2020/07/02 のログ
ご案内:「常世公園」に日ノ岡 あかねさんが現れました。
■日ノ岡 あかね > ゆっくりと今日はフルーツサンドを食べながら、風紀委員……日ノ岡あかねは常世公園の池に浮かぶカルガモを眺めていた。
温かい日差しの差す常世公園。
午後の授業は今日はない。
例の計画の関係で若干手続きの処理や仕事が増えたため、特別に免除された。
元々、時間割の少ない日だったせいもある。
「学校行く機会が少し減っちゃうのは残念ね」
そう、ぽつりと呟きながら、甘酸っぱいイチゴ入りのフルーツサンドを齧る。
あかね以外にも同様の理由で駆り出されている人員は恐らくいるだろうが、大体の人は逆に喜んでいるのではないだろうか。
普通に授業に出るより自由時間が増えることに違いはないのだから。
「まぁ、こればっかりは仕方ないわね」
軽く溜息を吐きながら、ベンチに背を預ける。
水上のカルガモが、何羽か空へと飛び立った。
■日ノ岡 あかね > 計画の経過は順調だった。
応募数は概ね予想曲線通りで、その他のあれこれも予想の範囲を概ね出ていない。
処理しなければいけない書類の数も概ね予想通りで、むしろ思ったより手伝ってくれる人が多いお陰で各所への諸手続きに関しては楽になっている。
公安委員会の調査の方では、落第街の一部は以前よりも安全に夜出歩けるようになった地域もあるらしい。
無論、それ相応に風紀委員への風当たりが強くなった地域も多く、むしろ、そちらの割合の方が現状は多いらしいが……必要経費である。
「『自身の在り方について考える人達』もこれで増えてくれたかしら」
薄く笑う。
より深く地下に潜る違反部活も増えたらしい。
つまり、それだけ『機』に聡くて、『弁えて』いて……『自分の自由意思でもって落第街に居ることを選択している』……どこかの誰か。
それに、思いを馳せる。
楽しそうに……フルーツサンドを食べながら。
■日ノ岡 あかね > 「そうでなくちゃ……『面白くない』わ」
キウィサンドを咀嚼して、あかねは笑う。
状況は全体的に凪いでいる。
あかねからすると、そこも予想通りとはいえ、素直に言えば残念ではあるが……嵐の前の静けさと捉えられないでもない。
この一週間で恐らく大雑把な『色分け』は終わる。
そうなれば……『自身の在り方』を考える『誰か』にとっての『課題』が浮き彫りになる。
それも期待でしかないといえばそれまでだが……あかねはそれが楽しみで仕方なかった。
己の内発性によって能動的に動く『誰か』に対する期待。
そんな人間がそれこそ一人でも増えれば、それだけでも。
「……きっと、『楽しい』わ」
あかねは……笑う。
楽しそうに。
「風紀にこれで最低限の義理立てはしたし……そうなったら、私も『私のやりたいこと』ができそう。ワガママ言える機会が増えるといいわね」
クスクス笑う。
黒い瞳をじっとりと……細めながら。
■日ノ岡 あかね > 最後のフルーツサンドを食べ終えて、ストレートティーのペットボトルも空にする。
ゴミを全て屑籠に放り込んでから、静かに立ち上がる。
「さぁ、続きをしましょう」
鞄から取り出したスマートフォンをいじる。
次の予定がある。庁舎での会合。
委員会街に向かってゆっくりと歩き出しながら、風に流された髪を軽く抑える。
「会議だって話だけど……どんな会議になるのかしらね?」
内容自体は知らされている。例の計画に関する進捗会議。
だが、問題はそこではない。
「せめて、踊らない事を祈りたいわね」
ケラケラと笑いながら、あかねは公園を後にする。
初夏の日差しが、強かに池の水面に反射していた。
ご案内:「常世公園」から日ノ岡 あかねさんが去りました。
ご案内:「常世公園」に日ノ岡 あかねさんが現れました。
■日ノ岡 あかね > 昼時の常世公園。
一般利用者で賑わう日中の公園の中、いつものベンチに座って……日ノ岡あかねは薄く笑っていた。
気長に誰かを待つように。
「楽しみね」
空を眺めながら、ベンチに深く背を預ける。
ご案内:「常世公園」にヨキさんが現れました。
■ヨキ > 「楽しそうだな」
弁当屋で買い求めたおにぎりと惣菜の袋を手に現れる。
「聞いたよ。『楽しそうなこと』になるらしいな?
詳しいことは、君から直接聞こうと思ってな」
失敬、と言い添えてから、ベンチの隣へ腰を下ろす。
「何しろ素性を探られぬとは言え、巧く化けられぬのがヨキでな。
『話し合い』の場へは足を運べなんだ。
どんな話し合いになったか、聞いても?」
■日ノ岡 あかね > 「ええ、私はいつでも楽しいわよ?」
満面の笑みで知己の教師……ヨキに視線を向けるあかね。
日中でも光を吸うような黒い瞳が、ヨキに向けられる。
「要約するなら『二級学生や違反部活生を仕方なくやってる人達を拾う新しい枠を作ります。興味ある人はこっちきてね。文句あるなら手伝うか無視してね』ってだけですよ、ヨキ先生」
にっこりと笑って、隣に座ったヨキの顔を見る。
視線は一切逸らさない。
「ね、『楽しそう』でしょ?」
下方からその目を覗き込むように、小首を傾げた。
■ヨキ > 「ふうむ」
あかねの説明に、そう来たか、とでも言いたげに笑う。
弁当屋の手作りおにぎりのラップを開く。ツナマヨ。
「なるほど、それは楽しそうだ。
“仕方なくやってる人たち”を拾うなら……」
おにぎりにかぶり付く。よく咀嚼して、飲み込む。
あかねの顔を真っ直ぐに見下ろす。
「……逆に“仕方なくない”者たちがどれほど残るか、見物だな。
善い子が委員に拾われるなら、教師として歓迎すべきところだ。
それに、“選りすぐり”の悪い子が残るなら、それはそれでヨキは歓迎するよ。
ふふ。何らかの矜持がある者とは、対話のし甲斐があるからな」
真っ当な教師にあるまじき楽しさを口にして、にんまり。
■日ノ岡 あかね > 「そうよ、その通り。だけどね、先生」
笑いながら、スマートフォンを見せる。
ネット上に置いた簡易受付。
しかし、そこには。
「見ての通り、大した数は集まってない。名のある異能者となれば書き込みや応募はゼロ。多分、一番多い回答はまだまだ『保留回答』ってところ」
にこりと笑ってから。
「まぁ、予想通りだけどね」
空を仰いで、静かに笑う。
そして、また、ヨキの顔を横目で見ながら。
「ねぇ、先生。先生は……『相手の顔色を伺う人』と『相手の顔色を伺わない人』……どっちが好き?」
■ヨキ > あかねのスマートフォンを見遣ってから、相手の顔へ視線を戻す。
「保留か。そうだな、いきなり身の振り方を選べと言われても、答えに迷うのが道理か。
……望まずとこの島へやって来たにせよ、望んで忍び込んだにせよ。
常世島で『委員になる』ことは、あまりにも重い」
ペットボトルの茶で喉を潤し、あかねの問いに瞬きする。
「うん? ……ヨキが好きなのは『相手の顔色を窺ってなお、己を貫ける者』だ。
顔色を窺い、それによって己を曲げる者をヨキは良しとせん。
顔色を窺わぬ傍若無人は、対話にならん。
二択にしては、邪道な答えやも知れないがね」
■日ノ岡 あかね > 「落第街にいて『身の振り方に迷えるだけの贅沢が出来る立場』であるなら、まぁそれはそれで私はいいと思いますけどね……ふふ、本当にズルい答えね、先生? だけど……私、そういうの好きですよ?」
クスクスとあかねは笑う。
心底……嬉しそうに。
「だって、それは……ヨキ先生がヨキ先生として考えて出した……ヨキ先生の答えじゃない。『自分自身の在り方を考え、そのうえで出した自分の望ましい答え』……なら、それは『尊い答え』よ」
愛おし気にヨキをみて、あかねは微笑む。
真っ黒な瞳が、細まる。
「私は、『誰もがそれを出来る様になったらいいな』と思っているの」
■ヨキ > 「そうだ。この答えの中には、ヨキの成功も、失敗も、ありとある経験が詰まっておる。
顔色を窺う、窺わぬの二択だけでは到底選ぶことのできない、ヨキの考えがね」
楽しげな笑みを零す。
あかねの顔を、何か眩いものでも見るように。
「――そうだな。己の意味を。目標を。役割を。それらを見つけ出すことを、ヨキは学生たちにずっとずっと教えてきた。
それを『話し合い』ひとつで芽吹かせたことは、全く君の聡明さと言っていい」
おにぎりを食べ終える。
話題に反して、食事はのんびりと穏やかだ。
「君は学生よりも教師に向いているやも知らんな。
どうだ? 君の方こそ、卒業したら教職を目指しては」
■日ノ岡 あかね > 「そんな先の事はまだ考えられないわ」
にっこりと笑って、あかねはすげなく言った。
一瞬の間もなく、迷う素振りすらなく、はっきりと。
「だって私、『今』やりたいことがあるもの。『先』なんて考えられるほどの余裕も時間もないわ」
とても、嬉しそうに。楽しそうに。
「それにね、先生……種は蒔いたけど、まだ全然芽吹いてないわ」
笑みを浮かべながら……ヨキの目を見る。
夜の瞳。
真昼の日の光も届かない、黒い瞳。
「何人か既に私に『計画の意図』を尋ねに来ている。私はその全てに回答をしたわ」
あかねは、笑って。
「でも、その人たちの実際的な行動は全く目についていない」
満面の笑みで……答えた。
相変わらず、へらへらと笑いながら。
「あの『話し合い』から、『話』は全く進んでいない。まだこの島は……何も変わってないわ」
少しばかり、落第街が変わったと聞いてはいる。
名も無き誰かたちの動きは変わったと聞いている。
だが、まだ『それだけ』だ。
「時間が掛かる事だから、仕方ないけどね。だけど、時間を掛け過ぎれば種は土の中で腐るだけ」
事を急ぐ必要はない。
だが、だからといって悠長に構えすぎていいわけでもない。
やれる時にやれる事をやらなければ、寝ても果報は訪れない。
すくなくとも、日ノ岡あかねは。
「『私のやりたいこと』に間に合わなければ、私にとって意味なんてないわ」
そう、思っていた。
■ヨキ > 淀みないあかねの返答に、ヨキは嬉しそうに笑った。
「ああ、『今』。何より君らしく、誰よりも学生らしい答えだ」
ヨキの瞳が日光を反射する。
金色の星々がちらちらと瞬く、黒に近い紺碧の瞳。
「『身の振り方に迷えるだけの贅沢が出来る立場』があるなら、その一方で『行動に移ることのできない柔弱さ』もある。
君の求めはあまりに強靭で、惑う者が出るのも判る」
まだこの島は何も変わっていない。その言に、ふっと微笑んで。
「島を変えたい。そう言ってくれる者は、これまでに幾人も現れた。
君のように行動力に優れ、弁が立ち、魅力に溢れた学生たちがね。
それでも、この島は変わらないよ。
何故ならここは『常世』だからだ。
繁栄する学園があり、落第街が見て見ぬふりをされ、未開拓のまま残された荒野がある。
劇的な変化というものは、それこそ《大変容》ほどの規模で巻き起こらなくては。
この島には、『変えたくない』『変わらせようとしない』人たちもいっぱい居るからな。
君の道行きには全く、敵が多そうだ」
柔らかく微笑む。
「ヨキだって、あるいはその一人だもの。
学生たちの目を醒まさせ、巣立たせ、結果的に『変わらない人たちを残す』常世島の教師。
そういう意味では、まるきり君の敵やも知れないな」
■日ノ岡 あかね > 「ほんとにそれでいいの?」
あかねは笑う。
静かに笑う。
じっと、ヨキの目を見て笑う。
目を逸らさない。
顔を逸らさない。
じっと、ヨキの顔を見る。
「私ね、この島好きよ。この世界が好き。この学園が好き。だからね、私は何も《大変容》みたいに『全て変われ』なんてことは思ってないし、そんな『非現実』は望んでないの」
目を見る。
髪を見る。
口を見る。
鼻を見る。
顔を見る。
ヨキを、見る。
「私は『変わってほしい』わ。少なくとも『口だけ動かして手も足も動かさず、変わらないままの世界をみて「仕方ない」なんて知った口だけきいて文句を言う人たち』には変わってほしいの」
その筆頭こそが、『仕方なく現状に甘んじる人達』で。
その元凶こそが、『諦めて今をやり過ごすだけの怠惰に甘える人達』で。
「自分で選んで『変わらない』のも、自分で選んで『甘んじる』のも、自分で選んで『諦める』のも私はいいとおもう。それはその人の考え方だから。でもね、『周りがなんかそういう雰囲気だから』ってだけで、さもそれが『正しい事に違いない』みたいな面する連中は……篩い落としたいのよね」
それだけ。
たった、それだけ。
覚悟を持て。責任を持て。自覚を持て。
それが出来ないのなら、箱は準備する。
それが出来るうえで選ぶなら、好きにしてくれていい。
たった、それだけ。
「それが済まなきゃ『私のやりたいこと』をするための人員を確保しづらいから」
日ノ岡あかねは笑う。
ただただ、笑う。
当たり前のように。
「行間みたいに何もなかった数年、あったわよね、先生」
くすくす笑う。
「頑張らないと、『すぐ』にまた『ああ』なるわよ?」
何かを、揶揄するように。
■ヨキ > ヨキもまた、あかねを見る。
「学生がみな、君のような子だったらよかったな。
だがそれはそれで、船頭が増えるだけか。
……教師というのは、そういうものなのだ。
蒙きを啓くこと。目を醒まさせること。変わらせること。
どう変わろうが、ヨキの触れるべきところではない。
もしもヨキが思うように人を変えてしまうなら、それは誘導であり善導だ。
だがね……せめて『変われぬ者』が一人でも減るように、ヨキは行動し続けてきた。
それだけは誰にも異論を認めぬ、ヨキの十五年間なのだ。
そういう意味では、君とヨキのやっていることは全く同じだよ。
『今』を見ている君と――『過去』を知っているヨキと。ただ、その違いだ」
あかねの微笑みに、目を細める。
「行間?
人の営みと暮らしに、そのようなものがあって堪るか。
ヨキも教え子たちもみな、絶え間なく日々を暮らしてきたよ。
一年生が入学し、四年生を送り出すだけの年数を。
君が空白と思うなら、それは『君にとって楽しいこと』がなかっただけだ」
笑って肩を竦める。
■日ノ岡 あかね > 「増えていいのよ、船頭なんて何人でも」
ずっと笑っている。
嬉しそうに、楽しそうに。
ずっとずっと、目の前のヨキを見て笑っている。
目の前にいるヨキの顔をみて、ヨキの言葉を聞いて。
あかねは、とても心底嬉しそうに。
年端もいかない少女のように笑う。
「だって、この島は広いのだから。船なんて何艘でも準備できるのだから。船が増えるなら別に全然いいじゃない。みんな自分の好きな船に乗れる。泥船でも戦艦でもタイタニック号でもスワンボートでも何でも」
日ノ岡あかねは、今しかみない。
日ノ岡あかねは、過去をみない。
「ま、私は同じ船に船頭が何人いてもいいと思うけどね、迷うの含めて楽しい航海じゃない」
それがきっと、この少女と教師の最大の違いで。
それがきっと……この少女と教師を隔て、同時に繋ぐもの。
愛すべき、『個人差』。
「ええ、先生の言う通り。私は私の見えるものしかみえない。私の知るものしか知れない。だから、先生程『全て』を受け入れて楽しめたりはしないの。私、先生よりずっとずっと子供だから……でも、『そんな私も居ていい場所』がこの常世島でしょ?」
教師を見る。ヨキを見る。
日ノ岡あかねが、ヨキを見る。
目なんて逸らさない。それしか見えないのだから。
知ったかぶりもしない。知ってることしか知らないのだから。
「だから……『私にとって楽しい事が出来る様に』……私は頑張るわ。先生、手伝ってくれる?」
だから、日ノ岡あかねは嘘を吐かない。日ノ岡あかねは前しか見ない。
前に進む外、少女に道などないのだから。
■ヨキ > 「ふふ……あはは! 君は本当に『今だけ』を愛しているのだな」
楽しそうに笑う。観念したように、両手を広げて。
「正直なところ。ヨキはね、この常世島という同じ船の上に、何人もの船頭が現れてほしいと思っている。
そのうちの一人が、君だ。
船頭には、いろいろな種類が在る。
異能者。魔術師。無能力者。地球人。異邦人。正規学生。二級学生……。
ヨキが望むのは、それらの船頭が喧嘩をせずにひとつの目標を目指すことだ。
行き先は何処だっていい。そういう風に『融和』が叶うのなら。
だから、ヨキの望む『変化』は、君ほど急速には現われたりしない。
規模が大きく、気長で、悠長で、すごく時間が掛かる。
まるで、自分ではどうにもならず、掴み取ることも出来ない雲の行方に一喜一憂するようにね。
だがね、ヨキにはそれが楽しいんだよ。
それが教師という仕事だから。
ヨキはいつだって――『過去』を踏まえ、『未来』を夢見ながら『今』と向き合っておる。
君には逆立ちしたって理解が及ばぬだろうがね。
ヨキは『善い子』も『悪い子』も大好きだ。
誰もが船頭になれる資質を秘めているはずだから。
船頭にならずとも――乗客に終始するも、それでよし。
文句だけを垂れることなく、船頭と共に波を見、星で行先を知るほどの知識を身に着けて欲しいんだ」
あかねの求めに、ヨキはただ頷く。
「そこで断る人間は、教師でも、大人でも、男でもないさ。
このヨキは――君をサポートし、助力し、支えるよ」
■日ノ岡 あかね > 「ありがと、先生」
ヨキの快諾の言葉に……あかねは笑う。
嬉しそうに。楽しそうに。
心強い味方を得た。そんな顔で。
「今この時が嬉しいわ、私は『今』が一番大事だから」
寿命の差もあるといえるかもしれない。
あかねは人間。ヨキは人外。
人の一生は短く、体が自由に動く若い時間はさらに短い。
だから、あかねにヨキはきっと理解できない。
ヨキの視界はきっと一生、それこそ逆立ちしても理解できない。
それでも。
「私、先生の事、好きよ。先生に限らず、他人の事はなんて多分一生理解できないだろうけど、それでも」
あかねは、それこそが愛おしいとばかりに。
その事実こそが『嬉しい』とばかりに。
……柔らかく、微笑んだ。
「『想像』くらいはできるわ。だから……楽しい事をしてくれる先生が好き。楽しそうな想像をさせてくれる先生が好き」
ヨキを見ているだけで、教師の喜びを想像くらいはできる。
ヨキを見ているだけで、異邦人としての覚悟くらいは想像できる。
全ては当然不可能だ。それでも。
垣間見ることくらいは……できる。
歓喜を、憤怒を、哀惜を、快楽を。
それほどまでに、ヨキという登場人物は……色濃く、己の生き様を示しているのだから。
「みんな、『そうなって』くれたら……もっと楽しいわ」
立ち上がる。
ぐっと伸びをして。
「だから、私はそうしたいだけ。船頭でも乗客でも構わない。自分で選んでくれるなら」
つまるところ、あかねはそれしか言わない。
それしか言っていない。
「運命を塗り替えるのは、自分自身。他人の手に委ねた瞬間から、それは自分で塗り替えられなくなる。誰もが自分を『謳う』権利がある。それに気づいてほしい。気付いた上で『選ぶ』なら……私は何も言わない」
横目でヨキの顔を見ながら、あかねは笑う。
いつも通りに。いつか夜に出会った時のように。
『補習』を受ける前と全く同じ顔で。
「だから……私は融和も望まない。喧嘩してもいい。争ってもいい。喧嘩別れもできない友達なんて上っ面。存分に争って、存分に喧嘩して、その上でまた仲直りしてもいい。その末に別れてもいい。『自分で選んでいる』のなら……それでいい」
どこか、悪戯のバレた悪童のように。
「それだけなの」
日ノ岡あかねは……気恥ずかしそうに笑った。
■ヨキ > 「ありがとう、日ノ岡君。ヨキも君のことが好きさ」
心の底から、嬉しそうに。
「人は真に分かり合うことなど出来ない。それでも、想像は出来る。
共感など要らない。同情など以ての外。
思いを巡らせてくれるだけで、人は少しだけ変われる――
それがヨキの蒔き続ける、小さな小さな種。
たとえ地中で枯れようとも、土壌は育つ。
そんなヨキを好いてくれるなら、これ以上の喜びはどこにもないよ」
立ち上がるあかねを目で追う。自分はベンチへ腰掛けたまま。
「喧嘩をして、争って、仲直りをして。それでも共に在り続けられたなら、それは本物の融和だ。
ヨキだって、喧嘩別れや意見の相違で離れられた教え子も少なくない。
現に、異能のあるなしで巻き起こる争いのどれだけ多いことか。
世界の激変に戸惑う異邦人に対する仕打ちの、何と惨いことか。
ヨキは与えたいと思っている。
困難に立ち向かう武器を。自分で歩ける足を。
それでいて、失くしたいとも思っている。
理不尽に人を傷付ける武器を。怪我人を走らせる不条理を」
陽光を浴びる少女へ、眩しげに目を細め。
「……君の考えは、至極シンプルだ。誰よりも判りやすい。
それゆえに強い君を支え、いつか弱みの表れたときには君に寄り添おう。
ヨキはいつだって、君の味方だ。
万が一にも君の理念が捻じ曲がるようなことがあれば、叱る気概があるくらいにはね」