2020/06/24 のログ
ご案内:「常世公園」にヨキさんが現れました。
■ヨキ > 夕刻。
買い物の途中に立ち寄った公園。
東屋のベンチに腰掛け、寛ぐ姿が独り。
傍らにはパン屋の紙袋が置かれていて、小袋の一つは手の中に。
カレーパンをもぐもぐと咀嚼しながら、人気の少ない公園を眺めている。
目の回るような忙しさを紛らし、次への体力を充填するひととき。
■ヨキ > 「あと三日か……」
ヨキがいかなる経緯でその情報を得たかはさておき。
日ノ岡あかねが掲げた、“話し合い”の場が迫っている。
過日にあかねから問われた言葉を思い出す。
(ねぇ、センセ……もし、私がまた『何かしたら』……手伝ってくれる?)
それが何を指しているかは判らない。
それが何を指していようとも。
(『今度』は私を……助けてくれる?)
「……ヨキは君を支えるさ」
それだけのこと。
■ヨキ > 目を伏せ、深く深く溜め息を吐く。
結局のところ、ヨキは“先生”であるかとから逃れられはしない。
いつだって、いつだって、こうして職務か教え子のことを考えている。
大きめに残ったカレーパンを、一口でぺろりと頬張った。
ご案内:「常世公園」に不凋花 ひぐれさんが現れました。
■不凋花 ひぐれ > 「悩み事でもおありでしょうか、ヨキ先生」
からんころん、しゃらんしゃらん。独特な下駄と鈴の音を公園に響かせながら、カレーの匂いに引かれてやってくる。
いつもいつも頑張っている彼の人は休息をとっているのだから、そっとしておくのが礼儀と思ったのだけど。
その重々しく開かれた何ぞ分からない呟きは、魚の小骨のように痛ましく思えてしまったものだから。
「それともプロポーズのキメ台詞の練習でしょうか。先生はとてもロマンティックな御方ですから」
眼を閉じたまま、刀の鞘を白杖代わりにしてヨキの元へと歩み寄る。風紀委員の腕章を付けた和装の生徒。冗談めかして言いながら微笑みかけた。
■ヨキ > 「やあ、不凋花君」
ヨキの元へやってきた少女。不凋花ひぐれ。
ヨキの推薦状によって風紀委員会へ名を連ねた、彼の教え子の一人。
「ふふ、聞かれてしまったな。君は耳が良いから。
いや、ここ数年は――」
苦笑して、ベンチの隣を空けながら。
不意に、声を落として。
「――落第街が、何かと不穏だ。このところは特にね。
今にも戦争でも始まるのではないかと冷や冷やしている」
それを、誰あろう風紀委員の一人であるひぐれに向かって口にした。
■不凋花 ひぐれ > 彼は、ヨキ先生は不凋花ひぐれにとってかけがえのない恩師であり、彼女自身が心を開ける数少ない教師でもある。
近づいても恐れられないし怒られない。こうして隣の席を譲ってくれる程に優しく良い先生だ。
身じろぎした音からベンチの片方が空いたのだと把握して、遠慮なくヨキの隣へと座り込む。下駄の音は鳴りやみ、鈴の音が雄弁に余韻を引き連れて音を鳴らしていた。
「小耳には挟んでおります。先日も風紀委員の集まりがありましたから……活発化している、というのも噂程度に。
そうなれば私達が率先して動かなければなりませんけど……心配いりませんよ。もし何があっても私達が何とかしてみせます」
子供特有の万能感。自分たちならなんだって出来ると言う無為の使命感。責任感。なまじ力も権力もあるが故にそんなことを自信満々に語る。
■ヨキ > 返された答えに微笑む。
「ああ、君ならそう言ってくれると思っていたよ。
先輩たちの言うことをしっかり聞いて、委員としての使命を全うしたまえ」
ひぐれの顔を、真っ直ぐに見て。
「だがね、不凋花君。
『私達が何とかしてみせる』――決して、その言葉に溺れてはいけないよ。
風紀委員は、あくまで法とルールに則って動く。
法とルールの陰には、明文化されないモラルとマナーがある。
ヨキは風紀委員の仕事に携わることは出来ないからね。
一人でも多くの人間にとってよりよい答えに辿り着けるよう、思索を止めてはいけないよ」
■不凋花 ひぐれ > 「はい!」
いつになく意気軒昂と声高々に。ここが外の空間であることも相まって、響く前に空へと声は掻き消える。
さりとて、己に向けられた視線、その感覚にすっと身を縮こませる。教師然と振る舞う前段階の空気感だ。
「……それは、はい、勿論です」
自然と背筋は伸びやかになる。道を踏み外さないようにと、彼はかくあれしと言う言葉をくれる。
「学園の為になり、自分なりの考えを常に持ち続ける為に、この激動の変遷を見守りながら常に解答を見つける。
……はい、私はヨキ先生がそのように悩まされることのないよう、生徒にも教師にものびのびと学園生活を送れるように頑張るようにあります」
言うは易し。行うは難し。瞼を下ろしたままの眼の奥は、それでも突き刺すようにしてヨキに向けられていた。
■ヨキ > 「いい返事だ。君を風紀委員へ推薦した甲斐があるというものだ」
柔和な声音と共に頷く。
「君はとても真面目だ。そこは疑うべくもない。
だがね、『正義の味方』をやっていると、いつか必ず壁にぶつかる時が来るんだよ。
『自分は本当にこれでいいのか』『自分のやっていることは正しいのか』とね。
たくさんのものが渦巻くこの街で、絶対的な正しさなどないから。
相対的な『収まりの良さ』を見つけるために――もしも悩んだときには、どうかヨキを頼って欲しい」
そこまで言って、くすくすと密やかに笑う。
「何だか辛気臭くなってしまったな。
腕章を着けているということは、今日も仕事中だろう。
ふふ、カレーパンの匂いに釣られて来たかな。ひとつ持っていくかい?」
気に入りらしく、紙袋の中から同じカレーパンがもう一つ出てくる。
■不凋花 ひぐれ > 「正義の味方……」
確かに、客観視すれば己はそのような立場だ。悪い人を律し、時に罰する。特に攻撃課なんて実働部隊を担当している己は殊更に。
鼻にかけることはなくとも、在り方について悩むことは今後はあろう。3日後であれ、三週間後であれ、三か月後であれ、きっと彼の言う『壁』というものはいつか訪れるのかもしれない。
今はまだその経験が無いだけで。
「……肝に銘じておきます。少しでも悩んだら、先生に気兼ねなくご相談しますから。
……先生もどうしようか、こうしようかって、悩んだりするのですよね」
たぶんきっと、今もそれは変わらないと思う。大人になっても生涯考えるのが人だと誰かが言っていた気がする。
「はい。パトロール中です。でも今日も何事も無さそうなので、息抜きです」
己は体が弱いのだし。自らの体調にかこつけてメリハリを引き出す。常に全力投球していれば体も疲れるというもの。
そうして差し出されたのはカレーパンだ。香ばしい香りが鼻につんと来る。
「宜しいのですか? でしたらいただきます。とても美味しそうな匂いがします。
――私、実はカレーパンを食べた事がないんですよ。内容物(ねつ)のある食べ物は火傷するからと食べさせてもらえなくて」
何を隠そうこの生徒、眼がひどく悪い。世界を殆どみない人間にとってこの手の内包物はびっくり箱に等しいのである。
■ヨキ > 「ああ、そうしてくれ。
特に君は、ハンディキャップも大きい。
それゆえに気付けることも、逆に気付けぬこともあろう。
だからこそ、君にはたくさんの『眼』が必要だ。
同僚や、先輩や、ヨキのような教師がね。
……ヨキはいつだって、君を応援しているから。
家族に心配を掛けぬよう、身体には気を付けるんだよ」
カレーパンの入った小袋を開いて、丁重にひぐれへ手渡す。
「ここの店のカレーパンは、甘すぎず辛すぎず、とても食べやすいんだ。
ふふ。カレーパンを食べただなんて君の両親が聞いたら、きっと驚くだろうね。
口に合うといいな」
■不凋花 ひぐれ > 「……では、先生は私の眼の一つですね。
私の友人も、同じ風紀委員も、先輩も後輩も……」
嗚呼これも以前、ヨキ教師に言われた気がする。目であり杖であると彼は言ってくれたと思う。
シンデレラの魔法のように零時で解けてしまう期間限定の魔法だとしても、こうしている限りは魔法は続くのだから。
「応援に応えられるよう、私、もっと頑張りますから。
私の事を見ていてください、先生」
口元を笑顔にしながら、眉を張り切るように逆ハの字にしながら。俄然やる気だと見せつけるように己は言うのだ。
手渡されたカレーパンを受け取る。包みになるペーパー越しに熱々の感覚が指先に伝わる。
「驚かれると困りますから、これは先生と私の秘密です。夕方の小腹が空く時間の間食。
……少しだけ悪い気分になってしまいますね」
そうして悪びれもせずカレーパンを口にした。ほのかに香る甘みと辛み。舌先に伝わるカレーの感触。
じっくりと舌先でぴりっとしたそれを味わいながら嚥下する。
「……美味しいです。少し熱いですけど、とっても美味しいです」
■ヨキ > 「君のことを、ずっと見ているとも。
ふふ。これもさっきの『プロポーズの練習』に似ているね。
ヨキはいけないな。教え子には皆同じように言ってしまう」
言葉とは裏腹に、その表情に悪びれる様子はない。
揚げたてのカレーパンの、香ばしい匂い。
少しずつ食べてみたまえ、と言い添えて、最初の一口を見守る。
「――ふ、はは。これでヨキらの“秘密”が出来たな。
大事な娘を預かっている身だというのに、ヨキと来たら。
美味しいかね? それはよかった。
友だち同士でも、これからももっとたくさん美味しいものを食べておいで。
ただ食べるためだけではなく、さまざまな見識を広げるためだと思ってね」
■不凋花 ひぐれ > 「それだけ生徒の事を平等に思っているからではありませんか。
ヨキ先生のそういうところが好きなんですよ、私。ヨキ先生はとても良い先生なのですから」
差別せず、否定もせず。彼の在り方はそのようにあるのだから。
親愛たる言葉を吐くことにも躊躇いなく続けられる。
「はい、クレープもタピオカも、それにパンケーキも。食べて知りたいものは色々あります。
いろいろなものを食べて写真に撮って、……それで、そう、先生のSNSに共有できるような。
そういう素敵な思い出をみんなで共有出来たら……と思います」
友人に限らず、恩師に向けてもそういう発信が出来る方が、きっと、平和の証左になるに違いない。
だからこそ己らは邁進しなければならないのだ。
「……ごちそうさまです。また、パトロールに戻らねばなりません
先生、私頑張りますから。……先生も、何か困ったことがあれば言ってくださいね」
零時の鐘は近い。布巾で指先をしっかりとケアしてそう口にした。
■ヨキ > 「それは嬉しいな、両想いだ。
これからも“善き”先生で在り続けられるとしたら、それは紛れもなく君たち教え子のお陰だよ。
そう。友人らと美味しいものを食べて、話に華を咲かせて……。
そうして成長していってくれることを願っているよ。
楽しい思い出が増えたら、また教えてくれたまえ」
巡回へ戻ろうとするひぐれに向けて、笑い掛ける。
「ああ、頑張ってくれたまえ。君の姿は、ヨキにとって大きな励みだ。
君の頼もしさを頼ることもあろう。そのときは、よろしく頼む。
やあ、すっかり話し込んでしまったな。
平和とはいえ、仕事中の身に悪いことをした」
紙袋を閉じて、ヨキもまたベンチから立ち上がる。