2020/06/08 のログ
ご案内:「常世公園」にA.昼さんが現れました。
A.昼 >  
 長閑で変哲もない平和な公園。
 その広場のど真ん中に、景観に全くなじまない武骨なコンテナが一つ鎮座していた。
 明らかに不審物である。通りすがる人は関わり合いを避けるように遠巻きに通り抜けていった。

 ぱっと見た感じ、装飾もない金属製のコンテナだが、外から開ける分には簡単に開きそうな構造だ。
 中からはなんの気配も物音もしないが、しばらく様子を見ていると時折──

「昼だよ」

 ――と、中年男性のような声が聞こえる。

A.昼 >  
 もちろんそんな声が突然聞こえてくれば、大抵の人間は驚くもので、興味を持って眺めていた人間もぎょっとした顔になる。
 もうあからさまに不審物である。
 ここまでくれば通報するのが市民の義務だろう。どう考えてもやばいものでしょうこれは。

「昼だよ」

 またコンテナの中から声が響いた。
 すでに誰かが通報したかもしれないし、まだ誰も関わりあいになりたくないと見なかったことにされているかもしれない。

A.昼 >  
 刻一刻と時間は過ぎていく。
 しかし、コンテナには何の異変もない。
 中から物音がする事も、コンテナが開く事も、突然変形して動き出すこともない。
 ただただ、不定期に

「昼だよ」

 その声だけがやけに明瞭に空間に響いている。

A.昼 >  
 コンテナにはなにも変化はない。

「昼だよ」

 時間は過ぎていくが、聞こえるのは不定期な

「昼だよ」

 その声は広場全体に響いている。

「昼だよ」

 広場には今どれだけ人がいるだろうか。

「昼だよ」

 たとえどれだけいたとしても、いい加減気味が悪く、無視できなくなってくるだろう。

「昼だよ」

 その声はただ淡々と広場に響き続けている。
 時間が経つにつれ次第に、時折何かが軋むような音が周囲から鳴り始めた。

A.昼 >  
「昼だよ」

 [時間]が徐々に歪んでいく。
 今が朝だったのか、夜だったのか……それとも声が示す通り、昼だったのか。
 声を聴いているうちに認識できなくなっていく。

「昼だよ」

 広場にある時計の針が、ぐるぐると回り始める。
 短針も長針も秒針も、無秩序に動き出し、空の色は明るくなり、暗くなり、再び明るくなれば、赤く染まり、次の瞬間には青空になる。

「昼だよ」

 空間が軋みを上げていく。
 その場に人がいれば、誰もが呆けたように空を見上げているだろう。

「昼だよ」

 空が晴れ渡り、頭上には太陽が煌めいている。
 この広場だけが、時間も空間も歪めて、真昼になっていた。

「昼だよ」

 そして再び声が聞こえたとき、水泡が弾けるような音が連鎖的に響く。

「昼だよ」

 次の瞬間には、広場は元の長閑で平凡な公園に戻っていた。
 同時に、コンテナも広場から消え失せている。
 周囲には人の気配はおろか、生き物の気配が一切なくなっている。

「昼だよ」

 動くものがすべて消えた広場に、最後に一度だけまた声が聞こえた。

ご案内:「常世公園」からA.昼さんが去りました。