2021/12/25 のログ
■フィール > 「これで2万で済むのなら安い気がしますねぇ」
すべてを理解するのは不可能だ。
この料理にはどんな素材が使われていてどんな調味料が使われているのか、そんな事はわからない。
でも、その一端だけでも、一流であるということはわかる。
次の肉料理は肉に火がついていた。
勿論魔術による演出…ではなく、魔術による調整された炎だ。
表面をしっかり焼き、そして中は固くならない程度に火が通され。
焼き終えれば保温程度の温度を保つ炎だ。
かなり高度な魔術を用いて調理されている。
「……炎で温度調節してるの、どうやってるんだろう…」
■黛 薫 >
「にまん」
1回の食事で2万円。黛薫の価値観からすれば
卒倒しそうな額。それでいてこの場で供される
『食事』を知ると安すぎるようにさえ思える額。
情緒がバグる。
「『炎』は言っちまえば『燃焼という物理現象』。
だから物理法則の埒外にある魔法、魔術でなら
熱を持たなぃ『炎に近しいモノ』は構築出来る。
とはいえ、再現度を高めれば高めるほどそれは
『炎』に近付く。熱も光も発するし物も焼ける。
適度に焼いてそれ以降保温、って形にすんのは
単なる火属性の元素魔術とはレベルが違ぅ。
さらっと出されたけぉ、めちゃくちゃ高度だ。
炎熱系の魔術を修める人ならコレ見る為だけに
金出せるくらぃ」
その高度な魔術を一皿の料理のためだけに
惜しげもなく使う。技術の結晶であり、拘りが
これでもかと詰め込まれたメインディッシュ。
マナーを知らないなりに丁寧に切り分け、一口。
「……肉、だよな?肉ってこーゆーのだっけ?
噛んだら、溶け、柔……どー表現すんだ?」
肉類はグレードの差が味に直結しやすい食材。
高い肉など食べたことのない黛薫にとっては
完全に未知の世界だ。
黛薫の力でもすんなり切り分けられる柔らかさの
肉は、それでいて適度な食感、歯応えを保ちつつ
肉汁の旨味を口一杯に感じさせる。
細かくサシが入っているお陰で飲み込む頃には
蕩けるように脂身が口の中で解け、魔術の炎は
冬の朝に飲むホットミルクのような温もりを
保って胃の腑に落ちていく。肉料理としては
珍しい食感だが違和感はなく、むしろ快い。
この世界の調理技術では成し得ない異世界から
齎された技術との融合で果たされた創作料理は
この展望レストランの売りのひとつでもある。
■フィール > 「ええと…溶けて、解けるっていうんですかね?
こんな食感初めてです…」
困惑しながらも、舌鼓を打つ。
理解し難いものでも、美味しいということはよく分かる。
一つ一つの料理が様々な要素を贅沢に使っている。
食材然り、食器然り、魔術然り、そして雰囲気にも。
「いや、ほんと舐めてました。こんな高度な魔術が見られるだなんて思ってませんでしたから」
炎という、反応の現象を極限までに制御した代物だ。この魔術だけでいくら稼げるのやら。
そして最後に提供されたデザート。
見た目はきれいなシャーベットにしか見えない。
しかし口にすればその異常がわかる。シャーベットの中に格子状のアイスが潜んでおり、噛めば心地よい食感を返してくる。
これは転移魔術を利用したものらしく、格子状のアイスに敢えてめり込ませる形でシャーベットを転送したものだ。
溶けかけの柔らかなシャーベットとパリパリに凍ったアイスの食感のハーモニーが、食べた者に幸福を齎す。
■黛 薫 >
「あーしもびっくり。料理の満足感がスゴぃのは
前提として、魔術の方も想像より遥かにレベル
高ぃんだもん。調理に魔術を使ってますっつー
簡単な話じゃなくて、ある程度魔術に造詣ある
人が見たら、料理抜きにしても満足出来るよな」
パリパリと楽しい食感のアイス、程良い舌触りの
シャーベットのマリアージュ。メインディッシュと
比べれば魔術的な目新しさは薄いが、製菓を嗜む
人から見ればこれまた斬新な一皿。
基本的にシャーベットは材料を氷点下で冷やしつつ
攪拌して作る氷菓。攪拌と冷凍を交互に行う簡易な
レシピもあるが、いずれにせよ共通するのは攪拌の
工程が存在する点。
つまり型に流し込んで凍らせるアイスキャンディと
異なり、綺麗な格子状のアイスを内側に仕込むなど
本来は到底不可能なのだ。
「あ、コレ好きかも。美味しぃのは勿論だけぉ、
食べてて楽しぃ感じする。シャーベットなら
レシピあれば作れそーな気ぃしなぃ?」
当然黛薫はそれを知らないので軽く考えている。
帰宅後、レシピを調べてようやくこの一皿の
目新しさに気付くのだろう。
ご案内:「扶桑百貨店 展望レストラン「エンピレオ」」からフィールさんが去りました。
ご案内:「扶桑百貨店 展望レストラン「エンピレオ」」から黛 薫さんが去りました。
ご案内:「扶桑百貨店 展望レストラン「エンピレオ」」にフィールさんが現れました。
ご案内:「扶桑百貨店 展望レストラン「エンピレオ」」に黛 薫さんが現れました。
■フィール > 「この、魔術の使い方もすごいですよね。実利だけじゃなくて見せ方もすごい。
お金があったらリピーターになってしまいそうです」
コース料理をすべて食べ終え、満足といった様子。
食が細くなっている薫も苦にせず食べている辺り、この店の料理の凄さがわかる。
食べ終えて、漸く余裕が出てきたのか、外観を眺める。
「いい眺めですよね。街明かりがイルミネーションみたいです」
レストランから街を見下ろして。自分たちが今いる街と、自分たちが『居た』街も一望出来る。
やはり、落第街は街明かりが少ない。
「人の分布と、貧富の差がわかりやすいですね」
■黛 薫 >
「魔術だけ学んでも得られなぃ『上手な使ぃ方』
熟知してる感じ。知らなかった広がりを見ると
自分の視野の狭さに気付くよな」
一皿あたりの料理は決して多くないが、前菜に
魚料理、肉料理にデザート。4皿分もの料理を
綺麗に平らげてしまったのには自分でも驚く。
一皿が多くないのも飽きが来る前に次の楽しみを
届けるためだったのだと食べ終えてから気付いた。
「今日に限っては、クリスマスだから本物の
イルミネーションも混ざって見ぇんだろな」
公的には落第街は歓楽街の一部として扱われる。
隣接した歓楽街は特に煌びやか、対照的に暗い
落第街の闇が尚更目立って見える。
「……イィのかな、あーしが『こっち』にいて」
切り取られたような夜闇の中、ぽつぽつと僅かに
搾取する側が灯す光だけが残る街、常世島の暗部。
今自分たちがいるのは其処から遥か離れた明るい
街の中でも特に明るく高い場所。
■フィール > 「色々参考になりますね、本当に」
最後に配膳されたコーヒーを口にしながら、感心する。
これだけのものを提供するにはお金だけでは到底足りない。
培った知識に加えて斬新な発想、そして気遣い。
緊張こそしたものの、不快に思う要素が一つとしてない。
「…良いかどうかは、わからないです。誰が決めることでもないですし、状況がそうさせるだけですから」
薫の不安に、フィールが応える。
自分たちが此処に居るのは、状況でしかない。一つ間違えば、落第街に逆戻り、ということもあり得る。でも―――――
「でも、こっちに来てから、薫はどう思いました?今の生活を捨てて…落第街に戻りたいと思います?
薫が望むなら、ついていきますよ。私も、元々は向こうの住人ですから」
■黛 薫 >
コーヒーは人の好みでミルクの量も砂糖の量も様々。
流石にこれに関しては事前の調整は不可能だろうと
考えていたが、やはり配膳に一工夫されていた。
コーヒーの脇に添えられているのは角砂糖と小型の
ミルクポット。使い切ると丁度万人受けしそうな味。
少なめが好みなら全部入れなければ良いし、もっと
甘めが好みだったらテーブル中央に分けて置かれた
十分量のシュガーポット、ミルクポットで足せる。
だから、黛薫の手が止まったのはコーヒーの好みの
問題ではなく、貴女から投げかけられた問いのお陰。
「……戻りたくは、なぃよ。あーし、あの街が
ずっとキライだったし、何より怖かったから」
「でも」
「戻りたくなぃ、帰りたくもなぃけぉ……
時々……逃げたぃキモチにはなる、かも」
「あーしは……逃げる先、あの街しか知らなぃ」
■フィール > 「逃げる先、ですか」
薫の言いたいことは、わかる。
今いる環境が落ち着かない。
今いる環境から拒絶されかねない。
今いる環境を拒絶しかねない。
薫はずっと苦悩している。落第街に居たころも。この街に来てからも。悲願だった魔術が使えるようになってからも。
自分の価値観に苦しめられている。自分の価値に怯えてる。
落第街は自分の価値を落とすには丁度いい場所だ。いくらでも悪意が蔓延っていて、蹴落とされるにはいい場所だ。
「…私や、調香師さんじゃ、逃げる先にはなりませんか?」
私なら、何処までも一緒に堕ちてやれる。
調香師さんは…まだ一度しかあったことはないけれど。薫の為なら何かをしてくれるはずだ。
落第街が嫌なら、別の場所で身を落ち着かせる方法もある。そのための場所も知っている。
少し考えて。持ってきたプレゼントを、懐から取り出す。
ジュエリーケースの中に入れられた、ダイアモンドの指輪。
実益を兼ねた、もう一対の指輪の近くに転移する術式が込められたもの。
「……私じゃ、駄目ですか?」
プレゼントを見せて、問いかける。
自分は、薫の全てを受け入れたい。
薫は、望んでくれる、だろうか。
■黛 薫 >
差し出されたジュエリーケースの中身。
それが持つ意味、それを渡す意味を知っている。
それに込められた気持ち、彼女が抱く気持ちを
知っている。受け入れることが何を意味するか、
どんな関係の象徴になるかを……知っている。
ロケーションもシチュエーションも、このために
用意されたのだと悟る。フィールは映画が好きで、
だからこのような『学び』を得たのだろう。
大切なモノは既に捧げてある。
交わった深い関わり、繋がりが更に強固になれば
怯えてばかりの自分の拠り所になるかもしれない。
でも。
「すぐには、答えらんなぃよ」
ぽつりと呟く言葉は受容でも拒絶でもなく。
停滞のようでいて、しかし黛薫からすれば
一歩だけ踏み出しての言葉。
「あの子のコト引き合ぃに出されたから言ぅけぉ。
求められたら受け入れちまぅトコ、拒否せずに
流されちまぅトコ。……そーゆーの、あーしの
『酷いトコ』だって言われたんだ。
気付きがなかったらあーしはきっとフィールの
申し出を受け入れてたよ。大切なモノを捧げて、
一緒に暮らして、分かんなぃなりにフィールも
好きだって決めた。返しきれなぃ恩もある」
「でも、多分それじゃダメなんだ。
『受け入れられるから受け入れる』じゃ、ダメ。
きっと『受け入れたぃから』じゃないとなんだ。
あーしは求められたら応ぇられるよ、きっと。
でも、そこに余分なモノが混じり過ぎてる。
今応ぇても、1番大きぃのは傍を歩く喜びより
願ぃを叶ぇてもらった恩になる。
見返りで捧げんのと、心から捧げんのは……
結果が同じでも、きっと……全然違ぅ、と思ぅ」
「だから、まだダメ。まだ、取っておいて」
■フィール > 「……そう、ですか」
かぽ、と。指輪の入ったジュエルケースを閉じる。
これは、自分が勝手に用意したもので。
相手の気持ちを尊重すべきもので。
無理に渡すものじゃない。例え、実益を兼ねていたとしても。
「…そこが、私と調香師さんの違い、なんでしょうね。調香師さんは、駄目なものは駄目、と言えて。私は、全部赦してしまうから。」
違う価値観による相違。見方の違い。
だからこそ薫は成長して、こうして間違いを正してくれる。
「…わかりました。これは、大事に取っておきます。いつか、渡せるときが来たときのために。」
そう言って、ジュエルケースを懐へ仕舞う。今の場には、相応しくない。
「…その時は。奪ってしまったものの責任は、果たさせて下さいね」
フィールが薫から奪ったもの。魔術の適正を得た代わりに身体が不自由になり、私の我儘で私以外の誰かの子を産む権利も奪ってしまった。
だからこそ。自分の手で、薫を幸せにしてあげたいと、願うのだ。
もう、不幸な目には、十分遭ったのだから。
■黛 薫 >
「ごめんな」
例えば映画の中ならば、指輪を渡すシーンは
クライマックスのはずだ。ハッピーエンドや
エンドロールに向かう結びのシーン。
応えた方が『物語としては』綺麗だっただろう。
でも、応えたら『そこでおしまい』になっていた。
「そーな、スタンスの違ぃ……いぁ、価値観の差か。
種族、生き方、そーゆーモノに根差した根幹の差。
フィールは取り込んで呑み込んで、自分も相手も
変えていく。あの子は定まった芯に沿って変えず
変えられず、変わらない歩調で願いに歩き続ける。
あーしは……どーなんだろな」
ため息ひとつ。受け入れてしまうのが悪いところ、
そんな自分が容易く受け入れられないただ一つが
求めてやまない『幸せ』だなんて、笑えない話だ。
「受け入れちまぅのが悪ぃトコで、受け入れるには
今は余計なモノが混ざり過ぎてる。考えてみりゃ
あーしがフィールに『捧げた』のだってあの子に
『捧げたぃ』モノがあって、片方だけじゃ不公平
だと思ってたからなのよな。両方受け入れたくて、
でも必ずしもソレはイィコトじゃなくて。
あーしとあの子は『今のまま』に落ち着ぃてて、
だからフィールに捧げた分が逆に不公平になって。
そーゆーのまで考ぇだすと、柵みなく応ぇんのは
簡単じゃねーのかなぁ」
■フィール > 「良いんですよ。これは私の個人的な願いなだけですから」
目指す先は、ゴールなどではなくて。
その先にある未来なのだから。
謝る薫に対して、フィールは感謝していた。もし、気持ちが伴わないまま受け入れられてしまったら、きっとそこで『停滞』してしまっていただろうから。
「自分を客観的に見るのは、難しいものです。自分だって自分がどんな…えーと、怪異であるかなんて他人の評価で成り立つものですし。
少なくとも…私は薫のことを好きですし、守ってあげたいっていう庇護欲が沸いてきます。
これは、私見ではありますが…薫は、本当に『受け入れる人』なんだろうな、とは思いますね。善意も、悪意も。全部ひっくるめて。
自分本位じゃなくて、他人本位。自分の気持ちより、他の人を優先してしまう人。」
思えば、今の今までそうだったのだ。落第街では悪意を一身に受けていて、今は善意を一身に受けている。
「もう少し、我儘になってもいいと思うんですよ、私は」
■黛 薫 >
「……他人本意って、自分じゃなぃ誰かがそーだと
すぐ分かんのにな。自分がそーだって言われると
全然実感湧かなぃ。フィールだけじゃなくて他の
人にも度々言われてんのにさ」
自覚と呼ぶには未だ薄く、しかし他者の目を通して
そう見えていた。その前提に立って動けたのは一歩
踏み出せた証拠でもある。自分の色を持たず相手に
染められるだけなら『黛薫』という個に意味は無い。
「あーし、ワガママだと思ってた。自分のコト。
高望みし過ぎ、貰ぃ過ぎだと思ってたのに……
何か、ヘンなキモチ」
自分を押し殺せば『望み』のハードルは下がる。
人並み以下を当然と思えば、人並みを望むのも
分不相応、我儘に感じてしまうのだろう。
■フィール > 「育った環境が環境ですからね。他人のことを思いやれるのなら、十二分に我儘じゃないですよ」
本当の我儘は他人を顧みず自らの願いに邁進することだ。
かつての自分がそうであったように。
「きっと、落第街で下に見られることに慣れすぎてしまってるんですよ。
自分と相手は対等で。相手の望みを通すなら、自分の望みも通して良いんです。
貰えるものは貰って良いんです。望むだけならタダなんです。
自分の価値なんて、関係ないんです」
■黛 薫 >
「んん゛ー……頭で分かってても慣れなぃ。
自分がしてもらった分、他の人に返すんなら
違和感ねーのに、自分が返してもらぅ側に
なんの、なかなか想像しにくぃのな」
だから他人本意と言われるのだが。
貴女の言葉通り自分を客観的に見るのは難しい。
少なくとも、黛薫には未だ難易度が高いようだ。
かつての我儘を自覚し人に溶け込もうと価値観を
アップデートしているフィールの柔軟さと比して
黛薫はまだまだ頭が固い。
「でも、あれだな。色々場作りしてもらったのに
1日の〆を『ごめん』で終わらせんのは嫌だな。
だから今言ぅタイミングかは分かんねーけぉ。
フィール、今日は色々用意してくれてありがと。
服も買ってくれたし、ご飯も美味しかったし」
■フィール > 「少しずつ慣れていけば良いんです。私は…もう、薫に沢山貰ってますから。」
最初は打算の付き合いで。
薫から、色んな感情を貰って。
薫から、色んな知識を貰って。
特別な想いを、抱くようになって。
薫のお陰で、明日をも分からぬ身から、足を洗えた。
今ある平穏は、全部、薫のお陰だと、思っている。
「どういたしまして。こっちも、楽しく買い物出来ましたし、食事も楽しかったです。
薫も、楽しんでくれたのなら、良かった」
■黛 薫 >
「楽しかったよ、あーしも。掛け値無しに」
傷付いて捻くれた心は容易く元には戻らない。
表の街に完全に馴染むにはそれこそ年単位の
時間が必要になるかもしれない。
しかしどんなに歩みが遅くとも前には進んでいる。
今なら、落第街ではついぞ見られなかった笑顔が
時々見られるようになったのだから。
「買ったケーキは明日食べよっか。
2日連続で贅沢すんのって、ドキドキすんな?」
ソーサーに戻したコーヒーカップが軽い音を立てる。
眠気を覚ます苦い水、程度の認識だったコーヒーは
綺麗に飲み干されていた。
■フィール > 「それは、良かったです」
自分も、コーヒーを飲み終えて。
薫の笑顔に、見惚れる。
「…やっぱり、薫は笑っていた方が良いです。
次は、いつになるかは分かりませんが…また、来ましょう」
資金は限られているのは、解っている。だから、今度は、ちゃんと稼いだお金で、来られるように。
「じゃあ、そろそろ帰りましょうか。」
そう言って、席を立ち、車椅子を薫に寄せる。
店員が気を効かせて外套を羽織らせてくれる。
■黛 薫 >
「ん、またいつか。次回はフィールばっかに
任せねーかんな。あーしも自力で金稼いで
折半くらぃ出来るよーになっから」
車椅子に座って、あとは帰るだけ。
お見送りまで完璧なお店の外に出てから、ふと。
「そーだ、コレも言わなきゃと思ってたんだけぉ。
フィールのドレス、よく似合ってるよ。
フィールは髪も肌も白くて以前の黒ぃドレスも
真逆の色で際立って似合ってたし、赤色だって
白の反対だもんな。フィールのキレイな白さが
目立って、すごくイィと思ぅ」
映画でも、とっておきは最後にお出しするもの。
黛薫がそれを意識していたとは思えないが……
最後の最後に賛辞を投下して帰路に就くのだった。
■フィール > 「…………………」
視線を逸して、マフラーで顔を隠す。
真紅のドレスに負けないぐらいの赤と、湯気に似た呼気が、マフラーの隙間から見えただろう。
恥ずかしさを抱えながら、薫と共に寮へと戻るのだった。
ご案内:「扶桑百貨店 展望レストラン「エンピレオ」」から黛 薫さんが去りました。
ご案内:「扶桑百貨店 展望レストラン「エンピレオ」」からフィールさんが去りました。