2022/01/07 のログ
■黛 薫 >
「……ん、そっすね。いつかは、きっと」
交錯する視線。重なったのは目線だけではなく、
その瞬間に気持ちが通じ合ったような気がした。
『視線』を感じ取れるが故の錯覚だったのか、
何かを理解してもらえたような。
「今すぐ……は、やっぱ難しぃと思ぃます。
でも、禁書庫への立ち入りに限んなくても、
出来るコトはこれから増えてくはずだから。
そんときは、お声かけさせてもらぃます。
宜しくです、紫明……先輩?」
敬称の付け方に迷ったけれど、学年か年齢か
どちらかが上なら使える『先輩』呼びは便利だ。
自分が小柄だから、年上は見れば大体分かるし。
差し出された名刺を受け取り、しかし所属もない
違反学生が返せる名刺を持っているはずもなくて。
不器用な動き、車椅子を考慮から外しても身体の
不自由さを感じさせる動きで手帳のページを1枚
破り取った。
不自由な手では連絡先を書くことも容易くない。
だから培ってきた知識を使って、魔力を回して。
じり、という音と共に、白紙に名前と連絡先が
刻まれる。その場で編まれた簡単な刻印魔術。
同じくらいシンプルな即席の名刺を手渡して。
「んじゃ、あーしはコレにて失礼させてもらぃます。
買った後にしても、いつまでも店ん中に居座れる
ワケじゃねーですからね」
黛薫は本を閉じ、ホロモニターも消してその場を
辞すだろう。得た物は本1冊と新しい分野への展望。
それに……今まで見えていなかった復学後の展望も。
買う予定だった本だけでなく大きな収穫を得た
彼女の体が自由であれば、帰路に着く足取りは
きっと弾んでいたところだろう。
ご案内:「古書店街「瀛洲」」から黛 薫さんが去りました。
ご案内:「古書店街「瀛洲」」から紫明 一彩さんが去りました。