2020/07/11 のログ
ご案内:「常世公園」に227番さんが現れました。
■227番 > とても怖い夢を見た。
あまりに生々しい感覚に、思わず飛び起きた。
未だ甘えることよく知らない少女は遠慮して、
保護者を起こさないように新しい住処から抜け出してきた。
涼しいとは言い切れない、ぬるい夜風が通り抜ける。
■227番 > 白いワンピースは、こないだの落第街での事件で駄目になった。
怒られるかもと思い覚悟はしていたもののそれはなく、
風紀の人を頼った上で向かったので、むしろそこを褒められた。
今後しばらくは一人ではあちらへは行かないだろう。
いや……一人でなくても、ともだちを危険には晒したくはない。
して、あの事件によって、1つ思い出してしまった。
身体がひしゃげる感覚。意思に応じない手足。
赤く染まる視界。遠のいていく意識。
あれは、おそらく、死である。
思い返すとぞっとする。夢で見たのも、これだ。
公園のベンチに腰掛けて、空を見上げる。これから明るくなっていくのだろう。
ご案内:「常世公園」に三椏 ケイさんが現れました。
■227番 > ……何故、生きているのだろう。
あの研究者なら、なにか知っているのだろうか。
当然、無策に近寄れる相手ではない。
こないだも死を想起してしまって、会話どころではなかった。
……せめて自分の身ぐらいは、守れる必要がある。
守れなくても、逃げれる隙を作れるぐらいには……。
空を見上げたまま、ぼんやりと考え込んでいる。
■三椏 ケイ > まだ夜も深い時間帯。俺は日課のジョギングをしていた。
体力作りの一環として始めたんだが、学業と両立するには時間が足りなくて、こうして夜更けから走っている。
この時間なら、途中で人とすれ違うことも少なくて気楽なものだ。
別に見られて困る事をしてるわけじゃないが……なんとなく気恥ずかしいしな。
そんなこんなで、いつものルートを走って常世公園の前を通りかかった時だった。
ふと目を向けた公園の中に人影が見えて、思わず足を止めてそっちを見る。
「…………誰かいるのか?」
遠目から見た感じ、子供みたいだ。こんな時間に? 近くに保護者らしき姿もない。
素通りするわけにもいかず、車止めを跨いで人影の方へ向かった。
■227番 > 少女は物思いにふけっており、そちらの様子に気がつくことはない。
夜中だと言うのに麦わら帽子を被っており、
街灯に照らされる姿は、下手すればちょっとしたホラーだ。
近寄れば、白い髪の少女であることがわかるだろう。
■三椏 ケイ > 季節感はあるが、夜中に被るには場違いな麦わら帽子からチラつく白い髪。
だんだん輪郭がはっきりしてくるにつれて、その姿は却って非現実的な印象を与えてくる。
まぁ、ここは常世島。怪異だの吸血鬼だのが澄まし顔で闊歩してるような場所だ。幽霊がいたっておかしくはない。
だから平気かと言えば全くそんなことはないが、生きた迷子だったら放っておくわけにもいかないだろう。
幸いジョギングで体は温まってるし、何かあったらすぐに逃げられる。
若干の距離を保ったまま、恐る恐る人影に声をかけてみた。
「なぁ、こんな時間に何してるんだ?」
■227番 > 声をかけられて、ようやく思考から現実に戻って来て……
全く気付いていなかった人影にびっくりして、無言で飛び跳ね、
体ごとそちらに向く。後ろからであれば立ち上がる。
周囲に意識を向けていなかったのもあるが、こんな時間に人が来るとも思っていなかった。
見上げるように相手の姿を視界に捉える。
「何……なんだろう?風に、当たる?」
返ってくるのは、たどたどしい、気弱そうな少女の声。
■三椏 ケイ >
「っと……悪い、驚かすつもりはなかったんだ」
声をかけたのは正面からだが、よっぽどボンヤリしていたらしい。
肩を跳ねさせるのを見て罪悪感を覚えつつ、幽霊じゃなさそうで内心ホッとした。
逆に怖がらせてしまったかと思い、ぎこちなく笑顔を作る。
ポケットに突っ込んでいた両手を外に出して丸腰アピールも忘れない。
「夜風にったって、もう夜中だろ。親とかは一緒じゃないのか?」
迷子ってわけでもなさそうだが、それにしたって危なっかしい。
相手の反応も見ながら、なるべく威圧しないように訊いて周囲に人を探してみる。
■227番 > 「大丈、夫」
悪いと言われれば気にしないでと言う意図で大丈夫と返す。
いくら町中とはいえ、周りを気にするのを怠った自分が悪い。
落第街では、そんなことをすれば無事では済まなかったのに。
「……親……、寝てる」
"親代わり"の存在にばれないようにこっそり出てきた。
とはいえ、GPSがあるので出たことは後からバレるのだが、
少女は夜中に外へ出ることを悪い事だとは思っていない。
ただ起こさないようにしたかっただけなので、バレても気にしない。
少なくとも、少女は怯える様子はない。
じっと青い瞳が、表情を、挙動を見ようと見つめている。
それから、少女の言う通り、周囲には誰も居ない。
■三椏 ケイ >
「マジかよ……ったく、親は何やってんだ」
近くに誰もいないという事実を受けて、驚いたような呆れたような顔になる。
事故に遭ったり、通りかかったのが危ない奴だったらどうすんだよ。
「子供がこんな時間に一人で出歩くもんじゃねぇぞ。
この辺はまだ治安がいい方だけど、危なくないってわけじゃないんだからな」
同じくらいの年頃の妹がいる身として、どうしても説教臭くなってしまう。
つーか、親が寝てるってことは自分で抜け出してきたってことか?
大人しそうな顔して度胸あるというか……じっと見つめられて、むず痒くなる。
「あ~……とりあえず、送ってやるから早く帰れよ。
それとも、家にいたくない理由でもあるのか?」
家庭の事情、という可能性もなくはない。
そう訊ねてから、言いたくないならいいけど───と付け加えて。
■227番 > 「……ゆーりは、悪くない」
保護者を悪く言われたような気がして、少しむっとした。
事情が事情なので、そう思われても仕方ないのだが、227にその知識はまだない。
「あぶないのは、知ってる……
でも、夜のほうが、慣れてる、から、平気」
公安の人に夜は危ないと言われているので、知識としては持っている。
なお、少女の危ないの基準はスラムである。
「ちかくだから、大丈夫。
……居たくない?ううん、わたしは、居たい。
今日は、怖い、夢?見た、だけ」
聞かれれば、平気だと返す。
同じ年頃の妹がいるのであれば、見た目よりも話し方が幼い……というか、
あまりに"ものを知らない"という印象を受けるだろう。
■三椏 ケイ >
「あ、いや……悪く言うつもりはねぇよ」
逆にこっちが怒られてしまった。
男親か女親か分かりにくい名前だが、仲は良い方みたいだ。
慣れとかの問題じゃないだろ、と口から出かけた言葉を飲み込んで、屈んで視線の高さを合わせる。
「怖い夢を見たんなら、なおさら一人でこんな所に来るもんじゃない。
親に言って、寝かしつけてもらうとかさ。甘えりゃいいんだ。
寝てるとこ起こすのも悪いと思って、黙って出てきちまったのか?」
妹と同じくらいかと思ったが、もっと年下みたいだ。
幼げな雰囲気に、自分でも最初より柔らかく感じる口調で語りかける。
■227番 > 「……そう」
そういうつもりがないと言われれば、表情はもとに戻る。単純だ。
「甘える……?……うん」
図星だし、取り繕おうとも思っていないので、正直に返事をする。
しかし、甘える、とはどういうことだろう。
頼る……とは、ちょっと違う気もする。
首を傾げて、じっと相手の目を見る。
■三椏 ケイ >
「小さい内は親に甘えながら育つもんだ。一人でやれる事なんて高が知れてる。
遠慮すんのは、もっと大きくなってからでいいんだよ。
まともな親なら叩き起こされたって理由を聞けば怒らないだろうしな」
この子はきっと、甘え方がよく分からなかったんだろう。
親に言えない悩みなら代わりに聞いてやろうかと思ったが、これは親にも付き合わせるべき問題だ。
■227番 > 「一人で、出来ないこと……」
すでにたくさんしてもらっている。
でも、それとも違う気がする。
「どうしたら、甘える、になる?
出来ないこと、頼るのは、できる、ようになった、けど」
首を傾げたまま、続ける。
保護者も、親らしいことをしてもらったことはないと言っていた。
ならば、外に答えを求めるしか、無いのだろう。
■三椏 ケイ > どうしたら、と来たか。まぁ分からないんじゃそうなるよな。
具体的に説明するのも難しいものだが……少し考えてから口を開く。
「できない事だけじゃなくて、自分がしてほしい事も言うことだな。
今回で言えば、怖い夢を見たから隣で一緒に寝てほしい……とかさ」
もっとシンプルに、欲しい物や食べたい物をねだるのもアリだろう。
正直に伝えた方が親だってやりやすいはずだ。
子供はワガママなくらいが丁度いい。
「それが迷惑かどうかは、相手が決めることだから。
まずは素直な気持ちを伝えるところから始めてみようぜ」
背中を押すような感じで、微笑みながらそう答えた。
■227番 > 「してほしい事……。一緒に……」
なるほど。
怖いものを見た夜、先生は一緒にいてくれた。
あの安心感が欲しいと言えば良いのか。
「……気持ちを、伝える……わかった、やってみる」
真剣な面持ちで、頷いた。
今日はもう夜も明ける。やるのなら、また次の日以降になるだろう。
「ありがとう、えっと……」
お礼を言おうとして、名前を聞いてないことに気付く。
■三椏 ケイ > うまく伝わっただろうか。頷いてくれたのでホッとしつつ。
……冷静に考えると、名前もしらない男に親心を説かれるって変なシチュエーションだな。
「ケイだ。三椏(みつまた)ケイ。あんたは?」
姿勢を戻して真っ直ぐ立ちながら答える。
空を見れば、東の方がうっすらと白んできていた。
■227番 > 「ケイ……」
覚えるために、反芻する。半ば癖になっている。
「名前、これ。にーにーなな。ニーナとか、ナナって呼ばれる」
麦わら帽子のリボンに付いたタグを、数字を指差して名前だという。
親が付けたものではないのだろう。
■三椏 ケイ >
「これって……その数字がか?」
変わった名前だな───とは、またしても飲み込んで。
どんな経緯にせよ人の名前を変だと言うのは失礼だろう。
気にはなるが、たった今お互いの名前を知った間柄で踏み込むものでもない。
「じゃあ、ニーナ。そろそろ帰るか?
ジョギングのついでだ、近くまで送ってやるよ」
喉が渇いてたらジュースの一本くらいは奢るぞ、なんて言いながら。
■227番 > 「うん。数字」
慣れた反応なので、本人も特に気にすることはない。
尋ねられても、これしかないから、の一点張りをするつもりだ。
「……うん、帰る」
それから、帰りを提案されれば、それほど遠くなく、送って貰うほどもないが、素直に頼る。
歩きだせば、すぐに着くだろう。
■三椏 ケイ > 公園を出て、ニーナの案内で彼女の家まで送っていく。
近くまでなんて言ったが、そもそも気晴らしで遠出してくるわけもないわけで。
少し歩けば到着し、その場で別れることになる。
「じゃあな、ニーナ。ちゃんと寝直しとけよ」
悪い夢なんて見ない方がいいに決まってるが、次があったらちゃんと甘えられるといいな。
そんな事を思いながらジョギングを再開し、俺も帰路へと就いたのだった。
ご案内:「常世公園」から三椏 ケイさんが去りました。
ご案内:「常世公園」から227番さんが去りました。
ご案内:「常世公園」に227番さんが現れました。
■227番 > まばらに人がいる公園。
公園のとあるベンチに、水色のワンピースに麦わら帽子の少女が座っている。
227はここから見える風景が気に入っていた。
池を眺めるのにちょうどよく、明るい時間であっても人通りは少なく、
また池の向こうには人が居ることがあって、それらを観察することも出来る。
といっても、あまり遠くはよく見えないのだが。
■227番 > 時折はねる水面に反応して目を向けたり、
聞こえてくる話し声に文字通り耳を傾けたり。
たまにはじっとしているのも悪くない。
といっても、今は散歩の休憩中なのだが。
もらった赤い靴もようやく履き慣れてきた。
裸足の時ほどまでは行かないものの、ある程度自由に動ける。
■227番 > 例えばこの街灯。
ベンチから立ち上がり、姿勢を低くして、目測。
足の位置を調整して、一気に飛び上がる。
トン、と街灯の上に乗った。
ふわりワンピースが広がって、すぐに戻る。
下から見たらとんでもない状態だが、227はまだ羞恥心を持っていない。
高い所から見る池はすこし様子が違う。
光を反射していた水面は深い色になった。
それだけでも発見だ。木に登ったらまた違う風景になるのだろうか?
■227番 > 慣れた様子でひょいっと飛び下りる……が。
「いっ……」
裸足と違って足裏が柔らかくない。ビリ、としびれる感覚。
227は学習した。
次は気をつけよう。足裏がだめなら膝を曲げるべきだろうか?
■227番 > 時計塔に目を向ける。
空の色と、お腹と相談して、だいたいの時間を測る。
時計の読み方はまだ学んでいない。
そもそも時計塔の文字盤は、ぼやけて見えない。
猫の目は近眼とされている。
その特性を部分的に持つ227も、近眼なのだった。
それはそうとして、帰る時間まではまだ猶予がある。
なにをしようかな。
■227番 > 「……」
ベンチの前で、空に爪を立ててみる。
ヒュンと風切り音が鳴る。
こうすることで、"爪"を使った攻撃ができる。
理由は本人はしらないが、付与された獣化の能力の産物だ。
そして、この爪はたやすく人の命をを奪う。
この手は、奪ってしまう感覚を知っている。
どうしてそうなったかの経緯は、全くわからない。
誰の命を奪ったのかも、よくわからない。
先日の事件で、死の再認識をした。
超重力による叩きつけられた衝撃による死。
体中が痛かった。何も見えなくなっていた。音もよく分からなかった。
その感覚は、怖かった。
■227番 > 腕を抱えて身震いをする。
自分が死を味わわないようにするにはどうすればいいか。
相手を無力化すればいい。
相手に爪を立てる。
そうすれば自分は死ななくて済む。
しかし、それは相手を殺すことになる。
相手に、死を味わわせる。ぞっとする。
殺す方法は知っている。首を狙って爪を立てればいい。
なら、どうすれば殺さなくて済むのか。
自分の身を守るために、自分の力の"使い方"を学ばなければならない。
「でも、どうやって」
これを打ち明ければ、きっとゆーりは心配する。
お前はまだそんなことをする必要はないって、言ってくれると思う。
でも、自分が自分の身を守れないことで、ゆーりが、危険な目にあったら。
それは、嫌。
もちろん、ともだちが危険な目にあうのも、嫌。
エイジの時も危なかった。運が良かったのだろう。
もう、あんな思いはしたくない。
■227番 > 少女は一人、公園のベンチで思い悩む。
ご案内:「常世公園」から227番さんが去りました。
ご案内:「常世公園」に日ノ岡 あかねさんが現れました。
■日ノ岡 あかね > 夜の常世公園。
もう、それなりに良い時間。
あかねは一人……自販機で購入したホットココアを飲みながら、月を眺めていた。
風紀と公安の懇親会とやらがあるそうだが……顔は出さなかった。
元より、あかねは元違反部活生。
ああいった場では浮いてしまう。
「ドレスの準備も面倒だしね」
相変わらずの一張羅、常世学園制服に身を包んだまま、あかねは笑った。
いつも通りに。
■日ノ岡 あかね > 今夜は晴天。
明るい月が園内を静かに照らす。
一人ココアを啜りながら、あかねはぼんやりと月を眺める。
「月が綺麗ね」
一人、静かに呟く。
どこか、感慨深そうに。
ご案内:「常世公園」に紫陽花 剱菊さんが現れました。
■紫陽花 剱菊 >
ふらりと会場を抜け出し、晴天の夜空の下を静かに歩く男が一人。
祭事の兼ね合い上、何時もと違う装いだ。
月輪の光を浴びて、黒糸の如く艶黒(えぐろ)の髪が涼風に揺られていく。
「……あかね。」
静かで、穏やかで、何処となく嬉しそうな声で少女の名を呼んだ。
■日ノ岡 あかね > 「あら、コンギクさんじゃない」
嬉しそうに笑って、声を掛ける。
いくらか気安そうに。
軽く剱菊の座るスペースを作って、あかねはぺしぺしと隣を叩く。
「懇親会はもういいの? 折角似合ってるのに」
タキシードに身を包んだ剱菊を見て、そう微笑む。
■紫陽花 剱菊 >
小さく会釈。そして、あかねの隣に腰を掛ける。
そして、彼女へと視線を合わせた。
その顔から視線を逸らさないように、ゆっくりと口を動かす。
「……賑やかさは大変好ましいが、私には似合わぬ……。」
男は静寂を好んだ。
そして、あのような明るさは自分には不釣り合いだと説く。
「……何より、踊る相手もいなかったからな……。」
なんて、冗談っぽく言ってのけた。
■日ノ岡 あかね >
「御揃いね。私もああいうところは大勢の顔色伺わなきゃだから苦手。やっぱりせいぜい三人から四人くらいまでが限度ねー。『話し合い』の時みたいに『やる必要がある』なら仕方ないから我慢するけど、そうじゃないなら……ね?」
剱菊と目を合わせ合って、あかねは笑う。
いつも通り……いや、少しだけ穏やかに。
傍で見なければ、分からないかもしれないけれど。
「相手一杯いると思うけど。コンギクさんモテそうだし」
冗談に冗談で返して、あかねは笑う。
とても、楽しそうに。
■紫陽花 剱菊 >
「……嗚呼、難しい話だな……事が終われば、君と共に今一度宴に出るのも吝かでは無いが……。」
少しばかり憂いを帯びた目線になってしまうのは彼の優しさか。
それでもせっかくの二人の時間。静寂の帳に波紋を残さぬように、憂いは消えた。
「……君が良いと言うなら、側室でも作ろうか……否、冗談だ。」
英雄色好むという言葉があるが、元の世界では一夫多妻制…とは違うが、愛人を作る文化は自然だった。
とは言え、今の剱菊が『見ている』のは彼女のみ。まかり間違っても、作るはずはない。
剱菊が静かに立ち上がると、そっと手を差し伸べた。
「……青白い月輪が良く輝いている。些か彩りに欠けるが……私と一つ、踊って頂けくださるか?」
二人しかいない静寂の帳。
夜の公園で、二人だけの静かなパーティーを、と。
■日ノ岡 あかね > 青い月が、二人を照らす。
今夜は街灯の明かりも翳る。
そんな、月明りの強かな夜。
あかねは……静かに微笑んで。
「……それじゃ、一曲お願いできるかしら?」
そういって、嬉しそうに手を取って立ち上がる。
顔をあげて、剱菊の顔を見詰めたまま。
視線は……逸らさない。
「ふふ、でも、側室がどうって……コンギクさん、言っとくけど、『落とした気』になってるなら……まだ気が早いわよ?」
悪戯っぽく微笑む。
それでも……あかねは剱菊に軽く身を寄せて。
「……まだ、『始まってもいない』んだから。そうでしょ?」
エスコートに身を任せる。
元々、ダンスの礼法はそれ。
折角、彼が誘ってくれている。
なら、あかねの選択は……最初から一つしかない。
「『始める』ために……私は真理に挑むんだから」
■紫陽花 剱菊 >
「御随意に……。」
互いに身を寄せ合う、宵闇の会場。
その手を優しく、鉄の様に冷たい手が包み込み
しっかりとあかねのエスコートしていく。
何処からか聞こえるかもしれない優雅で静かな曲に合わせて、夜の底で男女が躍る。
「……心得ている。然れど、其方を『繋ぎ留める』為の『思い出』を幾ら残しても問題あるまい……。」
人を留めるのは、思いの力。
その真理とは如何なるものかは皆目見当も付かない。
彼女の挑戦に少しでも華を添え、『日ノ岡 あかね』が何時でも返ってこれるように、其の導をこの様に残すのだ、と。
「……其れに、仮に其方が『始まった』としても……私の側室を許すのか?」
互いに身を寄せ、胸同士が重なり合う。
足を絡めない様にゆったりと互いの身を翻し、少しばかり、からかうように
顔を覗き込んで言問う。
■日ノ岡 あかね > 「許すわよ。男の甲斐性でしょ、それも含めて」
緩やかに笑いながら、二人だけの舞踏会を楽しむ。
鉄に自らの体温を宿らせるように、そっと手を握って。
剱菊の一挙手一投足に合わせる様に、あかねも舞う。
「安心して、焼きもちくらいはちゃんと妬くから」
時に身を寄せ、時に身を離し。
あかねは笑う。
翻す身にも……付かず離れず。
「まぁ、私プラトニックだから、手の早いコンギクさんはキツいかもしれないしね」
それこそ、からかうように……あかねも笑う。
思い出を、一つでも残す為に。
■紫陽花 剱菊 >
「……否、存外一人を見なければ、と思っていたが……。」
思ったよりも予想外の返事。
男の甲斐性と言うのは同意できる。
そう言う価値観で育った男だ。
如何様に、何人も、どれ程の女性を受け止めれるかも男の器だ。
いじらしい言葉に、噴き出す様にはにかんでしまった。
「其れは……地の閻魔も慄くだろうな……。」
果たして焼きもち程度で済むのだろうか。
何時もより口が軽いのは、あかねの前だからだろうか。
好意を寄せる、気を最も許してるからこそかもしれない。
互いに決して顔を逸らさぬように、互いの笑みを黒に映し出し
あかねの背に手を回し、全身を支えるように静止する。
月明りのスポットライトが、二人を、二人だけを照らし出す。
「……ふ、抜かせ。小娘、私に抱かれるには些か青いな……。」
なんて、挑発的に言ってのけた。
■日ノ岡 あかね > 「ふふ、なら安心したわ。小娘で居られる間は……存分に青さを楽しませてもらうわ」
軽くあかねは笑って……剱菊に身を寄せる。
普段よりいくらか、口の軽やかな彼に。
普段よりいくらか、此方を見てくれている彼に。
とても嬉しそうに……満面の笑みを浮かべながら。
「準備が整ったら、再来週には『やる』から」
あかねは、踊りながら告げる。
何でもないように。
実際、何でもないのかもしれない。
「遅くとも八月に入る前には」
だってそれは……『始まり』でしかないのだから。
月明りの元、あかねは笑う。
いつも通りに。
■紫陽花 剱菊 >
「……其の代わり、覚悟すると良い。事が『始まり』再度『相見えた』時は……。」
「──────熟れた果実は、手に取らせて頂く。」
屋上で交わした契りは、永劫と此の胸に刻まれている。
だからこそ、信じている。
『日ノ岡 あかね』とまた、こうして笑い合える事を。
其の時は共に歩み、此方も共に歩くものとして"相応"の立ち振る舞いをさせて頂く、と。
そっと、あかねの身を起こす様に、二人の体が向かい合うように地に立った。
音の無い会場で、静かに踊りの終わりを告げた。
「……始まりは近いのだな。……左様か……。」
立場で在れば、此処で止めるべきだろう。
だが、其処に公安の"刃"は無く、今目の前にいるのは
『日ノ岡 あかね』を待つ、"人"である。
であればこそ、彼女を止める事はない。
されど、武に生きるもの。其の力の振る舞いに差異はなかった。
握った手をそっと離し、彼女の温もりを名残惜しむように、静かに拳を作る。
「────露払いは、必要か?」
■日ノ岡 あかね > 「お願いできると嬉しいけど、コンギクさんが『自責』で出来る範囲でね?」
クスクスと笑う。
いつでも、あかねはそう言ってきた。
ずっと、あかねはそう言ってきた。
誰かの背を押すことはできる、手を引くことはできる。
だが……歩き出すことも、引く手に手を伸ばすことも。
「自分で『選んで』」
選ぶのは……常に自分。
「あと、私、失敗しても成功しても多分一度はブチ込まれると思うから、そこも承知してね」
既に一度幽閉された身。
あかねは『それ』を知っている。
風紀委員会の恐ろしさを。公安委員会の周到さを。
生徒会の容赦のなさを。
この常世島は……現状維持の為なら、一切の斟酌をしない。
「ちゃんと……待ってられる?」
無音の舞踏会。
静寂だけが支配する月輪の光の元……あかねは問うた。
鉄に残った温もり、それを惜しむように。
……あかねは、剱菊の目を見つめた。
■紫陽花 剱菊 >
「───────……。」
嗚呼、そうだ。何時も彼女はそうだった。
『選択』してきた。他人にも、自分にも、そう言い聞かせていた。
……こうして彼女も今『選択』してきたんだ。
この道を、選んだのだ。此れを、彼女が囁いた言葉は今も耳朶に沁みている。
分かっているとも。彼女との約束を、全てを終えた時に
隣を歩くと誓った以上────……。
「……『日ノ岡 あかね』が向かう道。言寿(ことほぎ)を胸に、露払いの先駆けをさせて頂く。」
そう、『選んだ』のだ。
如何なる修羅道在ろうと、彼女の為なら如何様に血にも染まる。剣も取る。
────…重い男だと、笑うだろうか。
剱菊は、あかねの目を見据えて、ハッキリと口を動かして答えた。
「……君と言う女……否、嗚呼……律儀だな……。」
どうせそこまで来たら、自由を謳歌すれば良いというのに。
だが、身を以て組織の恐ろしさを知っている彼女が言うからこそだろう。
わかっている、わかっているとも。あの時の約束、『選んだ』答えは。
「待つとも。永劫の時を跨ごうと……『日ノ岡 あかね』を此処で待つと、言ったはずだ。」
「……何、場合によっては私も隣り合わせよ。其の時は、堪え性の無い男だと笑ってくれ。」
獅子陣中の虫に等しきもの。
過去のあかねの行いを省みても、それを助ける事は決して風紀からみても、公安からみても罪で在る。
其れを知りながらも其の露払いをすると言う事は、立場を失い、再び名も無き刃に戻ると同義。
場合によっては、己も、恐らく──────……。
選択する覚悟を、此処に示し、柔く、微笑んだ。
■日ノ岡 あかね > 「なら、今度はもしかしたら……」
あかねは笑う。
嬉しそうに、楽しそうに……目の前の剱菊になら、きっとわかる。
未来を夢見る少女は、それこそ夢のように。
「クラスメイトかもね」
あかねは……笑った。
光も届かぬ地下教室。
月明りも届かない、地の底。
あかねは一年其処にいた。
次は何年……掛かるだろうか?
まぁ、それでも。
「まだ先は分からないけど……その時はよろしくね?」
日ノ岡あかねにとって。
それは大したことじゃない。
きっと、全部……間違いなく。
「共犯、よろしく」
修羅道にて、血で剣を染めてきた男に。
あかねは気安く……そう、笑った。
■紫陽花 剱菊 >
「とんだ入学式だな……。」
そう言えば、あの兎の少女からも入学を勧められたか。
ロケットが、どうと。
それがもしかしたら、そう言う形で叶うかも知れない。
そう考えると、何と彼女に申し開きするべきだろうか。
ふ、と己の事を嘲笑った。
短夜の涼風が、黒髪を揺らす。
一本一本が靡き、舞い、女性の髪の様に優雅に舞う。
「……御随意に。但し、二度と切れぬ縁かも知れないな?」
強く、男は頷いた。
そして、静かな足取りで、その隣へと立つ。
己の居場所は、そこだと『選んだ』のだ。
「……あかね。」
夜風に紛れて、彼女の名を呼んだ。
広がらぬ波紋の代わりに、しっかりと。
しっかりと彼女にわかるように、其の顔を見て、呼んだ。
────其の名前を、呼びたくて。
■日ノ岡 あかね > 「それなら……尚の事安心よ、コンギクさん」
切れた縁など山ほどある。
それこそ……相手が死んで切れた縁も。
『トゥルーサイト』はそうなった。
『トゥルーバイツ』はどうなるか?
まだ、わからない。
全然、わからない。
それでも、一人だけでも……縁の硬さを想ってくれるなら。
「『またね』、コンギクさん」
それはきっと、喜ばしい事で。
それはきっと、誇らしい事で。
日ノ岡あかねにとって……それは本当に、嬉しい言葉で。
「……『楽しみ』にしてるわ」
夜風を纏って、あかねは去っていく。
いつも通りに。名残惜しんだりなんてしない。
だって、それを心配することなんて……もうないんだから。
■紫陽花 剱菊 >
刃とは須く、断ち切るもの。
人も、生命も、縁さえも。
彼女は多くの縁が切れてしまった。
それは互いに志を共にしたもの。
そして、今もまた没するかもしれない。
──────二度と、させるものか。
此処にあるのは"人"。紫陽花 剱菊。
人は縁を紡ぐもの。此処に結ばれた縁。
彼女を紡ぐ縁。……断たせるものか、と。
『選んだ』のだ。此の修羅道を人の身で駆ける、と。
何処まで行けるかは全く以て皆目見当が付かない。
其れでも、嗚呼──────……。
あかねの為なら、何処までも駆けよう。
あの乱世の世と、同じように。
「……嗚呼、あかね。」
宵闇が、夜風に待った。
去り行く背中をしかと、底のような剱菊の瞳がじっと見守っていた。
「……『またな』」
互いに行き着く道は、同じだろう。
夜風に靡く己の髪を追うように、剱菊の姿も、夜に消える。
幽世の夜へ、一人の少女の為に──────。
ご案内:「常世公園」から日ノ岡 あかねさんが去りました。
ご案内:「常世公園」から紫陽花 剱菊さんが去りました。