2021/03/12 のログ
ご案内:「古書店街「瀛洲」」に黛 薫さんが現れました。
黛 薫 >  
古書というものには、新書にはない魅力がある。
ポピュラーなジャンルなら単純に安く手に入るとか
絶版になった本と出会えるとか。場合によっては
本そのものが積み重ねた歴史を感じられるような
まさしく『古書』というべき代物もある。

そんな古書の浪漫はさておき。

古書店街にはそんな浪漫からかけ離れた理由で
訪れる利用者も結構多い。つまり、新書と違って
縛られていない本が多いから暇潰しの立ち読みに
向いているということ。

黛薫も普段はどちらかと言えばそっち寄り。
たまに珍しい魔導書を探して大枚叩くこともあるが
本目当てで他の客に『視線』を向けない人が多い
古書店街は数少ない安息の場でもある。

黛 薫 >  
そんな彼女は今日、珍しく真剣な顔で魔導書以外の
本を読み耽っていた。暇潰しというには少し熱が
入りすぎている。

さて、そんな本の題名は。

『脱コミュ障!楽しい会話をするために(入門編)』

……繰り返しになるが、本人は至って真剣である。
題名からして胡散臭いとか、そんな本に縋らざるを
得ない時点でもうまともなコミュニケーションなど
望めないのでは?とか、そんなツッコミを入れて
くれる友人は彼女にはいない。

黛薫は先日、珍しく『違反学生として』ではなく、
『ただの女の子同士で』会話をする機会に恵まれた。
いかにもお淑やかな、多分先輩の女学生を前にして
お話できたのは随分久し振りの、貴重な体験だった。

結局、終始リードしてもらう形で邂逅を終えて、
(一般的に見れば悲惨ながら)彼女としては珍しく
まともに会話が出来た(と思っていた)……のだが。

黛 薫 >  
一晩経って冷静になった彼女は、昨晩の会話を
思い出して気付いてしまった。

(もしかして、あーしの対人能力低すぎ……?)

和やかに話しかけてくれた少女に対し、不審な挙動を
繰り返し、最終的には精神が不安定になってその場を
辞した。今にして思えば申し訳ない。

そもそも、昨晩に限らずここ最近誰かと会話して
終始冷静に話を終えられたことがあったろうか?
いや、ない。違反学生だからどうこうとか以前に
対応が人間として終わっているのではないか?

黛薫は発奮した。必ず絶望的なコミュ力を改善
しなくてはならぬと決意した。黛薫には対話が
分からぬ。黛薫は一介の違反学生である。
酒に溺れ、煙草と薬物に依存して暮らしてきた。
けれども己のダメさに対しては人一倍敏感であった。

必要なのはコミュニケーション能力の改善ではなく
メンタルケアでは?と指摘してくれる親切な人は
残念ながら彼女の周りにはいない。

そうして、彼女は今日丸一日かけて対話関連の
実用書を読み漁るに至った。なお、成果はお察し。

ご案内:「古書店街「瀛洲」」に藤白 真夜さんが現れました。
藤白 真夜 >  
古い紙の薫りに包まれながら、静かに頁をめくる音が流れる古書店。
ゆるやかに流れる時に身を任せて。
あるいは、目前に現れる未だ見ぬ書との出会いに胸をときめかせながら。
それぞれの理由で書物を楽しむ書店において、

「む、むむっ……」

錬金術の参考になりそうな書物を手にしながら、呻く物体が、ひとり。
理由はいっぱいありました。
モノに頼る前に練習すべきでは、とか。
ちょっと上達したからって調子に乗りすぎでは、とか。
そもそも、私程度が読んでも何の参考にもならない可能性アリ。
……挙げ句の上に、とんでもなくお高いのでした。

(お金はアルバイトであると言えば、あるんですけど……)

「……あら?」


ふと、漂う古書の薫りに混じって、嗅ぎ慣れたような甘い薫りが、漂って。
顔を上げると、女の子が、ひとり。
ああ、私と同じで買うか悩んでるのかな、と思いつつも。

(……あ、あれ?なんだか、……あれ?ひ、引っ張られるというか、なんだろう……?)

あの娘を見ていると、無償に、不思議と、何かに引き寄せられるかのように、目線が吸い付きました。
……気付くと、体も歩き出していて。

「……あ、あの~。……こ、こんにちは……」

気づけば、声をかけてしまっていたのでした。

(……し、しまったァーっ!な、なにしてるのわたし……!)

自ら声をかけておきながら、早くも取り乱しながらも。
この方の近くにいると、不思議と安心して。するような。気がするのでした。

黛 薫 >  
「オァ」

人間という生き物は、集中しているとなかなか
周囲の様子に気付けない。とはいえ黛薫は異能の
お陰で人の接近には気付きやすい方。

ふと視線を感じて顔を上げると、そこには黒髪の
少女が1名。声をかけられた、という現状に頭が
追い付くまでに数秒。

「お、おはようございます!」

今は夜です。

……彼女の手元にある本、広げられたページには
『仲良くなるためにはまず挨拶が大事』という旨の
内容が記載されていた。読書から会話に切り替える
余裕がなかったのだろう。

「……今のナシってことに……してくれませんか……」

真っ赤になった顔を両手で覆う。

藤白 真夜 >  
「あッ、は、はい!そ、そうですよね。おはようございます……!」

まるで参考書に載っているかのような、挨拶。
私のように挙動不審でなく、挨拶とははきはきと。
そう教えられたように、私も背筋を伸ばしてお返事をすればっ。

「あ、は、はい。 ……、……こ、こんばんは……」

顔を覆う小柄な女の子を見て、私のほうこそ赤くなって縮こまるのでした。
……そして、私は実はそれどころでなく、困窮していました。

(ど、どーするのっ……!別に、私そんなに会話うまくないしっ。そもそも、話しかけるつもりでもなかったというか冷静に考えると甘い薫りとか全然してないしでもこの人の近くだとなんか落ち着くし、……そ、そういう異能?いや、でも、そもそも、なんか近づきたかったので近づいて気づいたら話しかけてましたとか絶対言えないですっ……!)

渦巻く脳内に、つられてうずまきそうになる目を必死に堪えて。

「……あ、あのー。……そのパーカー、可愛いですね」

あはは、と照れ隠しに笑みを浮かべながら。
自分から話しかけて何も言わないとかいう不審者にならないためにも、実際に思っていたことを。
そう、私はこれでも動物が好きなのです。嫌われまくりですが。

黛 薫 >  
「あ、分かります?あーしもコレ、お気に入りで」

相手から話題を提供してもらえてほっとした反面、
これではまた先日の二の舞になる、と危機感を抱く。
何とかこちらからも話題を発展させなければ。

「このパーカー、線とか内側の色とか?
色々バリエーションぁったみてーなんですけど。
このくらいのサイズのやつ、殆ど売り切れてて。
青?緑?みたいな、コレだけ残ってたんす。
他にも白とかピンクとか、あったらしいすけど」

大丈夫だろうか、ちゃんと会話出来ているか?
軽く息を吸って、吐く。鉄が錆びたような匂いが
したような気がしたが、古書の匂いを嗅ぎなれて
いないお陰で錯覚を覚えたのだろうか。

藤白 真夜 >  
「分かります~っ!私、そういうのパジャマしか持って無くて……。
 猫さんも捨てがたいのですが、ウサギさんなのがいいと思います……!」

(かといって、私が着るには、似合わないんだろうなぁ……)

「ぴ、ぴんく……!ピンクはちょっと、勇気が要りますね。私なら、白かな……」

実際のところ、オシャレをする勇気は私にはあまりなくて。
着こなしている少女が羨ましくもあったのですけれど。

(……。)

「……」

(……い、いけない……!私の会話デッキは、もう空っぽ寸前……!)

内心焦りながら、なにかこみゅにけ~しょんを、と空転する頭で。

「でも、あなたのそれは、その色でとても似合っていると思います。
 あなたの瞳と同じ。エメラルドみたい、ですね」

ふと。このかたの瞳を見つめたら、自然と言葉が出てきてしまっていて。

(……。……し、しまったァーっ!こ、これではなんだか口説いているみたいとか思われてしまいませんか……!?ち、違うのです。女の子同士でそういう心配はされないかなとかいや私のほうが大きいですしなんだかそういう事案にならないかなとかいやそもそもなぜかこの方に惹かれてしまったのがこんな事を考える元凶で、な、なんでだろう?そういう体質なのかなぁっ……!き、聞いてみる?失礼じゃないかな!?)

黛 薫 >  
「あー部屋着……イィすよね、人に見せない前提の
服ってカワィイの多くて、あーしも欲しいなって
思ったんすけぉ、着る機会とか場所とか考えると、
ちょっと勇気出なぃんすよね。何より似合うかって
問題もあるかんな……多分、あーしが着てて違和感
ねーのは、このパーカーが限度っす」

と、珍しくまともに会話を繋げることに成功して
若干浮かれていたのも束の間。際どいところに
パスが飛んできて、見てわかるほどに狼狽する。

「ひとっ、にぁっ……えぁ、ぅ、あーしは、その。
あんま、意識したコト?ねーですけど?てか、えと、
んな、言われっ、たコトも、てか、鏡とかも、な?
持ってないし、顔隠してるし……」

頭が沸騰するようで、咄嗟に良い返しが浮かばず。

「いぁ、でもっ、あーしはあーたの目もキレイだと、
思ぃますよ?赤って、ホラ。ウサギの目とかも?
そういう色、して……ます、よ、ね?」

動揺のままに、際どいパスを投げ返す。

藤白 真夜 >  
(うっ、うあ~~~っ……!)

見るからに、恥ずかしがらせてしまいました。
そんなこのかたを見て、私も恥ずかしいのです。な、なぜこんな歯の浮くようなことを口走ってしまったのかっ……!
というか顔をじっと見ていることがバレしまって余計に恥ずかしいというかっ……。

「……っ、へ、ぇっ?あ、あは、はっ。……いえ、ありがとうございます」

一瞬、頬が赤くなりますけど――、少しだけ、冷静さを取り戻して。

うさぎさんのような目。
そう言ってくれるのは、嬉しくて。間違いなく、褒めてくれているのだと。
実際、うさぎさんは可愛らしいですから。
でも、私は少しだけ落ち着けました。
もちろん、お互いにものすごく恥ずかしがった後だから逆に落ち着けた、というのはあるのですが。
私の瞳は、まず血の色だと、そう思っていましたから。

ほんの少しだけ、落ち着けた心で。
素直に、疑問を口に出すことにしたのです。

「あの。……失礼ながら、何か特別な異能とか、お持ちですか?
 私、さっきから、そ、その~……っ」

(……だめです。またすぐ顔が赤くなってきました。恥ずかしいです。が……)

「あ、あなたに、惹かれて、いまして……
 あ、あの!へ、変な意味ではなくてですね!?
 そもそも、名前も知りませんし、さっき初めて会いましたし……
 気付くと目で追っているというか、足が勝手に向かって――ってこれさっき読んだ恋愛小説の!!
 あ、あのぉっ、わ、わかるでしょうか?ひ、引っ張られてしまうというか、そういう、体質とか、異能に心当たりは……!」

もう、わやくちゃです。ちょっと涙目かもしれません。

黛 薫 >  
もしかしたら、今自分はかなり恥ずかしいコトを
口にしてしまったのでは?気付いた頃には後の祭り。

古書店の片隅で顔を真っ赤にしながら慌てる女子
2名の姿を見る客がいたら何を思ったことやら。
幸いにして他の客はいなかったか、いても不躾に
注視することはなかったようだが。

と、ひとまずある程度の落ち着きを取り戻し、
当たり障りのない雑談に軌道修正……出来たら
良かったのだが、2発目の際どいパスが直撃。

「惹かれ、恋愛……っ、て、いや、いや?!
あーしにそっちのケは別に、ってかそもそも
そういう気持ち?とか?まだなんすけぉ!?
いぁ違、えっ異能??」

そろそろ店主に怒られそうな声量になってきたが、
何とか変な誤解をする前に発言の意図は読み取った。

「あー、ぁー……いぁ、あーしの異能は……そういう、
引き寄せる系?とは違ぃます、ね?んぁ、でも……
そいえば、何かそんな話、忠告?されたコトあった
気が、んー……?

あ、アレか。なんか占い師?みてーなアヤシィ人に
霊とか怪異とか?に好かれやすぃ?とか言われた
コトならあります。いぁ、ホントなのかどうかは
知らねーですけど……」

藤白 真夜 >  
「は、はいぃ~~っ……!わ、わたくしなどには恋愛など、こう、手も届かぬといいますかぁ~~っ……」

かろうじて。
いや本当に。
全く、その気はないのだと。
自分のようなものに恋愛など……いえそもそも恋愛ではないのだと……!
なんとか伝わるまで、頭をぺこぺこ下げながら、なんとか、話が伝われば。

「……、霊……?――」

けれど、その話を聞いて、数瞬。
いや、信憑性が足りない。
辻占によくある手口。
今時分の女子供、騙すには十分の――、

違う。
頭の中の計算高い私の思考を、私のカラダ自身が否定していた。
どうしようもなく、私ではなく、私のカラダそのものが、このかたの近くに居たがっている、その理由。

思考が追いつけば、今までのわたわたとしながらも楽しかった思いが、ふと晴れました。
目を見開いて、
それでいて何も見ずに。
我に返れば、なるべく真摯に、目前の少女を見つめて。

「私、祭祀局に務める藤白 真夜と言います」

驚かれないように、できるだけ静かに。
カバンから取り出した試験管を握ると、血を流し込み、コルクで蓋をします。
……やっぱり。私が何もしなくても、試験管の中の血は喜ぶようにさざなみを立てる。
目前の少女へ向かって。

「不躾ながら、お願いがあります。立場や取引でなく、私個人のお願いです。
 ……どうか、これを1日だけ預かっていただけないでしょうか」

てのひらに、血液を詰めた試験管を差し出しながら、頭を下げます。
きっちり、90度。深々と。

「あなたに、『不都合』は起こりえません。報酬も、私にできるかぎりお渡しします。
 どうか、……どうか。お願い致します」

黛 薫 >  
「……ぁ?」

慌ただしさに満ちた空間に、唐突な凪が訪れる。

何があったのかは分からないが、少なくとも相手は
何らかの『答え』を得たのだと悟る。その言葉に、
声に、行動に一切の迷いが感じられなかったから。

「祭祀局……何か、霊とか?関連のヤツっすよね。
んー、ぁー……ってコトは、デタラメだと思って
ましたけど、一概にそうとも言えねーっつぅコト、
だと思ってイィんすかね」

まだ頰が熱いが、相手は真面目な話をしている。
何度か深い呼吸を挟んで、精神を落ち着ける。

「……分かりました、ぉ預かりします。
でも、あーしそそっかしいですし?安全に持って
いられるかとか?そーゆー保証は、ねーですよ。

1日ってコトは、明日返せばイィんすよね。
待ち合わせ場所とか、打ち合わせ要りますか」