2020/06/23 のログ
■アイノ > “相手に影響を及ぼす能力は利用禁止”
それ以外のルールは無い、非公認のサバイバル球技大会。
様々な球技を行いながら、お互いの能力を怪我をしない程度にぶつけ合う。
相手に作用させてはいけない、という点から、なかなかに能力の使いどころも難しく、能力を全く使わない経験者が普通に無双もするという、トンデモ球技大会。
「………っふー。」
そんな大会の中央、第一広場のそのど真ん中で吐息を漏らす少女。
友人らに引っ張られて参加した大会ではあるが、彼女の能力はおあつらえ向きだった。
■アイノ > ぐ、っと左足を持ち上げて、折り曲げた左脚を抱え込むように右足一本で立ち。
そこから一気にお尻を落としながら、左腕で壁を作るように体の前へ。
未完成な身体故に耐えきれずに持ち上げた左足を地面につけば、右ひじから前に出す感覚で、腕を振り切る。
白い球がひゅるりと投げられれば、対戦相手のバットが空を切り。
「………ラクショーっしょ。」
ふん、っと鼻を鳴らす金髪自称美少女。
彼女の能力とこの球技、特に投手というものの相性はすこぶる良い。
■アイノ > 彼女の能力は、初速を出すことはあまり得意ではない。
止まっているものを銃弾のように射出はできないのだ。
だからこそ、小さな体を目いっぱいしならせて投げなければいけないのだが。
指から離れた後の白球は、まさに生き物。
とはいえ、ただただ派手に動かすだけでは芸が無い。
ほんのボール1つか2つ分、もともとたどり着く予定だった場所の上か下を通してやればいいのだ。
同じフォーム、同じ速度からの、上中下とたどり着く場所が思い通りに変わる魔球。
本気になれば大リーグボールだろうが次第に加速するボールだろうが、なんでもできる金髪少女。とっても美少女。(自称)
「ヘイヘイ、ゴロとフライ打つプロかー?」
煽りも入れて、ケケケ、と笑う。
ご案内:「常世公園」にルリエルさんが現れました。
■ルリエル > 先にバッターボックスに立った打者は、三振か、凡打か。
ともかく念動力による変化球をまともに打てるはずもなく、すごすごとベンチへと引っ込んでいく。
入れ替わりにフィールドへと現れたのは、銀髪に白肌、長身にグラマラスボディの美女(※平均的な美的感覚に依る)。
夏らしいラフな出で立ちだが、ぴっちりジーパンはあまりスポーツ向きではないかもしれない。
ミニスカを履いて観客席でボンボンを振っていればもう少しサマになったかもしれないが、今回のルリエルは参加者。
いや、ただの通りすがりなんだけれど…。
「フフッ……詳しいことはよく分かりませんが、とにかく投げたボールを打ち返せばよいのですね?」
自軍の味方に再三の確認を投げたのち、きょろきょろとフィールドの様子を伺いながらバッターボックスへと入っていく。
手に握られているのは木製バット……だが、そのシルエットは見る見るうちに変わっていく。
雲とも綿ともつかぬ物質がモワモワと現れてはバットの周囲に付着し、体積を広げていく。
やがてそれは大きな大きな……うちわ? ラケット? フライパン? 否、道路標識くらいはありそうな……。
そんな、ストライクゾーンくらいはすっぽり覆ってしまうほど面積を持った平板へと変容する。
軽々と素振りする様子を見ると、重量はほとんど変わっていないようだ。
「これならまぁ、たぶん、きっと打てるでしょう? 私でも……フフッ」
前打者に倣って左バッターボックスに立って構えると、のほほんとした笑みをピッチャーに向ける。
■アイノ > 「………ふーん、おねーさんが次のお相手。
いいけど、打てなくても泣くなよ?」
やってきた大人びた女性に、ふふん、と笑う。
どう見ても運動が得意そうには見えないプロポーション。くそ、私だって成長すればあのくらい………。いやいや。
運動不足を解消にやってきたおねーさんってとこか、なんて勝手に見積もりながら、今回は楽勝だな、なんて肩をぐるりと回す。
「……ん、なっ!………」
目の前でバットが変化していけば、思わず声が漏れて、動きが止まる。
あー、なるほど、そういう。
一瞬ビク、っとしたけれど、フン、と鼻を鳴らして。
「全力で振らなきゃ、当たっても同じさ。 転がるだけならアウトにできる。
……本気で行くよ。」
投げる前に一言、相手に向かって言葉を吐いて。
ツインテールを揺らしながら振りかぶる。
転がすだけならアウト。本気で行く。
そんな言葉を投げかけて、相手が全力で振り回すことに賭けて。
「……せ、りゃっ!!」
小さな体を目いっぱいにしならせての、豪快なストレート。
……を、ホームベースに向かう途中で一瞬だけ止め、タイミングを狂わせる。 秘儀・止まる魔球!!
じっくり見られてたらホームランボールだけど。
■ルリエル > 「……あら? 転がして打ってはいけないのですか?
あなたの変化球をうまく捉えて、しかも浮かせなくちゃダメ? まぁ、難しい『すぽーつ』ですこと……」
マウンドの上、鼻息の荒い美少女から挑発が飛んでくる。
その言葉に銀髪美女がぼやくのは何ともトボけた感想。そう、実際のところ野球のことはほとんど理解していない。
ノリと勢いでバッターボックスに立ったはいいが、どう振る舞えばいいか戸惑い、おろおろと視線もブレぎみ。
そんな態度なもんだから、アイノの初球には過剰反応してしまい……。
「わっ!…………きゃっ!!?」
ぶうんっ! 全力のスイングは宙を切る。1呼吸ほどの長い間を置いて、魔球はキャッチャーミットに収まった。
止まる魔球に完全に翻弄された形だが、仮に止まってなかったとしてもややタイミングが早かったかもしれない。
しかし恐るべきはスイング速度。
質量や空気抵抗を感じさせることなく、通常のバットと同じように巨大な平板を振り抜いて見せた。
……もっとも、雲のバットに球が当たったところで上手く跳ね返るかどうかは分からないところだが。
「……まぁ、まぁ! これがボールを投げられるという感覚なんですね!
横から見てても感心しましたけど、正面から見ると遠近感で全然動きが違って見えるのですね……。
…………ええ、でも。多少は慣れてきました」
無様な空振りを悪びれる様子もなく、再び雲の平板を構え直すルリエル。
今度はその表情にふざけた笑みはない。黄緑色の瞳が鷹のように投手を見据える。
■アイノ > 「転がしてもいいけど、他の奴に簡単に取られたらダメだからな。」
ふふん、っと。鼻を鳴らして言い放つ美少女。鼻息荒いって言うなし。
空振りに、よし、っとこぶしを握るも、ふわり、っと風すら感じて寒気が走る。
あの雲がもしもバットと同じ硬度だとしたら、完全にホームランな勢いだった。
彼女は試合開始時にぐりぐりと動く変化球を見せ、全力で振らずに当ててくるように相手を"誘導"した。
だからこそ………天然なのか策略なのか、全力で巨大バットを振りぬいてくる相手に、思わず身が竦む。
「………ふーん、慣れてきたか。」
ニヤリと笑う。キャッチャーにサインを出し、もう一度構え。
相手のバットは大きい。上下に少し揺らす程度では全く相手にならない。
となれば、前後。
今度こそ、全力。しなる腕から放たれた白球は、指から離れてからも更に加速を始めて。
唸りをあげてまっすぐ一直線にキャッチャーに疾走する!
■ルリエル > 「……なるほど、だんだんわかってきた気がします。
あなたの周りに広がってる他の選手にボールを取られないように打てばよいのですね?
それなら…………それなら…………ふふっ、簡単じゃないですね? どうして私はここにいるのでしょう……」
打席に立ちながら徐々に『野球』というものを理解していくルリエル。
もちろん現時点じゃほとんど理解していないに等しいし、すでに1ストライク取られていては遅きに失するかもしれないが。
自身の無様な現状に悪態すらもつくが、それでも素人なりに構えには気合を入れて、投手を見据える目つきも変わらず。
「……………………!」
細腕の少女がせいいっぱい肢体をしならせ、白球を投げる。
それが見えないチカラに後押しされて、ぐん、ぐん、と中空で加速していく!
《天使》としての力をわずかずつ発揮し、まずボールの軌道と速度を追うことに集中したルリエル。
加速する白球が視線の焦点にてスローモーションになり、縫い目の1つ1つすらも目で追えるほど。
だが、そんな綿密な分析の結果わかったことは………。
「…………これムリ!」
そう叫びつつ、またも全力スイング。
今度はタイミングは完璧。しかし、球が命中したのは平板の正中線からわずか下。
芯材となった木製バットからは外れ、雲のラケットに命中した豪速球はそのまま貫通、またもキャッチャーミットへ。
ぼふぁ、と気の抜けた音を立てて、雲のラケットの半分が霧消する。
「……うん、やっぱりこのカタチじゃ無理ね。もう少し固めないと………」
すでに後がないルリエル。だがなおもマイペースにひとりブツブツつぶやきつつ、何やら集中する素振りを見せる。
すると、再びバットの周りに雲が湧き始める……が、今度はカタチが違う。
ラケットではなく、まさしくバット。しかしその太さは4倍ほどにも膨れ、もはや丸太と言っていいレベル。
今度は貫通されないようにギチギチに綿を固めて硬度も確保して。
その分振りにくくなったが、慣れでカバーできる、ハズ。
「……次空振りしたらアウト、でしたよね? フフッ、やるだけやってみましょう。
さぁ、最後の球はどんな球なのでしょう?」
ぐい、と極太バットをピッチャーに向けて、溌剌と問うてみる。
その仕草はみようによってはホームラン宣言のようにも見えるかもしれない。そんな意図はないのだけれど。
■アイノ > 「……ちぇっ。」
思わず小さく言葉が漏れる。速球だったから突き抜けたが、ゆるくタイミングを狂わせる球だったら、雲に当たってふわりと跳ね返っていたかもしれない。
もしそうだったら、簡単にアウトを取れたというのに。
相手がまるで初心者、だとは思っていない………先ほどの問答も、相手のブラフだと考えている少女。
目つきと視線の鋭さだけは、経験者顔負けだから、だが。
「………マジかよ。」
巨大な丸太を抱えるような格好でバッターボックスに立つお姉さんに、思わず声が漏れる。
ビシ、っとその丸太で予告ホームランをされれば、冷や汗がたらり、と落ちる。
掌を向けて押し出すようなしぐさをして、キャッチャーと審判を下がらせる。
あんなもの振り回して、キャッチャーごとホームランにされたらコトだ。
「………最後は凄い球さ。」
薄く笑いながら、持ち上げたボールで口元を隠して。
彼女は能力も応用が利くが、応用が利くだけでは生き残れない。
つまるところ………ハッタリも得意だ。
魔球の種はさっきので最後だ。それをおくびにも出さずに。
全力で三振を取ってやる、くらいの強気な仕草を見せながら、がばり、っと足を持ち上げて構え。
細い腕が折れそうなほどにしなって、白球を投じる。
ホームランを狙うなら、下から上にすくい上げるようなスイングになる、と予想しての、少しだけボールが下方向にぐ、っと曲がる球をチョイス。
そう、三振ではなく、打ち損じてのゴロアウト狙いに即座に切り替える。
得体のしれない女性に気圧されている。 メンタルはそこまで強くない金髪少女。
■ルリエル > 「ふ、ふふっ…! すごい球、ね! お姉さん楽しみ…!」
ルリエルとて緊張している。アイノと同様、ルリエルも投手が見せる千変万化の球に気圧されつつある。
こんなにピリピリとした緊張を覚えたのは久しぶり……何千年ぶりだろうか?
以前緊張したのはどんな時だったか、などという回想に耽る暇は今はなく。
ただ、バッターボックスにて超能力少女と相対する今はその高揚感に浸るのみ。最大限の集中力を発揮するために。
「…………………………!」
第三球、投げられた! その軌道はごく普通のストレートだが……一切の予兆なく変化することはもう知っている。
それでもどう軌道が変わるかは予想しえないため、自分を信じてバットを振り抜くしかない。
「…………ッ!!」
凄い球、という宣言から若干拍子抜けするような微妙な変化が生じる。だがそれでもゴロを誘発するには十分。
そんな未来を予見したルリエルは、すでに4割方振り抜きつつあるバットに強引に下向きの力を加える。
少しでも真芯に捉えようと。少しでも打球の軌道を浮かせようと。
《天》に連なる己の権能と性質をフルに励起させ、神経系を振り絞って知覚を加速させる。
……ドボッ!! 鈍い音が響く。なんとか極太バットにボールが命中した!
だがアイノの目論見どおり、バットの下部に当たったボールは地面へと向かう。
所詮は素人ががむしゃらの力で振ったもの、十中八九は凡打となるのが常識。
当然、今回の打球も軌道だけ見れば凡打……だが、そうはならない。
ルリエルも「まともには打てない」ことを承知のうえで、とにかく「当てに行った」のだ。
バッターボックスとマウンドの中間あたりでバウンドするはずの軌道が、突然ふわりと浮いた。
ルリエルが打ち返した白球には、かなりの量の《雲》が付着していた。それが打球から重力を奪う。
空力に煽られ、地に触れることなく浮かび上がる。
そしてそれは、アイノの頭上を越えて外野にまで向かおうとする……不自然な等速運動で!
機敏に反応して精一杯ジャンプすれば、あるいは他の干渉方法を使えばピッチャー返しに取れるかもしれないが、
さもなくばこのままスゥーッとスタンドまで流れてホームランになるかもしれない、そんな軌道。
「!!! やったやった!! 打てた打てた!!」
そして、そんな目論見を半ば達成したルリエルはバットを手放して走ら……ない!
喜びのあまり、バッターボックスでぴょんぴょんと跳ねている。
■アイノ > 打ち取ったっ! スイングを見れば、心の中でガッツポーズ。
そのまま転がってくる球を受け止めて、投げて。それでこの勝負は終わりだッ!!
もしも、三球目に全力のストレートを投げていれば。
三振を全力で取りに行っていれば。
其処まで鍛え上げられていない体幹故に姿勢は簡単に崩れて、そのままホームランにされてしまっていただろう。
今回は、完全にゴロを取りにいくつもりだったから、がっちり姿勢は受け止める形に変わっている。
単純なバウンドならば、彼女ならばあっさりと受け止めて終わる。
「………ん、なっ!?」
めり込むような音。それだけならまだよかった。
ただ、地面に跳ね返って飛んでくる軌道を予測していたからか、まさか地面を這うような状況から、ホップして伸びあがるとは思っていない。
「んな、くそっ!!!」
両腕を振り上げ、全力でジャンプ。 地面を踏み切る時に力を使えば、ありえないようなジャンプをして。
ゴッ、とすさまじく鈍い音がして、金髪美少女(自称)は額でその打球を受け止め、空中で半回転し、マウンド上で一人バックドロップを決めていく。
ぽてん。ぽてん、っとボールがその場でバウンドした。
打った人は走らないし、投げた人はマウンドに散った。
■ルリエル > 打ち取った喜びに、出塁も忘れて飛び跳ねる長身の妙齢女性。シャツの中で巨大な2つの白球もぶるんぶるん跳ねる。
そんな様子にベンチからは『走れ!』『1塁行けバカ!』などと野次も飛んでくるが……。
「……………!!!」
すぐにルリエルの勝鬨は止まった。マウンドの方をみやり、さあっ、と表情が曇る。
常識外の立ち高跳びでルリエルの打球に食らいつきに行った投手、その額に打球が命中し、嫌な音がして……。
「ちょ、ちょっと!! ちょっと!! 大丈夫ですかっ!!?」
慌てふためき、ルリエルは無我夢中でマウンドへと駆け出していく。
無様に転がる少女を抱きとめるように両手を伸ばせば、つんのめって自らもヘッドスライディング。
綺麗だった赤のシャツもジーンズも土埃で盛大に汚しながら、それでも必死に投手を介抱しようとして。
「あ、あわわっ、頭を打って……頭から落ちて……ど、どうしましょうどうしましょう!!?
……な、なにか冷やすものは……あう……冷えた《雲》は出すのに時間かかりますし………あわわ……」
傷病者の介抱に自信ありとして自ら保健課の養護教諭になることを選んだ《天使》ルリエル。
しかしスポーツ中にこんなアクロバティックな動きを見せたあげく体を痛めた少女にはさすがに焦燥してしまい。
半分かそれ以上は自分の仕業というのもあって、これまでにないほどの狼狽を見せている。
「……だ、大丈夫ですか!? 大丈夫ですか、えっと……投手さん!」
とにかく、意識があるかないかをまず確認。軽くほっぺを叩いたり、背をさすったり。
■アイノ > 想定外の動きだった。
この辺りだ、とグラブを構えたところから更にもう一段階伸びあがってくるとは思わなかった。
ぺちぺちと頬を叩かれ、背中をさすられ。
意識があるか、と問われれば。
「当然だろ。………でけーな。」
へ、っと薄く笑いながら、目の前でばふばふと顔や体に当たる胸をつついて、ついでにふにりと掴んでみる。やわこい。
くっそう。私だってもうしばらく成長すれば………。
「………へん、あのくらいでくたばるかっての。
しっかし、アレを打つかぁー………。っていうかあの動きなんだよ。」
思わず苦笑しながらも、無理に起き上がらずに腕の中で横になったまま。
負けた負けた、とウィンク一つ、にしし、と歯を見せて笑ってやる。
「負傷退場、投手交代交代。」
自分で言いながら、抱きかかえて運んでよ、なんてお姉さんにねだってみよう。にひひ。
■ルリエル > まぁまず大事には至らないだろうが、当たりどころが悪ければ後遺症や最悪のケースも……。
そんな感じの微妙な球威と、危なっかしい落ち方だった。
慌てふためいた様子で投手に駆け寄り介抱を試みたルリエルだったが……。
「……きゃっ!? ……も、もう、いきなり触らないでくださいよぉ………」
とりあえず意識は大丈夫、とばかりに胸に触れてくる少女には、別の狼狽を見せつつも、すぐにほっとしたように笑みを浮かべる。
「……と、とりあえず意識は問題ないようですね。ええ、でも一旦休みましょうね?
《雲》で担架を…………えっ、抱えて運んで? しょうがないですね……まぁどこも怪我してないと言うのでしたら。
……我慢は禁物ですからね、痛むところがあったら遠慮なくおっしゃってください?」
ここぞとばかりに身を寄せてくる細っこい少女に、ルリエルは苦笑まじりの微笑を作って応える。
触れられたときは驚いたものの、同性からのスキンシップにはさほど抵抗はないようだ。
まぁ自分の打球で痛めつけてしまったという引け目もあってのことだけれど……。
冗談交じりのおねだりをルリエルは小言とともに受け入れ、そっと優しくお姫様だっこで抱え上げた。
そのまま野球場を退場していく2人に、アイノに向けては健闘をたたえるエールがわぁわぁと浴びせかかる。
ルリエルに向けては……期待はずれのブーイングと、もっと胸ゆらせなどというセクハラコールと、ちょっぴり称賛。
「……フフッ。私は《天使》……いえ、異邦人ですから。ちょっとだけヒトよりも力も瞬発力も強いのですよ。
ああ、私はルリエルと申します。一応養護教諭に就いてますが……まだまだヒトを診るのには慣れませんね……。
………でも」
観客席まで、わずかの疲労も浮かべることなく少女を運びきってしまうルリエル。
ベンチに横たえると、膝枕の姿勢で少女の頭部をふとももで支える。筋肉を感じさせないほどに柔らかい。
「……でも、あなた、結構無理してませんでした?」
柔らかな笑みにほんの少しだけ厳しさを浮かばせながら、眼下の少女に問いかける。
■アイノ > 「いやほらデカいし。」
ケケケ、と悪戯に笑ってやれば、狼狽する相手を楽しそうに見やる。
こうやって悪戯して、相手が驚く姿を見るのが生きがいのようなところもある悪い子。
「んしょ、っと。」
ひょい、っと抱きかかえてくれるなら、嬉しそうにこっちから抱き着いて。
甘えるムーブもお手の物だ。にひひ、と笑って見せながら、抱えて貰えれば身体は予想通り軽いもの。
「……いえーい。」
なんて、観客にVサインをしながら抱き着いて見せつけるようにしてやる。へっへっへ、うらやましいだろ、なんて意地悪な笑顔。
「………なーる。 道理であれを振れるわけだ。
天使ねえ、ルリエル……先生? ああ、私はアイノ。 成績優秀容姿端麗、将来有望なアイノだよ。」
自分で自分を持ち上げに持ち上げて、口笛を吹いて太ももに顔を擦り寄せ。
「………無理、ねえ?
こっちは人生の3割以上超能力者やってんだよ。 このくらいは当然だっての。
……心配?」
にひ、と笑って見せる少女。
■ルリエル > 「そう、ルリエル先生。……一応は先生ですね。さっきはかなり先生っぽくない振る舞いしちゃいましたが」
――異界よりの異邦人であるルリエルには、教師でなく生徒としてこの島に居座る選択肢もあった。
そうしなかったのは単に『その方が楽そうだったから』で。
生徒となって積極的に《地球》の現状を学ぶというほどの『将来を担う』意識に欠けていたからで。
……だからこそ。
「アイノさん、ね。どういう漢字で描くのかしら?
……それはともかく。そうですね、心配になりました。その……2球目あたりからはすでに。
アイノさん、すごく気張って球を投げていたようで。あの変化球、異能も使っていたのでしょう?
すごい剣幕で……なんというか、全力以上をつぎ込んでしまっているかのように」
フィールドではすでに攻守が入れ替わって試合が続いている。断続的に歓声や感嘆が試合場を駆け抜ける。
ルリエルはそちらには全く視線を送らず、太ももに頭を沈めるツインテールの少女をまじまじと見つめている。
自称《天使》の顔は土埃で汚れてはいるが、頬も唇も鮮やかに紅く、睫毛もピンと弧をかいて立っている。
控えめにいって作りのいい顔立ちだが、表情はやや戸惑いの色が濃い。
「……それで最後はあのジャンプでしょう?
こういうと、アイノさんや……ここにいる人達に失礼かもしれませんが。
体を壊しそうになってまで必死になる、という気持ちが私にはどうもわからなくて……」
胸を触られたお返しとばかりに、ルリエルは眼下の少女の額にそっと白い手を伸ばし、髪をかき上げてみる。
打球を受けた額に跡が残っていないか心配になったようだ。
「アイノさん。あの打球を取るために、力も使ってジャンプして、球に当たりに行って。
……あの時、あなたはどんな気持ちであんなジャンプをしたのです?」
■アイノ > 「ここの先生達はそういう人ばかりだから、気にしなくてもいいさ。
……私は、漢字がない国からの転校生だよ。
センセ、きれいな顔に土ついてる。」
相手の言葉に少しばかり目を細めながら、手を伸ばしてその顔についた土を払って。
そのまま相手の言葉を少しだけ考えるように噛みしめて、ああ、と合点がいったように。
「………そういうことね、センセは分からないかもしれないな。」
少しだけ赤くなった額を見せながら、に、っと歯を見せて笑う。
「この能力は、言うなれば私の手足みたいなもんだよ。
いつの間にかそこにあって、それを自在に使えるのが当たり前の。
でも、世間はそうじゃないんだ。 よく分からない力を使う人間を怖がって。
悪魔だなんだと言うわけさ。」
軽い口調で言いながら、舌をちょっとだけ見せ、ふん、と笑う。
「だから、我慢したよ。
本気出したら、周りの人間なんて簡単に死んじゃう。
どんだけ腹が立っても、どんだけ許せなくても、我慢しなきゃいけない。
そりゃ、ちょっとくらいは脅すけど。
それでも、我慢我慢。 この能力を覚えてから、この島に来るまで、365日、24時間、ずーっとさ。」
「だから、どんな気持ちかって言われたら、
すっげー気持ちよかった、って言うわけ。
思いっきり出来て、誰にも何にも言われずに、思いっきり打ち返して貰えるのはさ。」
なんて。……ちょっと痛かったけど、と意地悪を言いつつ。膝枕から動かない。
■ルリエル > ――自分の《雲》の能力が異能かそれ以外かはさておいて。
この世界においては、半世紀ほど前に突然《異能》を発現させる者が増えたという。
常世学園はそういった異能者を育み、相互理解を促し、ひいては世界に対してもその存在を認めさせるためにあるのだという。
とはいえ、たかが半世紀でそんな「力」が世に馴染むかというと……ルリエルの時間感覚ではとうてい肯定できず。
「……そうね、わからない。いや、わからなかった。
そりゃそうですもの、3ヶ月前にここに来る前は、こんな多種多様な《力》なんて目にしたこともなかったですから」
……それどころか、十数人の天使の仲間以外とは数千年にわたり顔を合わせることもなかった、そんな世界だけど。
「一応私なりに、この島に来てからいろんなヒト、いろんなチカラに触れて理解しようとしてきたつもりではあります。
ただ、この学校の理念からしても、チカラは自分や他人を害さない方向に使い、伸ばしてほしい、とは思ってます。
さっきみたいに、無鉄砲に自分の体を飛ばすような使い方は……うん、さすがに見ててヒヤッとしてしまいましたね」
アイノの額に命中した球の跡はほんのり赤いが、コブやアザとしては残らなさそうである。
ほっとしつつ、触れたら痛いかも……と思えばそこを撫でるような真似はせず、そっと髪をおろしてあげて。
かわりに頭頂をそっとゆるやかに撫でながら、ルリエルは柔らかく、言葉を選ぶようにゆっくりと語りかける。
その口調はどこか、自分の立ち位置を見つめ直しているかのように、熟考の間を含みながら。
「……まぁでも。ええ、ガマンは良くないですよね。ガマンというのは怒りや悲しみといった感情よりも良くないものです。
まだロクに交流もしてませんから、アイノさんの抱えていたガマンというのを私は完全に理解できませんけれど。
………でも、そのガマンを人を害する方向でなく、スポーツという遊戯で発散できるのはとても健全なのだと思いました。
そのためならちょっとくらい怪我しても構わない……といったところでしょうか?」
抱えているものの程度の差はあれど、ルリエルとて忍耐強くはないほう、というか移り気な性格。
我慢を開放するカタルシスについて語るアイノには一定の理解を示している。
「私のあの打ち返しが気持ちよかった……というのでしたら、私もあの場に立った甲斐はあったのですね。ふふっ。
お世辞かもしれませんが……ええ、スポーツを通して、アナタの『鬱憤晴らし』に付き合えたのなら。
……フフ。私も今度はもう少し練習してから、打席に立ちたいものですね」
投手として相対していたときとは裏腹にすっかり柔らかくなってしまったアイノを、ルリエルはその太ももで支えながら。
少女の無事を確認し終えると、ようやく視線を上げて、異能野球のほうに目配せを始めた。
「ですから、アイノさんもぜひ、野球続けてみてくださいね……?」
■アイノ > 「……だろーよ。私だってこの世界にいたけど、この島に来るまではこんなにたくさんの能力、見たことなかったからさ。
……いいんだよ、私の能力はどうせ何かに対して力を加えることばっかりなんだから。
自分の身体でこのぐらいが限度だってわかってないと、安全に使えないっしょ。」
にひひ、と笑いながら、頭を撫でられるとくすぐったそうに笑って、ぱふん、と横向きになったり、うつぶせになったり。太もも柔らか。超堪能する少女。
「怪我はしないさ。だって私は負けないんだから。
ああ、こっからね。 今日のはノーカウント。
次はバットにも当てないんだから、怪我もしないでしょ?
次は負けないからさ。」
相手の言葉を優しく受け止めながら、嘯く。
本音ではないのだろうけれど、自信家の、偉そうな少女の姿のまま。
「………ふっふ、もちろん。
っていうか私、実は何でもできるんだなぁー? 天才だし?
センセの得意種目で今度は勝負してやるよ。
私が買ったら言うこと何でも聞いてもらおうかなー。」
なんて、ウィンクパチリ。
「………でもまあ、今日はこのまま退場でいっかな。
もうちょい。」
太ももを枕に、むぎゅ、っと抱き着いて。甘えるムーブまで完璧な少女。
もうちょっと、と小さな声でねだりながら、ただただ、先生の膝枕でリラックスしていって。
■ルリエル > 「そうでしょうね……あなたは自分の力のことをとてもよく理解している。
おまけに天才で、しかも私に負けないくらいの美人………ふふ、ふふふっ」
自惚れととれるアイノの言葉をおちょくるように、少女の白い頬を指で擽りながら、負けじと自惚れ返す。
まぁ実のところ『力の加減を知ってる』も『天才』という自称も否定する根拠はなく。
その顔立ちも天使の美的感覚基準において標準以上とあれば。
……つい、故郷の天使仲間にしていたような『じゃれあい』にも発展してしまいそうになるが、こらえて触り程度に留める。
「……とはいえ、本来私はそんなに勝負事好きじゃありませんから。
何か……ほどほどの、私向きの勝負事をいくつか見つけないといけませんね。
幸いここは若者が多くて、そういうのには事欠かないでしょうし……ふふっ。ええ、いつかまた、ええ……」
そうして会話を区切りつつ、しかし飽きずにルリエルの太ももを堪能するアイノにはわずかも拒否をみせず。
いつまでも天使の柔肉枕を提供していたのであった。
……とはいえ、飽きっぽいルリエルは早々に野球観戦にも退屈し、うたた寝を始めてしまったのだけど。
ご案内:「常世公園」からルリエルさんが去りました。
ご案内:「常世公園」からアイノさんが去りました。
ご案内:「常世公園」に群千鳥 睡蓮さんが現れました。
■群千鳥 睡蓮 > お昼どき。雨上がり。
水たまりを避けて、舗装された道の上を
人もまばらな公園におとない、適当なベンチに腰かけた。
「平和だなあ」
座面は誰の仕事か綺麗にされていた。
生活の様々に、誰かの手が入っていて、住みやすくととのえられている。
(別世界だな)
先日練り歩いたスラムとは。
改めて思う。そうあるように多くの意志が絡んでいるようだ。
穏やかな光景に、前髪の奥からすっと目を細めた。
傍らにおいた大きめの紙袋をごそごそと漁る。
――ずるり。30cm程の長物を引っ張り出す。片手では抱えきれない太さ。
しっかり包装された、フットロングサイズのサンドイッチだった。
ハンバーガーとかより少しお洒落目で野菜多めのファストフードの陰謀だった。
■群千鳥 睡蓮 > 「……書き方が悪いよ。 レギュラーじゃ小さいって思うじゃん」
値段比を確認しなかったのが悪い、とも言う。
店員が自分の顔を見て驚いていた理由をすぐに察して、
――友達と食べるので、半分にカットしてもらっても?
金剛石の精神で、つとめて平静に言った自分をその場で褒めてやった。
まあ、ぼっち飯なんだけど。
「あッ。 ……やっぱり野菜で水増ししてるやつ。
チリチキンとたまごサラダが完全におまけじゃん……」
両手を消毒してから、いざやと紙袋を折りおり、取り出したものは。
いやそりゃ、野菜も好きだけどさあ、と言いたくなるボリューム。
抱えてみると、存外厚みがあった。かぶりつけるかな。
唇を近づけ、少し大きめに開く――ちょっと厳しい。端っこにかぶりついた。
口に感じるたまごサラダとチリソースの味。パンのふっくら感。野菜のみずみずしさ。
ひとくちめは、主役のチキンまで辿り着けなかった。釈然としない……。
もむもむと咀嚼しながら、公園の景色を眺める。平和だなあ。
■群千鳥 睡蓮 > 平和。
胸の奥処でつぶやいた言葉に、ふと引っかかりを覚えて、
お行儀は悪いが、片手でサンドイッチを保持。
もう片手で鞄を漁った――包装されたままの本、猫の飼い方――これは後で読む。
拭った指先で、鞄の奥の端末を操作する。
(……『話し合い』、ねえ)
闇のなかで発光する画面に映し出されるテキスト。
違反部活と二級学生に対する呼びかけ。
名目上、一般的な生徒に属する自分には、これがどういった意味合いを持っているのか。
――計りかねている。いっそ戦争でも起こったら、効率よく収集できる、が。
(題目が見えない。 類推するなら風紀委員会へ誘致することでの救済――
立場の回復をちらつかせて?しかし、旨味があるなら、餌はわかりやすく吊るすような……)
あくまで邪推、部外者の想像。しかし、非ぬ妄想を掻き立てる内容ではある。
何かの符牒かにも思う。 そんなものは書く必要などないのか。
末尾に綴られたこの名だけで、十分なのか。
がぶり。無意識に、サンドイッチに強く噛み付いていた。
肉を噛みちぎる。脂の染みる味――ん、良いのは味だけじゃなかったな。
■群千鳥 睡蓮 > 「……この場で考えてもしょうがないか」
思考を切り替える。フリックして画面を暗転させ、鞄を閉じた。
会ったこともない人間に、あれこれ想像を働かせることの無意味さは、
先日も痛感したことだ。
気づいたら切り分けてもらった半分は食べ終わっている。
「……うん、美味しかった。やっぱり野菜のほうが多すぎる気はするけど。
でも、これだけあるとやっぱり飽きるかな……。
まっ、夜ごはん考えなくて良くなったって思えばいっか」
長居してもあれだしな。丸めた紙包みをぽい、と投擲し、立ち上がった。
ぐっとのびをして、寮に寄ってから午後の授業へ。
それは高い放物線を描いて、屑籠の中央にぽすんと落下した。
必然的に。すべてはそう定められている。そう弁えて生きている。
ご案内:「常世公園」から群千鳥 睡蓮さんが去りました。