2024/04/15 のログ
小鳥遊日和 > 「ええ、是非!」
にこにこと相好を崩しながら相手に答え、大事そうに種の入った袋をそっと抱きしめた。
「ええ、生き物は繊細です。 なるべく影響が内容にしてあげたくて…。」
よしよし、と袋を撫でながら一緒にお店にたどり着いた。
ぴしっとシックな色合いで統一された店内は、まさしく瀟洒な雰囲気である。

「あっ、そうなんですね? 東山先生も…色々苦労なさってそうですもんね。」
深くは聞かないけれど、なんとなくの相手のつぶやきに思うものがあるのか、
少しだけ静かに答えた。
足を止めた相手のとなりに立ち、問いかけに頷いて見せる。

「ええ、せっかくですから気にいるようなものを!」
いそいそと店内の奥へと赴いて、店員さんと会話をしてから物品を眺める。
ちょこちょことレジに行ってから、小走りで戻ってきた。

「はいこれ、今日のお礼です!」
人に褒めてもらいたい犬といった表情と様子で差し出したのは、
ツタと葉をあしらったネクタイピンだった。

「東山先生、よく活動されるみたいですからね。
 ネクタイ留めておくとすごく動きやすいですから。
 今日は園芸店に一緒に行ってもらったので、植物モチーフで…。」
そわそわ。期待と不安が混じった瞳で相手を見つめる。

東山 正治 >  
こういうのを見ていると、子どもを持つ親の気持ちはこんな感じなのか、と思ったりはする。
既に成人している男性に抱く感想としては、不適切かもしれないが
何処となく犬っぽい、子どもっぽい気質がそう感じさせた。

「…………」

それこそもう、過ぎた話だ。もう何もかもが遠い過去である。
家庭を持っていた頃の記憶だって、もう何もかもおぼろげだ。
全てが崩壊し、残った後悔と憤怒が今も尚心に燻っている。
自然と険しくなっていた表情の中、不意に差し出されたネクタイピン。

「んぁ、ああ…悪い、ちょっとぼーっとしてたわ。
 ……それで、ネクタイピン、ね……ふぅん……。」

ツタと葉をあしらったネクタイピン。
彼らしいセンスがにじみ出たワンポイントだ。
何時もの気抜けた表情に戻り、まじまじとそれを見つめる。
人から送られるものというのも、久しぶりな気もする。
そして、思わず苦笑。

「つーか今更だけど、同性に送るもんじゃねぇよなぁ……。」

それこそ昔女性にプレゼントされた記憶だ。
そう、懐かしい。きちんと法廷に立っていたあの頃の自分。
身だしなみに気を使うから、シンプルな物を付けていたっけ。
くつくつと喉を鳴らして笑いながら、いやいやと首を振った。

「いや、悪い。ケチをつけるわけじゃないんだ。
 いいよ、うん。見た目カワイイし、気に入った。ありがたく受け取るよ。」

差し出されたネクタイピンを受け取れば手の中で一瞥し、懐にしまった。

「まぁ、色々と動き回ることは多いけどねぇ。
 なんとかに暇はなしって奴?そうだ、ついでに飯とかどう?」

ここまできたら、とことん彼に付き合うとしよう。
もう何処へなりとも、日が変わるまでは何処までも、だ。

小鳥遊日和 > 「……」
お互いの静寂。 どこかを見ているような目。
相手の表情から読み取れるのは、”今”ではないどこかを観ていることだった。

「いいえ、今日は連れ歩いてしまいましたし、 それにほら…休憩もしてませんからね。」
我に返った相手に、努めてにっこりと笑いかける。
理由のひとつもあれば、きっと彼も気に留めたりはしないだろう。

「そのままだと種とかハーブとか渡しちゃいそうで、これならと思ったんですけど…。
 よかったです、ありがとうございます。」
ネクタイピンは確かにと思ったのもあるけれど、何か少しだけ…過去を見る彼に、
繁茂のデザインがあるものを渡したかったのだ。
相手の何かを思い出すかのような仕草、そして何より受け取ってくれたことに
胸をなでおろした。

「あっ、ご飯良いですね! この辺であれば…ハンバーガー屋ありますよ、大きいやつ。
 わたし、よく勘違いされるんですけど食生活は全然菜食じゃないんですよね。」
少し考えていくつかお店の案を出しながら、踵を返して店を二人であとにするのでありました。

後日生徒たちに『先生が男の人と仲睦まじく歩いてるのを見た!』と激しく糾弾されたのは別の話である…。

ご案内:「商店街」から東山 正治さんが去りました。
ご案内:「商店街」から小鳥遊日和さんが去りました。