2022/01/06 のログ
ご案内:「古書店街「瀛洲」」に黛 薫さんが現れました。
黛 薫 >  
車椅子での生活は基本的に不便ばかりだが、
健常な頃と比して全てが悪いとも言えない。
例えば買ったばかりの本を早く読みたいとき、
わざわざ椅子を探さなくて済むところとか。

古書店街の一角、暖房がよく効いた古本屋。
車椅子の少女、黛薫は他の客の邪魔にならない
スペースを見つけて膝の上で本を開いていた。
立ち読みに見えるが代金は支払い済みである。

私見だが、この街に所狭しと並ぶ書店の数々は
売り上げをあまり重視していないように見える。
何せ近くにあるお店全てが競合相手なのだから。

一応差別化目的なのか何なのか、その場で読書が
可能なスペースを設けているお店があったりとか、
寒さに震える客を引き寄せつつ、ついでに古本を
手に取らせる目的で暖房をしっかり効かせている
お店があったりとか。

集客の努力が為されていないわけではないのだが、
悲しきかな、居心地の良いお店ほど立ち読み目的の
客ばかりが増えていく。

黛 薫 >  
そんな来客の中、金欠なのにしっかりと代金を
支払ってから本を開く黛薫は稀有な客と言える。
金欠といっても落第街にいた頃ほどは困窮して
いないからでもあるが。

さておき、黛薫が古書店街を訪れているのだから
目当ては当然魔法、魔術関連の書物……ではない。
彼女が購入したのはプログラミングの入門書。

平素の彼女を知る者、知っていた者からすれば
何事かと思うだろう。一見魔術とは縁遠い分野、
しかし実のところ目的は一貫して魔術の習熟。

「んー……」

彼女の眼前に浮かび上がるのは白を基調とした
半透明の板状ホログラフィ。科学、機械工学の
面では最早慣れ親しまれた技術だが……黛薫が
操作しているコレは魔法を基盤に作られている。

黛 薫 >  
黛薫は苦難と他者の協力の末、魔術への適性を
手に入れた。とはいえ代償として魂に傷が付き、
得られた適性も決して高いものではない。

そんな彼女が選んだアプローチは、科学技術と
魔法との融和。適性を得る為に聞き齧っていた
分野のひとつであり、自分よりずっと先を行く
協力者の1人が触れていなかった分野。

元来、科学技術──特に機械関連の分野と魔法の
親和性は高くない。『魔法』は科学の根底にある
種々の法則、物理法則や科学法則と同一の根源の
元にないから。

従って、片方の法則に従って組み上げられたモノを
もう片方に組み込むのは難しい。例えば、完成した
機械から見れば魔法円は規格の合わないプログラム。
精密な魔術式からすれば機械は発動媒体足り得ない
金属部品の塊でしかない。

機械が実行すべきプログラムは物理、科学法則に
最適化された数字というツールで記述するべきで、
魔術を出力する媒体は親魔法性の樹木や鉱物等で
構築された杖や本を使うべき。

絵柄の違うジグソーパズルを2枚用意したとて
2倍の面積の新しい絵が出来上がりなどしない。
異なる2つの法則の両立とはそういうものだ。

黛 薫 >  
しかし、だからといって魔法と科学の両立が
不可能なのかと問われれば『否』である。

例えば物が燃えるのは『燃焼』という科学現象、
即ち発熱と発光を伴う酸化反応。可燃性の物質、
酸素、発火点を超える温度の3点が揃って初めて
発生し得る現象。

であれば化学反応無しに『発火』という現象は
発生し得ないように思えるが、実際には火属性の
元素魔術を用いて炎を発生させることが可能。
アプローチこそ異なれど『炎を生み出す』という
同一の結果が得られると示している。

この身近な事例から分かるように、科学と魔法は
完全に分断した事象ではない。魔力に起因する炎が
物理量たる『熱』を増大させられるように、化学的
汚染が土地のマナを枯らすように、互いに影響を
与え得るのは自明の理。

黛薫が光明を見出したのは、そんな分野だった。

黛 薫 >  
魔術由来のホロモニター、原理的には宙に展開する
魔法円、魔法陣と近しいモノに記述を加えていく。
動作は至ってシンプル。別の陣に記述された文言を
認識して写し、表示するだけ。プリミティブな写本、
複製の魔術に近しい挙動。

『Hello World』

ホロモニターに、白く発光する文字列が表れる。

「……なるほどな?」

今のところ独自性は無い。先行研究の論文に
載っていた手法を丸写しして試しただけだ。

だが──『展望』は少しだけ見えてきた。

ご案内:「古書店街「瀛洲」」に紫明 一彩さんが現れました。
紫明 一彩 >  
さて、『禁書庫』で行方不明となった生徒を連れ戻す一仕事を
終えた私は今日、休暇を貰っていた。

向かう先は瀛洲だ。
本との出会いもそうだが、この辺りをうろついていると、
面白い人間と顔を合わせることもある。

今日も――ほら。

ふらりと立ち寄った店の中、宙に展開する魔法陣を
前に何やら呟いている女の子を発見だ。

あれ? あの子。
認識違いでなければ――。
ま、いっか。とりあえず声かけてみよ。

「面白いもん見てるねぇ」

空中に浮かんだ発行する文字列。
まるでプログラミングのようだが……魔術?
実際、興味深かった。

文字列の横から顔をひょいっと
覗かせて、笑顔を見せてみる。

黛 薫 >  
スーツ姿の女子学生が丁度横合いから覗き込んだ
タイミング。膝の上に本を広げて、魔術のようで
魔術らしからぬ不思議な術を試している車椅子の
少女と目が合った。

いや、目が合ったというと語弊があるかもしれない。
その少女の前髪は長く伸び、両目を殆ど覆い隠して
しまっていたから。それでも首の動きから彼女が
貴女の声掛けに気付いたのはすぐに分かった。

「そっすね、あーしも面白ぃと思ってやってます」

笑顔の貴女と対照的に、少女の返答は素っ気ない。
前髪とフードに隠れて貴女の様子を伺っているかの
ような、警戒しているような。まるで懐いていない
野良猫のような雰囲気を感じさせた。

実のところ、彼女──黛薫は他者の視覚を触覚で
受け取る異能を持っていて。感じ取った視線から
相手は自分のことを知っているのではないか、と
考えていた。

紫明 一彩 >  
「へぇ……良かったら聞かせてほしいもんだね~。
 プログラミングを……魔術でやってるのかい?」

顎に手をやりながら、改めて文字列を見やる。
そうして、すっかり瞳を隠してしまっている前髪――
そこに目があるであろう部分へと視線をやる。

そうだ、おそらく記憶は間違っていない。
直接関わったことはないが、その噂は禁書管理員の中で
聞いたことがあるし、外見の特徴も聞いてる。
異能だとか詳しい話は、さっぱり知らないけどね。

さて、何だか凄い警戒されちゃってるみたいだ。
彼女のこれまで行いをを考えれば、当然だね。
私、いつも通りスーツだし。なんかバシッとしてるし。

まぁ、別に此処には仕事で来てる訳じゃないし。
今、目の前で彼女が禁書庫をどうこうしてるって訳でもないし。

どちらかといえば、純粋な興味から話しかけてる。
何度も禁書庫に立ち入ってた理由も、気になるとこだ。
そこんとこも、聞けたらいいけど。

「と、自己紹介しとこっかー。
 私は、図書委員の紫明 一彩。
 君のお噂はかねがね~、ってとこだけど……
 あ、今日はオフなんで気にしないでいいよ~」

そこのところは、ちょっとボリュームを小さくしつつ。
今の君に敵意はないぞー、と手を振って見せる。
猫ちゃんに逃げられちゃ、つまんないしね。

黛 薫 >  
「えぇ、まぁ。魔法と科学の相性が良くなぃって
 定説はありますけぉ、融和を目指す革新派から
 色々と論文が出てましたんで。昨年の中頃から
 機械ベースで魔術と組み合わせる話はちらほら
 出てたんすけぉ、その中の一派がプログラムに
 方向転換したらしくて。あーしがやってたのは
 そっから出た新しぃヤツの真似っすね」

素っ気ない態度とは裏腹に、聞かせてほしいと
言われれば淀みなく言葉が出てくる。彼女自身
この技術を『面白い』と評したのは本音であり、
語りたくてうずうずしていたのかもしれない。

さておき。

相手が自分を知っているという想定が正しい場合、
思い当たる候補はいくつかある。風紀委員ないし
公安委員、落第街の違反部活動構成員、それから
あまり考えたくはないが……在学時代の同級生。

他にもいくらか予想は立てられるが、自分のことを
知られているならあまり良い話は聞いていないはず。
それ故の警戒だったが、貴女の所属を聞いて合点が
いったようだ。

「えぁ……そっす、か……図書委員で、あーしの話
 聞ぃてて……あの、はぃ。その節は、ご迷惑を。
 知ってるらしぃっすけぉ、あの。名前、教ぇて
 もらったんで、はぃ。『黛 薫(まゆずみ かおる)』
 ……です、よろしく、です」

貴女が知っていた通り、黛薫は過去何度も禁書庫に
侵入している。うまく逃げおおせた日もあったかも
しれないが、少なくとも片手で数えられない回数は
痛い目に遭い、禁書管理委員の手で救出されている。

つまり、黛薫にとって図書委員、その中でも禁書
管理委員はともすれば風紀委員や公安委員よりも
頭が上がらない相手なのである。

懐いていない猫のような警戒は見る間に失せて、
今度は主人に叱られた仔犬のようにしおしおと
縮こまっている。

紫明 一彩 >  
「へぇ、革新派の論文は少しだけ齧ったことがあるけど、
 プログラムに舵を切るところが出てきてたか~。
 いや、まぁ自然な流れではあるだろうが……ふむ。
 
 ま、いずれにせよ。私にとってそれは初耳だよ。
 君、情報通なんだね――」

話を聞きつつ、ふんふんと頷いたり。
なるほどねー、と口にして相槌を打ってみたり。
実際に自分もちょっとは興味がある分野だったし、
何より楽しく話してる人の話聞くの、楽しーでしょ?

しかしなるほど、見たことがないモノを展開しているのも頷ける。
最新の論文から早速引っ張ってきてる訳か。
すごいじゃーん、この子。

「――それでもって、早速試して形にしてる。器用なことだね」

文字列を指差して笑う。
うん、恐れ入った。

「薫ちゃんね。よろしく~」

ふいふい、と手を振って見せる。
確かに彼女の名前は知っていたけど、
名前を交わすこと自体に意味があると思うんだよね~。
私達は初めて会ったのだし。

「……って、そんなにしょげなくても良いじゃないか。
 君がやってきたことは聞いてるけどさ……。
 もしかして、よくうちのとこに入ってたのも、
 さっきの興味が高じて?」

そこんところの情報はあんまり聞いていない。
いや、聞いてたかもしれないけど覚えてなかった。
ま、よく適当に流すことあるしな……。
というわけで、しれっと聞いてみたのだった。
だって今、私は彼女に興味を唆られてるしね。

黛 薫 >  
「いぁ、なんかもーその辺はクセっつーか……
 興味持った分野は逐一チェックしとかねーと
 落ち着かなくなっちまぃまして、はぃ。

 特にコレを出した著者が以前所属してたトコの
 研究はいつか手ぇ出してみたぃって思ってたから、
 新しぃのが出た今しかねーなって……」

つぃ、とスワイプするように画面を指でなぞると
表示されていた文字が消える。厳密には空白が
表示されている、何も表示されていない画面へと
切り替わっただけだが。

流れで聞かれた話、禁書庫への侵入行為に関しては
きちんと違反の自覚があるようで、やはり気まずい
表情。とはいえ仮にだんまりを決め込んだところで
調べれば分かる話なので渋々口を開く。

「今でこそ、こんなコト出来てますけぉ。
 あーしって魔法も魔術も使えなかったんすよね。
 下手とかそーゆー話じゃなくて、素質がゼロで。
 少なくとも正規の手段、先生とかが色々試して
 くれた方法じゃ解決しよーが無かったくらぃ。

 だから真っ当じゃねー手段……『禁書庫』とか
 『黄泉の穴』とかに救ぃを求めて、って感じ」

紫明 一彩 >  
「ふぅん。マメなんだね、君は。
 手当たり次第、面白そうなものを適当に齧っている私とは大違いだ」

実際、その手の分野の話。
きっちり話し込んだとすれば、私じゃついていけなくなりそうだ。
うずうずしてたっぽいのも話しぶりから、それとなく感じ取れたし。
そういうの見てるの、すっごい好きなんだけどね。

消える画面を目で追って、それから立ち上がる。

「成程ね。そりゃ合点がいったよ。
 勿論、手段はちょいと悪かったかもしれないけどね。
 どっちもは、ほんと危ないから……下手すりゃ、
 二度と戻ってこれないわけだからね……って、まぁ。
 もう小言は聞き飽きてるよね~」

そもそも、そういう注意だとか、するのは自分の性質じゃない。
渋々話してくれた彼女に追い打ちをかけるつもりもない。

というわけで。図書委員としての私じゃなくて、
ここからは紫明 一彩として話をしよう。
そう思って、彼女の前に立つ。でもって、改めてしゃがみ込む。

「これ、図書委員じゃなくて私個人の見解ね。
 
 私としては、それさ。
 素質がゼロだってのに全力でやりたいこと
 追い求めるってこと自体は、凄いことだと思うね。
 
 君……何もせず魔法が使えちゃった多くの人達より、
 ずっと魔法のこと詳しいんじゃないの~?
 
 何もせずとも奇跡が得られるって……私からしたら、
 凄く怖いことだと思う。過程をすっ飛ばしちゃう訳だから」

だから私が持ってるこの力だって怖いんだよね、実際のとこ。
まぁこの話は、今じゃなくてもいいや~。

「と、いうわけで。私としてはコツコツ頑張る君を応援したいとこ。
 禁書庫にまた来たくなったら、
 そん時は適当に声かけてくれればいいさ~。
 ほら、禁書管理員が一緒に居た方が安全でしょ?」

ま、実際のところ上への許可とか……ま、いっか。
私がバッチリつきます! って、言っとこ。

黛 薫 >  
ぱちり、前髪の下で驚いたように目が瞬いた。
咎める言葉もほどほどに、混じり気のない感心と
賞賛の言葉をかけられてしまった。

早々に切り上げたお小言はきっと図書委員として
言わなければならなかった話。であれば、それと
切り離して語られた言葉は、貴女の前置き通りで
立場とは無関係な一個人から出た素直な気持ち。

「それ、は……いちお、出来なぃコト、どーにか
 出来るよーになりたくて、必死になってたから。
 多分、知識だけなら……そんな、悪くなぃ、と
 思ぃま、いぁでも、あーしは実践の経験がまだ
 全然だから、試しながら学んだ人と比べたら、
 まだまだで、その」

貴女の所属を聞いたときのような要領を得ない
話し方に戻る。しかしそれは気まずさやバツの
悪さからではなく、先の見えない中で苦心して
積み重ねた努力を認めてもらえたから。

有体に言えば、照れてしまっているだけだ。
その証拠に、パーカーのフードで隠れかけた
ほっぺたは赤く染まっている。

「…….って、あの?いぁ、それは、ひっじょーに
 ありがたぃ申し出ではありますよ?ありますが?
 あーし無許可で侵入した前科持ちって分かって
 言ってます?つかその前科があっからあーしは
 違反学生っすよ?許可取んのも難し、ぃと……
 思ぃます。ってか、すぐには無理かと」

しかし、その上で突拍子もない提案をされると
流石に照れより驚きの方が勝ってしまった様子。
隠しきれない好奇心を滲ませつつも『今はまだ』
許可が通るはずもないと口にして。

「……あぁ、でも。復学出来たら……そーゆー許可、
 いずれ降りるよーになるかもしんねー、のかな。
 あーしも、図書委員とか……目指してみっかなぁ」

思えば目先の目標──復学にばかり必死になって、
復学した後のことはあまり考えていなかったような。

突拍子もない、実現性すら定かでない申し出では
あったけれど……魔法、魔術の研鑽とは別方向に
新しい『展望』が見えたような気がした。

紫明 一彩 >  
「一生懸命コツコツ頑張ってる上に、向上心もあるなら……
 きっといつかたどり着けるさ~」

あー、なんか分かってきた。
他人の気がしないんだな。
そりゃ、自分でも無償の愛を振りまいてるつもりはなかったけど。
そっかー、そうだよな。
私もこの子も、先の見えない中で藻掻いて
コツコツやってんだから。
初対面だけど、スッと気持ちが重なっちゃったんだな、これが。

ほら、やっぱり面白い出会いが待ってるんだ、この辺りには。

「あー、流石にすぐには無理かなぁ~?
 面倒臭いとこだよね~、そういうの。
 
 ま……でも、そっか。
 復学したらか……良いね、そういう希望。
 
 というわけで、ま……何か手伝えることがあったら
 遠慮なく声かけてくれればいいからね、薫ちゃん」

他人の気がしないから。
できる限り応援したくなってしまったんだな、これが。
私は胸元から名刺を差し出して、その前髪の前に翳した。
悪い子じゃなさそうだし、あげちゃっていいや~。

それは、名前と連絡先のみ書かれたシンプルな名刺。
デザインするの面倒だったし、
まぁ知りたいことわかればいいでしょ?