2020/07/18 のログ
ご案内:「常世公園」に羽月 柊さんが現れました。
■羽月 柊 >
――深夜。
昼頃に襲ったスコールが地面に水たまりを作り、
それも徐々に乾き始めている。
暗がりに同化した水は、歩けばぴしゃりと水を跳ねさせた。
「……、…。」
黒ズボンに跳ねた水に男は息を吐き出す。
遠くで早起きすぎるセミの鳴き声がした。
夜空は薄い三日月が昇り、もう数日後には姿を隠す。
星は眠らない街の灯が大半を隠し、数少ない眩いモノだけが目立つ。
この男、柊も、そんな街の灯と同じく眠ることが出来ず、
夜の散歩に出て来ていた。
■羽月 柊 >
傍らにいつもの小竜はいなかった。
ただの散歩だ。そう護衛をつける必要も無い、ましてや寝ているのを起こすこともない。
研究所内の夜行性の子たちに声をかけて、
白衣も羽織らず、夏の蒸し暑い夜風に吹かれ、ここまで来た。
少し動けば眠くもなるだろう。
そんな期待を込めて。
そうして男は空を見上げてぼんやりと思考にふける。
■羽月 柊 >
――今までは、ヒトを避けて暮らしてきた。
最低限、仕事と息子の周りの関係だけ。
自分が表にしゃしゃり出ることもそう無いだろうと考えていた。
普段と変わらない生活、変わらない仕事、そうであるはずだった。
だがやはりここ最近の身の回りの出来事を考えると、
やはりヒトはそういった殻の中にずっと籠ってはいられないのだと、まざまざと知ることになる。
研究者としての表の顔は元より、
裏の顔であった落第街周りでの取引関係や姿を見られている。
…この歳になって、気付かぬうちにガタが隙として出て来たのか?
そんな思考が脳裏を過る。
幸い、名前を知られていない幌川 最中相手や、落第街を歩くことを許容したヨキ。
己の専門に関係のある黒龍。そういった形で対立しない状態では、あるが。
■羽月 柊 >
懸念事項が多くなると、自然と腕組をして考え事をしてしまい、
公園のベンチに腰掛けた。
目線は夜景に向いてはいるが、その桃眼は何も見ていない。
ただ無表情に、夜灯を反射しているだけの瞳。
無為な対立は避けたい。
自分の戦闘能力を過信してもいないし、
無力な息子を抱えている。弱い小竜たちを保護している。
家に防護の魔法をかけていない訳じゃあないが、世間的に自分の弱点は丸出しも同然だ。
こういう時、護衛がいるとはいえ、1人で動いていることが辛くなる。
「………独り、か。」
そう呟いて風に流れる己の髪のうっとおしさに頭を振れば、
右耳のピアスが街灯に反射して煌めいた。
ご案内:「常世公園」に焔誼迦具楽さんが現れました。
■羽月 柊 >
人間の悪い癖だ。
1人ではないのに、独りであると考えてしまう。
自分が今まで…独りでやらざるを得なかったからだ。
――黒髪の女性が頭にちらつく。
隣に立つ人が居たことはあった。
だがそれは、今の柊の隣にはいない。
それは泡沫の夢。いつかの過ぎた消せない痕。
『でも……羽月さんだって
……取りこぼしたくなんか、ないんじゃないですか…?』
山本 英治の言葉が頭を掠め、思わず歯噛みする。
(そんなこと、『当たり前』だろう。)
あの時セミの演奏に掻き消された言葉が蘇った。
そんな、独りの夜のはずだった。
■焔誼迦具楽 >
夜の公園に、軽い足音が響く。
その足音は、ベンチに座った男性の前で止まった。
「おにーいさん。
こんな時間に一人でいると、怖い怪物に食べられちゃうわよ」
おどけた調子で声を掛けるのは、十代半ばから前半に見える小柄な少女。
長い黒髪を夜露に濡らし、特徴的なTシャツには『前途多難』と書かれている。
「――こんばんは。
静かな夜だけど、眠れないのかしら?」
明るい調子で、ほんの少し気遣う様子を見せながら問いかけた。
■羽月 柊 >
思考の海に沈み込んでいた。
どこも見ていない伏せがち桃眼が、
聞こえた"音"に、漸くその目線を上げ、正体を捉えた。
「……君こそ、女の子がこんな夜におじさんに声をかけて大丈夫なのか。」
腕組をしていた力が抜け、膝上で改めて手を組む。
……先ほど思いだしたばかりだからか、
相手の黒髪と赤眼に、思わず桃眼を細めた。
――偶然とは、時に残酷だと…思わざるを得なかった。
■焔誼迦具楽 >
「ふふ、普通の女の子なら、大丈夫じゃないのかもしれないわね」
視線が合うと、赤い瞳でのぞき込むようにしながら、無邪気そうな笑みを浮かべる。
けれど、その目が意味ありげに細まると、迦具楽は不思議そうに首を傾げた。
「あれ、私の顔、何かついてる?」
「焼きそばの青のりかな?」とか言いながら、口の周りを手の甲で拭った。
■羽月 柊 >
「自分が普通の女の子ではないと言っているも同然だな…。
まぁ、確かにそのシャツは普通から少しばかりズレているが。」
まぁこの島では、夜に女の子が出歩いていたって安易に襲われるとは限らない。
異能、魔法、不思議な力…そういうモノが当たり前の世界。
返り討ちにあって死んだってなんらおかしくはない。
「…よくよくヒトの表情が読めるんだな。
君と似ているという訳じゃあないんだが、
ちょうど君のような髪と眼の人物を思い出していた所でね。」
無邪気な様子に、自分から溢れて止まなかった文字の山を一旦隅へと押し込める。
解決したということはない。
最近の出来事も、思いださざるを得なかった言葉も、
ただ無理矢理蓋をしただけだ。
■焔誼迦具楽 >
「えっ、そんなに変?
これ結構気に入ってるんだけど」
シャツの裾を引っ張って、文字を強調する。
「表情を読むなんて、そんな難しい事できないわよ。
でもほら、なんとなく、楽しそうとか悲しそうとか、怒ってるとか――そういうのはわかるものでしょ?
アナタはそう、なんというか――寂しそう、かな?」
そう言いながら、自分の髪を指先で弄り。
「黒い髪と、赤い瞳?
黒髪は珍しくもないだろうけど、赤目はたしかにちょっと珍しいかもしれないわね」
話しながら、迦具楽は遠慮もなく、隣に腰を下ろした。
「ねえその人って、あなたの大事な人?」
興味津々、と言った様子で、隣から顔をのぞき込むように訊ねた。
■羽月 柊 >
「そうだな、少なくともどこにそんな服売ってるのかと思う程度にはな。」
このご時世だ。自分でプリントも出来るし、
そういう風に注文すれば作ることも割と安価にできる。
他愛ない言葉は気を紛らわせるのに効果的だ。
少なくとも、自分を脅迫するかのように考え込んでいた状態からは抜け出せる。
「…俺はなるべく表情を面に出さないようにしているからそう思った…。
とはいえ、自分なりにじゃあ、君から見たらそうじゃなかったんだろうな。」
そう言いながら少女が隣に座り込むと、
ベンチの幅を取る面積を減らすかのように男は足を組んだ。
「……遠い昔の、"そうだった"ヒトだ。
黒い髪に赤い瞳の……それこそ、普通の女の子だ。」
それは過去にした言葉。
それは現在ではない言葉。
それは、それがなければ今の彼がいない言葉。
■焔誼迦具楽 >
「うーん、表情と言うよりは、雰囲気かしら。
勘みたいなものだから、気にしないで?」
なんてことなさそうに言うが、本当に迦具楽にとってはなんてことはない事なのだ。
なにせ、普通の人間とは見えているものが違う。
ここに来たのだって、なんとなく『美味しそうな匂い』がしたからというだけの理由だ。
「ふうん?
もしかして、あなたの恋人だったのかしら。
ねえ、そのヒトはどんな人だったの?」
隣で足を揺らしながら、迦具楽は好奇心のままに問いかける。
■羽月 柊 >
『美味しそうな匂い』とはどういうモノだろう。
迦具楽が男の魂の色を見ているならば、少々違和感を感じるだろう。
その色は、まるでペンキを塗りつけたように元の色から違って見えるかもしれない。
一台の車が、公園の外を照らして通り過ぎて行った。
「分からないな……そうだったら、良かったな。
彼女にとってはそうじゃなかったのかもしれない。
……今の俺には、分からないことだ。」
答えはひどく曖昧だった。
普段の男を知るモノならば、ここまで彼がぼかした言い方をするのも珍しい。
男の奥底に眠る、こんな夜でなければ出てこないであろう言葉の羅列。
もし迦具楽がこの男を喰らおうと考えているならば、
割と今は男に隙はある。
だが、男の手には魔力を湛えた魔具の数々がつけられていた。
普段連れている護衛はいないものの、最低限の自衛能力は持っていた。
■焔誼迦具楽 >
迦具楽にとっての『美味しそうな匂い』とは、言うなれば感情の濃さ、思いの強さ、そう言ったもの。
その方向性に正も負もなく、強い思いがあればあるほど、引き付けられるものを感じるのだ。
そう、本来の色を塗りつぶしてしまいそうなほど強い『ナニカ』があれば、興味をそそられるのも当然だった。
「なんだか、はっきりしない答えね。
そうだったら良かったって思うのなら、そうだったって事にしちゃえばいいじゃない。
だって、過去の事なんでしょう?」
不思議そうに、迦具楽は悪気なく言葉にする。
「私には、好きな人がいるわ。
あ、うーん、私も『いた』かしら。
もう卒業しちゃったかもしれないし」
自分にとって、かけがえのない存在だった少年。
甘えさせてくれて、優しくしてくれた、父親のような存在。
「恋人になろうとは思わなかったけれど、それでも大切な人だったわ。
あなたにとって、そのヒトはそういうヒトではなかったの?」
純粋な疑問。
自分が誰かを想う気持ちと、どう違うのか。
何が違うとこのように曖昧な言葉になってしまうのか。
それは食欲よりもずっと気になるもので。
ほんの少しつまみ食いでもしようかと思っていた気持ちも、すっかり好奇心の中に消えていた。
■羽月 柊 >
男の答えは酷く曖昧ではあったが、『美味しそうな匂い』は強かっただろう。
忘れたくても忘れられぬ想い。
簡単な単語には表せぬ、それはこの男が研究者という多くの言葉を知るとしても。
「…そうだな、君のように思えたら、
俺は随分と気が楽になるのかもしれない…。」
一度目を閉じ、だが、と首を横に振り。
開かれた桃眼は遠く壊れた夢を想う。
「隣にいることが当たり前で、
向いている方向は同じだと思っていた。
……通じていたはずの心が全く別だと目の前に突き付けられた。
俺は何を取り零したのか、取り返しのつかない程に。」
男は"何があったか"を明確にはしなかった。
裏切られたのか、はたまた。
だがそこには、過去にしきれぬ後悔が詰まっていた。
口調は酷く淡々としているというのに。
まるで、沸騰する水の表面だけを凍らせたかのように。
■焔誼迦具楽 >
「なんだか、単純って言われたような気がする」
言い方にムッと唇を尖らせてみるも、続く言葉には好奇心だけでなく真剣な様子で聞く。
「――そっか、あなたにとっては、過去であっても、まだ『終わっていない』のね。
だからそんなに苦しそうなんだわ」
溢れ出しそうな思いを、表面だけ塗り固めて覆い隠して。
それでも隠し切れない、大きな苦悩。
それは、ただ過去を想う人間のものではなく。
過去を思い出にできずにいる、今まさに苦悩している人間の心。
淡々とした言葉に押し込められた、激しい想いがにじみ出てくるかのように。
迦具楽の感覚は、確かにその心の熱量を感じ取っていた。
■羽月 柊 >
「いや、俺には君が羨ましかっただけだ。」
かつて他人に、"考えすぎる"と言ったことがある。
だが結局、それは自分にこそ当てはまる。
内心自嘲して止まないのだ。
自分は大人だ。
泣き叫ぶ歳は過ぎた。
何故と問う言葉は尽きた。
何もかもを飲み込んで明日の為に今を生きるしかない。
夢を見て現実から目を逸らす訳にはいかない。
「…いいや、終わったことだとも。
………君を見て思い出したとはいえ、初対面の君に何を言っているんだろうな俺は…。」
表面だけまたそうやって取り繕う。
ふー…と長い息を吐き出し、眼を閉じる。
■焔誼迦具楽 >
「終わったことだったら、そんなに苦しまないわ、きっと。
だって、終わっていれば、自分の思いに決着がついているはずだもの」
そうなれば、思い返して悩む事などないはずだ。
今でも思い悩み、思い返すのならば、それはまだ『続いている』に違いない。
それが、迦具楽から見た男への率直な感想だった。
「あら、初対面の他人だから言える事だってあるんじゃない?
だって、こんなに静かで、穏やかな夜なんだもの」
そう、隣で微笑みを向ける。
「もし、あなたにとってその過去が、今を生きる重荷なんだったら。
――私が食べてあげよっか?」
その魂ごと。
その苦悩する思いごと。
何も感じずに済むように。
■羽月 柊 >
「…だからと言って、子供のように立ち止まって嘆く時間は無い。
それに……生憎とこれがあるから今の俺がある。」
解消の仕方は分からない。
だが、そうやって『続いている』からこそ、男は今ここにいる。
それ自体は間違いないのだ。
ベンチから男だけ立ち上がる。
月夜と該当に紫髪が照らされる。
振り返って少女を見下ろす。
「……聞いてくれたことには感謝しよう。
ただ、これは捨てられない。」
そう告げる男の意志は硬固だった。
自分の過去を否定したくは無い、と。
■焔誼迦具楽 >
「――そう、残念」
男を見上げながら、少しも残念でなさそうに笑った。
「あなたは強い人だわ。
けど、同時に脆くもある。
きっと、いつまでもそのままでは居られないわよ」
そう、男の意志を尊重するように。
けれど、その危うさも指摘して。
迦具楽も同じように立ち上がる。
「お話できてよかった。
とても楽しい時間だったわ」
そう言ってくるりと、背を向ける。
「あなたの先行きに、幸があることを願っているわ。
またいつか会いましょう。
――アナタが、壊れてしまう前に」
そうして、迦具楽は足音を鳴らしながら、楽し気に、夜の闇へと溶け込んでいくだろう。
■羽月 柊 >
「――、………。」
去っていく少女の背を見送る。
名も知らぬ彼女に、どこか得体の知れなさを感じながら。
その姿が見えなくなると、吐息が夏の湿った空気に混ざった。
「……らしくない。
いっそ幻覚や幻聴とでも言いきってしまえばいいものの。」
神様か何かにでも逢ったのか。
いいやそれだけで片づけられはしない。
最後に突き付けられた言葉が、頭の中で反響する。
「口に出したのは何年振りだ…?」
――それは小さな綻びなのかもしれない。
やがて徐々に、夏の空が白んでくる。
遠くに聞こえていたセミが、合唱を始める。
そうしてまた男の日常は始まるのだ。
ご案内:「常世公園」から焔誼迦具楽さんが去りました。
ご案内:「常世公園」から羽月 柊さんが去りました。
ご案内:「常世公園」に月夜見 真琴さんが現れました。
ご案内:「常世公園」にフィスティアさんが現れました。
■月夜見 真琴 > なにかが『降りてくる』のを待って――
鼈甲色の夕方の陽が降ってくる公園の森林部。
白いカンバスを支えるイーゼルのまえで、
ひとそろえのオブジェのように、思索する姿勢で立ち尽くし、
黙して動かない白い人影がある。
まっすぐにカンバスと向き合い、はや数時間。
夕刻ともなれば人の気配は波の引くように減り、
そのうち、静寂が訪れる――かもしれなかったが。
■フィスティア > 私の心はあれからずっと。ずっと暗いままです。
山本先輩が人を殺してしまったと聞いて、それを責め立ててしまってから。
胸の奥がずっと痛いままです。
本人に謝りたくても、どう謝ればいいのかわかりませんし、私が納得しないのです。
そのせいでしょうか。ここのところ警邏の一つもまともにできていません。
真っ白な報告書は異常なしではありません。何も見えていないんです。
そして、今日もずるずると。何か落ち着けそうな場所へと...
公園の森へと、少しでも安心を。
覚束ない足取りで、真琴の前へと姿を表すだろうか。
その目はどうにも空だ。
■月夜見 真琴 > 足音、気配、伸びる影。
「確かフィスティアと言ったかな。
訪い人の風紀委員。済まないがここは先につかっているよ」
彼女の到来をに対してそちらは一瞥も見ぬままに、
空白の少女に、高く甘い声でそうっと呼びかける。
こちらのことも、風紀委員が閲覧可能な資料を視ていれば、
顔から何から含めて知っていてもおかしくはない。
「まるで鉄球を引きずる虜囚のような足取りだが」
思索の横顔、その唇に薄っすらと笑みを浮かべた。
視線はカンバスから動かない。
■フィスティア > 「...ぁ....申し訳ございません...
...すぐにどこか行きますので...っ!」
先客がいるなんて気づきませんでした。ボーッとしすぎです。
そして、謝ってから気づきました。...驚きました。
まさかこんなところで遭うとは思いませんでしたし、遭いたくもありませんでした。
「月夜見先輩...ですよね」
第一級監視対象月夜見真琴。何人かいる第一級監視対象の中でも、特に警戒する様に言われる人で、私が最もどう接すればいいかわからない人の一人です。
その空だった瞳に警戒の色と、恐怖の色が浮かぶ。一刻も早くこの場を立ち去りたいと訴えられかける体と、月夜見のいうように鉄球がついたように重い足と恐怖が拮抗する。
「...大した事ではないのですが...
少し悩み事があるんです」
警戒する相手であると同時に、彼女は相談相手としても優れていると。
どこかで聞いた気がする。
藁にでも縋る思いで、渋々と。
■月夜見 真琴 > 「先輩と敬われる程のものかは定かではないがね」
表情に苦笑が浮かぶ。彼女の警戒の色も感じ取るのだ。
「大した事ではない、という風情ではないように感じるがね。
確かおまえの異能は、それなりに剣呑なものであったと記憶している」
報告書はちゃんと読んでいる。
つまり前線に出られる者だろう、と判断した上で。
「このままで良ければ聞こうか。同じ委員会の誼だ。
虜囚の身であるやつがれも、おまえたちの為にあろうという心は変わらぬよ。
同じ旗下に集った者にな、徒に怪我をさせたくはないさ。
だがまあなんだ、懺悔室の修道女ほどの聞き上手は期待するなよ」
■フィスティア > 「私からすれば誰でも先輩のような者ですから」
定型文のような、実際は毎回しっかりと心の底からそう思っている言葉。
しかし、今この場では定型文と聞こえるぐらいには他の感情が表に出ており、その言葉に篭る感情はない。
恐怖、警戒そして懇願。
「ッ...確かに、そうですが...」
間違ってはいません。ただ、私はそうは思っていませんし、そのような使い方もしません。
...そんな言い方をしなくたっていいじゃないですか。
「ありがとうございます...
その...ですね。
風紀委員会の...とある方が人を殺してしまったと聞いて...責め立ててしまったんです。
そしたら...聞いてしまって...殺したくなんてなかったって、でも殺すしかなかったんだって...」
あの時のことを思い出すと今でも胸がズキと痛み、辛くなります。
悲しみが心を埋めます。それでも、この機会を無駄にしては行けないと。
言葉を一つずつ、紡いでいく。
■月夜見 真琴 > 「ああ、気を悪くしたか?済まないな」
事も無げに言ってのけた。
それを笑うわけでも、否定するわけでもなく。
違うのなら謝ろう。それくらいの気安さで。
それに続いた彼女の述懐にはふうむ、と息を吐き、
視線が動いた。カンバスから中空を見上げる形に。
フィスティアを視ることはない。
「ヨゼフ・アンスバッハ」
どこか懐かしむように、その名前を口にする。
「確か対応にあたったのは英治だったかな」
彼女の詰問に真っ直ぐ答えそうで、
なおかつ直近の「青」い案件は、それがまず真っ先に浮かんだ。
合っているかな――そう口に含んだ上で。
「やつがれは出席しなかったが。少し仕事が立て込んでいたのでね。
宴席でも何か様子がおかしかったと聞いている」
再びカンバスに視線を落とす。
「それで。何に苦しみ、何を悩んでいるのかね?」
■フィスティア > 「...そう、です...ヨゼフさんは知りませんが...山本先輩は、そうです」
あの時の報告書は怖くて見れていません。
あの時に限らず、デッドブルーは見たくありません。
見事言い当てられ、後ろめたい事でもあるような気分になります。
何も無い筈なのに、何故でしょうか。
更に痛む胸に、手を当てて。ギュッと、意味などないのに抑えつけて。
「その...私は山本先輩を責め立ててしまった事がどうしても...
後悔、してるんです。でも後悔したくないんです。私は間違っていないと思います...
足並みを揃える為にって、そんな簡単に人を殺していいわけがありません...」
俯く。お互いに相手を見ずに。言葉と感情だけが交差する。
「でも、山本先輩だって...殺したくて殺したわけじゃないんです...
あんな悲痛な..叫びを聞いてしまったら...私はどうしたらいいのですか?」
抽象的で、曖昧で。何を悩んでいるのかはっきりしないような、そんな問いを投げかける。
わかっていない。自分がどう悩んでいるのか。
この白い少女の中には、今、苦しみしかないのだ。
■月夜見 真琴 > 「ふむ」
彼女が言い切るまで口は挟まずに。
カンバスを見つめる彫像のような存在のまま、
問いかけの形になった結びにはひとつ息を吐いた。
「なるほど。 不殺生戒を自他に架す者ということか。
さっきの放言は重ねて謝罪しよう。
おまえの異能はそのためのものなのだな?」
姿勢も視線も変えないままに。
「"如何なる理由があれ、殺生するべからず"」
謳うような滑らかさで告げた。
「そうだな、フィスティア。おまえはまちがったことを言っていないよ」
やわらかく、彼女を肯定することばを紡いだ。
「ただ―――」
■フィスティア > 「そう、です。私の異能は、殺す為の物ではありません」
その為の異能を剣呑と称されれば、当然気にしてしまう。
しかし、謝ってくれるのであれば、少しはその気分も収まろうか。
そして、間違っていないと言われればガバッと頭を上げて少し明るい表情を見せる。
同意を得られたから。実にわかりやすい。
そのまま、言葉を紡ごうとするが、月夜見が紡ごうとする言葉に僅かに恐怖の表情を見せる。
「...ただ?」
なんだというのだろうか。
上げて落とすような、そんなことはないだろうと。神に祈りたい気分だ。
■月夜見 真琴 > 「ダーティ・イレブンのことは知っているかね。
英治が事を治めたという違反部活のことだ。
全裸アフロ事件、だかいう噂になったあれのことだよ」
愉快そうに喉で笑う。
「山本英治という人間にはそういうところもある。
おまえの見聞きした通り、殺したくて殺したわけではない。
しかし殺生は殺生だ。 赦されざることをしたのだ。
そしてそんなことは、あいつが一番わかっていることなのさ」
穏やかに諭すような声音のままに、静かに。
「おそらく、"加減が効かなかった"のだろう。
七年前の事件、そして此度のヨゼフの事も。
殺した側がぜったいに言ってはならぬ妄言だがそう、
"殺したくて殺したわけではない"」
ただ視たまま感じたままの事実を、
流麗な発音で並べていく。
「ヨゼフは優れた戦闘異能者だったはずだし、あの違反部活はテロリスト集団だ。
あそこで止めていなければ被害者は間違いなく増えていた。
だから英治はやってしまった――その場で。
まあ、ついうっかり、という可能性も十二分にあるがね。
結果的には他のだれかがかぶるべき泥をかぶり、手を緋斑に染めて。
それだけの自覚があったかはわからんが、覚悟はあったろう」
そこではじめて視線だけを向ける。
「おまえはただしいことを言ったのだろう。ただ、あの場で――
"英治にただしいことを言ったこと"が間違いだった、というだけさ。
自覚がある罪人に、"おまえは間違っている"というのはな、
単なる暴力と変わらん。それは時として人を殺す刃にもなろう。
おまえは報告書も読まず、英治の気持ちも考えず、
条件反射で不殺生戒を持ち出し、安全なところから。
英治の覚悟に唾を吐いただけだよ」
妖精のやさしい微笑みのまま、そう締めくくった。
「"ただしいことをいう"というのは、何より簡単なことなのだから」
■フィスティア > 「ただの...暴力...」
『単なる暴力と変わらん。それは時として人を殺す刃にもなろう。』
とにかく刺さった。弱り切った心に刺さった。
考え方が間違っている、というわけではなく。行為が間違っていると、お前の考えに反する行為だと。
山本先輩を傷つけていた自覚はあった。でも、自分はあくまでも正しいことを言っていると。
その影に隠れて正当化していた自分にスポットライトが当てられた。
ずっと見ないように隠し続けていたのに。気づかないうちに、隠していたというのに。
胸を抑える手がいっそう強く、その胸を押さえつける。白い軍服が胸を中心にシワになる。
足が震える、目に空さではなく、矛盾したことをしていた自分に深く絶望し、嫌な汗が止まらない。
『ヌルいこと言って、足並みを乱すんじゃねぇよ……』
あの時の英治の言葉が頭の中で反響する。
それは、足並みも乱れるだろうさ。
少女の行為は、フィスティアの行為は
同士討ちしているような物だ。
『安全なところから。 英治の覚悟に唾を吐いただけだよ』
そんな事がしたかったわけじゃない、違うそうじゃない。
違うんだそうじゃないそんなことは望んでない。
でも、実際、何も間違っていない。唾を吐きかけただけだと。
キッドと出会った時の事を思い出す。
ああ、あれも、同じだ。彼は覚悟できていて。自分はそれを侮辱しただけだと。邪魔しただけだと。
真っ青な表情で、定まらない視点で、その場に崩れ落ちる。
ずっと自分を支えていた骨格が、フィスティアを形作る芯が。
今、崩壊しかけているのだから。
立っていられるわけがない。
■月夜見 真琴 > するり、と一歩を踏み込んで。
少女の肢体をそっと抱え、細い体軸ながらに体を支える。
崩れかけた心と体を、そのままにはしない。
「痛みや苦しみがあるのなら。
それはあ奴らが味わっていたものの一端と心得るといい。
そのつもりがないのは百も承知だが、
そのつもりはなかったと、傷つけた側が被害者の面をかぶるのは、
赦されぬ不条理であろうさ、それこそがな」
声も表情も、夕日のなかにあって、どこまでも優しい。
そのまま、彼女を、抱きかかえながら。
恐らくは筆が乗る時につかうための、座られていなかった椅子に導いて。
座らせる。そして、ふたたびカンバスに向き直る。背をむける形だ。
「如何な正しい道理とて、つかいどきを間違えればそうなる。
"ただしいことをする"ことの、なんと難しいことかな」
ふうん、と顎に手を添えて考える姿勢に戻りながら。
「しかし。 だからこそ。
おまえはこのうえなく、"いまの風紀委員会"にむいている」
■フィスティア > 「...はい」
影から石を投げつけていたのは自分と同じだった。
何も変わらない、相手がずっと言わなかっただけだ。
目を背け続けていただけだ。
今日、月夜見がようやく、今まで飛んでくることのなかった石を軽く投げつけてきただけだ。
たったそれだけで。簡単に崩壊してしまったしんを支えられながら。
それが赦されない事だと告げられれば、それはもう受け止めるしかないだろう。
精神状態も、その言葉の正統性も、暖かい優しさも。跳ね除けるのに適さない。
「私が...ですか?」
自信なんてない。これからも同じ意見を振りかざすのも。風紀をやっていける自信だって。
これっぽっちもない。
だからこそ、月夜見の言葉は、酷く魅力的に聞こえた。
どん底から這い上がる為の、希望の光に感じられた。
■月夜見 真琴 > 「まるで人を殺す判断が正しく。おまえのような不殺生者が間違い。
そういう風潮を作りたがる者もいよう。だがそれは大いなる間違いだ。
やつがれは言っただろう。お前の不殺生戒は"ただしいこと"だ。
風紀委員会が風紀委員会で在るためにはな。
"ただしいこと"を掲げる者も、また必要なのだよ」
視線をカンバスに注ぎながら。
優しく。少女がまた立ち上がれるように。
妖精はそのことだまをそっと投げかける。
「"奴ら"は」
あえて、その言葉を使って。
「殺さざるを得ないから――それが一番手っ取り早く確実な方法であるから。
次善の手段である殺生を、講じているに過ぎんのだよ、フィスティア。
まあ、本当に違反生を憎む、血に飢えた狼もいるかも知れぬがね」
苦笑する。どちらを否定するわけでもなく。
ただそうして、胸の中に描かれている風景をそっと見せるように。
「犠牲も出さず、相手も殺さず。
そんな方法があれば、皆それを選ぶ」
肩越しに振り向いた。
「覚えはないか。
"お前らのために自分が手を汚してやっているのだ"と。
そういう者の有り様を。
覚悟と優越が紙一重の、"諦めた者"の姿を」
■フィスティア > 「...あります」
語りたくは無いが。かつて、この世界では無い世界で。
お飾りの私の代わりに指揮を采配を振っていた彼を、思い出す。
『お前ができないのだから』と。敵軍を情け容赦なく屠っていた姿を思い出す。
「...あるんですか?...そんな方法が
誰も死ななくて済ませる方法なんて、本当にあるんでしょうか...」
知っている。自分の考えが理想である事を。
だからこそ、そうしたい、そうできると思いこみ続けてきたが。
今さっき、現実に直面し、思い込むだけの自信がない。
だからこそ、その方法を、やり方を、なんなら抽象的でもいいから。
無意識に、自分を助ける為に、求める。
次善の策ではなく、最善の策に不殺を据える方法を。
■月夜見 真琴 > 「ふふ。 なるほど、ずいぶんと自信をなくしているようだね。
なるほど、そうか。 "方法があるのか"か。
やつがれがその問いに答えるとすれば――」
すがるような問いかけに、眼をほそめて、肩をふるわせた。
笑ったのだ。
「おまえだ」
と、優しく、柔らかく。
「おまえが、その"方法"になればよいのだ。
つくればいいのだ。これから。
風紀委員会。そしてこの学園、この島で。
それを成し得る、次善に諦めに頼らない、真なる不殺を。
人を活かすのは、人を殺すよりも圧倒的に難しい道だ。
貴い教えは、そうやって永い時をかけて、穢され続けてきた。
血まみれの兵士が、おまえのような者にせめてもの救いを見出しながら」
振り返る。正対する。
両手をそっと、肩にかけてやる。
「おまえと志を同じくする者を集めるのだ。
声をあげられない者たち。言い出す勇気のない者たち。
"手を汚す者たち"に遠慮して、恐れている"善"の徒たち。
――英治も、そうだろう。 あいつはただ、まちがえてしまっただけだ。
おまえが支えるのだ。そうして傷んだ心も。次は過たぬように。
おまえは半ば諦めていなかったか? じぶんひとりでは、と。
ひとりではなくなればよい。 弱ければつよくなればよいのだ」
ちがうか……?と。
そっと、問いを向けた。
これを受けて、彼女がいかにこたえようとも。
赦しを与えようとする、夕暮れのようなやさしさで。
■フィスティア > 「私...が...ですか?
私がその方法になれば...いい...ですか?」
その優しさに、柔らかさに。
甘えたくなる。茨の道だというのに。
その言葉に、自信だってないのに。
その与えられた道を歩きたくなる。
与えられた道、とはいえ自分が今まで歩いてきた道とそう変わらない。
少しだけ遠い道を。
今さっき諦めかけた道よりも辛い道なのに。それに気づかず。まだ自分の理想は叶うと。そう思ってしまう。
だからこそ、そこに足を踏み入れてしまう。
「人を集めて...私が...不殺を一番に...」
殺しなど必要ない力を。
一人で無理なら人を集めて。
一人だから、無理だと。そう思いたくないから、ずっと思いこみ続けて、影に隠れ続けていたのだろう?
なら、その必要もないというのなら。
相談して良かったと。目の前の彼女は暖かく身を包んでくれる太陽の様だと。
暗く暗い表情に、希望が返ってくる。
すっかり、信じ込んでいる。
それこそが、自分の征くべき道だと。
■月夜見 真琴 > 「だが、無論。
易き道とは言わぬよ。軽挙妄動で目指すものではない。
努力や情熱が結果に繋がるという思い込みは、甘い夢の絵空事。
おまえの力が及ばなければ、人が死ぬ。
"いまは助けてあげられないので、我慢して死んでください"と。
そう見送る結果は、一度や二度では済むまいなあ」
黙したまま進ませない。
辛い道。苦難の道だと。
しかし語る言葉は、安心させるように優しいままだ。
「そしておまえが死ぬことがあれば、これが最悪だ。もっと人が死ぬ。
――"それ見たことか。あいつらはやはり生かしておけない"。
その言い訳を、"殺す者"だけならず、
おまえを信じた者たちにも与えることとなるのだからな」
そして少し、肩におく指に力を込めた。
やけっぱちで進む道ではなく、苦しみ続けなければならないと。
瞳は真摯に彼女を覗き込む。
「それでも死んでほしくないというのなら。
命が奪われることが許せないのなら。
みずから選んで、進むがよい。
不条理に立ち向かい、不殺を目指すのだ。
それならば、暴力を振りかざす違反生たちも。
そして、驕りに溺れて"手を汚してやっている"と、
そう考えている、同じ腕章をつけている殺人者たちも、」
僅かに息を吸い込んで。
「おまえの"敵"だ」
そう断じた。
「いままで成し得なかった秩序が欲しいと願うなら。
その身を炎に焼かれても、不殺の旗を振り続けること。
すぐに決断することはない。 よく考えて選べ。
それでも願うなら――信じた道を進むがよい。
志を同じくする、仲間たちとな」
良いな、と、軽く肩を叩いてあげる。
励ましの声。先達として、後輩を受け止める微笑だ。
■フィスティア > 「っ...そう、ですよね」
自分を肯定して、更に高めてくれるその言葉が実に魅力的で。
それが茨の道で在るということに気づいていなかった少女が少し苦い表情を見せる。
魅力的で在ると同時に、長く辛い道。
最後に得られる結果こそ最上かもしれないが、その過程で自分の信念を捨てなければならないかもしれないと。
葛藤だ。現状に大人しく満足するか、苦しみながら、理想を目指すか。
自分には無理なのではないか、でも自分は今に納得できないだろう、と。
「...そうします、考えて見ます」
真剣な瞳で、覚悟を決めようとしている声で。
ついさっきまで死んでいた瞳も、その容姿とは打って変わって暗い表情ももう、ない。
現実を見据えた声。
月夜見の励ましが、その温かい手が。
無色の少女に、白色を塗った。
今決めることは出来ない。
だから、今は考えて、それと同時に自らを高める時間としよう、と。
無理な自分をできる自分にすればいい。学んで、経験を積んで。
それでも無理なら、悩んで諦めるなら。
その時はその時だ。
あかねの言葉を思い出す。責任は持て、と。
自分が責任を持てるなら、その時は茨の道を進もう、と。
ただ、諦める気はない様だが。
「ですが月夜見先輩。その時が来ても、仲間たちは敵ではありませんよ。
あくまでも、間違っている人たちです。敵ではありません。
時が来れば...私が正せばいいんです」
天使の様に白い少女はそう笑って見せた。
人間を唆す天使、神にそうあれと作られた天使の様に。
差し詰め、ここでいう神というのは、つくよみに当たるだろうか。
■月夜見 真琴 > 「―――ほう」
決然とした意志を持つ言葉には、
舌鼓を打つように、息を吐く。
笑みが深まった。
「そうみずから考えたのなら、それはまた格別に上々なこと。
ならば間違いを、正してやれ。
修羅道から、正しき道へ引き戻してやるのだ。
そう。おまえの成したいように、成すべきことを成せ」
唯々諾々としないところに、むしろ気に入りの感情を見せて。
愉しそうに、ころころと笑い声とたてた。
「さて、そろそろ真夏とはいえ、夕方は未だ冷える。
ひとりで考えたいこともあろう。
ちゃんと事もなく家に帰るのだよ、フィスティア」
どのみち、命をやり取りする場は、何れにしたって茨道。
ならば――そこの在り様には、色が多ければ多いほどよい。
満足の仕上がりだ。白い天使の道行きを、心から祝福した。
「相談事や食事の誘いは、仕事がないときなら受け付けている。
これはやつがれからのお願いでもある。
なに、性悪と知れ渡ってしまっているものでな。
なかなか相手に事欠いているのだよ」
最近はひとり友達も増えたのだが、と自嘲気味に苦笑して。
ここで話は終わりだと、最後にぽん、と再三肩を叩いてから。
背をむける――そこに羽根はあるのか。
あるとしたら、白い翼ではなく、透明な鋭角をえがくもの。
あとは互いのやるべきことの時間。夕日を浴びた背が、天使を見送るだろう。
ご案内:「常世公園」からフィスティアさんが去りました。
ご案内:「常世公園」から月夜見 真琴さんが去りました。
ご案内:「常世公園」に雪城 氷架さんが現れました。
■雪城 氷架 >
本日の試験も終わり、日程は残り2日
さて帰るかと帰路についたらさすが日中、思いの外日差しがつよい
公園の自販機でジュースでも飲も…と、少し寄り道
コインといれて、スイッチをポン
ガタン、という聞き慣れた音はなんだか安心すらする、日常だ
以前この公園であったことは、少女は僅かにしか覚えていなかった
■雪城 氷架 >
「はー…あと2日かぁ……」
ベンチに浅く腰掛け、背もたれに体重を預ける
お淑やかさは欠片ほども見られない、が、なぜか絵になる
見た目が良い、といのは得だ
自販機で買ったジュースはあまり普段は飲まない、白ぶどうの炭酸飲料
たまにはわかりやすい甘いものが飲みたくなるのだ
ツメをかけて引っ張れば、小気味の良い音と共に僅かな飛沫が宙に飛ぶ
■雪城 氷架 >
試験期間は、やや息が詰まる
自分が苦手なものをも向き合わなきゃいけない
勉強したくなくても、しなきゃいけない
良い結果を目指して努力をしなきゃいけない
『しなきゃいけない』は、ストレスなのだ
学生のうちからそんなんじゃ、社会に出てからやっていけない
そんなことはちゃんとわかってるし、実際そうなんだろうとも思う
とはいっても、あまり出来のよくない頭の持ち主には、憂鬱な日が続くことには変わりがないのだ
そんな事を考えながら唇を缶にくっつけると冷たい感覚、しゅわしゅわした炭酸の心地よさとぶどうの甘み
子供が好きそう、といういかにもなジュースだけど
この日差しの下、それがとても落ち着いた
ご案内:「常世公園」に雪城 涼子さんが現れました。
■雪城 涼子 >
試験、試験……
この歳になって試験をまた受けることになる、というのもなんだか新鮮な気分
……そして、まさか娘と同じ苦労を味わうことになるとは思わなかった、というちょっとした驚きでもあったり
なんて、とりとめもなく考えていたら公園まで来ていた
……あら?
「ひょーかちゃん?」
かわいいかわいい、愛娘が休憩していた
■雪城 氷架 >
試験中の何があれって、午後が空くのがなんともまずい
その時間で勉強をしろと言われているような気分になる
いや実際そういった意図もなくもないんだろうけど…
とはいえ、試験中に空いた時間で遊び歩く、なんて悪友が多いわけでもない氷架は自宅である寮に帰る他はなく
そうなるとやっぱり勉強……
「試験なくなんねーかなー!!…あれ」
誰もいないと思ってベンチでそんな声をあげたら、目の前に文字通り、親の顔
お母さんじゃん
「な、なんでここに?」
やべー聞かれたでは?やや気まずそうに蒼色の視線を逸していました
■雪城 涼子 >
久しぶりの試験でちょっと盛り上がっていた自分も、そろそろダレそうね、などと感じていた。
うん、そんなところにそんな言葉
「頭を休めるようと思って、なんとなく、ね?
ひょーかちゃんは、お休み中かしら?」
手元の缶ジュース、ダレた姿勢
まあ普通にそうと見えるわよね
「調子はどう?
あと2日よね」
くす、と笑う
■雪城 氷架 >
「え、まぁ‥ふつう、かな…」
くすりと笑みを浮かべる母親に対してこちらは気まずい表情のまま
試験の途中経過、手応えを親に話す…というのはなかなか苦しいものがある
ダメそうだ、といえば心配させてしまうだろうし
いい感じ!といったところで結果はどのみち知られる運命だ
ふつう、便利な言葉…普通
「本命の異能の試験はもう私は終わったし…あとは雑科だけだけど…、
なんかおかーさんとこんな場所で二人で話すのも久しぶりだなぁ」
ジュースのむ?と飲みかけの缶を持った手を伸ばす
間接なんたら、は関係ない、親子だし
■雪城 涼子 >
「雑科の方が大変じゃない?
無理ないところでね。
私も久しぶりに試験受けたら結構疲れちゃったし。」
ありがとう、とジュースを受け取って一口飲む
なんだかんだといいながら、結局サボれない気質なのはわかっている
小言のたぐいは此処ではなし、で
それに、このタイミングで顔合わせしてしまえば嫌でも刺激にはなるでしょう
……本当に偶然なんだけれど
「そうねぇ。私も部活始めちゃってバタバタしてたし……
今は試験でちょっと、だし……」
同じ学園に通っているとはいえ、流石に部屋まで同室、では気まずかろうと別室にしている。
まあお目付け役のくくるんが一緒なので、実はそんな気が休まらないかもだけれど……
あら?
親子の会話がなくなっているって、ことよね……
これは由々しき事態なのでは……!?
「今度、ゆっくりお話とかしたいわね。
最近の様子とかも聞きたいし」
努めて冷静に、なんでもないように
そんな提案をしてみる
■雪城 氷架 >
「…ま、ね。
座学のが一生苦手って感じ」
戻ってきたジュースの缶を口につけながら、やや溜息
こうやって顔を合わせてしまった以上、ふつう、って言っちゃった以上は、
普通以上の結果は出さないとなあ、なんて
母親の思う通りのことを考えていたり
「部活かー…なんだっけ、スイーツ部?」
流れだけは聞いたような、とそう口にして
自分もはじめた…というかはじめさせられたよくわからない部活のことはまだ口にしない
口にしたところで多分意味わからないだろうし
「んじゃ今度時間合わせてお茶でもしようよ。
私も久しぶりにお母さんと色々お話したい」
そこは、子供らしく
やや接触が欠けていれば、求めてしまう
「ほんとはお父さんもいたらいいんだけど、忙しいだろうしね」
そして、我儘まではいわない
我儘を言って困らせるほど、子供でもないつもりだった
■雪城 涼子 >
「ん、勉強はね。
勿論、出来たほうがいいに決まっているけれど。
向かう姿勢のほうが大事だからね。
きちんと向かい合ってくれればそれでいいわ」
その結果は……まあ、程々にできてくれれば
なにごとも経験値が大事なことも有るし
「うん、スイーツ部……なん、だけど……
本当は、ただの同好会だったんだよね……
それが……え、と……その、最近、お店になっちゃって、ね……?」
とたんに歯切れ悪い口調になる
お店自体は、単位関係でそういう話もある、とは聞いていたけれど
……その、お店の規模というか、投入されている金額というか……が
元々、趣味、というかストレス発散のスイーツ作製がなんだか凄いことになってしまったものだ
「うー……ひょーかちゃん……!」
思わず抱きしめに行く
なんていじらしいのだろう
「私もダァくんに会いたい!
会いたいし、今度聞いてみましょう!」
この点では娘よりも自分のほうが堪え性がなかった
■雪城 氷架 >
試験の話は一段落
勉強しろ!の一点張りでない母親
きっと世の中はそんな親ばっかりじゃない
過去のことを思い出すと未だに辛いけど、それでも自分は恵まれているんだな、と、改めて思う
「うん?お店…?」
もともとお菓子作りが好きで、色々作ってくれる母ではあったが…
「…なんで?」
雪城家はお金持ちではあるものの、
道楽で店を構えるようなものではないはずだ
このあたりも、今度ゆっくりと聞く必要がありそうだった
と、そんなことを考えていると、抱きつかれる
自分とそう大差のない体格が重なると…不思議なもので、子供は妙な安心感を得てしまう
「そのうちふらっと休みとって帰ってくるって。いつもそーじゃん」
別に、研究熱心な父親に放置されているとは感じていない
むしろたまの休みに顔を見れば積極的に此方のことを気にしてくれる…
けれど、それはそれとして、寂しがりな母親を見るのは、やや心苦しい
「(七夕の短冊、効果あるといいな)」
ぎゅーっとされながら、そんなことを思う
■雪城 涼子 >
「ぇ、っと、うん……うん……
まあ、その……せっかくだから、お店でお話しましょ。
見てもらったほうが、まあ、そのお話早いと思うし……」
いずれにしても、お店には一回連れて行こうと思っていたので
親子の会話ついでに行くのもいいだろう
……そういえば、娘のこととか話してないけれど
まあ、うん
今更びっくり話の一つや二つ増えてもいいわよね
「ぅー、だって、だってぇ……
ダァくんの声、2週間も聞いてないもんー」
だいぶ幼児化している
ああ、いけない
娘にこんな姿を見せてはいけない
でもたまには、なんて思ってぎゅっと抱きしめている
■雪城 氷架 >
「うん。それでいいよ。
私も久しぶりにお母さんの作ったお菓子、たくさん食べたいし」
そういうことなら、逆にそれは楽しみだ
どんなお店で、どんなお菓子が並んでいるんだろう、と
母親のお菓子作りの腕をしっているだけに、胸が高鳴ってしまう
一方で、自分に抱きつきながら情けない声をあげている、母の姿
「遠慮せずもっと電話とかしてもいいと思うけどなあ…」
研究に没頭している忙しい父親に対して遠慮しているんだろうな、ということはわかる
けれどこんな泣き言を漏らすほどにまで…というか
二週間も我慢できないくらいならむしろ会いに行ってもいいんじゃないかとすら思う
「…今度二人でお弁当作って、研究区のほうに届けに行こうか」
もちろん電話で先に連絡をしておいて、と
■雪城 涼子 >
「…………
………
……
…」
……
我に返る
我に返ってしまった
あああ、親としてみっともない……
みっともないというより、情けない……
…………うん
抱きしめていた娘を放して姿勢を正す
「そう、そうね!
お菓子も、お弁当も、いっぱい作っちゃおう!」
あれ、なにか混ざった気がする。
でも、部活もダァくんへのお弁当も、どっちも大事
どっちがより大事、と聞かれたら即答だけれど
「ふふ、ひょーかちゃん。お菓子の方も作ってみる?
部活の方は……うん、多分手を出さないほうがいいとは思うけれど。
ダァくんのお弁当作るついでに、ね?」
流石にあのなんだかプロ仕様の世界に娘を入れるのは間違っていると思う母であった
■雪城 氷架 >
我に返り、身体を離した我が母にやや苦笑
でも、それくらい大事に思っているのだ
父親と母親の愛が深く、子供に対しても同じくらいに深い
そんな家族、そうそういやしない
恵まれているのだ、自分は
「…んー?お菓子作り…?
あんまり凝ったものはできないかもしれないけど、いいよ」
家族からいわゆる『女の子らしいこと』は一通り仕込まれている
それもこれも、幼少の頃からあまりにも女の子らしくない性格だったから…らしいが
なので実は家事も、調理も、一通りは人並み以上にこなせる氷架
お菓子ももちろん守備範囲だ
さすがにお店に出せるほど、というわけにはいかないが
「まぁ、お父さんも久しぶりにお母さんの作ったお菓子やご飯食べれるのは喜んでくれるよ」
自分はついででもいい
母親が父親に会いに行く口実でも構わない
あの父親は、それも喜んでくれるだろうけど
自分と母親の間柄は、特別だ
いくら返しても返しきれない恩と、いくら贖罪を積んでも消えない罪がある
「あーあ、そうと決まったら残りの試験も頑張らないとなー」
空き缶を放り投げて、くずかごへと放り込む
■雪城 涼子 >
「いいのいいの。
お店じゃなくて、家族の分だしね。
凝ったものは……楽しいけれど。
誰に向けて作るか、も大事、よ。
言ってはいけないかもしれないけれど、
大多数のお客様への愛と、家族への愛はやっぱり別物だもの。」
自分は基本的に人を嫌うようなことはない、と思う。
それでもやっぱり、愛に違いはある。
そして、それはあっていいと思う。
それはそれとして、仕込んだ分、それなりに凝ったことも出来ると思うんだけれど……
そこは性分の問題で、気が乗らなければやらないだろうな、とも思うから気にしない
「なにいってるの、ひょーかちゃん。
ダァくんは、ひょーかちゃんのお弁当だって喜んでくれるわ。
だって、ダァくんだもの」
信じ切った笑顔
愛を疑わぬ笑顔
そこにはそれがあった
「そうね。まずは試験を片付けて、落ち着いてからじゃないとね。
ふふ、私も頑張らなくっちゃ」
少女のような花の笑顔を浮かべた
■雪城 氷架 >
「わかってるって」
そう、大多数に向ける愛と家族への愛は違うように
家族への愛も、妻に向ける愛と娘に向ける愛はやっぱり少し違う
自分の父親に対して全幅の信頼をおいた笑顔を見せる母親には、だからその一言だけを笑顔で返した
「試験が終わったら夏季休暇も近いし、
それからなら私とお母さんはいくらでも時間使えるしなー」
研究者である父はには、夏休みなんかないのだろうけど
「じゃ、寮に帰って勉強するかぁ…ヤダけど…」
ぼやきつつ立ち上がって、母親へと視線を向ける
一緒に帰る?と
母親も部屋こそ違えど同じ寮、ロビーまでは一緒のはずなので
■雪城 涼子 >
「ふふ、そこは学生の特権ね。
ほんと何年ぶりかしらね、こういうの。
主婦に戻れるかしら」
くす、とやはり少女のように笑う。
母と学生、両方を行き来するのも
意外と楽しいものであった
「ん、そうね。
せっかくだもの。一緒に帰りましょ」
手、つなぐ?と
聞いてから。
ああ、でも恥ずかしいかしら……いいかな……と、思い直して。
それでもちょっと遠慮がちに手を差し出す。
■雪城 氷架 >
「さすがに恥ずかしいよ」
親と手を繋いで帰るなんて、子供みたいだ
でもそう言いつつ、やや照れくさそうな表情を浮かべながら
遠慮がちに出された手を
戸惑いがちに伸ばされる手がとって
「じゃ、帰ろー」
二人で、歩き出す
仲睦まじい姉妹のようにも見える二人が公園を後にする
試験も佳境に入り、夏の足音がすぐそこに聞こえる
そんな昼下がりの公園での、親子の一幕だった
ご案内:「常世公園」から雪城 氷架さんが去りました。
ご案内:「常世公園」から雪城 涼子さんが去りました。
ご案内:「常世公園」に園刃 華霧さんが現れました。
■園刃 華霧 >
あかねちんの女子力に触発されて、なんとなくスイーツ♡みたいな感じで買い込んでみた
……みたんだが
「……うーン、加減がわかラん……」
目の前には、スイーツ(笑)の山
それぞれが群れをなしている
たぴおか
くれーぷ
みにしゅー
とぅんかろん
こにくりーむかろっけ
……
…
……うん?
なにか違うものが混じっている気がするが、きっと気のせいだ
「やッパ、アタシに女子は早かっタか……?
あかねちんに習っタほーが良かっタか……」
あっちはどうみても女子だ
とても女子だ
どうひっくりかえしても女子なのだ
■園刃 華霧 >
そもそもにして、この大量買い込みが正しいのか
たぴおかとか、なんかやたら種類があるから
とりあえず片っ端から頼んだし
まあ、とりあえず右端のやつから手にしてみる
中身は、なんだっけ……忘れた
タピオカなのは間違いない
「……」
ずごごごごご……
ごぼんっ
ごぼんっ
「……なにガ、楽しイんだ、コレ……?」
■園刃 華霧 >
「……」
ついでだから、隣のに手を出す
これは……やっぱり思い出せない
ずごごごごご……
「いヤ、同じジゃん!」
■園刃 華霧 >
「ァ―……」
しょうがないから、更に隣に手を伸ばす
これはなんか記憶がある
チーズティー、とかいうヤツだ
ずごごごごご……
「ンー……まあ、個性的っちゃア、そーダが……」
なぜチーズなのか
面白発想すぎて笑える
あと、アタシは別に気にしないけれどカロリー重すぎないかこれ?
「……ッテいうカ。
アタシの女子力、低すギ……!?」
今更すぎる
いや、最後かもしれないからってやってみたけれど
こりゃひどいものだ
■園刃 華霧 >
「ン―……慣れンこトするンじゃナかったナ―。
むぐ……」
目の前に山と置いた……とりあえずクレープを口にする
うん、こういうのでいいんだ
わかりやすいのはいいことだ
「むぐ……むぐ……」
あー、クリームとフルーツ
女子の味だなー……