2020/07/08 のログ
ご案内:「扶桑百貨店 商店街支店エリア/催事場エリア(1~3F)」にアルフリートさんが現れました。
■アルフリート > アルフリート・フィン・アステリオは異邦人である。
この世界に辿り着いた時に運よく学園側の人間に保護された幸運が一つ。
そして身に付けていた護符を引き渡せば学費と寮の家賃は立て替えようと言われた幸運が一つ。
満月と星の明かりだけを百夜浴びせて生まれる月光石を加工したそれは故郷でも貴重な物であったがこの世界で生活するために必要な資金を思えば安いものであった。
しかしそれだけではただ生きていけるだけでしかない。
この世界で生きていくためには生活するための基盤が必要であり、そのためにはこまごまとしたものに使う資金と、なにより経験が必要であった。
ゆえに様々なバイトを経験し、こつこつとバイト代を溜めては細々としたものに費やされていた。
「ぬかった……」
そして今、大きな市場のようなものだと紹介されて足を運んだここショッピングモールのフードコートで座りこみ、天を仰いでいた。
その膝の上には完全変形超合金 ヴァルキュリアファイターの豪華パッケージが乗っていた。
お値段28000円也。
■アルフリート > 故郷の世界は精霊たちの世界であった。
万物の振る舞いは彼らの機嫌一つに左右され、この世界で言う科学というものは成り立たない。
完璧な形に折り上げた紙飛行機を投げたとして、それが風の精霊の興味を引けばいつまでもいつまでも空を舞い、逆につまらない物だとそっぽを向かれれば投げられた翼は風を受ける事なく地に落ちる。
ゆえに、航空機というものを知った時胸が高鳴った。
鳥に似て非なる姿、まるで研ぎ澄まされた刃のような翼。
精霊に願う事なく、魔術で欺く事なく人の生み出した理のみで空を舞う姿は御伽噺の存在のようであった。
「それが騎士のような姿に変わるとかかっこよすぎるだろう…」
偶然足を運んだホビーコーナー。
そこで流れていた販促PVに完全に心を撃墜されてしまってた。
アルフリート・フィン・アステリオは異邦人である。
娯楽に対する耐性は極端に低かった。
■アルフリート > 生活に困窮しているわけではない。
自分で食事を選ぶ自由を手放せば寮の食堂のお世話になる事も出来る。
だが28000円である。
それだけあればファミレスの1ポンドステーキが何枚食べられるだろうか。
いやそれどころか最初聞いたときは妖精郷伝説と似たような夢物語だと思った食べ放題なるものにも挑戦出来るだろう。
だが、だがしかしそれと比べてこの翼は劣るものだろうか?
自分の手で変形させてギュイーンとか出来るのだ。
手に持って重さを感じる事も出来るのだ。
最高じゃないか?
「最高だよな……」
もうパッケージ裏を見ているだけで気分が盛り上がってくる。
そう、惜しくはない、惜しくはないんだ。
ちょっと金額が重いだけ……。
え、シリーズ?他にもあるのか、そうか…
この翼を讃える歌が!?
最高にわくわくしてきた。
知人にスパルタ式で使い方を叩きこまれた携帯端末を取り出しタイトルを入力。
流れ始めるアニソン。
アルフリート・フィン・アステリオは異邦人である。
でも日本のカルチャーにかぶれた外国人くらいには馴染んでいた。
■アルフリート > うん、やはり勇士を讃える歌はいい。
故郷では吟遊詩人と言えば男だったがこの世界では女性の歌も良く耳にする。
透き通った声音で青空のように歌い上げる曲は情景が浮かんで良いものだ。
「うん……今日は帰るか」
日用品やら本やら生活を豊かにするものを買いに来たはずだが、今日はもういいだろう。
その代わり心を豊かにしてくれるものを手に入れたのだから。
最後にもう一度パッケージを見下ろし、ふと首を捻る。
「メタリックラグナロク特典コード?」
特典、オマケというやつだろうか?
とりあえず明日知人に尋ねてみよう、と箱を袋にしまい込み立ち上がる。
アルフリート・フィン・アステリオは異邦人である。
彼が電脳の空を舞う事になるのはもう少し先の話。
ご案内:「扶桑百貨店 商店街支店エリア/催事場エリア(1~3F)」からアルフリートさんが去りました。