわざわざ祭りで手に入れようというのはどういう心の動きなのだろう。女は考えてみるが、答えは出ない。あえて出すものでもないのだろうけれど。


「久遠、は……金魚……好き、な、の?」

杉本久遠 >  
 
「あ、たはは――ほら、すぐ店だからな!
 足元気を付けるんだぞ」

 口が滑ると言われると、恥ずかしそうに誤魔化す。
 喧騒の中から、ザラメを潰す音が微かに聞こえる。

「うーん、金魚自体は好きだな。
 うちでも飼ってた事もあるし。
 ――興味があれば、やってみるか?」

 幸い、金魚すくいの出店も近い。
 綿あめをうけとってからでも、時間に困る事はないだろう。
 

シャンティ > 「あ、ら……慌、て、なく、て……いい、の、よぉ……? ふふ。久遠、こ、そ……転、んで、しま、う、わ、よぉ……?」

照れ隠しに言葉を濁す男にくすくすと笑いながら言葉をかける。足元は、そちらこそが気をつけなければいけない、とでも言うように。どちらかといえば「足元をすくう」類の話なのかもしれないが。


「そ、う……久遠、は……好き、なの、ね……」


少し、考える。


「いい、え……久遠、が……持って、帰る、な、ら……行って、も……いい、わ、ねぇ……私、では……多分、殺、して……しま、う……わ?」


生き物を死なせること自体に女は痛痒を感じることはない。様々な死を見てきている。だが、なんらかの感情を読み取ることもできない他生物をわざわざ死なせること自体にはあまり意味を感じもしなかった。

杉本久遠 >  
 
「む――君に助けてもらえるなら、少し転んでみるのも――ああいや、これこそ冗談だぞ、冗談」

 足元なら年中掬われているような久遠だが。
 それでも構わないと思っている節があるのが仕方のない所だ。

「――いや、それなら辞めておこう。
 好きとは言ったが、上手く育てられないのはオレも同じだしな。
 それよりほら、これがわたあめだぞ。
 ――おにいさん、わたあめ、一つ」

 そう久遠が声を掛ければ、久遠に大きなわたあめが手渡される。
 久遠はそれを、そっと彼女の手に持たせるだろう。
 

シャンティ > 「あ、ら……ふふ。支え、られ、る……かし、ら……よい、しょ……なん、て」

女は軽く腕を回して支えるふりをする。体格差、体力差を考慮すれば本当に支えようとすれば共倒れだろうことは容易に想像できる。それくらいには、女は華奢であった。


「そ、う……? じゃ、あ……いた、いけ……な、金魚、は……いい、ご主人、の……とこ、ろに……いけ、ること、を……祈って、あげ、る、とし、て……」

紡がれるのは優しくはあるが、どこか空虚な言葉。本心からそう思っているのかは、そこからは伝わりはしない。


「そ、う……じゃ、あ……綿、あめ……ね? ……と」

引かれていった先。店から買ったものを手渡される。手に触れたのは割り箸、と言われる木の食器。そこに綿のような白い砂糖の塊がついている……ことが読み取れた。

「……これ、を……なめ、れ、ば……いい、の、かし、らぁ……?」

ぺろり、と舌先を当てれば儚く飴は消え去り舌に甘みを残していった。


「たし、かに……あま、く、て……で、も……あま、り、飴っ、ぽく、は……な、いの、ねぇ……不思議、な……感じ」

杉本久遠 >  
 
「そうだな、金魚にもきっといい縁があるだろう――?」

 彼女に応えているうちに、彼女の足が止まり。 
 
「え――お、おお?」

 突然、体に腕を回されて、戸惑いの声が出る。
 もちろん、嬉しいのだが――彼女のほうからされるというのは、嬉しいだけでなく、とても照れ臭く、心音が跳ねてしまう。
 出店の青年が口笛を吹いて囃し立てた。

「――ふ、う。
 たはは――そう、だな」

 わたあめを渡して離れてもらうと、一息。
 嬉しかったが、どうしても緊張してしまう。
 思い出すとニヤケそうになるくらいうれしい事ではあるのだが。

「そうだな、飴っぽくはないか。
 舐めてもいいし、一口ぶんだけ千切って食べてもいい。
 オレは結構、この、あっという間に消えてしまう感じが好きなんだ。
 ちょっと寂しくて、でももっと食べたいって思ってさ、小さいときはよく妹と一緒に買ってもらったもんだよ」

 そんなふうに、幼いころの思い出を語り。
 ニヤニヤと自分たちを見ている店主から、もう一つ自分の分のわたあめを買って、大口を開けてかぶりついた。
 

シャンティ > 「ん……支、える、のは……むず、かし、い……わ、ねぇ……?」

離れながら小首を傾げて見せる。それは本気か、冗談か。


「あ、ら……久遠、どう、した、のぉ……? 顔……変、よ、ぉ……?」


見えているわけではないが、どこか表情が緩んでいることは簡単に読める。女はくすり、と笑いながら問いかけるのだった。


「ちぎ、る……あ、ぁ……そう、ねぇ……柔、かい、し……それ、も……でき、る、の、ねぇ……」

試しに千切ってみれば、簡単にちぎり取れる。それを口に含めば……これもまた、儚く瞬時に消えて甘みだけを残していく。あとは、ほんの僅かに、指先にベタつきが残る。

「ん……指、に……つく、の、ねぇ……」

ぺろり、と指先を舐める。もともと手で食べることには慣れているので自然な動きであった。

杉本久遠 >  
 
「――ん、ん、そこはなんだ、察してくれ」

 好きな相手に物理的に接近されれば、当然、感情も揺らぐというもの。
 むしろ、それで何ともなかったら、男、異性としてどうなのかという次元だ。
 それだけ、今日の彼女は愛らしいのである。

「はは、舐めちゃうと、余計べたつくぞ。
 ――えーと、あったあった」

 甚平の内ポケットからウェットティッシュを取り出して、一枚を彼女に差し出す。

「お――なつかしいな。
 水風船があるのか。
 なあ、水風船で遊んだことってあるか?」

 他より頭一つ高い久遠の視界に、懐かしい看板が映る。
 

シャンティ > 「あら、あら……むず、か、しい……注文、ねぇ……?」

女には察するということは可能だろう。それでもくすくすと笑ってそのように応える。朗らかに、楽しげに。それは反応を楽しむようでも、ただ答えを楽しむようでも、純粋に何かを楽しむようでもあった。


「あ、ら……紳士、ねぇ……?」


差し出されたウェットティッシュで指を拭く。拭きつつも、ぺろり、と綿あめを舐める。溶ける。少し、顔につく。


「……これ、も……醍醐、味……なの、か、しら……ね、ぇ?」


指を拭いたティッシュの別の面で顔を拭く。そんなことをしていると、新たな提案があった。


「水……風、船……? 風船、は……空、に……浮か、べる、の……の、では……なく、て……?」


そもそも風船に水を入れる、という発想自体がない女は、あらぬ発想をしてきょとんと首を傾げた。女は思う。なるほど、世界にはまだまだ知らないことが多いようだ。


「た、ぶん……ちが、う……の、よ、ねぇ……? ほん、とう……意外、な……こと、が……おお、い……わ、ぁ」

杉本久遠 >  
 
「ん、こっちにもついてるぞ」

 自分でも一枚ティッシュを取り出して、彼女の頬を拭く。
 間近で見ると、やはり美しいと思ってしまう。

「ああ、水風船は――いや、折角だから手に取ってもらおうかな。
 一見に如かず、と言うが。
 これに関しては触れて見るのが一番だ」

 そう言いながら、両手でわたあめを楽しむ彼女の腰に、自然と手を回して。
 ヒトの波から守るようにしながら、水風船の屋台に向かう。
 もちろん、その歩調はゆっくりと、彼女の歩みに合わせて。
 

シャンティ > 「ん……あ、ら……ご、めん、なさ、い?」

女は頬を無防備に拭かれる。それはどこか小さな少女のようでもあった。拭かれながら、大きな手だ、と女は思った。そういえば、人と触れ合う、などあまりしたこともなかった、と。


「手に、とる……そう、ねぇ……聞い、ても……また、わか、らな、そう……だ、し。お任、せ……する、わ、ねぇ」


自然と腰に回された手。それを特に拒絶するわけでもなく、受け入れる。その腰は柔らかく、そして細く。力を入れれば折れてしまうかのようにも思えたかもしれない。


「あ、ら……水……? たし、かに……風船、が……浮い、て……る、けれ、どぉ……」


そして、水に浮かべられた風船の数々を前にして、やはりまだ理解が及ばずきょとんとする。

杉本久遠 >  
 
「ああ、これをな、釣り上げる遊びなんだ。
 お姉さん、釣り糸貰える?」

 そう言って、プールに浮かぶ風船の上で、屋台の主(女性年齢不詳一年婚活中)から釣り糸を受け取る。

「シャンティ、空いてる手を貸してもらっていいか?
 折角だから、一緒に釣ろう。
 『読まなくても』オレが手伝うから」

 そう言って、彼女に向けて釣り糸を差し出す。
 彼女が頷いてくれれば、共に屈んで寄り添うように密着し、手を重ね合う事になるだろう。
 久遠はそうして、彼女の手を誘導して風船を釣り上げるつもりなのだ。
 

シャンティ > 「風、船……を……つり、あげ、る……」


小さな声で反芻する。反芻したところで、女には想像はついてもイメージはわかなかった。


「そう、ねぇ……私、は……はじ、めて……だ、し……久遠、に……任、せる……わ」

本から離れれば、女には音も光も届かない。それでも女はそれを手放し、男の手を取る。そして、導かれるままに色とりどりの風船たちが浮かぶ小さなプールの前にしゃがみ込む。


「ただアドバイスとかあっても聞こえないから、上手くやってね?」


小さな声が流暢に伝え、力を抜いて誘導を待った。

杉本久遠 >  
 
「はは、『風船を釣る』なんてイメージできないよな。
 おう、任せてくれ!」

 本すら閉じて身を任せてくれる彼女。
 今の彼女は、本当に生身。
 そして手を、体を預けてくれる。
 その信頼がとても嬉しかった。

「――うまくやる、か。
 こういうのは、昔から得意なんだよな」

 彼女に伝えるわけでもない、独り言。
 彼女の肩に左手を回し、ふらつかない様にしっかりと支え。
 右手を釣り糸を持った彼女の手に上から重ねて、軽く握る。

 そんな恰好を取るだけで、プールの向こうの女店主(絶賛婚活中)から嫉妬の波動がびりびりと送られてくるし、周囲は冷やかすような雑音を投げてくる。
 が、そこは久遠である。
 マイナーとはいえ、スポーツ選手。
 物事への集中力と精神力は、その肉体以上に強靭に鍛え上げていた。

 彼女の小さな手を誘導して、狙いを定める。
 狙うのは、彼女の浴衣と同じ、空色と金魚の柄風船。
 そっと釣り糸を下ろして、その寄った紙でできた釣り糸は、静かに水風船に付けられたゴム紐にフックをひっかける。
 そして、ここからは力加減。
 ゆっくりと、彼女のゆびさきに、風船というには奇妙な重さが掛かるように、その『重さ』という感覚を覚えられるように。
 そっと持ち上げて――。

「――よし、とれた!
 うむ、なんとかなるものだな」

 一度彼女と重ねた手を放して、水風船を手に取る。
 肩に回した左手で、彼女の肩をトントン、と二度叩いて合図を送った。

「――任せてくれてありがとうな。
 ほら、これが水風船だよ」

 そう言って、彼女の手の上に、水風船を乗せることだろう。