2021/04/20 のログ
ご案内:「古書店街「瀛洲」」に黛 薫さんが現れました。
黛 薫 >  
古書店街。その名の通り古びた外観の店ばかりが
立ち並ぶ区画は黛薫にとって数少ない安息の場だ。
落第街の外でありながら他者の視線に悩まされず
ゆっくり読書に興じられるのは実に良い。

とはいえお金も落とさず立ち読みばかりするのは
気が引けるので、時々古書を購入することもある。
置き場所がないので買うだけ買って図書館に寄付
するのがいつもの流れ。

「……はー……」

そんな彼女は今分厚い本を抱え、陰鬱そうな溜息を
溢していた。補修が繰り返された赤黒い布製の表紙、
歴史を感じさせる黄ばんだページ。タイトルらしき
表記はなく、代わりに漠然と規則性が伺えるものの
その規則性が読み難い円形の紋様が記してある。

「こんなん放置とかありえねーっての、マジで」

二束三文の値段で買い取ったこの本は神秘主義の
黎明期に記された著名な魔法書……の写本。

原本ではないし、内容が遺失しているわけでもない。
そも原本でさえ術式が記されたタイプの本ではなく
『魔術を扱う上では』重要でない書物なのだが……
焚書により原本そのものの遺失が確定している。

つまり、歴史的にはそれなりの価値がある一冊。
具体的に言うと0が4つくらい足りない代物だ。

黛 薫 >  
見つけたのは完全に偶然だ。

対して特徴のない古本屋の奥まった書架の更に奥、
別の本に押し込まれる形で埋もれてしまっていた。
お陰で保存状態も良いとは言い難い。

(横流ししたら金に……ならなぃだろーなー……)

魔法、魔術関連の闇ルートは幾つかコネがある。
目利きや無謀な挑戦のお陰もあってかそれなりに
信用を得ており、モノによっては正規以上の値で
買い取ってもらえる。

しかし──コレは微妙にジャンルが違うのだ。
この本にあるのは歴史的、或いは考古学的価値。
魔術的、魔法的には無価値とまでは言わずとも
そんなに価値はない。

(……寄付すんなら図書館と博物館、どっちだ?)

買い取って貰えるなどという希望的観測はない。
だって違反学生だし。正規の機関なら手続きを
踏めば差し押さえのような形で押収できる。

黛 薫 >  
じゃあ買うなよ、と言われたら正直反論できない。
しかし価値ある物を目の前にして手が伸びるのは
理屈ではない、本能だ。落第したとはいえ元々は
魔法学を志していた身、浪漫には勝てなかった。

しかし購入してその歴史の重みを手の中に感じた
段階で概ね満足してしまったから、今度は扱いを
図りかねて溜息を漏らしているのだった。

だって内容自体は有名だし。頭に入ってるし。

(やっぱ図書館、かなぁ……)

思考がぼんやりしてまとまらない。煙草が欲しい。

古書店街を訪れる際には煙草はおろかライターも
持たないようにしている。自分でも気にし過ぎと
分かっているけれどこの街が抱える歴史の重みを
思うと小さな火種も持ち込みたくない。

黛 薫 >  
(違反学生の存在自体、火種っちゃ火種か……)

物理的に燃やすつもりはないが、道徳的に燃える
可能性は否定できない。ネット炎上とかいうやつ。

特に自分は裏で粛々と悪事を企むガチの奴らとは
違う所謂落伍者、悪者気取りの小物にあたる立場。
パニックを起こしやすい精神状態も相まって悪い
意味で話題になりやすい。

殺人事件が起きれば守秘義務は守られやすいが、
マナー違反や喧嘩についてはモラルも何もなく
平気で晒される、世の中とはそういうものだ。

だから身の程を弁えるに越したことはないのだが、
不良が立場を気にしていると笑い物にされがちだ。
裏社会において『舐められる』のは割と死活問題。
ジレンマと呼ぶには生温いが、弱者には深刻。

(関係なぃこと考え始めたら疲れてる証、か)

適当な本屋の前、設置されたベンチに腰掛ける。
買ったばかりの本を読めるようにか、この街には
座れる場所が多く、体力のない薫には有り難い。

ご案内:「古書店街「瀛洲」」にセレネさんが現れました。
黛 薫 >  
何となく、抱えた本のページを捲る。
暗号で表記された難解な内容はかつて解読に賞金が
掛けられていたと聞く。今は法則も解き明かされ、
解読用の資料が有れば素人でも読めるようになった。

(流石にもぅソラじゃ読めねーか……)

一度自主的に訳しながら読んだ経験はある。
勿論、後世になって広まった写本の方だが。

途中から法則を覚えて資料無しでも読めるように
鍛えられたのも最早昔の話。今は断片的に内容を
思い出せる程度だ。

セレネ > 本は知識の宝庫である。
図書館も実に楽しい場所だが、こういった場所には掘り出し物もあるから面白い。

読書や勉学が苦手な人にとっては地獄かもしれないが、好きな人や興味のある人には宝の山に見えるだろう。
少なくとも己から見れば、此処はそういう場所である。

古書店巡りが粗方終わり、以前友人から教えてもらったカフェへと向かう途中。
視界に入ったベンチに座る少女に見覚えがありふと立ち止まって其方へと視線を向けようか。
「視線」に敏感な相手にとっては、少し探るような、そんな感触があるかもしれず。

「…黛さん、でしたよね?
お久し振りです、お元気でしたか。」

彼女を視界に入れながら、記憶を探っていた結果該当した人物の名を呼びながら相手の傍へと近付いて行く。
会えて嬉しいと、表情でもその視線でも喜色を湛えて。

黛 薫 >  
「んぉ?」

本を開いているとはいえ流し読み程度の集中力。
貴女が声をかけるより一瞬早く顔を上げた。

「あっっ!」

もう一度会って今度は不安定な状態でなくちゃんと
お礼を言いたかった相手、そして恐らくは魔術的な
知識技能が一定以上ある正規の学生。過去の憂いと
今の悩みを一度に振り切れそうな邂逅に思わず声を
上げて……周囲の視線を感じてすぐに縮こまった。

「いぁ、突然大きい声出してごめんなさぃ……。
その、お久し振りです、セレネ。前回会ったとき、
あーしうだうだしてて、それで、いつかちゃんと
お礼言いたいって思ってたから……気が急いて……」

セレネ > 己が声をかけるより少し早く気付いた彼女は、姿を見て大きな声を上げた。
こんな所で会うとは思っていなかった筈だから当たり前か。
それにしては大分驚いているように見えるが。

「ふふ、いいえお気になさらず。
その様子だと体調は問題なさそうですかね…?
お隣、座っても?」

驚いた理由に微笑ましさを感じ、ついクスクスと笑ってしまいながら
空いているだろう相手の隣を指し示す。
許可が得られれば、隣に座らせてもらうつもり。

「しかし、お礼なんて。
私は貴女とお話出来ただけで充分ですよ?」

律義な彼女を穏やかな蒼で見ながら、そう答える。
本当に大したことなどしていないと。

黛 薫 >  
「お陰さまで元気すよ。あ、座るならどうぞ」

自分の座る位置をずらしながら、ハンカチで軽く
ベンチの汚れを払う。気にするほどでもないかも
しれないが、屋外のベンチに乙女を座らせるなら
一応気を使っておきたい。

「いぁ、セレネがどうかは分かんねーですけぉ、
あーしの方がお礼言ぃたいって思ってたんで……
その、前回も言ぃましたっけ?あーし、お話とか
上手じゃなくて、お礼も半端になっちゃって。

セレネは優しぃからそれでも良いって言ってくれる
かもしれねーですけぉ……そーゆーの、甘えてると
あーしは多分ダメなまんまだから、みたいな……?
うまく言えねーですが、はぃ。そんな感じです」

忙しなく動く小さな手は急いてばかりの内心を
表現するばかりで、話したい内容を伝えるための
ジェスチャーとしてはあまり役に立っていない。

「と、それで。お礼言ったばかりなのにいきなり
アレなんすが……頼み事とか、してもいいすかね?」

セレネ > 「それなら良かった。あら、有難う御座います。」

横にズレながらもハンカチでベンチの汚れを払う気遣いに蒼を細めて礼を言い。
隣に座れば以前と同じくローズの香りが相手に届くだろう。

「お話するのは簡単そうに見えて結構難しいですからね。
貴女は自分に厳しい方なのですね…?
でも、そういう所も私にとっては好感が持てますよ。」

言葉でもジェスチャーでも、上手く形に出来ない心を表しているようで。
言葉にすると失礼かもしれないが、実に可愛らしいと思う。視線も小動物を眺めるような、微笑ましいそれになりつつ。
そして自身に厳しいように見える彼女だが、それは己も似たようなものなので親近感を勝手に抱いてしまったり。

「――ん、頼み事ですか。
私に出来る範囲であれば構わないですが。」

ゆるり、と首を傾げてその頼み事についての内容を尋ねてみる。

黛 薫 >  
「厳し……?あーし寧ろ大分甘ったれてんなって
思ってますが……そう見えて……るん、すね?」

困惑混じりの声音、数秒真剣に考え込む。
思考が纏まらないのは煙草を吸っていないからか、
それとも漂うローズの香りに気を取られたからか。

黛薫は本気で『自分は甘えている』と思っている。
裏返しに『甘えているなら厳しくしなければ』と
考えていることには気付いていないのだろうか。
自分を追い立てるのは悪意のない自分自身。

無意識に素直な内面を晒してしまうのは『視線』に
悪意を感じられず、寧ろ好意的に見られているから。
逆に言えば普段はそれだけ気を張らなければならず、
常に精神を擦り減らしていることになる。

尤もそれは彼女の異能を知らない限り気付けない
小さな意識の変化でしかないのだが。

ごく短時間の思考は自分が投げかけた問いへの
回答によって破られた。会話の最中に黙考して
しまうのは失礼だったかも、と悩むのも束の間。

「あ、ありがとうござぃます、助かります。
実はこの本なんすけど、図書館に寄付したくて。
でもなんてーか、その……あーしが自分で行くと
心象?みたいなの、悪ぃっつーか……あーしって
不良学生なんで……。

適当に扱って構わなぃ本だったらイィんすけど、
こーゆー、あんま雑に扱ぇない本を渡すのって
ちょっと気が引けちゃって……」

差し出されたのは古びた魔法書の写本。
魔法学的にはともかく考古学的価値は高い代物。

セレネ > 「まぁ、少なくとも今の所は…?
長い付き合いであれば、もっと色々と見える部分もあるのでしょうけど
ほんの少しばかりお話した程度ですからねぇ。
お互いまだまだ知らない事ばかりでしょうから。」

相手の声色が本当に困惑しているようで、何か不味い事を言ってしまったかと内心冷や汗。
彼女から蒼を逸らし、正解が何かを弾き出そうとしても。
相手の情報が少ない為に分からない状態だ。

「ふむ、この本を?
かなり古い本ですね…魔術書か魔法の書物ですか?」

表紙に題名がないから何かの辞典や記録書ではないと判断し、代わりに描かれている紋様を見ての言葉。
雑に扱えないと聞くに、かなり価値がある代物らしい。

己は此方の世界にはまだまだ疎いので、これがどれ程の物なのかは分からない。
差し出された本をそっと受け取りながらしげしげとその本を眺めていて。

黛 薫 >  
「そうっすね。あーしも人のコトって分かんなぃ
ばっかりだなって思います。いぁ、どっちかって
言うと、あんまり分かりやすぃ人とはお近づきに
なりたくねーってか。あ、勿論セレネのコトじゃ
ねーですけど、たまに……よく……いるんすよね」

不安定な薫の声には感情が表れやすい。

悩むような迷うような声音は段々と沈んでいく。
しかし慌てたような弁解にネガティブな感情は
無かった。少なくとも、貴女に対して悪感情を
抱いてはいないようだった。

「魔法書っす。魔術的内容じゃなくて基盤になる
思想や定義について書かれてるやつ。写本ですし
内容そのものは有名なんで、魔術的な価値は全然
無ぃんですけぉ……原本が焼失しちゃってるんで
最初期の写本って貴重なんす。偽物じゃなけりゃ
考古学的的に価値アリってコトすね」

魔法書の歴史について語る彼女はいつもより早口で
歴史を重ねた本を前に高揚していることが伺えた。

偽物でなければ、なんて予防線を張っているが
古書の紙や布の年代、材質は簡単に真似られる
モノではない。十中八九本物と見て良い。

セレネ > 「…分からないからこそ相手を知る為に
言葉を交わして話をする事が大事なのでしょうね。」

沈む声色に嫌な事でもあったのかと考える。
踏み込みたい所だけれど、それにはまだ早い気がして。
己の事ではない、と弁解する言葉にはそれなら良かったと安堵の言葉を。
己も彼女には嫌な感情は抱いておらず、むしろ可愛らしいとすら思っているから。
それが相手にとって良いかは分からないけれど。

「成程?それなら確かに貴重ですね。
オリジナルがないなら、最初期の本が一番オリジナルに近いものですし。」

早口に捲し立てる相手に蒼を戻せば、
彼女は魔術そのものだけでなく魔術や魔法の歴史にも興味があり知識があると分かった。

「本当に貴女は、魔術や魔法が好きなのですね」

仮にそれが自分が扱えるようになりたい為のものだとしても。
その旺盛さは素晴らしい。
だからこそ、何か力になれないかと考えてしまうのだ。

黛 薫 >  
「言葉って伝え合うために1番発達したツールなのに
何でこんなに難しぃんでしょーね。いぁ、違うのか。
発達したから、人の心に1番近く寄り添ってきたから
……そりゃ難しくて当たり前か。心ほど難しいモノ
他にねーですから。

でも、あーしは難しくて良かったのかも、なんて
思ぃますよ、偶に。ストレートな欲や気持ちって
気持ち悪くて……いぁ、余計なコト言いましたね。
忘れてくださぃな」

彼女は己の言葉がマイナスに向かう度、軌道修正を
試みる。強引に次の話題に移ったり無かったことに
しようとしたり……間に合っているとは言い難いが
相手を不快にしないように気を使っているらしい。

繕い慣れない本心と、些細な切っ掛けで滲み出す
仄暗い気持ち。それを気遣いで上塗りした言葉は
思春期の子にありがちな歪さを極端にしたような
不安定さに満ちていた。

「……好き、ってか……好きだった、ってか……。
今も、好きでいられてんのかな。それはちょっと
あーし自身……ごめんなさぃ、わかんねーです」

フードの下、長い前髪に隠れた緑青色の瞳は……
どこか虚に遠くを見つめていた。好きでいたいと
思うのは、既に好きでいられないからではないか。

『好き』であって欲しいそれが『未練』だったら、
直視したとき、きっと惨めな気持ちになるだろう。

束の間の思考停止の後、はっとして狼狽する。

「あー、ぁー……やっぱダメすね、あーしって。
前回半端なお礼になっちゃって、今回はちゃんと
お話しようと思って、たんです、けぉ……。

いぁ、でも!前よりはちょっとだけマシ?ってか
頑張れた、と思ぅ?ので!その、許容範囲内?に
収まってくれてたら、嬉しぃです、はい。

その、改めてありがとうございました、セレネ。
もしまた会えたらお話しましょ、魔法のお話とか
あーしもしてて楽しぃはず、なんで」

不安定の予兆を感じ、慌てて会話を切り上げるのは
前回と同じ。しかし今回は幾分前向きに……次回の
邂逅への展望を語ってその場を辞した。

ご案内:「古書店街「瀛洲」」から黛 薫さんが去りました。