2020/07/29 のログ
水無月 沙羅 > 「……理央さん、随分変わりましたよね。表情というか。
 感情というか、ころころ変わる様になって。
 こういったら失礼ですけど、人間になったって感じですか。」

あの鉄仮面を人にした様な理央が笑ったり恥ずかしがったり落ち込んだり喜んだり、今日のこの瞬間だけでも百面相をしている。
少し前なら考えられなかった光景、それはきっと自分にも言える事なのだろうけれど。
いつだったか本で読んだ、人を変えるのは出会いだけ、というのは、存外間違いではないのかもしれない。
それが私だったのならいいのだけれど。

「嫌ではないですけど……先輩、彼女を連れて、女性用の水着売り場に行って、試着室の目の前で吟味して、店員さんに一緒に駆ってるところ視られて、その後仲良く帰る……みたいな、ありていに言うカップルしてますって周りに言うようなものですけど……恥ずかしくないんですか?
あと、素肌の露出が多いのをこういった場所で見せるのは恥ずかしいと言いますか……せめて自宅とか……、あ、それは先輩が野獣になっちゃうのでダメですね。 はい。
まぁ、えっと、はい、つまりはそういう事ですが大丈夫ですか?」

おそらく分かっていないであろう恋人に、これから自分たちが何をしようとしているのかを懇切丁寧に説明して見せる。
これはいったいどんな羞恥プレイなんだ?
言いながら彼が指さした水着を見ると。

「あ、案外露出少なめの選ぶんですね……。」

ほっとしたような、残念なような。

神代理央 >  
「…それを言うなら、沙羅だってそうだろう。俺と出会った時は、感情に乏しいなんてレベルじゃなかったじゃないか。 それが今はこうやって、笑ったり怒ったり泣いたり。それが、俺はとても嬉しいよ。
……それに、誰かれ構わずこんなに表情を出す訳では無いぞ」

最後の言葉は、ちょっとだけそっぽを向いて。
フン、と高慢そうに吐き出そうとした吐息は、きっと失敗している。

「……ふむ?確かに、女性物の服…まあ、今回は水着だが。 それを一緒に選ぶのは、確かに気恥ずかしくはある。いや、正直凄く恥ずかしいとは思うが。
しかし、カ…カップ……ル、である事は事実なんだから、其処に羞恥心を覚えはしないな。寧ろ、悪い虫がつかなくて良いくらいだ」

少年の羞恥心は微妙にずれていた。
恋愛経験の乏しさ、というよりも、彼女を恋人に選んだ事に恥じる事など一切ないと言わんばかりの口調。
カップルという言い慣れない言葉にどもらなければ、尚良かったのかもしれない。
野獣の件については、丁重に発言を見送った。事実だし。

「…沙羅は、もっと露出度の高い、というか。涼し気な見た目の方が好みなのか?」

恋人の声色にちょっと首を傾げながら、彼女の好みについて尋ねてみる。
尋ねて、しまった。公衆の面前で。

水無月 沙羅 > 「……そうですね、以前はそういった感情は必要ありませんでしたから。
 あるのは、怒りと、憎しみと、虚しさばっかり。
 あぁ、すいません、そういう話をしに来たわけではありませんでしたね。」

油断をすると、薬を服用しているとはいえ、沼底に沈んでいくように狂気に呑まれそうになる。
一瞬浮かんだそれを振り払った。

「……まぁ、理央さんがそういうんでしたら、良いですけど。
 それに……たぶんそういう虫はつかないと……思いますよ。」

あの懇親会の夜、密かにマーキングする様につけておいた噛み痕に、彼は気が付いているだろうか。
もう薄くなって消えかけているだろうが、虫がつかないようにしていたのは此方も同じこと。
先に宣言がしておいたはずだから私は悪くない。

「あぁ、いえ。 これぐらいの方が安心はするんですけど……その、先輩はもっとこう、露出の高い……ああいうのが好きなのかなって。 思っていたので。」

ちらっと見やるのは白い無地の、紐で結ぶタイプの水着。
まぁ、本来はひもで結んでいるように見せる飾りなのだが、水着を選んだことの無い沙羅は知るはずもなく。
男性はこういうのが好き、と雑誌に書いてあったのをうのみにした結果であった。

神代理央 >  
「…いや、構わないさ。そういう話も含めて、色々気晴らしになればと思って連れ出したんだ。 だから気にするな。
気にするべきは、彼氏の事をもやしっことか言う事の方だと思うんだが」

と、最後は冗談の様な口調で締め括りつつ。
穏やかな表情で笑ってみせるのだろう。

「…そうか?沙羅は可愛いから、結構心配しているんだが。
あ、いや。だからといって、他の男子生徒と交流して欲しくない訳じゃ無いし…。 ……何と言ったらいいんだ。上手く言葉に出来ない」

恋人が己に残した"傷痕"には、気付いていなかった。
寧ろ気付かぬ儘、懇親会の後も仕事に励んだ。 その"傷痕"を見てしまった同僚達は、一様に顔を見合せたのだろう。
己の預かり知らぬところで、彼女が残した痕はきちんと仕事を果たしていた、と言うべきだろうか。

「……両方買うか。別に、高い買い物という訳でも無いしな?」

彼女の視線の先。己が選んだ物よりも、幾分露出度の高いソレ。
両方に視線を向けて、ちょっと悩み。
改めて彼女に向き直れば、さらっとお買い上げの提案。
"ああいうのが好き"というのは、決して否定しなかった。

水無月 沙羅 > 「もやしっ子はもやしっ子ですから、悔しければ鍛えてください。」

沙羅は意外と筋肉質なところがある。
腹筋が割れているとかそういうことはないが、普段から引っ越し業者のバイトやら、体力トレーニングを積んでいれば嫌でも筋肉はつくのだ。
幸いなことに、おかげで沙羅は基本的にはスリムであるので、胸が足りないなどという事がなければ大抵の水着は着る事ができる。
余り選ぶのに苦労しないのもそういった側面があるのは確かだろう。

「……先輩。 ひょっとして気が付いていなかったんですか? 肩口。」

怪訝に思って尋ねる、別に自覚しなくてもよかったのだが。
真っ赤になる少年の顔が見たかった。
次いでにそれに気が付いて指摘した女子が居なかったのかも。

「……? 両方買ってどうするんですか? 海では一着しか着ないでしょう?」

途中で着替えるのも面倒くさいので、と注釈をつける。
彼の好みが雑誌に書いてある事と大差なかったというのはうれしい誤算ではあるが、その真意までは読み取れなかった。
そもそもどうして男性がそういう露出の高いものが好みなのか、という点に興味を抱かなかったのが沙羅の少し天然らしいところを垣間見せているかもしれない。

神代理央 >  
「……うむ。努力、する……」

厳然たる事実というものは、こうも人の心を抉るものなのだろうか。
筋肉も当然であるが、異能や魔術を強化して彼女を驚かせてやりたい、と内心決意していたり。 負けず嫌いに火が付いたとでも言うべきだろうか。
因みに、理央はもやしっ子なので水着が致命的に似合わない。
というか、水泳の授業でも課題を終えれば即パーカーである。露出度は控えめ系男子である。

「肩口…?……お前、まさか…。
いや、別に構わない。構わないんだが…俺、気付いてなかったんだぞ…?着替えの時とか、絶対バレてるじゃないか…。こっちから言うのと、知らずバレてしまうのは、こう…心構えが…」

はて、と視線を彷徨わせかけて、直ぐに彼女の真意に気付いてしまう。
結局、彼女の望み通り。 仄かに頬を赤らめながら、ジトっとした視線を彼女に向けるだろうか。
恋人がいることを隠しはしないが、知らない内に広言して回っていたともなれば――流石に、羞恥心が勝る。

「別に海に行くのが一回じゃなくても良いだろう。
…それに、家でも着て欲しいじゃないか。今夜にでも、なあ?」

散々やり込められていれば、少しくらいは仕返ししたくなるというもの。
のほほんとちょっと天然な答を返す恋人にそっと近づくと、その耳元で低く囁いた。
先程と同じ様な光景。しかし今度は、此方も確信犯。引くつもりはなかった。

水無月 沙羅 > 「ふふ、その様子だと悪い虫はついてなかったみたいですね。
 安心しました、りおせんぱい。」

クスクスと笑うのだが、その後の一手が致命的であった。

「……な、ばっ。」

一歩、二歩、後ずさって。

―――それは先輩が野獣になっちゃうのでダメですね。

さっき自分が言った台詞を思い出して、顔を真っ赤にすると。

「り、り、り、理央のけだものー!!!」

絶叫の様な、乙女らしい声を上げて逃げていった。
途中で壁に隠れる様にして顔だけ出すと。

「か、買っていくならお好きにどうぞ!!!」

と告げて。
逃げる先は屋上だからどうせ捕まるし、なんなら同室に住んでいるから逃げ場などないのだが。

神代理央 >  
「…別にこんなことをしなくても、俺に虫などつかぬと思うんだがなあ…」

と、笑う少女に悩まし気な表情。
しかし、己の企みが成功した事を知れば、楽しそうに笑みを零そうとして――

「いや待て、公衆の面前でそれはあんまりじゃないか!」

まあ、周囲の客が微笑ましそうな目で見ていたり生暖かな視線を向けていたり事には気付いていなかったのだが。
因みに妙な怨嗟の視線には気付いていた。敵意にしては妙な視線だな、と思いながら放置していたのだが。
夏休み、百貨店に恋人と買い物に来る男子に向けられる視線など、怨嗟でいっぱいであるのだが。

「……いや、流石に俺一人じゃ………行っちゃったか」

ああいうところが可愛いんだよな、とちょっと含み笑いを零しながら。 のんびりとした足取りで彼女を追いかける事になる。
結局、彼女と二人で水着を買ったのか。 果たして、買った水着は一着で済んだのか。
全てを知るのは、ファッションコーナーの店員(23歳女性独身彼氏募集中)のみぞ知る事なのだろう。

ご案内:「扶桑百貨店 ファッションエリア(4~6F)」から水無月 沙羅さんが去りました。
ご案内:「扶桑百貨店 ファッションエリア(4~6F)」から神代理央さんが去りました。