2020/08/22 のログ
ご案内:「扶桑百貨店 ファッションエリア(4~6F)」に神樹椎苗さんが現れました。
神樹椎苗 >  
 百貨店の衣類売り場に足を運ぶと、そろそろ夏も終わるからか、浴衣の在庫処分が始まっていた。
 つまり、大安売りである。

「──の、割にはまだ随分種類がありますね」

 新しくオープンしたばかりなのもあり、入荷の加減がわからなかったのかもしれない。
 まあ浴衣は秋頃まで売れるから問題もないのだろう。

「さて、子供用の浴衣はどれくらいありますかね」

 派手なものからしっとりと落ち着いたものまで、様々に並ぶのはどれも大人──少年少女向けのもの。
 当然、メインの客層に合わせた商品を表に出すわけである。
 なので、店舗に少し入り込まないと、椎名の体格に合った浴衣は置いていない。

「ああでも、それなりにありますね。
 やっぱり子供もそれなりにいるからでしょうか」

 子供用の浴衣も想像よりは多くの種類が、色や柄も豊富に並んでいる。
 しかし、子供向けだからか明るく可愛らしい色や柄が多い。
 黒系統や落ち着いた色や柄を好む椎苗としては、あまり惹かれるものが無かった。

ご案内:「扶桑百貨店 ファッションエリア(4~6F)」に修世 光奈さんが現れました。
神樹椎苗 >  
「ああ、この辺は直情ロリに似合いそうですね。
 こっちは──猫娘なんかには良さそうです」

 ついつい、自分ではなく知り合った相手に似合いそうな物を探してしまう。
 とはいえ、いきなりプレゼントするのにも理由がない。
 いつもの少女なんかは素直に喜びそうなものだが。

「はあ。
 面倒ですし、適当に目立たない地味なのでも買っていきますか。
 ネコマニャンの浴衣でもあれば別ですが──」

 なんて、子供用浴衣の並んだ端っこの方まで視線を向け。
 そこで目が止まる。
 そして目を疑う。

「――今日の天秤座は運勢一位ですね」

 その隅っこにひっそりと並べられた、まるで、どうせ売れないだろうと言わんばかりの一着。
 椎苗は迷わずにそれを手に取った。

「さて。
 思いがけず目的を果たしてしまいましたね」

 と、満足げにレジカウンターへと向かおうとする。

修世 光奈 > ウィンドウショッピングとはいいものだ。
のんびりと見ているだけで楽しいし、暇な時間を潰せる。
このファッションエリアは特に楽しい。
その楽しさに導かれるまま、在庫一掃セール!と書かれた一角に立ち寄れば

「……?」

視界の端に、酷く怪我をしているように見える女の子が奥へと歩いていくのが見えた。
落ち込んでいる程度ならまだわかるが、直接的な怪我が見えてしまうと、どうにも放っておけない。
色々なニュースを見ているからこそ…虐待かそれとも…!といらぬ想像までしてしまって。

ぱ、とその女の子を追いかけて、子供用浴衣のエリアまで行こうとすれば…

「わ、と。あ、ごめん…。え、と……?」

丁度、その目的の女の子とばったり正面から出くわす。
光奈は、目の前の光景に少し混乱してしまい、まるで女の子を通せんぼするように立ち止まってしまう。
何かあった…と光奈が思っている女の子が、満足げにレジに向かおうとしているからだ。

「…えっと。…大丈夫?」

結局出たのは、そんな言葉だ。光奈自身でも、意味不明な声かけになってしまった。

神樹椎苗 >  
「――――?」

 急に現れた女子に道をふさがれ、何事かと首をかしげた。

「はあ、大丈夫ですが――なにか用ですか」

 なぜ道を塞がれているのだろう。
 相手を上から下まで見て見ても、見覚えのある相手ではない。
 少なからず困惑した表情を浮かべているだろう。

修世 光奈 > 「あ、ご、ごめん。怪我してるから、どうしたのかなって気になっちゃって」

道を塞いでいることに気づけば、さ、と道を空ける。
謝罪しながら、気まずそうに頬を掻いて。

「その怪我、大丈夫なの?…傷、ふさがってないみたいだけど…」

道を空けても。
そのことが気になるのか、はっきりと聞いてみる

神樹椎苗 >  
「ああ」

 言われればなるほど、と自分の手足を見る。
 スカートから出た足にも、籠を持つ左手にも包帯は巻かれている。
 見えるところならほかにも、首にもあるし、頬にはカーゼが貼ってある。
 その上、指先まで包帯に包まれた右腕を不自然に垂らしているし、使っていないのを見れば異様にも映るだろう。

「そういえば、そうやって呼び止められるのも久しぶりですね」

 学園に編入させられたころは頻繁にあったが。
 普段行動する範囲では、もうすっかり慣れられてしまっている。

「まあ確かに傷は塞がってませんが、どれも二年ほど前の古い傷ですから」

 と、心配はいらないと伝える。
 見た目には痛々しいが、本人が痛がっている様子は見えない。

修世 光奈 > 怪我だらけの身体に加え、右手はどうしてか使われていない。
もしこれが…光奈の悪い想像通りなら、大変なことだと。

「久しぶり…?、…古い傷って…。そのー。塞がってないなら、病院とか行かないの?」

率直に。
相手の姿が小さな女の子だから言いやすいというのもあるが、純粋に心配がにじんだ声で聞く。
平気そうな様子も、逆にそれを助長していて。
ただ

「あ。浴衣買うところだった?えと、先に買ってきていいよ、うん」

相手が持っている浴衣を見れば、そう提案するも。
レジに向かうその後ろを付いていく事は間違いなく。
迷惑かな、と心配になりつつも…善意から相手の話を聞きたいと思っているようだ。

神樹椎苗 >  
「あーそうですね。
 しいはちょっと特殊な体質なので、薬も魔術も効果がねーのです。
 まあ、たまに膿を取ったり縫合したりはしに行きますが」

 率直に聞かれれば、特に隠しているわけでもないのでそのまま答える。
 相手が純度100%の好意で声を掛けてくれるのであれば、邪険にするのも気が引ける。

「ああはい、それならさっさと済ませてきますが」

 あ、これはつき纏われるやつだ、と直感して、まあいいかと会計に向かう。
 とくに急いでるわけでもなく、時間には余裕がある。
 ちゃんと説明して納得して帰ってもらおう。

 そう思いつつ、『少々独特な可愛いようで可愛くないネコのキャラクター』つまり、ネコマニャン柄の浴衣を店員に渡す。
 同様のキャラ、ネコマニャンのポシェットから黒いカードを取り出して支払いを済ませた。

修世 光奈 > しい、というのが相手の名前かあだ名かなと推測はできる。
薬も魔術も効かない、そして体質と聞けば。
最悪の想像が外れたことに、少しほ、とする。
しかし、怪我をしたままというのは想像するだけで辛い。

「ん。ネコマニャンだ。…んと、絶妙な可愛さだよね」

ちら、と目に入ったお財布と浴衣には知っているキャラクターが見えた。
光奈の感覚では、絶妙に可愛い側、らしい。
ついぽつりとつぶやきつつ、会計が終わるのを待って。
こっちこっち、と…デパート内に設置されたベンチに誘おう。

「それで……。あ、ごめん。私、光奈(コウナ)、修世 光奈(シュウセ コウナ)だよ。
えっと…しいちゃん、でいいかな」

そういえば、込み入ったことを聞いているのに自己紹介をしていなかったから。
改めて自分の名前を伝え、呼んでいいかわからないが、聞こえた一人称を繰り返してみよう。

「それで…その傷って、どういう…?とっても痛そう…」

そして、理由を聞きながら、少し眉をひそめて。
心配と不安が混じった目線を相手に向けよう。

神樹椎苗 >  
「ん、ネコマニャンを知ってますか。
 お前はなかなか見どころがありますね」

 それなら付き合ってもいいかと、呼ばれるままベンチに座る。

「かみきしいな。
 好きに呼べばいいですよ」

 そう自己紹介に返して、怪我に関して聞かれれば、困ったように眉をしかめた。

「別に、痛いって言うほど痛くはねーです。
 理由に関しては――あんまり口で説明したくはねーです」

 心配するような視線から逃げるように顔を逸らして、見るからに苦々しげな表情を浮かべる。

「気になるなら、そう、ですね。
 学園のデータベースで、しいの名前を調べればいいです。
 しいの経歴は全部、『誰でも』閲覧できるようなってますから」

 と、それだけ答える。
 データベースには各種端末から学生や教員であれば自由に接続できるはずだ。

修世 光奈 > グッズなどは持っていないが、ネコマニャンという絶妙なキャラクターが存在しているのは知っていた。
それが要因とは露知らず、近くのベンチでお話。

「かみきしいな。…やっぱり、しいちゃんかな」

名前については…言いやすいし、可愛いので最初の呼び名で確定したようだ。

「……。わかった。それは、調べられる時に調べる」

苦々しい表情を見れば余程言いたくないことだとは伝わってくる。
だから、無理に聞き出しはしない。
正直なところ、個人の情報を誰でも閲覧できるというのは不思議に思うが。
今は相手のことを尊重しよう。

「あ、でも…ちょっと心配ぐらいはさせてほしい…かなー。
しいちゃんみたいな子がボロボロなの、すごく気になるし…。
ほら、あれだよ。私探し物が得意だから、何か膿止めの良い薬とか探してくるよ」

ぱ、と端末を見せれば…。色々な人に見せている依頼掲示板だ。
探し物専門でありながら、中々賑わっている。

これが、相手が普通の格好なら話しかけることもなかっただろう。
けれど…気になるモノはしかたない。

出来るだけの提案をして、手助けを申し出てみよう。

神樹椎苗 >  
「心配するのは勝手ですが――だから薬は効かねーのですよ」

 そして見せられた画面を見れば、どうやら売れない探偵のようなことをしているようだ。

「探し物ですか。
 そうですね――得意と言うからには、なんでも探せるんですか?」

 と、少し考えてから聞き返す。

修世 光奈 > 「あ、あはは。…うぅ、ごめん…」

しゅん、と落ち込む年上。
ついつい、善意が先走って色々と気を回しすぎたようだ。
それなら、探すのは安くていい包帯とかかなあ、とぼんやり考えている所に質問が返ってくる。

「うーん。危ないところに行くのはちょっと断ってるかな。
歓楽街の奥の方とか、常世渋谷の…えっと、黒街、とか。
それ以外なら、人でもモノでも頑張って探すよー。もちろん、絶対見つける、なんて言えないけど…一生懸命探すのは約束する」

ぱ、と顔を上げてはっきり答える。
自分のやっていることに…ある種の誇りを持っている顔だ。

「…そうやって聞くってことは、何か探して欲しいの?しいちゃん」

何だろう、と先を促す。

神樹椎苗 >  
「別にそんな危険な橋を渡らせようなんてつもりはねーですよ。
 それに、お前には悪いですが、別段期待もしてませんしね」

 その向けられた表情を見れば、この女子が何らかの矜持を持って行っているのだろう事はわかる。
 それを見れば、期待していないという言葉は失礼な気もしてくるが。

「そうですね、この学園に来てからずっと探しているものなんですが。
 未だに手がかりすら見つかってねーのです」

 相手の善意に甘えて良い事なのか、判断ができないところだが。
 それでも、今は以前よりも真剣に見つけたいと思っている事だ。
 言ってみるだけなら、許されるだろう。

「――『神樹椎苗が死ぬ方法』、見つけられますか」

修世 光奈 > 行けない場所をはっきりと言うのは余計なトラブルを避けるためだ。
期待していない、と言われれば…それもそうか、と納得する。
初対面でいきなり信頼を感じるのも、不自然な話だから。

「へぇー、何、……」

学園に来た時から探しているのに、手掛かりすら見つけられないもの。
その捜索を任せてもらえそうな雰囲気に少しワクワクするが。

続けられた言葉に、またぴし、と固まる。
自分を、殺す方法を探す…。その意味を、よく考えて。

「……ごめん。その。…それは、ちょっと、受けられない…かも。
だって、それって私が人殺しになっちゃうから。…それは、だめ」

間接的にとはいえ。
情報を与えることで、その後相手が自殺などしたとしても。
その手助けをしてしまうというのは、、立派な"悪"だ
そんなことをしてしまっては、"彼"の隣にいることはもうできなくなってしまう。

「…けど。…なんで、死にたいのか、も聞いたらだめ?」

それでも、初対面の自分にその方法を探すように依頼する理由を聞いてみる。
光奈にとっては、生きているのは当たり前で。
死にたい、と思ったことは無いものだから。

神樹椎苗 >  
「まあ、そうでしょうね」

 これと云って落胆するでもなく、断られるのも当然だろうと頷く。
 表情は少し申し訳なさそうに、ごまかすような薄い笑みを浮かべるだろう。

「理由ですか。
 一言でいえば――『生きたい』から、ですね」

 そう答えて、この話をした時に問いかける言葉を続ける。

「お前は『生きてる』というのはどういう事だと考えますか?
 『死』はなんだと考えますか?
 お前にとっての『生』と『死』の定義とはなんですか?」

 そう何かの宗教かのような問いかけをした。

修世 光奈 > もしかして、からかわれたのだろうか。
そう思うほどあっさりと、落胆を見せずに笑顔を浮かべる相手。
しかし、続けられた言葉は、どこか願いが感じられた。

「…生きたいから、死ぬ…?」

光奈の感覚では、その言葉の意味はわからない。
死んだら、それで終わりだ。
生きるも何もない。

「定義って言われてもよくわかんないけど…。
生きてるっていうのは、息をして、心臓が動いてる…のかな。
死んでる…は、心臓が止まっちゃうこと?」

脳死状態の事まで頭が回らないが、そんな…普通の答えを返す。
死生観など、普通に生きていれば深く考えることもないから。
ありきたりで、当たり前な意見しか出てこない。

神樹椎苗 >  
「そうですね――では。
 心臓が動いているから生きているとして、止まったら死ぬとして」

 理解させる必要があるかと言われれば、そんなことはない。
 けれど、わからないならいい、と放り出すのも勝手だろう。

「心臓は、止まることがあるから、動いていると言えますね。
 そして、動いていなければ、止まる事はありません。
 最初から動いていなければ、止まるもなにもないですからね」

 そう前置きして。

「同じように。
 『生きている』から『死ぬ事』ができるんです。
 なら、最初から『死ねない』のなら――それは『生きている』と言えるのでしょうか?」

 女子の目を見て問いかけてから、ふと、遠くへ視線をはせる。

「しいは、死ぬ事が出来ません。
 不死と言うのとも少し違いますが、似たようなものです。
 だからしいは、『生きる』ために『死にたい』のですよ」

 それは、普通の死生観を持っていれば理解しがたい論理だろう。
 生と死を同じものとして扱う事は、普遍的な価値観ではないのだから。

修世 光奈 > 「そ……それは、……」

周りの音が遠い。
喧騒が騒がしいはずなのに耳に入ってこない。
確かに、言われてみればその通りだ。
生死と考えると付いていけないが、その例えは思考としては良く分かった。


「…やっぱり、その。……よく…わかんないけど」

しかし、…思考で分かったとしても実感としてはわからない。
死んだら終わり、という…今まで光奈が培ってきた感覚はそう簡単に覆せるものでもなく。
ただ、1つだけ。

「……嘘じゃない、よね。
生きる為に、それを探したいんだよね?」

じ、と。少し身を乗り出してもう1度聞く。
ただ単に死ぬためではなく…どういうことかはわからないが、相手のためになるのなら。
それが嘘でないことを確かめる為に…相手の眼を見ようとしてから。

「それなら。とりあえず仮で協力したい…かな。ちょっとでも、力になるよ。
あ、もちろん途中でただ単に死にたいだけ、とかわかったらもちろん止めるからね。
…それでいいなら、少しでも…協力する。これ、私の連絡先…。端末は、持ってる?」

しばらく、見つめた後。
条件付きで…やはりその依頼を受けると言おう。

…死ねない、という法外なこと。
それを頭から信じるのにはやはり確認が必要だけれど…『経歴』が全て閲覧できるのならそれも知ることができるだろうと。
自分の端末を取り出し、連絡先を表示しよう。

「そ・れ・と。お前、とかじゃなくてこーな、とか呼んでよ。それも、条件」

少し、お前と言われるのに違和感を感じていたから。
条件にかこつけて、名前を呼んでもらおうと。

神樹椎苗 >  
 やはり簡単には受け入れがたいものなのだろう。
 そもそも、理解してもらうために説明したわけではないのだし。

「――嘘だったら、いいのですけどね」

 身を乗り出す相手を、まっすぐに見返す。
 表情は寂しそうに笑っていたが、青い瞳は、疲れたような色を浮かべている。

「そうですか、それは――ありがとうと言っていいのですかね」

 その答えに意外そうな表情を浮かべて、頷く。
 ネコマニャンポシェットから端末を取り出して、連絡先を登録する。
 そして最後の条件に対しては――。

「そうですか、わかりました――探偵もどき」

 名前で呼べと言われたのにも関わらず、勝手なあだ名で呼び始めた。

修世 光奈 > もしかすると"彼"なら実感としても何かわかったのかもしれない。
ただ、今聞いているのは光奈だ。どうしても、そこが基準となる。

「殺す方法だけど、死ぬためじゃないなら。
…うん。…悪い事じゃ、ないと思いたいから。お礼は、見つけたらでいいよ」

見つめた青い瞳には…嘘をついている嘲りが、少なくとも光奈の眼には見えない。
期待していない、との言葉通り…もしかすると、今まで誰かにこんな依頼を続けてきたのかもしれないが。
初対面の自分に相談するほど、その方法を探しているのだろう。

「うぐ。てってーてきに名前を呼ばないつもり?別にいいけど…」

探偵もどきと言われれば少し怯むも。
連絡先を交換して、乗り出していた体を元に戻し。
この後、経歴を確認して色々と方法を探していくことは間違いない。

「あ、もし見つけられたら連絡してね。ずっと探しちゃうし。後…わからないことがあったら聞きに行くかも。
…ごめんね、長く引き留めちゃって。…依頼、ちゃんと受けたよ」

受けた依頼リスト、と書かれたメモに新たに相手の事を記述する。
浴衣を買っていたということはお祭りなどに行く約束があるのかもしれないと思い。
今回は、引き留めすぎても悪いと、ベンチから立ち上がろう。

神樹椎苗 >  
「ええ、もし見つかったのなら――できうる限り最大限のお礼をさせてもらいます」

 悪い事か、良い事か。
 この女子もまた、純粋なヒトなのだろうとつい笑みがこぼれた。
 自分の周りには、どうも純粋な相手が多い気がする。

「名前を呼ぶのは――そう、ですね。
 あまり好ましくねーのです」

 どうしても、呼称として人の名前を呼ぶのは抵抗があった。
 ただ名詞として用いるならともかく、ヒトを呼ぶのに使うのは。
 いけないだろう――『生きていない者』が『生者』の名前を口にしては。

「はい、もし他の手段で見つかれば、すぐに連絡します。
 お前もそう、何かあればいつでも呼び出してくれてかまわねーです。
 ああ、いいですよ、特に何か予定があるわけでもなかったので」

 気を遣うように立ち上がる女子に、気にしなくていいとわずかに微笑みながら。
 
「――すまなかったですね。
 初対面の相手に話すには、少しばかり不躾な話題でした。
 依頼を受けてくれたこと、感謝しますよ」

 と、小さく頭を下げた。

修世 光奈 > 「じゃ、お礼は…方法を見つけたら、こーなって呼んでもらうってことにしようかな」

少しだけ、声音を明るく。
重い話題だからこそ、それを払拭するように…せめてそこは明るくする。
いつでも呼び出して構わないと言ってくれるなら…もし、経歴を調べてもわからないことがあれば、光奈から連絡があるだろう。

「いーよ。最初に変に声をかけたのは私だし。
感謝は、見つけた時に取っておいて」

立ちふさがるようにしてしまった自分こそ、結構失礼なことをしてしまったように思う。
だから、光奈も少し頭を下げて。

「じゃ、私は色々情報整理したり、他の探し物もしてくるね。
…また、良い報せを持ってこれるように頑張るよ、しいちゃん」

最後に。
逃げられなければ、だが。
優しくその頭に触れようとしてから、その場を去っていくだろう。

神樹椎苗 >  
「はい、では――少しだけ期待して待っていますよ」

 と、その手に軽く撫でられながら答えて、その背中を見送るだろう。
 そしてその姿が見えなくなってから、一つ、大きく息を吐いた。

「――何をしてるんでしょうね。
 誰かに、あんなことを頼むなんて」

 以前なら他人にこんな話をすることはあり得なかっただろう。
 親しい相手であっても――同じ、『死を失った者』にしかしてこなかった。
 それが初対面の、それも『普通』の人間を相手にするとは。

「これも、変化っていうんですかね。
 まったく、姉や娘のせいで調子がくるって仕方ねーのです」

 そうぼやきながらも、表情は笑っている。
 そしてベンチから立ち上がり、一度帰ろうとして、立ち止まる。

「ああそうだ、せっかくですし」

 振り返って、浴衣売り場へと戻っていく。
 もうすぐ夏も終わる。
 その前に一つくらい、思い出でも作ってもらおうと思いながら。

ご案内:「扶桑百貨店 ファッションエリア(4~6F)」から神樹椎苗さんが去りました。
ご案内:「扶桑百貨店 ファッションエリア(4~6F)」から修世 光奈さんが去りました。