2020/06/20 のログ
ご案内:「常世公園」に山本 英治さんが現れました。
■山本 英治 >
土曜朝の公園。なんと空気が清々しい。
忙しかろうと鍛錬に手を抜けない研鑽中の身であれば、梅雨の晴れ間も嬉しい。
公園では将棋を打つご老人や遊ぶ子供たちが見える。
微笑んでから、站椿功(たんとうこう)を練る。
肩を足幅に開き、腰を落としてから腕を木を抱えるイメージで開く。
そして下腹部……丹田に力を入れて立つ。
これだけだ。
座禅と比べ、立って行なう禅……立禅(りつぜん)という言葉で表現されることもある。
上虚下実(じょうきょかじつ)の体現。
上半身をリラックスし虚空とし、下半身に力を入れ……実体を感じる。
剄を練る上でも欠かせない、全ての基本だ。
■山本 英治 >
そしてこのポーズのまま、集中するのが大事だ。
立って行なう禅なのだから。
未だ窮みも遠き山なれば。心を空にするも易くはない。
たっぷり30分、そのままの姿勢を取っていた。
周囲の子供はアフロを遠巻きに見ている。
そして形意拳の根本姿勢を取る。
三才式だ。
三才とは道教思想で言う宇宙の三宝を言う。
天、地、人だ。
天に三宝あれば日、月、星。
地に三宝あれば水、火、風。
人の三宝………精、気、神。
三才を拳に込める。それが形意拳。
一般的に映画で見るカンフーポーズにも近い。
■山本 英治 >
構えは無極式、太極式、両儀式を経て三才式に至る。
これは礼節にも等しき技法。
手は抜けない。
形意拳の練習は、劈拳(へきけん)から始まる。
掌を打ち下ろすが劈拳だ。
劈拳を本気で打てば相手の骨をも砕く。
ゆえに、拳法では心の修行を欠かしてはならないのだ。
劈拳は五行で言えば“金”に属する。
劈拳は一気の起落なり、という拳諺(けんり)もある。
気を練り上げるに当たり、とても大事な修行だ。
右掌を振り下ろす。虚空を割いて、清冽な空気を断つ。
足運びが大事だ。採歩、と言う。少し漢字は違うが……
震脚然り、歩法なくして功は成らない。アフロが風にそよぐ。
■山本 英治 >
そしてゆっくりと崩拳を打つ。
力を込めて、姿勢を確認しながら、しかし集中して。
拳訣に、崩拳は箭(矢)の如し……という言葉がある。
八極拳が爆弾なら、崩拳は貫くドリルや銃弾なのだ。
磨手結合(両手をすり合わせる)の動作、寸歩(寄り足)の動作。
ゆっくりと確認していく。
凶拳に成るは易く。
逆に守護のための拳は……とても難しい。
モーションの最後に全力で振り抜くと、自分の汗が周囲に散った。
■山本 英治 >
その時、遠くで子供の泣き声が聞こえた。女の子だ。
駆け寄ってみると、どうやら迷子らしい。
「大丈夫かい? お嬢さん。ママとはぐれたのかな?」
子供は泣きながらたどたどしく説明をする。
子供を怖がらせないように屈みながら笑って。
「そうか、怖かったな。お兄さんと一緒にママを探そうか」
両手で高い高いするように子供を抱え上げる。
「それ! ママが見つかったら言ってくれよ?」
「こらこら、アフロに触っちゃいけないよー」
自分の異能は超力(チャオリー)。ゆえに、役に立つ場面はそう多くない。
こういう時でもなければ。
ずっと子供を抱えたまま、公園の周囲を歩いた。
■山本 英治 >
その時、俺に向かって女性が走ってきた。
ママ、と泣きながら叫ぶ女の子。
どうやら、ハッピーエンドらしい。
遠山未来。
今は亡き俺の親友。
お前の語ってくれた未来に、俺は近づけているか……───
『うちの子を連れ回して!! 何が目的なの、この誘拐犯!!』
は? え? いや、違……
誤解……誤解なんですママさん………誤解アフロ…
汗がだらだら流れる。
風紀、風紀だと説明しなければ。
でも着替えも腕章も身分証も近くのコインロッカーに置いて来たままだ。
遠山未来。
今は亡き俺の親友。
お前の語ってくれた未来に、俺は近づけているかなぁ……───?