2021/03/22 のログ
ご案内:「扶桑百貨店 ファッションエリア(4~6F)」に藤白 真夜さんが現れました。
藤白 真夜 >  
「……♪」

こっそりと、誰にも聞こえないように鼻歌をうたいながら、軽やかな足取りで。
そう、うきうきの気分で……お買い物なのです……!
それも、デパートのファッションエリアで……!

私はその手のオシャレな楽しみにとんと縁がなく。
はじめてこのフロアに足を踏み入れたくらいなのですが、やはり最初は緊張でかちこちになってしまって。
ですが、色とりどりのお洋服やおしゃれ用品を見るうちに、見る間に緊張はほぐれて。
……もちろん、あまり贅沢をしてはいけませんから、お洋服は今のままで変えられないのですが。
それでも、やっぱり見るだけでも、お買い物とは楽しく。

(これがウィンドウショッピングっていうのかなぁ……!)

あまり女の子らしい楽しみを感じてこれなかった私は、こっそり内心(見るからにうきうきなのですが)、舞い上がっていたのです。

そして、そのまま歩みを進めれば。

(……ここが……!)

そう、本来の目的。

(……コ、コスメショップ……!)

あらゆる化粧品。口紅に、ファンデーションにと、所狭しと並ぶ、それ。
そっちはそっちでちょっと興味はあるのですが、さすがに私にはハードルが高すぎ、ます。

(……ありましたっ)

目前に並ぶ、色とりどりの液体。
綺麗で可愛い、あるいは美しくお洒落な器に入った、それぞれ。
私は、香水売り場に来ていたのです。

藤白 真夜 >  
そもそもの発端は、私はどうにも、血の匂いがこびりついているらしく、(……自分ではわかりづらいんですけどね)
女の子としてその匂いは不味いのでは、ということ。
……とはいえ、これはどうしようもないかもしれません。
結局漏れ出てしまうものは在ると思いますし。

近頃、こんな私でも、幸運にもお話できた方が居まして。
その皆さんが、なぜか皆さん揃っていい香りがするのです……!

(とはいっても、皆さん自覚はあんまりなかったような……。
 ……私の匂いもそうなのかな……嫌だな……)

薔薇の甘くうっとりするような香りのする方や、
思わず引き寄せられてしまう魅力的な香りの方。

(……そういえば、あのひとの薫りは、何かに例えられるのかな)

美しい蒼い記憶や、本が香る緑色の記憶。
想い起こす中で、ふと。

(……というか、薫りなんてしてなかったはずなのですが。い、いや、こう、身体が求めていた薫りというか、そ、そういうのが混ざって感じとってしまっただけというか、べ、別に匂いふぇちなのではとかそういう話では断じてなくですね……!)

頭の中ではわたわたと、何かに向かって言い訳をしながら、ふと気づきました。

「……?」

目の前に並ぶ、いくつもの香水。
それだけでもいくつもの香りが入り混じったものが漂うくらいの。
……でも、そこではないのです。

パフューム。オーデコロン。ムスキー。フゼア。ノート。トップ、ミドル……、フローラル(これはかろうじてわかります!)

「……???」

そう。
お洒落なんてしたことのなかった私は、香水なんてさっぱりわからないのでした。

藤白 真夜 >  
「……い、いやいや。 
 ば、薔薇……薔薇とか。なんか、私の好きそうな香りが、……」

いい香りとともに並ぶ、難しそうなブランドとか、難しそうでフランス語なブランドとか、噛みそうなフランス語のそれぞれを、なんとか頭の中で整理しつつ。
せめて香りで絞ればわかりやすいのでは、そう。思ったのです。
そんな私の目前に並ぶのは、

ダマスク。 (……?)
ゼラニウム。(……別のお花では……?)
ティー。  (お茶!)

(……????)

わ、わかりません……!わからないのです……!
しかも、割とお高い!
最近臨時収入がちょこちょこあったとはいえ、よくわからないものに1万円は結構なハードルです!
無駄遣いは悪いことですし……。

「……う、うう~ん……。
 だ、大丈夫。
 最初の目的を思い出しましょう……!」

思えばあの時も、ふと漂う薫りについていっただけでした。
なら、今もそうするだけ。
別に、ブランドや知識が欲しいわけでもないのですから。

くん、と香りを意識します。
あらゆる香りが入り混じって、なんだかもうよくわからないただのいい香り、になっている中から。
意識して、選びぬきます。

……私の好きな香り。

「……、……――!」

少しの間の後。ある瓶にするりと手が伸びました。

藤白 真夜 >  
私の手が伸びた先にあったのは、緑色の、香水。
林檎に月と矢のモチーフが誂えられた、薔薇の薫りのする、それ。
薔薇の甘く格調高い香りがメインだけれど、フルーツの香りも混ぜられて、少し控えめに香るのだとか。
何よりも気に入ったのは、材料を見ても想像の付かない、私の好きな薫りが混じっていたこと。
……あれはきっと、私の身体自身が、求めた結果の、幻の薫りだとは思うけれど。

(……あのひとは、元気にしているでしょうか。
 今度会えたら、いっぱいお礼をしなくてはっ)

「……ふふ……♪」

お世話になってきた人々を思い起こさせるそれに、私はやはり、うきうきとした足取りで買い物を終えるのでした――。

ご案内:「扶桑百貨店 ファッションエリア(4~6F)」から藤白 真夜さんが去りました。