2019/02/07 のログ
■北条 御影 > 夕暮れ時。学校帰りの生徒たちが友人たちと他愛もない話をしながら家路を辿っている。
冬風が吹き抜けるなか、きゃぁきゃぁと楽し気に笑い合う少女たちを見ていた。
きぃ、と音を立てて腰かけたブランコが揺れる。
夕日に照らされて伸び行く影は一人分。
何だかブランコの影と混ざってしまったかのように、いびつな形だ。
訳も無く、溜息が漏れた。
特に何かを感じ入るわけでもない、と自分では思っていたのだが、
どうやら思ったより自分は枯れては居なかったらしい。
楽し気にはしゃぐ少女たちを見て「寂しい」という感情が芽生えた。
「……。はぁ、こういう時に愚痴る相手もいないんですよね。
うぅ、寒…。コーヒーでも買ってくるべきだったかなぁ」
■北条 御影 > 独り言をこぼしたところで誰かがコーヒーを持ってきてくれるわけもないし、
凍えそうな両手を包んで温めてくれるわけもない。
そんな偶然はこの世にはそうそうあるものでもないし、
そもそも自分にはそんな偶然が起こるための前提条件を満たすことが出来ない。
初対面の相手に行き成りコーヒーを渡して話しかけるなんて―
「……いや、やってたな私。割と頻繁に。
でもまぁ、だから何だって話なんですけど」
自分の言動を思い出してまたため息が漏れた。
あくまで自分の言動は自分のためであり、それが一般的なものではないことは自覚している。
だからまぁ、何が言いたいかというと。
「結局、私は一人寒さに震えるしかないのでした、と」
一人、自嘲気味に笑えば夕焼け空の何処かでカラスが相槌を打つように鳴いてくれた。
嬉しくはない。
■北条 御影 > ここまでワンセット。
何度も繰り返した彼女にとっての日常である。
世の中、初対面の見知らぬ少女に声をかけて回るような人はそんなに多くは無い。
一人で黄昏ていたからとて、周囲が心配してくれるような年齢でもない。
というより、この島の人間に限って言えば、見知らぬ人の心の機微に気を配るような余裕はあまりないのかもしれない。
暁先生も言っていた。
皆意外と、悩んだり苦しんだりしているのだ。
「楽しんで今を生きれば、どうにかなる…かぁ」
先生の言葉を思い返せば、沈みかけていた心が少し晴れた気がする。
こうして一人で悩んで落ち込んでいるよりは、何か行動を起こすべきなのだろう。
「―よしっ、頑張れ私!」
ぱし、と頬を叩いてブランコから立ち上がる。
空元気ではあるが、それでも声に出してみると歩き出す気力ぐらいは沸いてくるものだ。
■北条 御影 > そうとも。
きっと何もかもが無駄な行動なんてことは無いのだ。
思い返してみれば、あの東雲先輩は自分のことをぼんやりと覚えていたじゃないか。
理由はよく分からないけれど、それでも彼は自分との時間を記憶の片隅にとどめていてくれた。
あるいは、自分が声をかけたことによって蓋をしていた記憶が想起されたのかもしれないが―
どちらにせよ、それは希望だ。
「何もしないよりは、何かしなきゃね。
誰かと会って、約束作って―」
そう言って思い出されるのは、ゲームセンターで話した少年のことだ
ご案内:「常世公園」に沢渡マリアさんが現れました。
■北条 御影 > 彼とも―水無月とも約束をした。
関係性の選択、だなんて上等な言葉を使って飾り立ててはみたが、
要は「約束」として意識しやすいように言い換えてみているだけのこと。
端から見れば、ただ自分が彼をからかっただけのように見えたことだろう。
それでも、あれは自分にとっては、水無月という少年と自分とを結びつける明確なポイントである。
それを自分が忘れなければ、次に出会った時には何かしらの変化があるかもしれない。
もちろん、何も無く、初対面として接する可能性の方が高くはあるが、それでも―
「信じる何かがあった方が、私的にも楽だもんね」
うん、と小さく頷いて一歩を踏み出した。
図書室での地道な努力と要は同じだ。
何かが変わると信じて動き続けなければ、本当にそのうち消えてしまうのだろう。
ご案内:「常世公園」から沢渡マリアさんが去りました。
■北条 御影 > だから此処でもひとつ、小さな努力をしてみよう。
転がっていた長めの枝を拾いあげると、その場にしゃがみこんで―
「北条御影 参上!!」
と、子供染みた落書きを残してから公園を後にする。
誰かが此れを見て、「北条御影」という名前と自分の存在を結びつけることはまず無いだろう。
自分は誰の記憶にも残らない。
けれども、この落書きを見た誰かが自分と出会い―
自分のことを「北条御影」だと認識したのなら―
その時は、きっとこの落書きのことにも触れてくれる。
その人と自分を結びつけるポイントが一つ、増えることになる。
その状態で交わす会話は、きっと今までとは違うものになるだろう。
そしてその出会いの記憶を忘れたとしても、
「此処で北条御影という名前の落書きを見た」という記憶は残る。
そうして、自分の名前だけでも誰かに何度も印象付けることが出来れば。
いつか、最高の「はじめまして」を交わすことが出来るだろうと、そう信じている。
いつの間にか夕日はビルの谷間へと消えかけている時間帯だ。
この落書きを見つけてくれる誰かを、
そしてその誰かと交わす「はじめまして」を想像し、幾分か軽くなった足取りで、彼女は寮へと帰っていくのだった
ご案内:「常世公園」から北条 御影さんが去りました。