2020/09/05 のログ
ジャム > 「そうなんだ!
お姉ちゃん、昔どこかのお屋敷にでも居たの?
もともと貴族の出だったりして!」

気品は何気ない動作から生まれるもので、
こうしてスイーツを食べるだけでも育ちの良さをにじませる。
どこで身についたものだろうと軽く語尾を上げる。
自分が慕う姉(ついさっき決定)から切り分けられたパンケーキを、ぁー、と夏の扇風機前で声をあげてやってしまうあの遊びのように唇を開いて。楽しそうに表情綻ばせ。

はむ。
唇を閉じて乗ったクリームごとパンケーキを包んだ。
むふー!満足げに、口を閉じたままの笑みを浮かべる。

「へへー!お姉ちゃんと一緒に食べたらいっぱいいっぱい、美味しくなるー。ふしぎ!
――そろそろ、暑さもひいてきたかな?
本、選びに行こ?お姉ちゃん!」

ローテーブルに添えられていた紙ナプキンで軽く口元を拭いながら、ご機嫌そうに獣耳が揺れる。
そうしてゆっくり、カフェ時間を堪能すれば壁に並ぶ本を指差して。買う前の吟味という名目で色々読み耽ろうと腰を浮かせる。

――それからというもの、両手いっぱいに本を抱えてみたり、読んで数ページでぐいっと顔を近づけて読みふけったり。月下の青い森林を映した写真集を相手と一緒に見ようとしたり。お姉ちゃん、お姉ちゃんと嬉しそうに繰り返しながら賑わう、ブックカフェでのひとときがあったことと――。

セレネ > 「ジャムさん…いえ、ジャムちゃんはなかなか勘が鋭い子ですね?
その通り、私は半年くらい貴族様のお屋敷に住まわせてもらっていたことがあるのです。」

育ちの良さは、己の父を反面教師にしたお陰だろう。
父は己とは真逆で粗暴な人だから。
彼女の疑問には人差し指を立ててせいかーい、と褒める言葉を投げかけ。

可愛らしい八重歯を覗かせた口元が差し出されたパンケーキを一口。
直後喜び満載な声と表情が広がった。

「貴女と一緒に食べたら私も何でも美味しく感じそうです。
――ん、そうですね。面白そうな本が見つかれば良いですが。」

己も口元を拭い、ついでに紅茶を飲んでリフレッシュ。
彼女と共席を立つと己の読む洋書、彼女の読む冒険譚や様々なジャンルの本を読みながら、
種族の違う姉妹がゆったりとした時間を過ごす、九月のある一日の出来事――。

ご案内:「古書店街「瀛洲」」からジャムさんが去りました。
ご案内:「古書店街「瀛洲」」からセレネさんが去りました。
ご案内:「古書店街「瀛洲」」にジェレミア・メアリーさんが現れました。
ご案内:「古書店街「瀛洲」」に修世 光奈さんが現れました。
ジェレミア・メアリー >  
「瀛洲(えいしゅう)」の名を頂く大古書店街、入り口前。
"キッド"は本を読まない。キャラじゃないから。
だけど、少年は本が好きだった。
誰かが描く、物語が好きだった。
だから、いつも電子書籍で好きな本を読んでいた。
今日は彼女に、おすすめの本を教えてほしいと言われ、此処に来た。
部屋で電子書籍を一緒に漁るのも良いけど、せっかくだし紙の本
と言う事で、一人煙草の煙をふかしながら、一人待っていた。

「…………」

軽く時計を見る、集合迄20分前。

「少し、早く来すぎたかな……」

修世 光奈 > それから約10分後
光奈もまた少し早く着くように寮を出ていたが、古書店街の入り口に大きな姿を見つければ、小走りになって
今日は歩くだろうからと光奈はかなり動きやすい姿だ。
密かに自慢に思っている足をしっかりと見せる服装。
そんな服装の光奈が慌てて彼に近寄って。

「わ、ごめん!待たせちゃった?」

時間間違えてないよね?と不安になって端末を確認するもまだ10分前だ。

「あ、と。先に…。今日もありがとね、ジェー君。電話来た時仕事してたみたいだけど、大丈夫?」

先日の電話で話した限りでは…様子は変わりなかったけれど。
人を曲がりなりにも撃った後だから、少し不安になり。
いつものように…彼のパーソナルスペースに入るほど近寄りながら聞いてみよう。

ジェレミア・メアリー >  
さて、とりあえず読みながら待ってようか。
自分の好きなシリーズ邦題「荒野の狼」を。携帯端末を開けば
現れた活字に目を滑らせた。ジェレミアは目がいい。
好きな物語に集中すれば、自然と其の光景が脳内に──────。

「……ん」

聞き間違えることない、彼女の声が聞こえた。
携帯端末を閉じて其方を向けば、見間違えることのない愛しの君。
自然、口元が緩んだ。

「光奈。ううん、此方こそ。……ん、大丈夫。突然電話してごめんね?」

彼女の声が聞きたかったから。
近づいてきた光奈の頭をぽんぽん、と優しく撫でた。
ちょっとした身長差を生かした猫可愛がりだ。

「とりあえず、行こうか。そう言えば、そのブレスレットは……?」

夏祭りの時もつけていた気がする。
差し伸べた手。手と手を繋いで書店街へと入ろうとする。

修世 光奈 > 「よかったー。えへへー。いいよいいよ。すぐには出れないこともあるかもだけど、絶対折り返しするし」

頭を撫でられて上機嫌の光奈。
髪を触ってもらうのは…もちろん、他人に対しては抵抗感はある。
けれど彼の大きな手に優しく撫でてもらうのは気持ちがいい。
つい、光奈もにへ、と笑って。

「おー!今日はよろしくね。ちょっと現代文の成績がさ…、あ、これ?」

元気よく手を繋ぎ、古書店街に入りつつ。
軽く手を振って銀のブレスレットを揺らす。
よくよく見れば、イミテーションではなくかなり高価そうなブレスレットだ

「フレイヤちゃんっていう可愛い子から貰ったんだ。
えっとー……ちょっと複雑というか、私はそうは思えないんだけど、ペットの証なんだって。
これを付けてたら通り魔に狙われにくくなるらしいよ?…まあ、私はどっちかっていうと友達…みたいな感じに思ってるけどね」

特にその相手に対しても敬わず接しているし、先日など一緒にショッピングに行った仲だ。
あっけらかんと言うその姿には特に困っている様子は見られず。
光奈としてはお守り的な要素が強い腕輪の様だ。

ジェレミア・メアリー >  
「ありがとう。そう言ってくれるだけでも嬉しいよ」

ほんの少しでも彼女の事を感じて居たいから。
そんなちょっとした、我儘だ。
恋人だから甘えていたい、そんな感情。

「現代文の成績?光奈、学校の成績って……」

…そう言えばその辺り詳しく聞いてなかったが、なんでだろう。
妙に嫌な予感がする。馬鹿にしているわけではないけど
なんというか、勉強は出来ない気がしてきた。
次いでの言葉に、何とも微妙そうに顔をしかめた。

「ペットって……人の事そう言う風に言うかな……」

友人ならともかく"ペット"。一体どういう趣味をしているんだろうか。
光奈の倫理観はいたって普通だろうし、彼女が言うからには
ニュアンス的には"友達"で間違いないんだろう。
だが、"ペット"呼ばわりはどうなんだ?ジェレミア少年はそう言うのは気にするタイプだ。
あまつさえ、よりにもよって自分の彼女を"ペット"と言う人物に好印象は持てない。
彼女がそう言うなら、それ以上言及はしないが、どうしてこうなるかな。
内心、如何にも独り言ちだ。それよりも今は、デートだ。
手を引いたまま、数多の本の山に視線が右往左往。
紙の本独自の匂いが周囲に漂っている。

「光奈って、どういうお話が好き、とかあるかな?」

修世 光奈 > 日差しはまだ強いけれど、それでも…一緒に居たいと思うのは光奈も同じ。
だから、つないだ手も握手のようなつなぎ方から指同士を絡めた恋人つなぎに自然に遷移していく。
成績の事を聞かれた時にう、と呻いたのは一旦咳払いで誤魔化して。

「んー……何かこう、ほんとに友達みたいな?実はこの前のお祭りの浴衣もその子に選んでもらったんだよ
だいじょぶだいじょぶ。何かあったら相談するし」

自分でも選べただろうが、あのひまわりの浴衣はとてもいいと思えた。
にっこり笑って、デートを続けよう。
ただ、数多の本が立ち並ぶ場所にたどり着けば理由を言わないわけにもいかず。

「どういう………、前に言ったかな?字を読んでると眠くなっちゃうって…
だから、そのー…あんまり難しく、分厚くなくて…えっと、推理とかよりは楽しいやつがいいかな?
後…実は、えーっと…ちょっと成績は全体的に良くはないです…。特に国語!
で、国語の成績上げるには本を読むのがいいよーって何かのブログに書いてあったから、せっかくだしジェー君を頼ろうかと思ったんだ」

成績見る?と端末を起動し、自分の成績を表示しよう。
どれもこれも、赤点ではないがなんとか真ん中と言えなくもない、程度の成績だ。
言っている通り国語の成績が際立って低い。
結構な無茶ぶりを投げかけつつ、ゆっくり古書店街を歩いていこう。

ジェレミア・メアリー >  
「そうなんだ。確かに浴衣、可愛かったな……」

やはり概念的には自分の考えで間違いないらしい。
人の事を言えた立場ではないが、如何にも歪んだ考えは否めなかった。
ジェレミアは光奈に依存している節がある。
過敏と言われればそれまでだが、そこまで彼女を大切にし、そして心配している。
横目で見やった姿も、相変わらず可愛らしい。
元気な姿にその生足は良く似合う。……異能は、やめておこう。

「本当、何かあったらすぐに言ってよ?僕が言えた事じゃないけど
 そう言うの少し、心配になっちゃうな。……ん……」

表示される端末を見るとまた顔をしかめた。

「……うーん」

しごく微妙そうな声が漏れた。
いや、実際微妙と言えば微妙な成績だ。中の下、そう言うに相応しい。
国語の点数だけやけに低い。成る程、活字を見ると眠くなる。
そう言う人がいるのは知ってるけど、彼女がそのタイプか。

「眠いってなんかこう、ちょっと"へっぽこ"みたいだなぁ……」

ストレートに言ったぞコイツ!

「と言うか、無茶言うなぁ。えー、日本の文学本とかなら語彙力つきそうだけど
 ただ読むなら何でもいいし、なんなら参考書のがストレートに勉強した方が……」

少年は大変生真面目だった。
生真面目故に正論をぶつけてくる。困ったね!

修世 光奈 > 「うん。ほら、ショートカットにジェー君登録してるから、危なかったらすぐ電話かけれるよ。…ありがと」

心配ないとは思っているけれど、心配してくれるのはとても嬉しい。
端末に登録されたジェー君、と書かれたアイコンを見せて、いつでも連絡が取れることをアピールだ。

「へ、へっぽこ……!そ、そーいうジェー君はどうなのさ!」

ただ、そんな楽しいデートも一瞬でショックを受けてしまった!
目を見開いて明らかにがーん!と衝撃を受けた顔だ。
本を読んでいるからもしかしたら…という不安もあるが、対抗して聞いてみつつ

「…ぅ、うーー!、その、自分と相談した結果なの!参考書頑張った方がいいのはわかってるよー!
……ジェー君となら、本楽しく読めるかなって、思っただけだし…、それならもう参考書買う!」

手は離さないものの、ぷりぷり怒り始める。
まあ、苦手とわかっていて挑まなかった光奈が全面的に悪くはあるのだけれど。

「ほら、行こー。あっちが何か、勉強応援キャンペーンとか書いてあるし」

テストの後だからか古書店街も気合を入れているようだ。
忠告は忠告として受け取ったのか、怒ってはいるもののぐいぐいと彼を引っ張っていこうと。

ジェレミア・メアリー >  
「ショートカット、か……」

そこまで愛されているのだろうか、自分は。
昨晩の問いかけが未だ喉元に引っかかっている気分だ。
何とも言えない表情のまま、少し帽子を目深に被った。

「ん、こんな感じかな」

自分の成績を問われると宙うを指先で叩く。
ホログラフモニターが開かれるとキッド…ジェレミア・メアリーの成績が出てきた。
大よそ真ん中より上の数字とグラフが並んでおり、委員会的事情を抜けば欠席や早退もない。
単位も溢れる程あるので、所謂"模範的な生徒"の成績としては悪くないだろう。

「風紀の仕事をしてると単位も貰えるから、その辺はありがたいよね」

アウトローの裏にはちゃんと、少年らしく勤勉な下積みがあるのだ。
さて、かく言う光奈はと言えば……怒ってしまった。
ちょっと意地悪だったかな、と困り顔で頬を掻いて、首を傾けた。

「僕が言った手前だけど、参考書よりも多分一緒に勉強した方が……っとと」

そう言う最中、引っ張られてしまう。
結構猪突猛進気味と言うか、何と言うか。
まぁ、可愛いけど。

「ないよりはマシだと思うけど…国語がダメ…なんだっけ?
 教科書に載ってるお話とか、後は……国語かぁ……」

何がいいかなぁ、と思いながらキャンペーン棚の参考書やらを眺めながら、視線を巡らす。
せっかくだし、そう言う活字多めの読みやすい文学本もありかもしれない。
問題は、彼女の眠気がどれほどのものなのだろうか。
……ちょっと、試してみようかな。
何気なくとったのは『錦鯉』と言うタイトルだ。
貧困層に生まれ育った男が、成りあがるお話だ。
文体もそれとなく普通で、難しい文章もない。読みやすい本だ。

「光奈、これちょっとだけ読んでみて?」

修世 光奈 > 「そ、そんな……仲間だと思ってたのに……!」

彼の呟きと葛藤は、広げられた成績によって光奈の頭はいっぱいになっているために、押し流され。
その格上の成績に、更にショックは深まった様子

「その辺の単位はむしろ無いと困るし、それはいいんだけどね…」

風紀委員とは危険な仕事。
だからそれで単位が貰えるのは当然の報酬とも言えた。
彼が『仕事』をしている現場を見ているから、猶更。
怒っているとはいっても、手は離れないことから本気でないこともまた伝わるだろう。

「数学とかはまだ、ちょっとわかるんだけどねー。どうにもお話を問題に出されると弱くって…ほら、作者の気持ちを答えよーとかさ。
ああいうの答えようとして、じっくり読んでたら眠くなっちゃって集中力がねー…。ん、これ?」

彼を引っ張っていたはいいものの、参考書など光奈にはよくわからない。
まだ、勉強が苦手という意識があるのか、自分に合ったものを探すのも苦労しているようだ。
そんな中、彼が差し出してくれた本を手に取る。
文学本、というだけで少し顔がしかめられるが、立ち読み可となっているそれを開いてみよう

「………………………」

最初は、しっかりと目が文字を追って……

「…………………………、う。ちょっと目が辛いかも…」

彼の手前、何とか序章程度までは読めたが。
途中から顔を更にしかめていたから、内容が頭に入っているかどうか。
きゅーーっと目を瞑ってから、本を閉じて棚に戻そう。

ジェレミア・メアリー >  
「いやいや、仲間って……」

気持ちはわからないでもないけど、こういう成績の良さが
キッドのお目こぼしをもらっている理由にもなっていたので
実は案外褒められないと言えばそうだ。
この辺りは性分なので、"キッド"がいなくても同じだったかもしれない。

「うん、それ。とりあえず読んで。面白い話だよ。
 主人公が男気溢れててさ、人情の……」

当然この辺は読んだことはある。
主人公が魅力あふれる人物であり、面白い場所をネタバレしないように説明していく。
意外とオタク気質なのだ。さて、彼女の集中力がどれほどのものか…見守るとしよう。
光奈に寄り添うように、隣でその動向を見守っていく。

「…………」

「……光奈?」

あ、なんか既にうとうとし始めてる。
如何やら寝落ちはしなかったようだが、思ったより持たないようだ。
眠そうな光奈の体を支えながら、書店の中でどうどうとぎゅっと抱きしめた。
厚く、大きな体に包まれ、眠気覚ましついでに頬を撫でた。

「うーん、思ったよりも早かったね。もしかして、字が苦手?
 そうすると、参考書でも寝落ちしちゃいそうな……」

修世 光奈 > 何とか、彼の注釈を受けて。
確かに面白いと思い始めるものの。
文学本に慣れていないと、字とは中々頑張っても追えないもの。

「あ、ちょ、っと。もう、大丈夫だよー。流石に立ったまま寝たりしないって」

勉強などで座っているとちょっと危ないが。
抱きしめられると、恥ずかしがりながらもそのまま彼の腕の中に収まる。

「字もそうだけど…なんていうか…うーん。なんだろう、一人の時は…そんなに物語に興味が持てないからかな?
本を読んでるより依頼をしたい!って気持ちがあって…」

今は彼の注釈があったからこそ何とか最初は読めた。
彼の応援があれば、休み休みなら読めそうだと思えるほど。
けれど、これを継続して…と考えると中々難しい。

「…やっぱり、迷惑かけちゃうけど、ジェー君に教えてもらう方がいいかなあ…
もしかしたら、学業で引っかかって卒業できないー、とかなったらヤだし」

しゅん、と少し落ち込みつつ。
忙しい彼にこれ以上手間をかけるのはどうなのだろうと悩んでいる。
彼と約束をしたから、卒業はもちろんしたい。
異能がもっと発展性があればそういったところで別の単位を取れたかもしれないが。

それほど目立つ異能ではない光奈にとっては学業はとても重要だった。

「ね、次のテストまで間があるし…全体的に教えてくれない?
数学とかもジェー君より点数低かったし…」

なんとなく、そういったところで…彼にふさわしくないのでは、という思いが浮かび。
ただ、自分で頑張ることも難しいから、結局彼を頼ってしまうのだけど。

ジェレミア・メアリー >  
書店内は空調が聞いているから結構涼しい。
だからこうやって抱きしめても、お互い迷惑じゃないだろう。
光奈の暖かさ、光奈の匂い。自然と気持ちは落ち着くけど
ジェレミア自体は、何処となく浮かない表情だ。

「ハハ、本当に元気で動きたいんだね、光奈」

エネルギッシュって言うんだろうか。
アウトドア派の権化と言うか、そんな元気な所が好きだった。
確かに彼女は本なんかよりも、外で誰かのために走ってるのが似合っている。
自然と微笑みを浮かべて、彼女の頭に顎を乗せる。

「迷惑なんかじゃないよ。僕は、光奈の他の身なら何でもやるつもりだし
 まだ一年生だけど、飛び級の事考えてさ、二年の科目も予習してるから」

全ては彼女と一緒に未来を掴むために、彼女と同じ時間を生きて居たいから。
だからまずは、自らの与えた役割と、この学園の役割を全うし
綺麗に卒業してみせる事。きっと、卒業するだけなら難しくはないはずだ。
だけど、自然と抱きしめる腕に力がこもる。


────────"何処まで、棄てられる"?


あの時の問いかけが、まだ胸に引っかかっている。
やっと見つけた、彼女と言う光を手放したくない、手放せない。
そして、彼女に何か言われたとしても自分は何処まで────……。
震えた声が、光奈の耳元で囁きかける。

「何でも、教えるよ。知ってる事しか教えれないけど、だから……」

修世 光奈 > 暑くても、光奈がよほど汗をかいていない限り拒絶はしないだろうが。
それでも、身体を悪くしない程度に涼しいのはありがたい。
何故か浮かない顔の彼を下から見上げて。

「なんでもって…、え、飛び級!?お、追い抜かれないかなあ…」

どうにも、不安が抜けない。
あはは…と笑いつつも…彼ならすぐに3年生になれそうな気もする。
自分も、何とか今まで学年を進めてきたがここで少し詰まってしまっている。
そんな思いを口に出しつつ。

「ん。…だから、勉強を教えてもらおうかなって――――」

どうしたのだろう。
今日の彼は少し元気がないというか。
何かあったのだろうか…と思っていたところに、聞こえてくる囁き。
店内の他の誰にも聞こえない声だが光奈の耳にはきちんと届く。

口を噤み、しっかりと笑顔を見せ。

修世 光奈 > 何事かを囁いた後、少しだけ背を伸ばしてちゅ、と彼の首筋に唇を当てよう。

「…じゃあ、今度勉強教えてよね。ジェー君の部屋で、二人で。
それと、そんな顔になるまで抱え込まないでよ?さっきも言ったけど、連絡は取るようにするし…
ジェー君の笑顔の方が、私は好きだよ」

にへへ、と笑って。
励ましになっているかはわからないが。
少なくとも『その』つもりはないと告げる。

ジェレミア・メアリー >  
「───────……」

強く、強く抱きしめた。
離さないように、"離されないように"。
彼女はそう言ってくれている。
そうだ、自分たちとじゃ、ああいう状況は違う。
だから、だから大丈夫なはずなんだ。
前向きになろうとしているけど、未だ彼女と煙草<クスリ>に依存している弱い精神は
"嫌な事"を考えて、そしてこんな不安に駆られてしまう。


……起こらないのが一番だと、先輩は言った。


わかっている、そんな事はわかってる。
そんな事にはならない、ならせない。
光奈の言葉に小さく数度、頷いて、首筋に落とされた口づけにちょっと目を見開いた。

「……光奈……」

気恥ずかしげに名前を呼び、キスされた首筋を撫でた。

「ありがとう……急にごめんね。うん、大丈夫、大丈夫だ……
 それじゃぁ、勉強の為にも幾つか何か買ってこうか。それと……」

「オススメの本があるんだ。西部が舞台のさ、男の向けの本だけど……
 『荒野の狼』っていう、ハードボイルドな小説。ちょっと文章が固いけど、光奈にも読んで欲しいんだ」

「主人公の名前は、"キッド"。僕の好きな、小説なんだ」

修世 光奈 > 「うん。べんきょーは苦手だけど…頼りになる先輩で、…恋人な私は、いつでもジェー君の傍にいるよ」

ちょっと痛いくらいに抱きしめられても。
それが彼の不安を和らげるなら痛いなんて言わず。
疑問形ではなく、はっきりと断言する。
そして、大丈夫、と言われれば、まだ笑顔のまま

「おー!ジェー君が選んでくれるんなら…。………ん。わかった。読んでみるよ。
…ジェー君が好きなモノなら、私も興味あるしさ。
その代わり、また今度良かったらボルダリングとか行ってみない?ジェー君、結構やれると思うんだよねー」

言葉の途中で、薦められた本を大事に抱く。
それはきっと、彼の原点に近い物語だから。しっかり、しっかり読んでいこう。


そして続けるのは、未来の話。
まだまだ彼と遊び足りないし、したいこともたくさんある。
彼の身体もそう。
光奈は彼の筋肉も好きだが、彼はあまり良く思っていない様子。
だから、身体を仕事以外で動かせば少しは自分の身体を好きになってくれるのでは、という思惑もあり。
先に、勉強会ではあるものの、またその次の約束もしようか。

「じゃ、選んで選んでー!ジェー君も何か欲しい本があったら先輩が奢ってあげよう―♪」

今度こそ、と意気込む光奈。
前はカッコよさに絆されてしまったが、今回は…ジェー君が好きな本をプレゼントしてあげるのだ、と張り切って。
一緒に、勉強の本と、彼の好きな本を探していこうと。

ジェレミア・メアリー >  
「光奈……、……」

傍にいてくれる。とても心強くて、嬉しかった。
傍にいてくれる彼女が、『その対価として自分の何かを要求』してきたら…────。
いや、よそう。彼女に限って、そんな事はない話だ。
邪念を振り払うように首を振れば、ちょっとぎこちなくはにかんだ。
彼女が好きだと言ってくれた、笑顔を向けた。

「うん、読んで欲しい。それで、知ってほしいんだ。俺<カレ>の事……」

子どもが憧れるようなアウトローヒーロー。
ハードボイルドな世界観で生きる、彼の事を。
俺<ジブン>の事を知ってほしい。
名残惜しいけど、彼女を開放するように腕の力を緩めて離れた。

「ボルダリング?うん、いいよ。スポーツは嫌いじゃないし風紀で結構、動くからね」

彼女ほどかはわからないけど、体を動かすのは得意だ。
この筋肉もそのためにつけたようなものだ。
キャップを目深に被り、頬を掻いた。
何時もなら遠慮するつもりだったけど、今日は彼女に花を持たせてあげよう。

「それじゃぁ……これ。前から気になってたんです」

何気なくとった本。紙の本を手に取るのは久しぶりだ。
邦題『朧姫』と背表紙に書かれた本だ。

「……最近、気になってしまった本ですね。
 とても生真面目な女の人が、好きな人の為に自己犠牲を働くお話、かな……」

ある女性の事が、脳裏に浮かんだ。

「いこうか、光奈。この近くに美味しいお店もあるから、そこでご飯食べよう?今度は僕が奢るよ」

修世 光奈 > もし対価云々、を聞かれたなら。
もう十分貰ってる、と光奈は答えただろうが。
問われなかった以上、その答えは風に攫われて。

彼は…やっぱり、笑ってる顔がいいな、とそう思う。
その笑顔の助けに光奈がなれれば…それはとても嬉しい事だ。

「わかった。絶対読むよ。興味が出たことには強いんだから!」

勉強が苦手なのは、昔から…どうしても興味がわかなかったから。
けれど、彼と一緒に卒業する、という思いのためなら頑張れると、そう感じる

「自己犠牲、かあ…。感想もまた聞かせてよ。段々本も読めるようになるかもしれないし
私も、この本の感想言うからー」

本もまた、苦手だが彼が薦めてくれるのなら心情に正の補正もかかるというもの。
彼が選んだ本と、彼が選んでくれた勉強の本を購入した後。
少し重い紙袋を持って、1つの書店を後にしよう。

「む。なるほどそーきたね。…うん!わかった。…じゃあ、食べて帰ろっかー」

今度はおごってくれるという彼に、緩い調子で笑いながら。
片手に自分の分の紙袋。
片手は、彼の手にまた絡めて。
きっと、また楽しいであろう食事を取るために、美味しいお店に向かっていこう――

ご案内:「古書店街「瀛洲」」から修世 光奈さんが去りました。
ご案内:「古書店街「瀛洲」」からジェレミア・メアリーさんが去りました。