2022/09/17 のログ
ご案内:「古書店街「瀛洲」」に川添春香さんが現れました。
■川添春香 >
今日は休日。青空よし、天気よし、風も爽やか。
でもちょっと暑いかな?
そんな日に、本を見て回る。
この時代の本屋には、私の知らない色々な本が売っている。
色鮮やかな装丁。
目を引く背表紙。
これらはきっと、誰かの宝物なんだ。
■川添春香 >
お気に入りのシャツとジーンズが例の機械の悪魔にボロボロにされちゃったから。
制服で来ちゃったけど。
さすがに休日に制服な人は少ないなぁ………
あ、この本は!
絵本コーナーに見つけたのは、比較的新しい絵本。
でも、私の時代ではベストセラーと呼ばれている絵本です。
常世学園卒業者、作家ハワード・ダーレス・カットナーの意欲作。
その名も、がんばりやのねずみさん。
私が小さかった頃にパパが読んでくれたんだよね。
この時代ではまだ発売して二年くらいかぁ……懐かしいなぁ。
■川添春香 >
絵本をパラ、とめくる。
がんばりやさんのネズミが風邪で寝込んでしまうシーンだ。
私は自分が体調を崩す時、必ずこの話を思い出してしまう。
私は必要にされているかな。
私は……ちゃんと自分の考えを口に出せているかな。
熱が出た時は、そんなことを考えながらネズミさんに思いを馳せる。
いつ読んでも良い本。
それは時代が変わっても色褪せない魅力がある。
ご案内:「古書店街「瀛洲」」に杉本久遠さんが現れました。
■杉本久遠 >
古書店街。
スポーツ一辺倒だった久遠にとって、ここはこれまでずっと、縁の遠い場所だった。
しかし、恋人に案内をしてもらってから、時折足を運ぶようになり、一昔前の本を手に取って眺めるようになっていた。
この日も、予定していたボランティア活動が先方の都合でなくなってしまい、時間を持て余したために立ち寄ったのだが。
「――お?
川添じゃないか!」
そこに、見知った顔――というか、数少ない――というより唯一の――貴重な部員の姿を見つければ、声を掛けずにはいられないというもの。
それも、勧誘してからというもの、基礎トレーニングの指示は出来ても、部費を稼ぐための奉仕活動で走り回り、コーチングの依頼をこなしたり、アルバイトをしたりとで、しっかりとした指導が出来ていないとなれば。
彼女の姿を無視できるはずもない。
「奇遇だな、川添もこういう所にくるんだなあ」
と、いつものように気さくに声をかける。
ちなみに、いかにもスポーツ系という装いと、体格と、ここが絵本コーナーという事も相まって。
何とも場所にミスマッチな久遠である。
■川添春香 >
大きくて優しい声。
大柄な体格を紺色のジャージでラッピングしたかのような姿。
紛れもない、杉本先輩だった。
「こんにちは、杉本先輩っ」
笑顔で小さく手を振って答える。
「本、好きなんですよ。異邦人なんで馴染みのない本がたくさんあって嬉しいです」
「この本も懐かし………いじゃなくて…」
「興味深いですよ、絵本」
汗を流しながら誤魔化した。
「先輩はどんな本を探してるんですか?」
「勉強、スポーツ、娯楽にエッセイ…なんでもありですよ」
■杉本久遠 >
少女の愛らしい笑顔と手を振る動作。
親しみのこもった声に、ほんのりと胸が温かくなり、自然を久遠の笑みも深くなる。
「ああ、そうか、すっかり忘れてたが川添も異邦人だったな。
懐かし――川添の故郷にも似たような本があるのか?」
誤魔化されても気づかず、こういう所は聞き逃さないのが久遠である。
つまり鈍い。
「オレはその、なんだ。
こういうのを、だな」
そう言って、照れ臭そうに示すのは、絵本コーナーにある、世界各国、または異世界における童話が置かれている一画。
「たはは――こう、似合わないだろう?」
そうほんのり顔を赤くして笑った。
■川添春香 >
「に、似たような本があるんですよぉぉぉ………」
「ちょっぴり似たような世界から来たもので……!」
ああ、ウソがヘタ。
なんたること、これでこの先やっていけるのだろうか。
そして先輩が指したのは、童話の本。
照れながら笑う彼に、首を左右に振って。
「いいえ、似合わないとは思いません」
「いい趣味だと思います、むしろ先輩が童話に興味があるなら」
「色々と童話トークができて嬉しいと私は思いますよ」
先輩とは部室で話すこともあるし。
共通の話題があることはとても良いこと!
■杉本久遠 >
「ああ!
なるほどな、異世界と言っても文化や歴史が似た世界もあるって話だもんなぁ。
川添がこの世界にすんなり馴染めてるように見えるのも、そういう関係かな?」
杉本久遠は鈍い。
そう、とにかく鈍くて、解釈がなにかと好意的なのであった。
似合わない事はない、そう言われるとやはり照れ臭そうに、けれど嬉しそうに笑う。
「たはは、そうかな――うん、川添との話題が出来るのは嬉しいな。
川添の事はもっと知りたいし、もっと仲良くなりたいと思ってるし」
もちろん、部員として出来る限り面倒を見てあげたいという気持ちがとてもあるのだ。
とはいえ、ちゃんとコーチングをしてあげられていないという点で、申し訳なくも思っているのだが。
「いい趣味、かぁ。
いや、ずっと興味がない分野だったんだけどな。
こう、少し前に、親しくしている女性から、ここをあんないされてな。
彼女の好きなものをもっと知りたいと思ってるうちに、オレも好きになってきてさ」
■川添春香 >
「そういう関係のことでありましてよー……」
震える声で汗を拭きながらへんてこな口調で答える。
バレてない! ありがとう杉本先輩!!
今度からもっと上手くやるべきなのだろう。
けど、ウソが上手くなるのはちょっとヤだなぁ……
「それはもう、こっちの世界でできた仲間とは仲良くしたいものです」
そして、先輩の言葉に目を光らせた。
親しくしている女性。それは、まさか。
「先輩……もしかして彼女の話ですかそれ」
「誤解でしたらごめんなさい、でも誤解じゃなかったら…」
「詳しく細かく聞かせてくださいよう!」
嬉しそうに話を聞き出しにかかった!
■杉本久遠 >
目を輝かせる後輩に、面食らう。
一体何が彼女をそうさせたのは、この朴念仁には察しがつかないのである!
「いや誤解じゃないぞ。
恋人として付き合っていて――オレはいずれ、結婚したいとも思ってる。
まあ、彼女にはまだ、試されてるみたいな感じがするが」
そう話して、気の抜けた顔で、たはは、と笑う。
「学内にいると、少し目立つ女性だからな。
もしかしたら川添もしってるかもしれないな。
オレの一つ上の女性で、シャンティ、っていう生徒だよ。
あんまり綺麗なヒトだから、オレで釣り合ってるのか、たまに自信がなくなりそうになるんだけどな」
なんてまた、何一つ隠そうともせず話、気恥ずかしそうに笑った。
■川添春香 >
「恋人……結婚したい…」
なんと、杉本先輩はそこまで考えていた!!
「先輩も隅に置けませんなぁ」
うへへと笑って絵本を閉じて棚に戻す。
いや、もともと隅に置いていたつもりはないけど。
言葉の言い回しは不思議だ。
「へー、シャンティさん。知らない人ですが、先輩が好きになったならきっと素敵な人なのでしょうね…!」
「大丈夫です、先輩も自信を持ってください」
「自信なさげに恋愛なんてするもんじゃないですよ」
と、小説知識で彼を鼓舞してみんとす。
そっかぁ! 先輩は幸せ者!!
「いつか先輩の彼女さんと会ってみたいですね」
「いやー、もしかしてその関係で本を?」
■杉本久遠 >
「ああ、とても素敵な女性だ。
ただその、突然消えてしまいそうに儚いような気もしてな。
できればずっと隣に居て、繋ぎとめていたい――なんて言うと、束縛するみたいで良くないな」
はは、と苦笑い。
「うむ、彼女にも言われたよ。
不相応だとか不釣り合いだとか、そういうのは考えるべきでないんだよな。
ただなあ、こう、幸せだと思うとなんだか不安にもなるというか」
うーむ、と眉を潜めて唸る。
久遠は彼女の表向きでない活動を知らない。
だが、その直感の鋭さでなにかを感じ取っているのかもしれなかった。
「おお、オレも川添には是非とも紹介したいな。
褐色の、おそらく美女、と言うんだろうな。
それで、いつも本を手に持っている女性だ。
もし会う事があったら、親しくしてあげてほしい」
可愛い後輩と、愛する想い人。
その双方が親しくなってくれるのなら、久遠としては嬉しい限りだ。
「本はそうだな、彼女がこの街を案内してくれてな。
彼女は本もそうだが、なんというのかな、新書ではなく古書の、そこに含まれる『歴史』というのが好きらしい。
そんな話を聞いてるうちに興味が出てな。
最初は勧められた本を読んでたんだが、最近は時々、自分でも眺めに来てるんだよ」
■川添春香 >
「おおー、情熱的な愛……!」
ロマンティック! ドラマティック!
素晴らしい恋愛!!
いや私、恋愛経験が幼稚園の頃に初恋破れただけなんですが。
「ふーん……なんていうか」
「先輩、青春してますねっ」
彼女のことで真剣に悩んだり。
彼女のことを知ろうと考えたり。
それはきっと、大人になりかけの今しかできないことなんだろう。
「褐色の美女……なるほど、そういう…」
「わかりました、もし機会があったら是非是非」
にっこり笑って胸の前で両手を合わせる。
レキジョ
「歴史……なるほど、歴女というわけですな」
多分違う。
「それで本を読むように…素晴らしいことですね……」
「先の災厄で失われた物語もありますし、残っているものを大事にするのは良いことだと思います」
■杉本久遠 >
「青春、なのかな?」
なんとも言えない顔で、少し情けなく笑ってみせる。
こちらの方面にはめっぽう弱い朴念仁なのだった。
「れきじょ?
そういう言葉もあるのか」
歴史が好きな女性の事を指すのだろうかと、語感からなんとなく察する。
そういう意味ではもしかしたら歴女なのかもしれない――いやそうなのか――?
「ああ、そうだよな。
オレはなんていうか、こういう古書には、いろんな人が触れて来た痕跡が残ってて、そこになんだろう、息遣いのような物を感じてな。
そのせいで今はほんと言えばすっかり新書より、古書が好きになってしまったよ」
例えばページの沁みだったり、本に着いたクセだったり――そういうものから感じ取れる、その本が渡り歩いてきた軌跡――それもまた歴史とも言えるだろう。
それが久遠に古書を読ませる切っ掛けとなったのだ。
「――しかし、オレの話もそうだが。
川添の方はどうなんだ?
川添も可愛いし、気立てもいいし、男子にモテそうなもんだが。
そういう恋愛、か?
そういうのはないのか?」
ド直球。
しかも人によってはフェイタルダメージになりえる事を、なんの悪意もなくたずねる、ド級朴念仁。
■川添春香 >
「セーシュンですよぉ」
「誰がなんと言おうと青春です」
思えば。最近は戦いに明け暮れていたから。
蜘蛛の怪物とか、見上げるような大蛇とか、変身する機械の悪魔だとか。
ああいうのを止めるためだけに私は生きてるわけじゃない。
先輩を見ていると、そんな当たり前のことを再確認できるのだ。
「すいません歴女はなんか違う気がします」
即座に訂正しておいた。
歴史好きってそうじゃないと思う。
「良い趣味じゃないですか」
「本も誰かに読んでもらったほうが嬉しいと思います」
「古びたからって捨てられるよりは、ずっと」
微笑んだ瞬間、突き立てられる言葉の刃。
「ぐ、あ………」
苦悶の表情でカワイくないうめき声を上げて。
「モテてたら休日に一人で本屋にいないんですよね……」
残酷なりし驚愕の真実。
私にもいつかモテ期が来ると信じて………信じて…!!
わざとらしくフラついていたけど、顔を上げて。
「それでは良い話も聞けたことですし私は今日はこれで」
フッ……と無駄にキザっぽく笑って去っていった。
モテないしお昼ごはんは牛丼にしよーっと!!
■杉本久遠 >
「そうか、青春か」
この後輩が言うのなら、確かに青春なのだろう。
力強い肯定に、力を貰った気がした。
「む、ちがうのか」
難しい――なら歴女とは何なのだろうか、と一人首を傾げた。
「え、そうなのか?
川添くらい可愛ければ、男子も気に掛けると思ったんだがなぁ」
悪意ゼロパーセントである。
ふらつく後輩の様子にも不思議そうにするありさま!
なんたる無垢!
なんたる残虐!
「ん、おお!
それじゃあまたな。
気を付けて帰るんだぞー!」
なにやら意味ありげな表情で笑って帰る後輩を見送って、久遠は再び書棚に向き合う。
『がんばりやのねずみさん』
後輩が手に取っていた絵本を久遠もまた手に取って、その物語に含まれた意味を考えてじっくりと頭を悩ますのだった。
ご案内:「古書店街「瀛洲」」から杉本久遠さんが去りました。
ご案内:「古書店街「瀛洲」」から川添春香さんが去りました。