2019/06/01 のログ
ご案内:「常世公園」に天月九郎さんが現れました。
天月九郎 > 『ほんでな?ボン、わしもちょっとええですか?言うてくれたらまあええやろって気分にもなるねんで?それをいきなりてそらアカンやろ……おいちゃんやのうておねえちゃんやったら風紀沙汰やで?』
「はい……ほんっとすいませんでした……」

公園の芝生に正座をしてうなだれる先に居たのは一匹の柴犬……しかしその口から紡がれるのは紛れもなく人の言葉。
それも未来から来た殺戮ロボットのような渋みのある低音ボイスだった。

事のはじまりはほんの数分前、今日はいい天気だし公園でのんびりしようか、なんて足を向けたところ可愛らしい柴犬が芝生の上で日向ぼっこをしていました。
それを見た人類の取れる選択肢など撫でる以外にあろうか?
そうしてひゃっほいと腹を撫でたところコラ!と人語を発しうひゃあと飛び上がり……長い説教を経てこうなった。

なんでもおいちゃんは柴犬ではなく異世界から渡ってきたシヴァィーヌとかいう種族らしい。
そのまんまじゃないですか……と言いたかったが説教が追加されそうなのでぐっと飲み込んだ。
異世界人や異種族に関してはもうすっかり見慣れ、街中で見かけても目で追わないほどに馴染んでいたが、このパターンはちょっと新しかった。
常世島って怖い。

天月九郎 > 『まあ判ってくれたらええねん。長々と言うて悪かったな。これで冷たいもんでも飲んでくれや』
「はっ、えっと……ありがとうございます!以後気をつけます!」

器用に前足で小銭を摘んで渡してくるのをありがたく受け取り、ほっと溜めていた息を吐く。
それにしても柴犬の尻尾ふりふりしたお尻は可愛いな……とおいちゃんを見送って、せっかくだし貰ったお金でジュースでも買うかと立ち上がる。

しかし本当にここは不思議な場所である。
自分の地元が主要な交通網から少し外れ開発の手が止まっている田舎だったため、最新の技術や異能や魔術とあまり縁がなかったというのもあるが、ここでは様々な光景が当たり前の風景として馴染んでいる。
壮年の男性の横で笑みを浮かべ共に歩む耳の長い女性、異能らしき光を発して飛び回る少年を追いかける獣耳の少年
妖精のような小さな少女を肩に乗せて歩く青年、ボンテージの女性に首輪を付けられて散歩するおっさん

「いや…あれはちょっと違うな……」
風紀の人が可及的速やかに対処してくれました。

天月九郎 > 「……でも異能とかあんまり関係ないかも知れないな……」

異能者が多いから、異種族や異世界人が多いから、そんなのとは関係なく、ここの住人はノリがいいのかも知れない。
自販機に虹色のステッカーでデコられた「ランダム」の缶を見てそう思う。
ランダム……すなわち何が出てくるかは運否天賦のアレである。
望まぬものが出て落胆するのも、レア物を引いて歓喜するも全てはボタンを押した瞬間に決まるのだ。
やるしかないだろこんなもの。

「……そう来たかぁ……」

ガコンと出てきたのは大漁旗のようなハデなラベルにカツオが踊る缶。そしてそこに書かれていた名前は「カツオだし」である。
東北産の国産カツオで職人さんが監修しながら作られた逸品でありレアリティはUR。
なるほどこれは130円で買えるような代物ではない、代物ではないが自販機から出て来て良い物でもないだろう。

天月九郎 > 「キンッキンに冷えただしって新しいよなあ……」

でも飲む、喉も渇いていたしこれが意外といける。
実家は割りと料理に手をかける家庭でもありかつお節からしっかりと取った出汁も口慣れているが、それでも違うと思えるほどに芳醇な香りが口の中に広がる。
明らかにインスタントの顆粒とは違う濃密に溶け込んだカツオの風味にほんのりとした塩味、ここに麩でも浮かべたらお吸い物として完成してしまうだろう。

「ん~よし、今度誰か誘ってみるか」
こっちに来てから出来た友人は何人か居る。取得した講義がいくつか重なったせいで自然と仲良くなった友人も居る。
今度は誰かを誘ってこれ買ってみようぜ!とやるのも楽しいだろう。

ぽーいと飲み終えた缶をゴミ箱に投げ綺麗な放物線を描き……本能覚醒したおいちゃんが空中でインターセプト。
がじがじと捕らえた獲物に牙を突き立てる姿を見て、やっぱあれ柴犬じゃねえ?なんて思う休日の昼下がりであった。

ご案内:「常世公園」から天月九郎さんが去りました。