2020/07/14 のログ
日ノ岡 あかね > 「私はむしろ年上大好きだから、大丈夫ですよ?」

クスクスと笑う。
桃眼に黒眼を合わせながら、あかねはクレープを食べる。

「あ、可愛いですねこの子たち! 今まで見たこと無いし、《向こう》の品種です?」

頭に宝石のような角を持った鳥ののような何かを見ながら、あかねが笑う。
少し触りたそうに指先を向けたが、控えめに一度引っ込める。

羽月 柊 >  
隣にゆっくりと腰かける。
外に置かれ、雨風に晒されたベンチが軋んだ。

男は手に様々な装飾品を着けている。
他の身なりには似合わない成金趣味のようなゴテゴテしさもあった。
コンビニ袋も似合わないので、手だけ別物感がある。

「それはどうも。」

あかねの言葉にも男はあまり表情を崩さなかった。
若い女の子にこう言われると良い気になる大人も多いモノだが。

「…乱暴にしないなら尾辺りを撫でてみると良い。
 《向こう》…そうだな、門のあちら側にいる竜の一種だ。」

蒼い二角の方を呼び寄せて肩に留まらせれば、
その長い尾はあかねの手の届く位置に来るだろう。

袋を膝上に乗せ、中を漁っている。
傍らから見えるのは氷菓だった。

「それにしても、その腕章は……。」

ちらりと桃眼があかねの風紀委員のそれを認める。

日ノ岡 あかね > 「わぁあああ! ありがとうございます!! あ、これです?」

嬉しそうに竜の尾を撫でながら、自分の腕章を一瞥する。
林檎に噛み付いた蛇が、その噛み付いた林檎に絡みついているエンブレム。
『トゥルーバイツ』の証。

「私の所属です。あ、そういえば自己紹介が遅れましたね」

そういって、あかねは一度……緩やかに笑う。
そして、紫髪の男に改めて向き直ってから。

「私はあかね。日ノ岡あかねです。アナタは?」

そう、目を細めて尋ねた。
茜色の空の元……差し込む夕日を浴びながら。

羽月 柊 >  
撫で心地はというと、洗いたての仔犬。
小竜は尻尾の先をぴるぴると動かしている。
乱暴にしなければ、嫌がることもせずに撫でられてくれるだろう。

「所属か。林檎と蛇といえば知識の禁断の果実だが…。
 腕章というとどうも風紀委員が頭を過ってな。」

男は部活に対して明るい訳ではなく、
知っている知識から思い当たるモノを出そうとする。
どうにも学者気質な所があるらしい。

氷菓のパッケージを破り、木べらのスプーンですくうと
膝に留まらせたもう1匹に食べさせる。


「あぁ、俺は柊(しゅう)だ。羽月 柊。ここの学園を出て研究者をしている。」

髪や眼の色に反して、彼は日本人の名で応えた。

人懐こい子だ、と、そう思いながら。

日ノ岡 あかね > 「ああ、研究者さんなんですねぇ、校舎で見たこと無いから妙とは思ってたけど」

嬉しそうに小竜を暫く撫でまわしてから、手を離す。
そして、改めて柊と顔を合わせて。

「はい、風紀委員ですよ私。元違反部活生ですけどね」

この腕章はそれを示すものでもある。
なので、あかねは一度息を吸ってから。

「風紀委員会元違反部活生威力運用試験部隊傘下独立遊撃小隊『トゥルーバイツ』」

そう、一息で言い切り、また深呼吸して笑う。

「そこが私の所属です。いやぁ、長いから言うのちょっと苦労してるんですよね」

照れるように、頬を掻きながら。

羽月 柊 >  
あかねの手が離れると、撫でられていた小竜の方も氷菓をくれとキュイキュイ鳴く。
そんな子らに、慣れた様子で木べらに乗ったそれを差し出す。

「…………。風紀委員の中にも色々あるモノなのだな。」

すごい長い名前が出てきた。
自分だったら途中で噛みそうだ、と一瞬頭を過る。

――しかし、こんなにもにこやかに笑うのに、
違反部活だの、威力運用、遊撃……と、物騒な言語が羅列された。

子猫の隣にいるつもりが、猫科の肉食動物の隣にでもいるのかと。

「学園を卒業して、そういった理由で島内にいるモノもいる。

 しかし…やはり今の時代見た目はアテにならんな。
 その『トゥルーバイツ』とやらで活躍できるぐらい、実力があるとは。

 それにしても、どうも最近、風紀委員に良く逢う。」

最後の言葉は、人によってはどうとでも取れるだろう。
悪い意味でも、良い意味でも。

日ノ岡 あかね > 「ふふ、活躍なんて……私は乱暴な事はからきしだし、『トゥルーバイツ』の活動は基本的に『声掛け』活動してるだけですよ? これもありますしね」

そういって、首元のチョーカーを指さす。
真っ黒な首輪のようなそれ……委員会謹製の異能制御用リミッター。

「私、異能の使用を制限されてますから」

落第街などの危険区域を歩くにもかかわらず、その処遇。
首輪付きの猫は、楽しそうに笑う。

「まぁ、そんなわけで、良く会う風紀委員の中でも私は『風紀委員としての実力』とみると、低い方だと思いますよ」

何でもないように、クレープを食べながら。
翳る夕日が、少しだけまた傾いた。

羽月 柊 >  
彼女のチョーカーを見やると、
つい柊はそれについて思案を巡らせた。

異能の使用を制限するモノ。異能学は自分の専門分野ではないが、
一人ひとり違う異能をそうやって御する技術が生まれている。
そんな事実に、技術はやはり日進月歩を続けており、
止まってはいられないのだと再確認する。

「…そんな活動もあるのだな。
 どうも風紀委員は大捕り物をやっているイメージが強くてな。
 子供でありながら大人と同じ程の権限を持って、仕事をしているような。」

柊は時折裏の世界、落第街も訪れる。
幸か不幸か彼女ら『トゥルーバイツ』の活動には出逢っておらず、
だがしかし、首輪をされてころころと笑う子猫に、いつかの幌川 最中が脳裏にチラついた。

「そうか……なら、あまり無茶はしないようにな。
 どんな理由や過去があったかは知らんが、
 怪我はしないに越したことは無い。」

そんな思いを抱きながらも、大人は当たり障りのない言葉を口にする。

氷菓のカップについた結露が落ちて、地面の砂を固めた。

日ノ岡 あかね > 「勿論……とはいえ、博打を打たなきゃいけない時は躊躇いませんけどね」

大人の言葉にも、子供のあかねは嬉しそうに返答する。
恐らく、心配からそう言われているであろうことはあかねも分かっている。
それでも。

「無茶しなきゃ『願い』に手が届かないのなら、私はいくらでも無茶しますから」

そういって、立ち上がる。
見れば、既に日は沈みかけていた。
中身のなくなったクレープの包み紙を屑籠に放り投げ、あかねは笑う。

「それこそ……それは子供も大人も同じでしょ?」

沈む夕日を背に。
星明りも見える空を背に。
あかねは静かに微笑んで。

「ま、『無茶をする』以外の手がある時はちゃんと保身しますから安心してください。それじゃ、シュウ先生……またどこかで!」

冗談めかした敬礼を一つして見せてから、踵を返して、去っていく。
猫の尻尾のように、ウェーブのセミロングを揺らしながら。

ご案内:「常世公園」から日ノ岡 あかねさんが去りました。
羽月 柊 >  
あかねが去っていく後ろ姿を見送る。
陽が落ちる。柊の髪を同じ、夜の色が辺りを包んでいく。

公園の中に、もう人はほとんど残っていなかった。


「……大人は、どうだろうな。」


小竜を撫でながら。

チョーカーを見て、一瞬息子が頭を過った。


解け残り、木べらのスプーンでは掬えなくなった氷菓を、
男は自分の口へ流し込み、立ち上がると

彼女とは別の方向へと、歩いていく。

ご案内:「常世公園」から羽月 柊さんが去りました。
ご案内:「常世公園」に227番さんが現れました。
227番 > 夜の公園。
池の前の、いつものベンチに腰掛ける少女。
今日の街歩きも終え、夕食もいただいて、一息。

静かな公園で、空を見上げている。

227番 > 空に点々と浮かぶ星を見つめる。
星にも、人が付けた名前があるらしい。
まだ、1つも覚えられていないが。

光らない星もあって、番号と名前があるらしい。
自分と似ているな、と思った。
誰かが私の名前である227は番号だと言っていた。
自分にも番号以外の名前もあるのかな。いつか、知れると良いけど。

同じ番号の星を見てみたいとは思ったものの、光らない星。
当然、普通に見ても見えない。
望遠鏡、という専用の道具が有るそうだ。

227番 > となれば、自分で用意することはかなわない。
誰かに頼むにも……きっと安いものではないだろう。
ただ自分の名前と同じ番号の星が見たいというだけで、頼もうとは思わない。
誰かが持っているのを貸してもらえるのなら、あるいは……だけど、そんなつては今の所はない。

この空の何処かにある、見えない星に思いを馳せる。
今は、それだけ。

それにしても、夜はなんだか居心地がいい。
落第街にいた頃は、夜以外で動く選択肢はなかった。

暑いし、あのマントの色は目立つし、髪は光を反射して目立つ。
なにより昼の光は、なんだか眩しくて。……嫌ではないのだが。