2021/03/13 のログ
藤白 真夜 >  
「――!」

驚きに、顔を上げる。
言ってはなんだけど、めちゃくちゃ怪しい。
なんなら、私は最初から怪しい。
挙動不審で、変なこと言って、からの変なおねだりまで。
それを、聞いてくれる、心の広さに。
いや、目が良いのかもしれない、けれど。
私の想いが、伝わったのだと。

「ありがとう、ございます……っ!」

このひとの優しさに。
何よりも、願いの成就に。
笑顔を浮かべながら、静かに瞳から涙が溢れる。

「いえ、良いんです……1日もあれば、立ち消えると思いますから」

(……話さなくちゃ。……今でも驚いてるだろうに。……でも)

「……。……、私の……、『罪』が、血に残っているんです。
 私から離れたがっているのにどうやっても、……どうにもできなくて。
 あなたと居たら、立ち消えられると。そう、確信しているんです」

本当のこと、けれど、……やっぱり、嫌がられたくなくて、誤魔化した言い方。
……何より、もう、残り滓のようなそれ。
このかたに移るようなことは、絶対に無い。けれど。
慮るように、私を信じてくれた方を見つめる。
綺麗な、緑の瞳を。

「不安でしたら、聖水もおつけします……!絶対に、変なことは起きないのでっ
 1日持ってくだされば、気持ち悪いので捨ててくださってもいいんです!
 お、お金もお支払いします!本を買おうとしてちょっと持っていますから……」

カバンからかちゃかちゃと、お仕事に使っている聖水を、お財布を、取り出しては。
魔術書を買うために持ってきた額を、ぜんぶ。

黛 薫 >  
「いや待っ、そんな急に言われても、あーしは
頭良くなぃから、覚えられなぃし。それに……」

手元の全てを擲ってでも『祓いたい罪』がある?
己の考えすぎかもしれないが、目の前の彼女には
それだけの必死さがあった。

例えば、それに付け込んで何かを得られるかも
しれない。だって先に相手が金銭を支払おうと
しているくらいなのだから。

でも。

「……多分、っすけど。あーしが理解するまで
説明してもらおぅとしたら。踏み込んだ事情、
聞かないとってコトになる、すよね、あー……。

イィっす、お金とかそーゆーの、いらないんで。
そんだけ必死になるなら、理由ぁるんでしょーよ。
そもそもあーしが力になれるかも?まだ分かって
なぃっすからね。だから、上手くいったら後日?
とか、そんな感じで」

赤い液体で満たされた試験管を受け取り一歩退く。
相手が押し付けようとしても受け取らずに済む距離。

「……誰だって詮索されたくねーコトくらいある、
そんくらい……あーしにも分かるし、付け込むのも
気分良くねーですから」

藤白 真夜 >  
「――ああ」

このひとは、良い人だ。
こんな、面倒くさそうな私に関わりたくなかったのかも、しれないけれど。
罪深い私を、理解してくれている。

「嗚呼……ありがとう、ございます」

静かに、膝を地面につけて。
両手をあわせて、祈りの姿勢を。
私がしても、何の意味も無い。
むしろ、嫌がられるだろうけど。
小さな、祈りを。
……さようなら。

少しの間黙祷を捧げれば、すくと立ち上がって。

「あ、あの。本当に、良いのでしょうか……!
 本当に、なにかあればおっしゃってくださいね。
 私こう見えて少しはお金がありますから……!
 あ、あと、お名前を、教えてくだされば……
 恩人の名前がわからないのでは、義理が立たないというかっ」

張り詰めた空気が少し落ち着いたかのように、またわたわたと。
……。
もう、お金の押し付けなどしないというように、カバンにまとめてしまい込めば。

「……手を、取ってもかまいませんか?」

文字通りに、少しだけ憑物が落ちたように、すっきりとした顔で。
あなたに手を差し伸べるのです。

黛 薫 >  
「お金とか?そーゆーのは上手くいったってのが
分かってからでイィっす。あーしが下手踏んで、
あーたが渡し損になったら困るでしょーし?
あ、いやでも名前は必要か、そうだよな……」

思い出したのはさっき読んだ本の内容。
きちんと名乗れば縁は1回で終わらない、と。
真面目な話をしていたはずなのに、一周回って
戻ってきたのが無性に可笑しくて口元を緩める。

「あーしは『黛 薫(まゆずみ かおる)』っていぃます。
ま、しょーじき最初は何事かと思ぃましたけぉ?
こーゆー縁もアリってコトにしときましょ」

差し出された手を軽く握る。

あどけなさの残る見た目に反して、酷く荒れた
綺麗とは言い難い手ではあったが……不快感を
与えないように、と柔く握る感触には気遣いが
感じられた。

藤白 真夜 >  
(……なるほど。)

合点がいきました。
どこか後ろ暗いような雰囲気と、甘い薫り。

(あれは、貴女が薫だったのですね)

「は、はい。驚かせてしまって、すみません。
 ……私は、藤白 真夜といいます。
まことのよる、で、まや、です」

もう一度、自己紹介。
さっきのは、違う。あれは、身分証明だった。
ちゃんと、名を言い交わしたのならば。

手を受け取れば。
壊れないよう、大切に、受け止めて。

何か理由は、ある。
似た体質の人は何度か見たけど、こうはならなかった。
でも、それはどうでもよかった。
この子の雰囲気も、痛ましい手も。
ただ私にあるのは、この人がこの上なく、ただしく、正直にまっすぐな人だと、信じられたから。

受け取った手先に、口づけをするように顔を寄せて。おでこを、こつん。

「……ありがとう」

消え入るような声で、小さく。
そのカラダ自身に、囁くように。

藤白 真夜 >  
「……はい。きっと、もうご縁がありましたから」

顔を上げれば、少しこそばゆく。
ひっそりと頬を染めながら。
別れを告げる。

「また、お会いしましょうね」

きっと出来上がった縁に、へたくそな笑顔を見せて、にこり、と。

黛 薫 >  
「……お、おぅ」

手の先に触れた額の感触。それは祭祀に関連する
何かしらの意味を持った行為なのか、それとも
単に親愛を表したものなのかは分からなかったが。
他人と肌が触れ合う、という珍しい経験に若干
緊張して、赤くなった頰をフードで隠す。

「あー、そっす、ね?結果報告?とか?
いぁ、あーしがしなくても分かるかもですが。
また後日、ちゃんとお話しましょ」

安全に扱えるか分からない、などと言ったが
わざと手荒く扱いたくはなくて、赤い液体で
満たされた試験管をそっとポケットにしまう。

「……それじゃ、また。祭祀局勤めなら、まあ
会いたぃときとか?そっちに聞きに行くんで」

90度と言うには浅いが、出来るだけ深く頭を
下げて……割らないように気をつけているのか、
試験管を収めたポケットを押さえながら去る。

ご案内:「古書店街「瀛洲」」から黛 薫さんが去りました。
ご案内:「古書店街「瀛洲」」から藤白 真夜さんが去りました。