2020/08/18 のログ
ご案内:「扶桑百貨店 展望温泉「少名の湯」(13F)」にヨキさんが現れました。
ご案内:「扶桑百貨店 展望温泉「少名の湯」(13F)」に羽月 柊さんが現れました。
■ヨキ > 何を隠そう、ヨキは伊達眼鏡である。
近眼であった獣人の頃に掛けていた眼鏡の感触が馴染み深いのだ。
ゆえに、眼鏡を外しても視界ははっきりしていた。
「おお……! これはなかなか、じっくりと楽しめそうだのう」
昼下がりの展望温泉。
男湯の入口を開けるなり、ヨキは顔を輝かせた。
倒れて病院に運ばれたという羽月柊を、湯治へ誘ったのがつい先日。
そうして今日、二人してこの施設へやってきたのだ。
――明るく笑うヨキの腹には、へそがなく。
その背中の中央には、古い刺し傷と葉脈めいた傷跡があり。
どう見たって、尋常の人間の身体つきではなかった。
ヨキ本人は、ちっとも気にした様子もないのだが。
■羽月 柊 >
休むのなら家でも出来る……と言いたかったのだが、
ヨキから湯治への誘いを受けて、最近研究所で働いている日下部理沙にそれが知れると、
小竜たちと一緒に研究所から出されてしまった。
早々に行ってしまったヨキをゆっくりと追いかける。
彼の正面をまだ見れておらず、その腹部の違和感を知らず。
結局今の今まで、柊はヨキを人間だと思ったまま。
そういえばなんだかんだあったが、『同僚』になったという話をしていなかったな…。
「…貴方はいつでも、子供のように元気が良いな。」
先の『トゥルーバイツ』での戦闘で出来た傷痕はまだ消えさってはいない。
前に出すことの多い腕を中心に、なんらかの痕が多かった。
髭こそ剃ってはいるが、身体全身の手入れまでは回っておらず、
体毛が薄い故か、髪よりは淡い紫色が身体に見えた。
魔術の為の装飾品も右耳のピアスも外し、貴重品ロッカーの中。
今男は完全な、何も使う事の出来ないただの"無能力"の人間だった。
■ヨキ > 「ふ。いつでも元気がよいのが、ヨキの取柄であるからのう。
それが友人と過ごす時間ならば、なおさらだ」
にっこりと笑う。
浴槽に入る前に、全身を洗い流さねばならない。
椅子と洗面器を引っ張り出してきて、まずは洗髪。
湯加減を調節し、シャワーをわっと浴びて、シャンプーを泡立てる。
「日下部君が退院したら、彼も労ってやらねばなるまいのう。
して、どうだったね? 彼の働きぶりは」
頭をもこもこにに泡立ててわしゃわしゃと洗いながら、傍らの羽月に尋ねる。
■羽月 柊 >
「…友人、か。ん……。
…そういえば、思ったよりも早く『同僚』になったよ。
俺がこの島の生徒だった頃は、もっと時間がかかるイメージをしていたんだが。」
笑みと友人という言葉のくすぐったさに、少し視線を逸らす。
いや、自分でも素直ではないとは思うのだが。
視線を逸らした拍子に、相手の腹部の違和感を確認した。
へそが無かった。母から子に継がれた時に出来るはずの孔がそこにはなかった。
その視線は彼には分かってしまうだろう。
「ああ、彼はまぁ、火傷だけだったからな…今日の検査でもう退院しているはずだ。
…文句の言いようのない働きをしてくれているよ。
俺の失態で起きた事故だと言うのに、それでも引き下がらずこれからも働くと。
……これまでの問題点を、その身で証明したどころか、彼に怒られてしまったよ…。」
隣に腰かけ、緩慢に身体をシャワーで流す。
その背には少し前に背負っていた翼はなく、新たな腕は消え、痕すら残っていなかった。
■ヨキ > 同僚と聞いて、思わず頭を洗う手が止まった。
泡の塊が、サイドの髪からするりと垂れ落ちる。
「――本当か! はは、これはこれは。
おめでとう羽月、君はちゃんと行動し続けておるのだな」
視線を逸らす相手に反して、どこまでも真っ直ぐに笑い掛ける。
教え子が退院したと聞けば、深く深くほっとして。
「よかった。本当によかった……。
二人して病院に担ぎ込まれたときは、どうしようかと思ったよ。
ふふ。彼、大人しく見えて意志が強かろう?
一度こうと決めたら、決して引かない強さがある。そこが危なっかしくもあるのだがな。
君と日下部君、全く似合いの師弟だとも」
笑いながら、シャワーで頭の泡を流す。
俯いていた顔を上げると、柊からの視線に気付いて腹を軽く叩く。
「……ああ、これか?
ヨキには母が居らぬでのう。『人の姿』になったときから、この腹よ」
牙めいた歯。日本人離れした顔立ち。へそのない腹。
にやりと笑ってみせる。
■羽月 柊 >
「ああ、職員としての島への貢献度と、生徒としての経験でな。
ほぼ書類審査だけでパスしてしまった。
昔は先生候補が、財団の厳しい審査を受けていると聞いた覚えがあったんだがな…。」
常世学園創設当初の教師陣は、常世財団側の審査によって決定されている。
とはいえ昨今は多岐に渡る業務の為か教師不足が進み、
少し経歴が怪しかろうが、教師に就職することは容易かった。
長い髪に湯を馴染ませながら話す。
遠くでは子供同士が走って行って、風呂場では走るなー、なんて聞こえてくる。
「俺の場合はまぁ、その行動があまりに急すぎたらしくてな。
普段でもギリギリの仕事量だった所に無理が祟ったらしい…医者にも怒られたよ。
しばらくは定期健診に来てください、だと。
……若干脛の痛い話に聞こえるな。
そうだな。事故が起きたのだからと解雇通知をしたんだが食い下がられてな。
『俺が気に入らねぇんですよ。傷口をほったらかしにするってのが』とな。
…あんな日下部は初めて見たよ。あれが彼の素なのだろう。」
そうして、漸く男はヨキが元々ヒトでは無かったことを知る。
交流を始めたばかりの男は、まだ知らないことが多かった。
「………そうか。ヨキ、これは差別ではないと先に言っておくが…。」
シャワーを下ろし、手元で音を少し静かにさせて。
「…俺は貴方をヒトだと思い接していた。多く世話になった。
もし、そのせいで不快にさせたり礼儀を欠いたなら、謝っておく…すまなかった。」
そういって男は律儀に頭を下げた。真面目に。
異世界に多く関わる、ただの人間として。
■ヨキ > 「今は生徒が増える一方で、教師はいつでも手が足りて居らぬからのう。
人材となりうる者なら、すぐにでも助けが欲しいのさ」
あっはっは、と軽い調子で笑う。
ヨキ自身、普段から授業以外にもあちこち走り回っている。
美術というマイナーな科目で、気力も体力もあるとなれば駆り出されるのが常なのだ。
シャンプーの後には、しっかりとコンディショナーを髪に馴染ませる。
頭の隅々まで、何とも丁寧なものだ。
「ふふ……。いちどきに無理をしすぎたな。
『トゥルーバイツ』の一件は、それだけ君にとって大きな変化だったのだろう。
驚いたか。そうだよ、それが日下部君だ。
気難しいところもあるが、見聞きしたことには素直に感じ入る。
精々可愛がってやってくれ」
まるで自分の子を送り出すような顔で、嬉しそうにはにかむ。
――そして、頭を下げる柊には。
コンディショナーで髪をオールバックに撫で付けたような格好で、穏やかに首を振った。
「何。ヨキは人間だとも。謝ることは何もないさ。
異邦の出ではあるが――故郷の記憶はほとんどない。
今までどおり接してくれれば、それでよいさ」
静かに微笑んで応え、シャワーで髪を流す。
■羽月 柊 >
「…そうか。安心したというのもなんだが……。
異世界に近い身としては、一応…な。
ヒトとヒトとでも、価値観が違うことはままあるのだから、
擦り合わせておかないと後でひずみが大きくなってしまってからでは遅い。
……それにしても、記憶がほとんどない?」
今まで、そこまで大きく齟齬を起こしていなかったことが確認できると安堵する。
そうして男も髪を洗い始めた。色のついた髪は、泡の白で普段より少し明るい紫になって。
長い分彼よりも洗うのに時間がかかる。
だが、魔術師にとって髪は長い方が良いのだ。
「名実共に先生と呼ばれる身になったが、未だ慣れない、な。
本当に『トゥルーバイツ』の一件が無ければ、こんな風に貴方と………"友人"となるなど。」
ぽつりと、男もヨキを友人と零す。
なんだか気恥ずかしいのを誤魔化すように髪を洗う音を立てた。
「貴方と日下部は長い付き合いなのだな。
初めて逢った頃は悩んでいる姿も多かったが、
懐に入って来るとなかなかどうしてしっかりしているよ…。」
■ヨキ > 「ああ。記憶がないというよりは……記憶を言葉に出来ぬ、という方が正しいか。
この世界に来る前、ヨキは紛れもない『犬』であった。
《門》を潜る直前に、人の姿を手に入れてな。
人の言葉でものを考えるようになったのは、それからだ。
それ以前の――おそらくはるかに永い記憶は、獣としての本能に突き動かされるままであった」
洗い上がりの髪を掻き上げて、ふっと一息。
それからタオルを泡立てて、身体を洗い始める。
「ふふふ。ヨキは君と友人になれてよかったと思っているよ。
こんな風に、少しずつ語らって知り合ってゆければいい、とね。
これからゆっくりと、仲を深めていこうではないか。なあ、“羽月先生”?」
強調するように呼び掛けて、悪戯っぽく吹き出す。
背中をわしゃわしゃと洗いながら、何とも気持ちよさそうな顔をしている。
「そうだな、彼とはもう……五年ほどになるかな。
ふふ。どうやら今や、君の方が引っ張られているようだな。
“生徒に育ててもらう”というのも、悪くない心地であろう?」
■羽月 柊 >
「犬……なるほど。
『言葉と頭脳と五指の両手を手に入れたれば、獣は獣として生きることは出来ない』。
…貴方の言だったな。実体験だったということか。
……息子が貴方によく懐いたのも、そういうことなのかもしれんな。」
泡を流していけば、普段緩やかなウェーブを描く柊の髪は水分を含み真っすぐになった。
それだけで印象は変わって見えるだろう。
水の上を揺らめく照明が桃眼に反射して、ピンクダイヤのように煌めく。
「なんというか、くすぐったいんだがな。
学生時代の友人は多少いるが、大人になってからそう呼ばれると…。
志が同じモノや、似た考えのモノもいるが、
まぁ、……なんだ…、そうだな、友人として、先達として……よろしく頼むよ。『ヨキ先生』」
最初に逢った時に呼んだそれを、今度は同じ立場から。
まさかこうなるだなんて誰が想像したのだろう。本当に人生どうなるか分かったものではない。
「…技術的な面やらでは間違いなく師をさせてもらっているんだがな。
休憩時間にはうちの書斎で本を読んでいるよ。好む傾向が似ているらしい。
……ずっと立ち止まっていたのは俺だからな。
日下部にも、葛木にも、他の生徒にも育ててもらったよ。
彼に至っては、俺の手を取ってどんどん前へ行こうとしてしまう。」
泡を流し終わり、コンディショナーも持参したのを使う。
髪を丁寧に扱いながら、その表情は…柔らかくなっていた。
ヨキが見た、表の街に居た時の大人としての威厳も、
裏の街に居た時の魔術師としての得体の知れなさもない。
そこにいるのは、羽月柊という男。
■ヨキ > 「そう。人間になったとはいえ、どこかで染み付いた獣性が滲み出ることもあろう。
今の身体も、見た目は地球人には程遠いが……人間として在ろうと、人間として見て欲しいとは思っておるよ」
身体の隅々までよく泡まみれにして、シャワーで洗い流す。
洗い方は何とも丁寧で、日頃から気を使っていることが見て取れる。
「……く、ふふ! くすぐったいものだろう? ヨキは常にそう呼びたくて堪らんのだ。
ありがとう、こちらこそよろしく」
にこにこと、嬉しそうに笑う。
改めて髪を掻き上げ、洗顔料を泡立てる。
鏡とにらめっこしながら、横目に柊を見る。
「それが教師というものだ。
教え子に育てられることを躊躇っていては、よい師とは言えぬ。
心に揺るぎなきものを抱き続けることと、伸びやかに変化することはまた違う」
顔を洗う。洗い流す。目尻の紅が、薄付きのファンデーションが、落とされる。
顔立ちに大きな変化こそなくとも、それが素顔のヨキだ。
学内ではおよそ見せることのない、装いを剥ぎ取った顔。
■羽月 柊 >
「…そうか、なら、これからも今までと変わらず付き合うとも。
だがまぁ、ヒト同士でも齟齬は起こる。
おそらく……"君"に、『今更』と言った時の俺はそうだったのだろうしな。
互いにそうなることも今後起こるだろうとは思う…その時は、話し合って行く。」
そうして新たな絆を獲得し、男は歩んでいく。
対話を続けながら、これからも進んでいく。
髪を丁寧に洗い終わり、タオルを軽く巻いてバンスクリップで留める。
後で温泉に入るのだから、髪は上げておかねば。
タオルで石鹸を擦る。
ヨキとは裏腹に、男が身体を洗うのは髪よりもいくらか雑だった。
腕付近だけは傷痕に染みるのか少し慎重だが。
「その変化がもう少し緩やかになるように調整せねばな…。
今のままではいくつ身体があっても足りん。
とはいえ、…悪いこともあったが、
多く恵まれたと思えるよ。生徒にも、君にも。
……もし君が俺の在学中にいたかもしれなくても、同じとは行かなかったかもな。」
そうして装いの無くなったヨキを見やる。
■ヨキ > 「もしも決別のときを迎えたとしても、そのときはそのときだ。
話し合いを重ね、分かり合おうとしたその先にある結果なのだから。
それでも……君とは仲良くできそうな気がするよ。
こうして裸の付き合いで、温泉に入ったりしてな」
己は今、友人として受け入れられたのだと。
思い至って、心地よさそうに目を細める。
「よいことしか起こらぬ人生など、それは夢か死後の世界のようなものだ。
波があってこそ、確かに生きてきた証左なのだから。
……何事にも、タイミングはある。
我々はきっと、“今”出会ったことが最良なのだろうさ」
一足先に、手近な浴槽へ向かう。
程よい湯温に、ああ、と低い溜め息が漏れる。
「学生時代の君が今の君を見たら、きっと驚くのだろうな。
目に見える変化、見えぬ変化……さぞかし多そうだ」
湯に浸かりながら、浴槽の縁に両肘を載せて緩んだ調子。
■羽月 柊 >
「全くこんな短期間で友人と温泉に入るなんてことが、
君に出逢った頃の自分からすればすでに想像もつかん。
昔の友人とは連絡こそ取っているが、こんなに身近な付き合いは無いからな…。
そしてそれほどに目まぐるしく、多くを得た体験だった。
それが"今"という転換期だったのかもしれん。
拾い上げられたことを幸運に思うとも。」
泡を流し、湯でヒリつく傷痕を少し撫でて水で冷やすと、
立ち上がってヨキの後をゆっくり追う。
彼の隣、1人分の間を空けて座り、高い天井を見やる。
全身が湯に浸かれば、ゆっくりと深呼吸。
確か温泉の効能に傷に効くのもあったのだったか、湯治とは言ったものだ。
本当に、こんなにゆっくりとしたのは何年振りなのだろう。
家でも休めるとは言ったが、確かにこれは違うな。
人員が増えてまとまった休みが取れたら日下部も連れて来ようか。
「…まぁ、まず髪と眼の色が違うからな。
昔は本当にただの大変容以前の日本人そのままの色をしていたし……能力も…。」
そこまで言って思い出したように。
「…そういえばヨキ、君は異能について分かったりするか?」
■ヨキ > 「ほう、それは光栄だ。
ヨキは自分が行きたい場所なら、どこへでも引っ張って行きたくなる性分でな。
こうして気兼ねない付き合いが出来るのは、“同僚”ならではさ」
自分の肘を枕にしたまま、隣の羽月を見遣る。
ゆったりと、何とも心地よさそうに顔が蕩けている。
ここまでの無防備さは、これまで柊には見せたことがない類のものだった。
「ほう、髪と眼の色、か。そこまで綺麗に色が変わるものなのだな。
……異能について? さあ、内容によるが。
能力と言うと、君自身に何か異能の発現でも?」
肘から顔を上げる。
縁を背にして真っ直ぐ座り直し、居住まいを正す。