2021/07/02 のログ
ご案内:「古書店街「瀛洲」」に藤白 真夜さんが現れました。
■藤白 真夜 >
長く時を経たであろう古書達の眠る、本の街並み。
時と共に積もった埃の香りと、色褪せた古紙の色。
当たり障りの無いただの古書の合間に、文字通り宝のような価値のある稀覯本も眠っているとは、聞きますけれど。
ゆっくりと、迷うような足取りで店と店の間の薄暗い通路を歩くわたしの目当ては、そういうお宝探しではなく。
……というか、私にそんな知識も審美眼も、ありませんしね。
古書街を歩く私の目当ては、こういう場所にまで降りてくるお求めやすいお値段の、中古の論文なのでした。
「……一応、見つけられましたけど。
なんか、関係無いものを山程買ってしまったような……。
だって、安いですもの、仕方ありませんよね……!」
私が探していたのは、実用的というよりかは、研究発表で使われるようなもの。
めちゃくちゃメジャーというわけではなく(それなら図書館で無料で読めたりするので、)、
かつ、論文として形に残る程度には、現実性がある。
そんな、……閃きのきっかけになりそうな、叶えられなかった野心の痕。
――なんて言いながらも、一束300円とかなので数撃ちゃ当たると、両手に抱えるほどには買い込んでしまったんですけれど。
(元が無料のものもあったでしょうし、高いのか安いのか微妙なところなんですけど……)
裏路地にひっそり佇むベンチに、降ろした、今回の"戦利品"。
かすかに黄ばんで色褪せたA4サイズの用紙の束。
肝心の中身はというと、
『流体操作の異能学』『液体と固体の属性変遷』『異能と魔術の応用』などなど……。
つまるところ、私の目的は、魔術で行き止まったのなら、異能でなんとかしよう、と。
そう、考えた結果のお勉強、なのでした。
■藤白 真夜 >
少々お行儀は悪いですけど、ベンチに座り込んだまま古びた論文の束を広げて、そのまま覗き込みます。
……論文を甘く見てはいけません。
人によってはめちゃくちゃ解りやすかったり、かと思いきややたらと参照情報や資料をずらずらと並べて尺を稼いでいたり。
古本屋と言っていいのかすら怪しい中古のよろず屋のようなところから買い上げたそれは、文字通りの玉石混交。
「"液体は流れるモノと考えるのでなく元からそのカタチをイメージして操作すると……、――"
う~ん……、やっぱり異能関係は個人差が有りすぎて、参考にしづらいんですよね……。
私みたいなのも、あんまり居ないみたいだし、なぁ……」
しかも、私の求めるものは純粋な異能を伸ばす術とも、また違っていて。
私の魔術的な不具合が異能にあるのならば、異能の力を使えば解決するのではないか、そう思ったのです。
……しかし。
「"真水を操作して液体を触媒に遠見の術式を――、"
これは、う~ん……。
異能を魔術的要素に織り込めば、という点は惜しいんですけど……!」
結局のところ、異能は使えても、魔術のほうはからっきし。
ある程度知識は付けているつもりなので、そこそこ話にはついていけるのですが。
液体を操作して、魔法陣を織り上げることで自らの異能を魔術に組み込み属性を付け加えて、みたいなお話も多かったですし。
でも。
……私が求めているのは、自らの中の壁を打ち破るような、革新的な――あるいは、都合のいい、なにか。
そういう爆発的なアイデアが、前のめりなアイデアが出がちな学術的論文の中にはあるのでは、と考えては……いたのですが。
■藤白 真夜 >
「……はぁ。
まあ、そう簡単にはいきませんし。
……いやいや、買った分は読んでおかないと……!」
ある程度の収入がある今、二束三文とは言っても、買ってしまった分は無駄にもできず。
……と思いつつも、ちゃっかり、個人差の強い異能方面の論文とは別に、魔術的考察の情報誌や論文も大分買い込んでいたりして。
絶対に個人差の起きる異能とは違い、魔術の論理は遥かに確立させやすく、読む時の私のモチベーションも変わるというもの。
「今月の特集は、『機械』……??
……3Dプリンターで魔法陣を出力……?……、
――、……術式に自己増殖機能……いや、ちょっとそれは……、
USBメモリに術式を画像として保存して……、?……??」
……とはいえ。
お安く買える雑誌に載っている情報なんて、それこそ眉唾なモノが多かったりするんですけど。
思わず頭の中で(時折声に出るんですが)ツッコミを入れながらも、ページを読み進める手が止まらないあたり、案外楽しんでいるのかも。
(……機械に魔術なんて使えるわけ無い、……とは思いませんけど。
機械にまで魔術を落とし込むと、……なんだか神秘性が薄れるような。
……って、魔術至上主義の人みたいなコト考えちゃってる)
本当にそんなものがあるのなら、の話ですけれど。この学園なら、おかしくはないだろうし。
魔術は、人の活きる力のようなものを吸い上げて、行なわれるはず。
それは魔力であり、命であるかもわからないけれど。
少なくとも古の魔術師達はそうだったはず。世間からひた隠れ、血筋を繋ぎ、魔の術を磨いたひとたちの、願い。
だから、機械が魔術を行使するのならば、それは緻密な術式や科学の末ではなくて。
血の通わぬ機械に命を持たせるような、そんな奇跡と共に訪れるのではないか、と。
■藤白 真夜 >
(……って、何考えてるんだろう、私。
考え事してると、思考があらぬ方向に行くの、よくない癖だなぁ)
つかぬ妄想に想いを馳せるのは、嫌いではないのですけれど。
「まあ、アイデアなんて、そうそう降りてきませんよね。
……ゆっくりじゃ、ダメ。でも、焦らずに。
……うん」
結局、何も掴めてはいなかったけれど。
"メモリに、術式を画像として取り込む"
……示唆は、思わぬ脇道にこそ、転がっているものだから。
透明なボールを抱えるように、両手を構えて。
ず、と掌から血液がひとりでに溢れおちて、球体のカタチを取る。
「――光満ちて」
――そのまま、魔法陣を展開すれば、
血液の球体の中で、鈍く赤い光が輝いた。
それは、散乱するかのように一瞬で、暴れるように光を放って、消えていく。
魔術なんかではなく、ただ魔力が散り行く現象に発光を伴っただけのコト。
……魔術の行使は、結局駄目だったけれど。
「そういう、手触りなんですね。
……ふふふ」
私の手の中に浮く血液には、術式の感触がきっちりと、残っていた。
"身体"の中に残る、奇跡のひきがね。
術式を埋め込まれた機械も、こんな気持ちなのだろうか。
魔術の行使とは、程遠いだろう。
それでも、感覚の繋がった血液を、灼けるように魔力が迸る、初めての感触に。
魔術の残渣がくっきりと焦げ付いた血液を見て、私は一人、嬉しくなってしまうのでした。
成功では断じてない。
けれど、失敗だろうか。失敗だろう。
それでも。
自らの這いずる失敗の痕が、愛おしくて。
ご案内:「古書店街「瀛洲」」から藤白 真夜さんが去りました。