2022/08/10 のログ
ノーフェイス >  
「ピタッてしたヤツがイヤ?
 ボクはそういうの視るとけっこう嬉しくなるけど。
 案外、視てるのってコッソリやっても相手にバレるんだよね。
 いっそ露骨にやったほうがまだー、なんて」

いま、首と肩のラインをするりと横目で追いかけてしまったり。
それは敢えてやったことだ。ふんふん、と頷く代わりに鼻を鳴らした。
しかし聞いているうち、笑顔が消え、
疑問の濃くなった表情は、宙空に視線を向けて唇をねじった。

「この島のどこにでもいるような、ボクの私見にはなってしまうけども――」

部屋着。ひとつ手にとってみて、首を傾ぐ。
彼女より2サイズ上の。
という程でも、まだ自分が着るには少し丈が足りなさそう。

「お客さんって…カスタマーじゃなくてゲストとかフレンドとか、そゆのでイイんだよね?」

カスタマーである、ということは流石になさそうだ。
諸々言語化が躊躇われるような基準をさておいて、
ずいぶんと"お客さん"に対して気遣わしいように見えるし。

「お迎えする時はそれ用に着替えるとかはイヤ?
 ひとりでリラックスしている時のキミと、
 だれかといたり、ゲストを迎える時のキミとで、
 あんまり隔たりを設けたくないとか、そんなカンジだったりするのカナ」

単に、部屋着とは別に、応対用の服を用意するのは駄目なのか、と。
デザインの刺繍もささやかなシャツを広げ、彼女のほうを向いた。
膝まで下がる裾丈。だぼだぼになるサイズ感は、確かに"窮屈さ"はない。

「これだけだと、ほんとに部屋着ってカンジ。
 もしくはいわゆる彼シャツ? みたいな」

黛 薫 >  
「……別にヒトのヘキの否定はしねーです」

露骨な視線には当然気付いている。相手もまた
気付かれる前提で見たのだと分かっているので
軽く顔を顰めるだけで咎めはしない。

「流石にそーゆー意味のお客さんだったら部屋着の
 コーナーは見てねーですよ。あぁでも、お客さん
 って表現だけだと語弊があったのは認めます。

 んん……あーしが一人暮らしとかなら別に悩みゃ
 しねーですけぉ。同居人、家族? と、同じ屋根の
 下にはいねーけぉ、同じくらぃ親密な相手……が、
 想定してる相手で。応対用の服は余所余所しくて
 イヤ……ってか、しっくり来なぃのかなぁ」

だぼだぼのシャツのを一瞥して、物憂げにため息。

「あーしが着てたの、ちょーどそーゆーサイズの
 ヤツだったんすよ。んで、あらぬ誤解受けて。

 その相手が下手したらあーしよりあーしのコト
 よく分かってるもんだから、それがホントに
 誤解だったのかすら自信なくなってきて。

 そんで、何か……着にくく、なっちゃって」

ノーフェイス > 「レモネード……」

薄っすら笑んだ赤い唇が、誰に言うでもなくちいさくつぶやいた。
こぼれた吐息は、思わずこぼれた含み笑い。

「親しき仲にも礼儀ありってのは、キミらが生んだ言葉だろ?」

棚に戻す。彼女のお召し物としては、そう、場にそぐわないものだ。

「……ン、ふふ。なにソレ。
 実際にヤってないんでしょ。家族と同じくらい大事なコに言えないようなコト。
 ある筈のない浮気や不義理に、"そうかも"なんて思うぅ?
 誤解だよ、ゴ・カ・イ。 ……誤解なんだよね?ジッサイ」

錯誤をさせた側は、思わず、と言う感じに笑った。

「でも、よりによってそういう誤解を、そのコにはされたくないと?」

みずからの顎に手を添えて、少しずつ解剖していくみたいに。

「それなら、そう――アレだ」

唇のまえに人差し指を立てて。
そのまま大仰に、天井に向けて腕を伸ばした。

黛 薫 >  
脈絡なく呟かれた単語には怪訝そうな表情。
隠喩か連想か、いずれにせよ少女はそれが何を
意味するのか、それ以前に意味があるのか自体
理解出来なかった様子。

「……それはそぅ。極論あーしが我慢さぇすりゃ
 それだけで問題はねーワケですし」

とはいえ『我慢』という表現から分かるように、
本当は問題なくはないのだろう。そうでなければ
態々店に足を運んでまで悩むことはないのだから。

「……アレってどれさ」

やや粗暴な口調ながら、一定の礼節と平静さを
保っていた少女の声音に苦々しげな色が混ざる。

分析の材料になるほどの内容を見知らぬ相手に
口走ってしまった後悔もあろうが、よりによって
その分析内容が年頃の女の子からすれば外聞を
憚るものなら尚更無理もなかろうというもの。

ノーフェイス >  
「キミが特別なんだ」

天に向けて伸ばされた指はそこにあるはずもない一番星を探って、
体のよこにぱたりと腕を落とした。

「そういう格好してみたらどうだい?
 とっても大事なキミのための装い。
 キミにだけみせる、とっておきの仮面」

部屋着と特別な存在。
それを混ぜるからややこしくなる。
結論として、自然体の己と、誰かの前に示す姿の両立は不可能だ。
彼女から聞いた言葉が額面通りの真実なら。

「なんてのを、ボクはデートの口実に使うね」

もう少し上の棚、自分用を探し始めた。

「相手のためだったり自分のためだったり、
 何かを隠したり誤魔化したりするのって、時々必要になるケド、
 キミ以上にキミのことをわかってるなんて恐ろしい存在相手にさあ、
 それって……隠し通せるものなの? 土台無理筋じゃない?
 我慢してます。 それがバレたときにも心から笑ってくれるコなのかな」

リラックスするための部屋着に、なぜか誰かのために気を使う――それだけで?
なんとも気易い調子で、とりあえずひっかかる事柄を問うてみる。

黛 薫 >  
芝居がかった仕草で伸ばされる手を、その指先に
あるはずも届くはずもない星を目で追いかけて。
腕が落ちるより一拍遅れてゆっくり視線を落とす。

深く、長くため息を漏らす。

「結論出すの慣れてやんの。結構遊んでたり?」

籠の中にあった、まだ袖を通していない商品を
背伸びして棚に戻しながらぼやく。気の抜けた
声音を無視すれば刺々しくさえ思える言葉だが、
『慣れていない』彼女が悔し紛れに吐き出した
精一杯の悪態というのが正しいだろう。

「バレるだろーなって思ってたからこーやって
 百貨店にまで買ぃに来てんですー。そーでも
 なきゃ商店街とかのもっと安ぃ店行くもん」

自然体と、誰かの前の自分。両立するのは無理が
あると分かっていたから、お高い物なら或いはと。
そういう意味でも背伸びしていたのだろう。

言い終えた頃には少女の買い物籠は空になっていた。

ノーフェイス >  
「フフフフ。 どー思うぅ? そうみえる?
 第一印象からそーじゃなかったってところで、ボクは喜ぶべき?」

伊達眼鏡のフレームを人差し指でついと押して、戯けた笑いは道化者のそれだ。
悪態は果たして、更に興に乗せるだけのドリンク代にしかならない。
遊び慣れている。 恐らくは今も。

「お求めの商品は、もう少しお行儀のいいブティックにも在庫が御座いますかどうか。
 サンディカにも並んでなさそうなんだったら、探し方からきっと間違ってるのかもね。
 今日のところは――このお店の売上には、ボクも貢献できなさそうか」

肩を竦める。女はといえば、そもそも買い物籠を持っていない。
完全な冷やかしのスタイルだ。

「そのコって、キミが悩んでたり、こうやって困ってたりするところも、
 やわらかーくニコニコしてるようなコだったりする?
 思わず熱を出してしまうような……妖しい星の」
 
少女が参ってしまうような。
そして、ひとりで迷路に迷い込んでしまうような。
細い顎に指を這わせ、妄想で遊びながら、あ、と思い出したように、
にっこりと笑顔を向けた。

「ボクは、そのままのキミでもいいけどね?」

黛 薫 >  
「もし第一印象からそーだったとしても、初対面の
 相手に言ぅほどあーしは口と頭直結してなぃんで」

口にした今は印象どうこうではなくある程度の
確信を持っているのだと言外に。現在進行形で
遊ばれているのだから然もありなん。

「値段、探し方、そもそも需要や在庫自体あるか。
 ココに来るのだって清水の舞台から飛び降りる
 キモチだったんだから、オーダーメイドなんて
 選択肢はあり得ぬぇーですしぃ」

口調にも声音にも変化はないが、さっきよりも
心の距離を感じる。揶揄われたからというより、
貴方の口にした『お相手』の像を気にしていると
感じ取れるか。

「お生憎さま、あーしにゃ遊びじゃなぃ関係の
 お相手がいますので?」

意図的に返事を流したのも探りを入れられたく
ないからだろう。貴方の言葉に靡こうとしない
語気も相まって、彼女の抱く気持ちの一端が
透けて見えるようだ。

もっとも彼女に『遊ぶ』意志が無いのは確かだが、
遊ばれる側……悪く言えば『獲物』としての質は
この上ない。

遊ばれていると分かってなお返事をする真面目さも
そうだが、特に魔力や精気を糧に出来る種族なら
美酒か甘露の如き『薫り』を感じ取れるだろうから。

ノーフェイス > 「いっそ裸で向き合えたら、どれほど楽なんだろうねぇ」

服屋で言っていいことじゃないね。
言った後、口の前に人差し指を立てた。

「愛しい瞳に見つめられる幸せに、
 それ以上の意味や、かしこい戸惑い、
 どうしようもないいろんな事情が絡みついてきてさ?
 めちゃくちゃ難しくさせる。あとは単に、自分に自信がなかったりとか」

そこから白い顎、己の露わの白い喉に指を滑らせた。
隠さない。大胆に。そうしてもっと大きな秘密を、隠さずに誤魔化している。

「どうしても見つからないなら、パーソナルスタイリストでも雇うしかないね。
 サプライズを犠牲にすることにはなるけど、見せたい相手に訊くのが一番手っ取り早い。
 動き慣れない水の下で、わちゃわちゃ駆け引きしようとしたって、足攣って自滅しちゃうから」

いま、もし自分が、もっとも彼女に似合いそうな装いを選んだとして、
それはどう足掻いても"ちがう"ものになる。
大事なピースはここにはない。彼女が前髪の奥から視ている何かは、

「エッ? えー、そっかぁ。残念だなぁ。フラれちゃった。
 わりと可愛いコに親しくするトキは、何割かはそういうの目当てなんだけどなぁ」

大仰にさめざめと失恋に萎れて見せるのは、却ってそれに慣れてる証。
そんな仮面で隠せるほど、彼女の存在の特異性を受容できるのが、眼以外の器官で助かった。
"こういうの"を搾ると、杯いっぱいにちょうどいいのが出来上がって、
よくよくそういうのをもらっていたものだ。なつかしい。
そいつで喉を潤すと、頭にガツンと喰らったように酔えることを知っていて、
だから、そう、とっても、

「喉かわかない?」

ところでさ、って感じで、話題を切り出した。

「いいとこあるんだ。上に――搾りたてのレモネードが飲めるトコ。
 買わないなら行こーよ。 ……あ、もちろんおトモダチとして。
 馬に蹴られるって言葉、まだ流行ってたりする?」

つんつん、と天井を指す指が示すのは、見果てぬ星ではない。
ここに彼女を留まらせれば、いま出ない正解を探し続けることになってしまうかもだし。

黛 薫 >  
彼女が無言で顔を顰めたのは場にそぐわない冗句が
原因ではないだろう。続けられた言葉のいずれかが
図星を突いたと思わしい。

この場に望む装いが無いことは彼女も重々承知して
いるようで、手に持っていた籠は近くに重ねられた
籠の積み重ねの上段に返却された。

「そーゆーの、良くな、可愛っ、は、あーしには、
 あぁもぅ……そゆ話がしたぃなら歓楽街にでも
 行ってりゃイィのに」

生々しい話か色恋沙汰、はたまたその両方に免疫が
無いらしいのと、公共の場でその手の話を話すのを
躊躇う初心な気真面目さ、可愛いと言われ慣れて
いないのも合わさって言いたいことが渋滞したか。
文句の言葉は投げやりに。

そんな折に投げかけられたお誘い、視線に邪な物が
混じっている気がして断れるなら断っていたところ。
しかし数秒の沈黙を差し挟む。

「……つぃてくだけなら」

貴方の口にしたナンパ紛いの言葉は正面にいる
彼女以外にも届いていた。たまたま立ち聞きした
数人の客が面白そうに『視線』を向けてくるから
誘いに乗ってでも立ち去る方を優先した。

ただでさえガードが固い上に心の機微に敏感な
彼女が誘いに乗ったのは環境と幸運が味方した
お陰と言っても良いだろう。

ノーフェイス >  
「ついてく以上のことってなんだろ?
 フフフ、ボクわかんな~い」

オーディエンスの目があるなら、なおさら声高に。
とは言え、この場から離れられれば良いのはこちらも同じ。
手ひどく振られようと目的は達成できたけれど、
なかなかどうして、賽の目の振るう日であるらしかった。

「じゃ、はやく行こ。
 甘酸っぱい話を聞かされて、もうカラカラなんだよね~」

レモネードのような話題はひとまず、飲み下して。
後ろは振り向かない。視線は向けない。
これ以上じっと視てしまうと――彼女に余計なことを感づかれそう。
この膚に触れられることで相手の手指の形が判ってしまうように。

「――あ、そうそう。
 ボクはノーフェイスっていうの。
 いつか必要になるかもしれないから、覚えておいて?」

此方からは、特に誰何はせぬまま。
名乗り返されることが在らば、その名に思わず笑みを浮かべてしまっただろうけど。
甘く薫る気配を背に、なんとなく思い返すのは、看板と店構えだけを知るあの店だ。
――まだ開いているのかな。

ご案内:「扶桑百貨店 ファッションエリア(4~6F)」から黛 薫さんが去りました。
ご案内:「扶桑百貨店 ファッションエリア(4~6F)」からノーフェイスさんが去りました。