2020/07/30 のログ
ご案内:「常世公園」に水無月 沙羅さんが現れました。
■水無月 沙羅 > 「……参ったなぁ。」
公園のブランコの上に座る沙羅は独り、考えている。正確には自分の内面を整理している。
つい数刻ほど前にネット上に拡散された『映像と音声』を沙羅もまた、風紀委員の知り合いから耳にし、実際にそれを閲覧することになった。
目にしたものは、『神代理央』を殺そうとする『殺し屋』と名乗る何者かとの一幕。
その会話も、動きの機微もすべて記録されていたそれは、最初から全てが入念に準備されていたと伺い知ることができる。
神代理央を殺すのに最も効率の良いやり方だったと言えるだろう。
水無月沙羅がそれを見たのちに胸に飛来したソレは、『怒り』だ。
ようやく彼を、神代理央に巣食う呪縛から少しでも遠ざけられたと思ったらこの始末だ。
あれは、神代理央であって神代理央ではない、ナニか。
沙羅の前でも時々顔をのぞかせていた、彼を死神に、システムに組み込もうとする呪縛そのもの。
彼に植え付けられたもう一人の『神代理央』の存在に気が付いた沙羅は、それを引きはがすために奔走していたつもりだったが、遅かった。
全てはその一幕で斬って捨てられ、残ったのはシステムと化してしまった死神だ。
彼はまだ自分が言った言葉を覚えているだろうか。
「誰が、何のために……。」
力の入る拳は震えて、爪はめり込んで血を流す。
血のにじむ思いで、あの人の隣に居られるように、あの人の助けになれるように、あの人が苦しまずに済むように、あの人が笑顔でいられるために、『水無月沙羅』を捧げてきたというのに。
ようやく垣間見えてきた彼の本当の姿は、また遠ざかってしまった。
沙羅は力なく項垂れる、これ以上彼に何をしてあげられるのか、分からずにいる。
■水無月 沙羅 > おそらくは、あのマンションでいつもの様に帰りを待っていれば、あの男は何事もなかったかのように振る舞うのだろう。
愛しの沙羅が居る場所に、何事もなかったかのように。
「そんなのを望んでいるんじゃない……そんなものじゃない筈でしょう……」
傍に居るだけでは、隣にいるだけでは意味がないのだ。
分かち合えなければ、支え合えなければ、それはただ其処に居るだけのお人形と変わらない。
飾り物、ファッション、人間であると見せかける偽りの関係。
システムになってしまった彼はきっとそれを望むのだろう。
いや、ひょっとしたらそれすらも必要がなくなったのかもしれない。
死神には、着飾る必要すらない。ただ存在を誇示できるならそれでいいのだ。
もう、彼に自分の居場所は無くなってしまった。
彼に依存していたというのは分かっている、自分のわがままで彼を変えてきてしまったこともわかっている。
だが、彼にそれ以外の道もあるというのを示したかったのも事実なのだ。
今それは、完全に閉ざされようとしている。
殺し屋と名乗る者の手によって。もしくは、殺し屋の裏に潜む誰か。
誰かに頼まれたのか、それとも目的があるのか。
まだ何もわからない。
「調べないと……。」
ふらふらと幽鬼のように立ち上がり、帰るべき場所だった、あの場所を見上げる。
もう、あそこに自分の居場所はないのだ。
『神代理央』の都合の良い駒であるわけにはいかないから。
「さようなら理央。
少しだけ、少しだけ待っていてください。
必ず戻りますから。必ず、助けますから。
貴方がそれを必要としていないとしても。
貴方がそれを要らないと言っても、私がそれを望むから。
まだ、覚えていてくれますか?
月の夜に、思い出していてくれますか?」
悲壮なる決意を胸に、沙羅は歩み出そうとしている。
これから歩む道は、ひょっとすれば誰も望まない、苦難の道。
それでも、自分が目指す未来のために、きっと出来る事があるはずだから。
夢の様な幸せな日々を振り切って、また闇へ舞い戻る。
もともと陽の光など当たれる存在ではなかったのだから、今更辛くなんてない。
辛くなんて、ない。
そう自分に言い聞かせた。
■水無月 沙羅 > 「……貴方が正義の死神に成るなら、私は悪でいい。
正義の死神を殺すための、悪になりましょう。」
風紀委員の腕章を捨て去って、水無月沙羅は姿を消した。
もう、志も、正義も、彼女には要らないものだ。
たった一人の為に動く自分には、それは相応しくない。
たった一人の為の正義の味方は、それは大衆から見れば、『悪』でしかないのだから。
ご案内:「常世公園」から水無月 沙羅さんが去りました。
ご案内:「常世公園」に227番さんが現れました。
■227番 > いつもの公園、いつもの定位置。
池の前のベンチにやってきた少女。
しかし、空は暗くなっておらず、紫のグラデーション。
それでもとりあえず星を見ようとする。
とある人に教えてもらった星──夏の大三角──はうっすらと見えるが、
他の星はほとんど見えない。
これはこれで新鮮だったものの、目的は果たせない。
出直そうと振り向いた時、何かが落ちていることに気がついた。
■227番 > 「……?」
これは見たことがある。
たしか……風紀の知り合いが腕につけていた……そう、風紀委員の腕章だ。
どうしてこんな所に落ちているのだろう。
何も考えずに拾いあげて、じっくりと見る。
■227番 > そう言えば、路地裏に居た時にあの人に誘われたのは、
風紀委員の……なんか難しい名前のなにかだったっけ。
そんなことを思い出して、腕章を腕に当ててみる。
自分もこれをつけていたかも知れない……と、思いを巡らせる。
サイズは合わず、今の格好にも合っていないが、それでも不思議な気持ちになった。
少しの間そうしていたが、はっとして。
首をぶんぶんと振ってから、腕章をはたいてポーチにしまう。
落とし物は、届けなくては。
■227番 > これが、その辺に落ちている、
例えばビー玉のような物だったら気にしなかったかもしれないが、
これは風紀という特別な人が付ける、特別なものだ。
であれば、その辺に落ちていていいものではない。
届ける先は…風紀のものだから風紀。
誰かに場所を聞いて、自分で届けに行こう。
少女は寄り道をすることにした。
■227番 > こうして、水無月沙羅が放棄した腕章は、公園より持ち去られた。
ご案内:「常世公園」から227番さんが去りました。