2020/08/14 のログ
神代理央 >  
「…私も、龍が年上であって欲しいのだが。生まれは島の外だが、間違いなく地球人…というか、異世界の出身では無いよ。
因みに、16歳だ。まさか同い年です、等と言ってくれるなよ」

彼女を見つめる。具体的には、向かい合って尚ちょっと見上げねばならない、その身長差を。
これで同じ16歳です、だとか。年下だ、等と言われたら立ち直れない。
とか思っていたら、先に答えが降って来た。良かった。年下でなくて。

「…カッコつけ、か。そうだな。外面を良くしよう、とは思いがちな所がある。しかしそうか…思春期、か…」

何とも感慨深げに、小さな溜息と共に視線は宙を彷徨う。
思春期。己から程遠い感情だと思っていたのだが。
顔の造詣を揶揄う様な彼女の言葉には、小さく笑って首を振りつつ――

「風紀委員の名は特段隠されている訳でも無いからな。龍の耳に入ったのが、悪評でなければ良いのだが」

己の名に心当たりがある様な彼女。
とはいえ、堂々と百貨店に入り込む様であれば違反組織の一員である可能性は低い。
『鉄火の支配者』の方で聞き覚えがあるのだろう、くらいの思いで、言葉を返しつつ――

「…いやなに。特段気を悪くした訳でも無い。本気でも冗談でも、それに腹を立てる様な事はせぬよ」

此方も再びカップを手に取り、苦い珈琲で喉を潤す。

「寛容な事だ。初対面とはいえ、こういう類の喧嘩は大抵女性の肩を持つべきではないかと思うのだが。
私が言うべき事でもないかもしれんがね」

『何方の肩を持つ気はない』と告げる彼女に、少し意外そうな表情。てっきり、御小言の一つでも始まるのかと思っていたのだが。

「『御機嫌とり』か。そういった部類に関しては、手落ちしていたと言わざるを得ない。無碍にしていた、とは決して言いたくは無いが…まあ、そう取られても仕方がない程度には、二人の時間は無かった」

「どういう女の子か、とな。そうだな、アイツは――」

「――…純粋で、無垢で、優しくて。私には勿体無い様な女だ」

カチャリ、とカップがソーサーに置かれる音を挟んで。
どんな子なのか、という問い掛けには訥々とした口調と共に言葉を返すだろう。

>  
「16歳。若いのにご苦労だね、しかも風紀委員でしょう?
 一応、此の学園って大体学生身分で色々やってるみたいだし
 若いうちにそう言う事やってるのさ、凄い大変だと思うよ、君達」

月並み程度の感想だが、何方かと言えば龍は学園のシステムに疑問を持っていた。
不完全で、未完成な未成年に運営を任せるその方針。
仮にも都市、と言う体裁を保つのであれば、運営面こそ大人がやった方がいいのではないだろう。
此れもまた、『教育』の一環と言われてしまえばそれまでだが。

「そんな感慨深いみたいな雰囲気出されてもねぇ……
 理央君、"おじん臭い"ね、喋り方と良い。」

即ち、堅苦しい!

「まぁそれはそれとして、別に寛容って事でもないよ。
 事情も知らないまま叱咤するのは、気分が良くない。
 というより、そこまで狭い視野を持ちたくないからね。
 年上だからね、君よりは"大人ぶる"よ?」

公平的に、俯瞰的に。
格好のいい大人らしく、と冗談めかしに笑いながら言った。
ブレンドコーヒーを口に運びながら
さながら、それこそ懺悔するよう歯切れの悪い言葉にしっかりと耳を傾ける。

「成る程ね。」

コーヒーカップをソーサーに置いた。

「彼女がどういう立場じゃないが、君は"忙しい"んじゃないかな?
 その合間を縫って、一応時間を作っているような口ぶりではあるけど……
 向こうさんは、それじゃ満足できない、と?ああ、間違ってるならちゃんといってね」

「勘違いのまま進むのは良くない」

それで、と言葉を続ける前に小さく唸り声。
少なくとも、どれだけ彼が彼女の事を好きかは理解出来た。
机から離れて、腕を組む。

「成る程、勿体ないほどのいい女。────は、ないでしょ。」

溜息交じりに、真っ向否定。

「『いい女』の定義こそ人それぞれだけど、君が思い悩むし
 お互い意見がかち合って喧嘩する程の仲だろう?
 仲睦まじいのは、結構。でも、それって『等身大の女の子』なんじゃないの?」

「普通に君の事が好きで、悩むし、君を困らせる我儘を言うけど、君が大切。
 生憎、失恋経験しかない処女だけどね。女の子ってそんなものだと思うよ」

人差し指をたて、理央の口元へと突きつける。

「好きな女の子だもの、大切にする気持ちも、猫かわいがりする気持ちも理解出来るよ。
 でもそれ、『恋に恋してる』って奴じゃない?人間、良い所も悪い所も両方あるんだ」

「ま、本当かどうかは知らない。
 だから、もう一度言うけど、間違ってると思ったらちゃんと否定してね」

「けど、そうじゃないなら、"もっと詳しく言える"んじゃない?
 彼女ばかりが"我儘"言うのは、アンフェア。そうじゃない?」

なんて、ちょっと悪戯っぽく言ってやった。

神代理央 >  
「…少なくとも私は、こうして仕事の合間に珈琲を楽しむ事が出来ているから、まだマシな方だ。躰を壊しながら働く者もいるし、重圧に耐えかねて犯罪者へと身を堕とす者もいる。
そう考えれば、本来は『上』で構える者が身近に必要なのかも知れないがね。順当にいけば4年で卒業してしまう様では、人を育成する暇も無い」

此れは、結構真面目な悩みであった。
運営が全て『学生』に任されている。即ち、最短4年で、ノウハウを持った生徒が卒業していく。
無論、それをサポートする為に『顧問』という立場の教師や成人した委員達が存在するのだろうが、学園という機関の意志としては、やはり年若い学生に運営を預けたいと思う節があるらしい。
――まあ、此処で語らうべき事でもないか、と言葉は直ぐに打ち切られるのだが。

「お、おじん臭い…!?いやこう、もうちょっと、言い方は……いやまあ、良いんだけど…」

カッコつけてる、とか。背伸びしてる、とかならまだしも。
おじん臭いは中々クるものがある。まだ華の16歳なのに!

「成程?寛容ではなく、公平中立。正しく第三者からの目で見てくれる、という事か。
そういう事なら、此方も安心出来るというもの。"大人"を頼りたくなる年頃故な?」

少しだけ。ほんの少しではあるが笑みを零しつつ。
懺悔染みた言葉を吐き出した後、彼女からの『裁定』を静かに待つばかり――。


「忙しい、のは否定しない。合間を縫って時間を作ろうとしていた事も、龍の言う通りだ。
しかし、満足できない、というのは違うかな。"作ろうとしていた"だけであって、実際に二人の時間を作れていた訳では無い」

「勘違いなどとんでもない。龍の推察は概ね正しいものだ」

そして。
小さく唸りながら腕を組む彼女に、不思議そうな視線を向ける。
人の恋沙汰とは、そんなに悩むものなのだろうか。

「『等身大の女の子』……普通の、女の子、ということか」

「普通に好きで、悩んで、困らせて……?
どう、なんだろうな。私にはそもそも『普通』の基準が、良く分からぬ」

己も彼女も。
普通とは程遠い生活と事件に巻き込まれ続けていた。
だから、彼女の言葉に頷く事も、首を振る事も出来ない。
そうなんだろうか、と思考がぐるぐる回り続ける。

と、突き付けられる彼女の人差し指。

「『恋に恋をする』…?それが、今の私だと言うのか?
恋愛感情に溺れ、持て余す様な無様が、私だという事か」

「……それは。いや、それは……分からぬ。肯定も否定も出来ない。私は、我儘を言う資格が、果たしてあるのだろうか。
私は唯、アイツに幸せになって欲しいだけで、そうであれば何でもよかった。それだけ、だったんだが」

分からない、と力無く首を振る。
俯いた視線の先には、カップの中で揺れる漆黒の液体。
砂糖もミルクも無い、ただ苦いだけの珈琲。

>  
その辺りの話はおいおい。
ダメージを受けてる姿も中々愛らしい。
なんだ、ちゃんと"青春"してるじゃないか、と一安心。

そんなこんなで下され『裁定』な訳だが
全体的に向こうがは腑に落ちていない様子。

「…………」

ブレンドコーヒーをぐっと喉まで流し込む。
空になったカップをソーサーにおき、腕を組んだ。
とりあえず、一つずつ紐解いていくとしよう。

「とりあえず、まず本当にデート見た訳じゃないし
 その辺りは一旦置いとこうか、深入りするとミステイク。」

先ず時間問題はおいておく。
下手すると、何方かの方を持ちかねない。
次。

「…………」

眉を顰めた、眉間に皺が寄る。

「まぁ、"こんな世界"に"こんな学園"だからさ。
 人の人生にあれこれ言いっこなしだとは思うけど
 そう、返されるのはちょっと予想外だったなぁ。」

『普通』の基準が分からないときたか。
これまた、説明が難しい。
何せ、こんなものは育っていく過程で
余程どん底な生活か、或いは天上人でもなければ、身につくものだ。
んー、と困ったように唸りながら思考を巡らす。
とりあえず、最初に言える事だけ言っておこう。

「そりゃ、あるでしょ。言う資格。恋人ってさ、最終的なゴールをどうしてるか知らないけど
 お互いの人生を分け合って二人三脚、じゃない?『君の幸せ』は彼女の、『彼女の幸せ』は君の
 そんな風にお互いの事で、些細な事で持ちつ持たれつ、ってモノだと思うけどね。」

「まぁ、此れは『結婚』とか、そう言うのを見据えた話。
 遊びだけとか、恋だけで終わらすとか、体だけとか
 そう言うのになると話は変わってくるけど、君の場合は多分そうでしょ?」

「だって、人の幸せを願えるほど真面目なんだもの。
 そりゃ、言う資格大ありだよ。寧ろ、女的には言って欲しいかなー。
 ホラ、君さ。特に普段から公私において我儘言わないタイプでしょ?
 そう言うのだとさ、女でも"頼られたい"の。わかる?『特別感』って奴。」

「ま、私は恋で終わったから説得力微妙だけどね?」

なんて、肩を竦めた。

「まぁでも、喧嘩するのはいいけど、それであんまり彼氏を傷つけすぎるのもよくないかなぁ。
 ……これ、完全に憶測で話すけど喧嘩何回目?多分、一回目じゃないよね?」

神代理央 >  
腑に落ちない様な表情と仕草。
男らしい程に流し込んだ珈琲。一方此方は、未だ半分も減っていない。
苦いものは、好きじゃないから。

「…む、まあ、そうだな。何せまあ、初対面の相手にらしからぬ話をしている訳だし」

だからそんなに深く考え込まなくても――と言いかけた言葉は、続けて発せられた彼女の言葉に噤まれる事になる。

「…何と言えば良いのだろうな。私も、取り立てて人と違うと言う訳でも無く、悲劇的な人生を送ってきた訳でも無い。
というよりも、他者から見れば恵まれた部類だという自負はある。此れでも、それなりに裕福な家の生まれでね」

『悲劇』の度合いでいけば、きっと恋人の方が遥かに重荷を背負っている。

「しかし、そうだな。龍の考える『普通』の恋愛とは、逆にどのようなものなのだ?創作物の恋愛は、脚色されているものなのだろう。一体何が、多くの人々が普遍的に経験するであろう『普通』なのだ?」

初々しく、仲睦まじく。
それが普通の学生の恋愛というものなのだろうか。
本当に分からない、と言わんばかりに、緩やかに首を傾げる。

「…私は彼女の幸せを望んでいる。アイツもきっと、私の幸福を望んでくれている。それは分かっている。理解している」

「…そうだな。恋人から先の未来を望んではいた、のだが。
まあ、愛想を尽かされて出ていかれてしまった故な。今更、という話でもある」

「特別感……?頼る事で、それを得られる、のか?
確かに、アイツに頼る事を覚えよう、とは思っていたのだが」

肩を竦める彼女に向けるのは、疑問符ばかりを浮かべた表情。
そういうものなのか、と首を傾げ、溜息を吐き出し――悩んで、いる。

「…まあ、そうだな。一度目では、ないよ。大抵の場合原因は私の方にあるから、情けない話ではあるのだが」

>  
「聞いたの私だからね、気にさせたのならすまないね。」

手をヒラヒラさせて、文字通り平謝り。
相手のカップを一瞥すれば、溜息一つ。

「とりあえず気を悪くしないで聞いてくれると助かるんだけど
 好きな女にあれこれ言われた位で落ち込み過ぎだし、自分のせいにし過ぎ。
 そりゃまぁ、"比重"ってものはあるけどね。けど、喧嘩した時点で"どっちもどっち"だと私は思うけどね」

喧嘩両成敗と人は言う。
結果的に、お互い傷つけ合ったらもうそれはお互い様だろう。

「そしたらもう、お互いに『ごめんなさい』で笑い合うのが良いと思うな。」

恋人に限らず、それ位さっぱりしてても良いとは思う。
口には出さないが、一々引きずるのはみっともなくて見てられない。

「因みに、私だからいいけどね。失恋相手に恋愛の『普通』尋ねるってちょっとどうかと思う。
 恋愛初心者理央生徒、しっかり肝に銘じておくように。」

おかげでコーヒーより苦い思い出が蘇ったよ。
何とも言えないしかめっ面を横に振った。
とりあえず今は、彼の事だ。

「後、未練たらたらの癖に"今更"って言うのもみみっちいしい、終わってないなら
 あたかも『終わった』ように言うの止めなよ、みっともない。」

ビシッ!と人差し指が理央の鼻先を指し、ゆっくりと相手の手元に落ちる。
減っていないコーヒーに、指先が向けられた。

「"そう言うとこ"、カッコつけって言うんだよ。思春期。
 さっきから全然減ってないけど、彼女のせいで喉を通らない訳じゃないよね?
 もしかして、嫌いなんじゃない?」

憶測、唯の二者択一を突きつければ、ふ、と噴き出す様にはにかんだ。

「『普通の恋愛』ってのを説く前にさ、まずは君自身が彼女にぶつかったら?
 彼女を大事にするのは良いけど、頼られずに大事大事されても、女って嬉しくないし
 これも、言っちゃえば我儘なの。いいよ、ぶっちゃけて、面倒くさいでしょ」

「だから、"そう言うもの"……と、全部を全部言い切る気は無いけどさ。
 いいでしょ、カッコつけなくても。たまには吐き出しちゃいなよ。
 不満とか、そう言うの。君だけ傷つけられるのはアンフェアだし
 お互い好き合ってるなら、嫌な部分も見えるでしょう?
 見えてこないなら、それこそ君『恋に恋してる』よ。相手を神格化しすぎ。」

「ほら、"エチケット袋"、有効活用しないと、ね?」

神代理央 >  
「……落ち込み過ぎ、自分の所為にし過ぎ、か。
随分とずけずけモノを言う女だな。嫌いでは無いが」

恋人の事を悪く思えない。
悲惨な境遇にあった恋人と、何不自由ない生活を送って来た自分を比べれば。
仕事や己の理想を追い掛け過ぎて、恋人との時間を取れなかったのも自分。
だから、きっと悪いのは自分の方なのだろう。
――そう思っているからこそ、親身に話を聞いてくれる彼女の言葉を否定はせずとも、肯定もしなかった。

「それが出来れば理想ではあるがね。今回の喧嘩は、彼女が謝るべき事は無い。かといって、私が謝って済む事でも無い」

みっともなくても。引き摺っていても。
全て『初めて』なのだ。それは流石に、眼前の彼女に察しろという訳では無いが。
自分よりも大切な人が出来た事など、今迄無かったのだから。

「…それは何というか、その。すまなかった。肝に命じよう。古傷を抉ってしまったのなら、謝罪する」

彼女くらい気立てが良くて親身に話を聞いてくれる女性なら、さぞ異性受けもよさそうなものだが。
恋愛とは難しいものなのだろうか、としかめっ面の彼女を見ながら申し訳なさそうに眉尻を下げる。

「………どうだろうな。大分、愛想を尽かされていると思っているのだが。此方が引き摺っていても、アイツの方がどう思っているか、もう分からない」

「…余計な御世話だ。私の好き嫌いなど、関係あるまい」

それは『その通りです』と言わんばかりの返事。
はにかむ彼女とは対照的に、此方の表情は苦々し気なものになっているだろうか。

「…大事にすることを面倒だと思った事はない。しかし、それが求められていないなら、もう何をすれば良いのか分からぬ。
共に歩く、という事は、難しい事なのだろうさ」

「吐き出す…吐き出す、か。
――私はな、拒絶されたんだ。引き留めようとした手を、叩かれてな。言い訳を続けようとしていた私も悪いのだが」

「それだけ。それだけなんだがな。拒絶される事に慣れていた筈なのだが。求めて求めて、幸福になって欲しいと願った女に、振り解かれた時にな。今迄、伸ばしてきた腕が届かなかった事が、つい頭を過ってしまってな」

「女々しいだろう?世間でいう『良くある話』『良くある恋人同士の喧嘩』で、たった一度、腕を叩かれただけだ」

「それだけだったんだがな。それは何だか、もう――」

それ以上は言葉にしなかった。
すっかり冷めてしまったカップに手を伸ばし、口をつける。
ただただ、苦い。

「…そう言えば、私は友人に同じ事を言った事が有るよ。『相手を神格化しているのではないか』とね。笑い話だ。同じ事を言われてしまうのだからな」

力無く、微笑んだ。

>  
「可愛げがないでしょう?苦労してるからね、私も。」

だからと言って、それをひけらかすつもりはない。
ふふ、とちょっと悪戯っぽく笑ってやった。
だからこそ、明らかにもう、全部相手の言葉は遠慮してる。
彼が愛している存在に対して、そりゃもう物凄い"遠慮"だ。
言った傍からこういう言葉が出てくるんだもの。
龍もちょっとだけ目を細めて、唇への字、呆れ顔。

「素直に君が、思ったよりも拗らせやすい子ってのはよくわかった。
 いや、思春期らしいと言えばそうだね、うん、そうだ。」

遠回しに面倒くさい男だって言い切った。
だが、多分それを相手している彼女も相応に面倒くさいはずだ。
こう言うの見てると、あの恋愛は続けなくてよかったな、と思った。

「彼女の愚痴を期待してたのに、そこでも自分の事言ってどうするのさ。
 愛想尽かされてるなら、多分もうちょっと君はコテンパンになってると思うよ、知らんけど。」

「とにかく、あれだ。君は"何をそこまで彼女に気を使ってるのかな"?
 そこが知りたい。私はね、友達も恋人も、最低限の礼儀を弁えていれば
 もうちょっと気兼ねない関係だと思ってるよ。だから、本当の"おじん臭い"の、君。」

「……で、どうなの?一体何が引っ掛かってるの?」

神代理央 >  
「良い女だとは思うがね。まあ、可愛げが無い事は否定しかねるかな」

クスリ、と苦笑いを僅かに含ませた様な笑みを返す。
良い女であるとは思う。思うが、彼女の言葉を否定する事は無い。

しかして、呆れを全面に押し出した様な彼女の表情には怪訝そうな顔を浮かべるばかり。
そんなにおかしな事を言っただろうか、と首を捻りたくもなる。
捻りたいが、何時までも疑問に思っているばかりでは先に進めない。自分で、解決しなければならない。

「……何だか遠回しに悪口を叩かれた様な気がするんだが。
思春期らしい…ふむ、そういうものなのかね」

いやまあ、面倒な性格で有る事は理解も自覚もしているのだが。
其処までだろうか、と悩む様に小さく唸る。

「愚痴、か。いや、どうなのだろうな。何を愚痴にすれば良いのかすら分からん。そもそも、私は何処で間違えていたのかな」

「何故気を遣っているか、か?
…余り詳しくは言えぬが、アイツは色々と難儀な生まれと異能を持っていてな。それ故に、大事にしたいと思っている。
幸せになって欲しいと、思っている」

「……だから、引っ掛かっているというか、そういう事じゃ無い気がするんだ。今回の喧嘩は――」

「――求められていないなら、傍にいる理由が無いのではないかと、思ってな」

>  
「そうね、良い女に見えるならそれに越した事はないかなぁ」

人としての良しだ。
別に善人を気取るつもりは無いが、誉め言葉位は素直に受け取る。

「まぁ、大分?特に君、変に賢しそうだしね。」

でも悪口だってわからなかった。ヨシ!
内心ガッツポーズ!

「…………」

「とりあえず、そう、何?まずは話を聞きましょう。
 何を以て、求められてないと思ったの?
 それって、彼女にだよね?」

神代理央 >  
「先程も言ったじゃないか。喧嘩の最中、引き留めようとした彼女に手を振り解かれた。何を以てと問われれば、それだけ。本当にそれだけだ」

「少し前なら、そんな事など思いもしなかったのだろうが。
今はアイツにも、多くの友人と知人がいて、支えてくれる人が大勢いる。少し複雑な環境故、出会った事はアイツに友人どころか知り合いなどいなかったのだが…それは喜ばしい事ではあるがね」

「であれば、振り解かれた手をもう一度伸ばす必要があるのか?
私は、伸ばした手が拒絶される恐怖と戦わなければならないのか?」

「私は既に多くの拒絶を得て、何度も何度も振り解かれて来た。
そんなものは、もうごめんだ」

静かにカップを手に取って。
残った珈琲を一気に流し込んだ。

>  
「なんだ、愚痴れるじゃん」

何ともまぁ、いじらしい理由だ。
目をぱちくり、口元は自然と緩んだ。

「じゃぁ、それでいいんじゃない?
 多分それ、"女の我儘"だよ。君が彼女の事を繋ぎ留めたいなら
 『我儘ばっかり言うな!』ってガッツリ言ってやるのも良いし」

「お互い傷つくのが嫌なら、『青春の1ページ』で別れたら?
 結局さ、傍にいても好き合っても、ダメな時ってあるよ。"相性"って言うの?」

「若いうちは、そんなものだよ」

それこそ、様々な出会いがあるのは彼も同じ。
同じ人間と恋をし続けるのか、愛に変わるのか、誰も分からない。
決めるのは彼等自身ではあるが、それにこだわる理由は何処にもない。

神代理央 >  
「愚痴、と言っていいのかな。良く分からぬよ」

空になったカップをソーサーに置いて、椅子に身を預ける。
木製の椅子が、軋む様な音を立てた。

「…ガッツリ言う、か。どうだろうな。中々、そう言う事を言える性質では無くてな」

「…『青春の1ページ』か。そうさな。時間の経過と共に、思い出として美しく昇華される事だってあるだろう」

「何にせよ、私だけがどうこう思い込んで決まる話でも無い。
恋人だけに、決定を委ねる事もせぬがね」

小さく笑うと、伝票を手に取って立ち上がる。
随分と話し込んでしまった。店内に掲げられた時計の示す針は、間もなく打ち合わせが始まる事を告げている。

「…正直、此処迄話を聞いて貰っても未だ悩んでいるし、どうすれば良いのかは分からん。だが、少し楽になった」

革靴の音を響かせて、彼女の横へ。

「それでも、話を聞いてくれて嬉しかった。珈琲一杯では、足りなかったかも知れんな。次会えた時まで、ツケにしておいてくれ」

「それじゃあな、龍。良い恋をして、私を悔しがらせてくれよ?」

顔を合わせた時よりは幾分明るい声色。
それでも、未だ煩悶と苦悩の色が濃い少年は『愚痴』を吐き出させてくれた彼女に小さく笑みを向けて。
ひらひらと伝票を振って、その場を後にするのだろう――。

>  
「それこそ、恋人と相談しなよ。
 此れだけは言っておくけど、『後腐れなく、お互い納得』出来ないと辛いだけだからね?」

喧嘩別れでもなんでも、そこで亀裂が生まれれば後悔する。
彼等がどんな出会いを得たは皆目見当はつかないが
別に失恋を望んでいる訳じゃない。
ただ、互いに『納得』出来るならそれで良い。

「…って、結局理央君の肩結構もっちゃったかなぁ、まぁいいか。
 生憎、自分の事で手一杯だからね。君こそ、後でちゃんと話聞かせてね?」

「今度は、友人として、"笑い話"に出来る事を期待してるから」

結果がどうであれ、笑い話できる事ならそれが綺麗だ。

「……カッコつけだなァ、ホントに。今時伝票とか振る奴いるの?」

なんて、最後に帳尻合わせみたいな悪口一つ。
青春真っ盛りのその背中を見送った後、自分もその場を後にするのだった。

ご案内:「扶桑百貨店 スタードトール珈琲館」からさんが去りました。
ご案内:「扶桑百貨店 スタードトール珈琲館」から神代理央さんが去りました。