2021/12/02 のログ
■神代理央 >
「……………」
彼の言葉に返すのは、先ず沈黙。
理解はしているのだ。現状ですら、特務広報部の戦力は自分に過剰に依存している。
勿論、優秀な隊員を抱えてはいる。戦闘能力であれば、自分よりも優れているのではないかと思う隊員も、いる。
しかし結局のところ。『落第街に対する暴力』を振りまいていたのは、自分だけだったのだ。
他に指揮者はいない。打ち手もいない。それ故の畏怖。それ故の武威だったのだから。
「首を飛ばせば民草と変わらぬのは、御互い様さ。
古今東西、ありとあらゆる支配者達も死ねばそれで御終い。
此の島では、死ぬのが先か卒業するのが先か分からんが…。
まあ、そうだな。その点に関しては、お前の言う通りだ」
彼の言葉を否定しない。
"否定しない自分"が、何だか可笑しくて笑ってしまう。
「結局のところ」
パフェをつつく。甘ったるい生クリームの香りが、一瞬二人の間に拡がって。
直ぐにそれは、掻き消えた。
「暴力によって成り立つ正義を是認せざるを得ない程、常世学園という環境は未だ未熟。
…いや、未熟といっては可笑しいかな。成長の途中。成熟へ至る為の蛹、と言うべきか。
こんな方法は、過去人類史において何回も通った道で。それを明確に明悪として断罪するのは人道上の理由でしか無かった。
極論、勝者の立場に居ればそもそも断罪すらされない。
成熟した社会では不要なものだが、此の島では必要だった――」
「――だった、と過去形にしたいところだな」
此の島がこれからどういう未来を造っていくのかなど、己が知る由も無い。
異能と魔術という強大な力を持つ若年層が自治を行い、そこから逸れた者達が一つの街を形成して犯罪を犯す。
人道や倫理では覆す事の出来ない強大な力と純然たる事実。
それを抑え込む為には、武力が必要だった。
いや、今でも必要だろうとは思っている。それが早く必要無くなれば良いな、と願うだけだ。
「……見るに堪えない、か」
クスリ、と笑う。
パフェを崩して、甘ったるいソレを口に運ぶ。
口の中でとろける甘味に、僅かに頬を緩める。
「それで良いのさ。紫陽花。
お前から見て私が"そう"なのであれば、私を模倣しようだの。
或いは同じ様に落第街へ無益な暴力を振るおう等と言う者は
早々現れないだろう。まあ、絶対にとは言わないが」
パフェの山脈が崩れて、飾られた果実が容器の中へと引き摺りこまれていく。
「戦場に常に立つ様な立場からは離れようとは思う。
離れられれば、ではあるが。
だが、それだけだ。今更。或いはこれ以上。
私は私である事を否定も拒絶も変化も出来ない。多分な」
多分な、と。ほんの少しだけ、言葉遣いが崩れる。
溶け落ちていくパフェの様に。
「"此の世界"は成熟していて"此の学園"は成長の狭間。
お前にはお前の思想と理想と理念と倫理がある様に。
此の世界もまた、少なくとも二千年以上積み重なった人理の思想がある」
「私は、それの少しばかり古いバージョンを体現しているだけのシステムさ。それだけなんだ。紫陽花」
「お前が心配してくれているのは、良く分かるけどさ」
心配性だな、と言わんばかりに笑う少年。
その姿は、その時だけは年相応のもの。
許されていれば、同年代の少年少女の様な生活を送る筈だった
唯の少年の笑顔。
■紫陽花 剱菊 >
「阿呆」
全てを聞いた上で、最初に出た言葉だ。
溜息、呆れ、童の背伸びと言えるように相成ったのはつい最近だが
省みれば火を見るより明らかな事で在ろうに。
目を伏せ、眉間に指置き髪を揺らす。
「好い加減、見て見ぬ振りは止めろ。
他者を諭す程大成した訳では無いが、其方は周りに目を向けるべきだ」
「私だけでは無い。友垣の声は幾許と届いている?
……よもや、彼等にまで飛び火せぬと思っている訳では在るまいな……?」
懸想とは言わぬが、友垣と言える間柄なら如何様にいよう。
斯様な彼を"見るに堪えぬ"とさやかに、誰もが言うはずだ。
止め時は未だと誰もが思うはずだ。柵に捉われる様が、余りに無作法だ、と。
平然と流していい事柄でも無い。流石に剱菊の表情もやや気色ばんだ。
是ばかりは資格だのなんだのと言う話では無い。
当人が望むが故のもの。因果な事に、目を向けられれば必ず飛び火しよう。
其処迄彼も阿呆では在るまいに。呆れずにして、何とする。
然は然りとて、楔としては十分で在ろう。
揺らぎは未だ収まらぬ。一人では無理なのは百も承知。
何せ、少女一人の心を動かす為に多くの人間が必要で在ったのだ。
最早骨身に染みた苦労で在る。未だ補習を続ける彼女の事を思い出すと、思わず内心鼻で笑った。
「斯様な社会の仕組み、積み重ねは慮る。
然るに、折節思うばかりだ。斯様、個人はそのしすてむ、とやらには成れぬ」
「人が神に至らぬようにな」
雷神等と畏怖されようと、其れは唯の殺戮者だ。
如何に体現と宣うも虚仮に過ぎぬのではないのか、と。
斯様な笑顔を浮かべられるので在るのなら、ある意味滑稽で在ろうと。
湯呑を掴んだ時に、底であった事に気づけば口角が緩む。
「……今暫し、ゆるりとするか」
まだ茶も飲み足りぬ。
今宵は暫し、がらんどうを嘯く二人で過ごすとしよう。
■神代理央 >
「………周りに、か」
何度となく言われた言葉だ。
そうあろうとして、何度も失敗した。
まあ、戦場に立たねばならない…という自縄自縛に追い込まれていたこともあるのだろうが…。
単に、自分が成長していないだけなのかもしれない。
「…………それを。私以外の誰かに。
私の友人に。大事な人に。誰かに。
憎悪の焔が燃え広がる事を、厭わないのであれば。
厭わないようになれるのなら」
「私は、父様の望む様になれたのかな」
それは、彼に応えた言葉か。単なる独り言か。
ぼんやりと呟いた言葉は、虚空へと消えるばかり。
「……そうだな。人は神にはなれない。
神になろうとして、足掻いてばかり。
そんな無様な男には、なりたくはないな」
まあ、何だかんだ。
彼の言葉が自分を気遣ったものであり。
それを受け止めるべきであることは、理解しているのだ。
その為には、色々と時間だのなんだの、面倒な事が必要にはなるかもしれないけれど。
「………今日は、お前と話せて良かったよ。紫陽花。
私の驕りなんだ。好きなだけ、食べていくと良いさ」
パフェをつつきながら、小さく笑う。
小難しい話はこれ迄だ。
とはいえ、そんな話から離れて。彼に問いかける言葉と言えば。
「……そう言えば"彼女"とは――」
静かな部屋の中で、砲火と剣客は語り合う。
戦場に立つ二人の穏やかな時間は、其処には確かに。
今だけは、きっとあったのだ。
■紫陽花 剱菊 >
さて、注がれた茶に映る口元は緩んだままだ。
ふ、と鼻に衝く如く、鼻で笑い飛ばした。
「……其方も夜遊びは程々にな」
語り草に返しの刃。
公安の目は、何処であっても誤魔化せぬ。
今宵の語りの話題は尽きぬだろう。
ご案内:「扶桑百貨店 元祖本格握り寿司専門店「常世鮨」(回転寿司エリアあり)」から神代理央さんが去りました。
ご案内:「扶桑百貨店 元祖本格握り寿司専門店「常世鮨」(回転寿司エリアあり)」から紫陽花 剱菊さんが去りました。