2020/08/17 のログ
ご案内:「常世公園」に神代理央さんが現れました。
神代理央 >  
演習場にて、友達だと告げた男の誘いも断って。
何時もの様にわらわらと降り注ぐ仕事も片付けて。
腹回りの大きな上役委員にも声をかけず。
神代理央は一人、公園にて待ち人が現れるのを待っていた。


『もし良ければ、話がしたい』


とメッセージを送信したは良いが。
果たして、彼女は来てくれる、のだろうか。

ご案内:「常世公園」に水無月 沙羅さんが現れました。
水無月 沙羅 > あの人からのメッセージが携帯端末に届いた。
簡素に、『もし良ければ、話がしたい』と。
特に断る理由もない、そもそも喧嘩はしたけれど、二度と会話をしたくないと思っていたわけではない。
寧ろ新設ご丁寧に避けていたのは彼の方だろう、という気はする。
あまり刺激しないように距離を取ってはいたが、すれ違っても何事もなかったかのように素通りされたのは記憶に新しい。

さて、どんな顔で赴いたものか。
とりあえずはいつも通りに接するのが良いだろう。
その次を考えるのは第一声が終わってからでいい。
公園に足を踏み入れる。

珍しく時間を作れたらしい彼の姿が見える。

「こんにちわ、理央先輩。 今日はもうお仕事はよろしいんですか?」

少々他人行儀に挨拶を送るとしよう。
それくらいの皮肉はされても許されていいはずだ。
彼に大きなダメージを与えてしまったことは理解しているが、それはお互い様だ。

神代理央 >  
もう仕事は良いのか、と。
本庁で擦れ違っていた時の様に。唯の同僚の様な言葉を向ける彼女。
投げかけられた言葉に振り向けば、力無く微笑んで首を振る。

「…何、仕事など。こうしてお前と話をする為ならば、どうという事は無い」

「………と、この言葉を。これに類する言葉を。
もっと早く。あの温泉旅館の中で。お前に言えれば良かったのだがな」

其の侭、彼女に向けて静かに歩み寄ろうと。
拒絶されなければ、彼女迄あと2,3歩と言う所まで近づくだろうか。

「急に呼び出して、すまなかったな。お前に謝りたかったのと、少し話が出来ればと、思って」

水無月 沙羅 > 「そんな顔されたら、私がいじめてるみたいじゃないですか。」

少しだけ、小さくため息をついて近づいてくる少年を見る。
若干痩せただろうか、顔がやつれているようにも見える。
ここ数日の間にずいぶんと精神的苦悩を抱えていたのだろう。

ただの恋人同士のちょっとした喧嘩が、彼をここまで疲弊させてしまう。
少年の危うさを、何時何が彼を崩れさせるかわからないような、そんな危機すら感じさせる。
爆弾を抱えているのはどうやら自分だけではないらしい。
いや、わかってはいたのだ。 あの『殺し屋』事件の時から。
分かってはいたことなのだ。

「……そうですね、そう言ってもらえたら私はどんなに嬉しかったか。これは私の我儘ですが、同時にあなたの我儘でないとその言葉は出てこないんですよ。気付いてましたか?」

私が望み、彼が同時に望まなければ、そのような言葉は出てこない。
お互いにその時間を作りたいという想いが、我儘を通す意思がなければそれもかなわない。
それが全く感じられないことに、自分は怒っていた。
少々、子供じみていたのかもしれない。

「謝るというのなら、こちらからでしょう?
 ごめんなさい。 貴方に理想を押し付けすぎてしまったんですね。
 私も。こうしてほしい、こうしてもらいたい、そんな小さな欲のつもりでしたけど。
 それさえもあなたには難しいことだった。
 私こそあなたをきちんと見ていなかった。 貴方の辛さを理解していなかった。
 だからごめんなさい。」

ここ数日、彼と離れていた間に考えていたこと、感じた事。
それを小さくまとめ上げて彼に伝える、謝罪の言葉。
幾人かの人にアドバイスをもらい、考え続けた結果に導き出した答え。
お互いに、変わろうとし続けることに精一杯すぎたのだ。

神代理央 >  
「……そんな事は無いさ。ただまあちょっと。色々あってな。何時もの様に振る舞うのは、難しいかもしれんが」

いじめているみたいだ、と告げられれば苦笑い気味に首を振る。
実際、喧嘩の末に彼女を追い掛ける事もなく。
本庁で擦れ違っても素知らぬ顔をしていたのは自分なのだ。

自分と離れ、マンションを出てから彼女がどう過ごしていたのか。
敢えて、そういった情報を遮断する様にすらしていた。
自分と一緒にいなくても、彼女が幸せであるならそれで良いじゃないかと。無理に彼女を連れ戻そうとするのは、それも己の我儘なのではないかと。
そういう風に、怯えていた。

「……そう、だな。その通りだ。そして、私はそういう我儘から逃げ出していた。
仕事に打ち込んで、『公人』である事の気楽さに逃げ出していた」

我儘を押し通す事の難しさから逃げ出していた。
それを隠す事も無く、言い訳する事も無く。
訥々と、言葉を紡ぐ。
しかし、彼女からの言葉に。謝罪と共に告げられた言葉には、瞳を見開いて、驚いた様な。そんな視線を向けるだろうか。

「お前が謝る事じゃない。
お前の細やかな願いも我儘も、受け止められなかったのは俺の方だ。
……お前と居る時でも、お前の理想の恋人であろうとした。演じようとしてしまった。
だから、お前が謝る事じゃ無い。寧ろ――」

「……そうやって、『普通の恋人』の様に出来なかった事が。
何処までも『カッコつけよう』としたことが。
お前を傷付けた」

「それも、謝りたかった。
本当の俺を、きちんとお前に伝えきれていなかったこと。
命がけで俺の為に尽くしてくれてたお前を、ちゃんと見れていなかったこと」

「……本当に、すまなかった。ごめん、沙羅」

『領域』の時も。
『殺し屋』に狙われていた時も。
彼女はずっと、己の為に奔走し、傷付き、駆けずり回っていてくれた。
それを分かっていながら。いや、分かっていたからこそ。
彼女の望む姿でいようとした。そういう自分に、無理矢理変わろうとした。
結果としてそれは、彼女の事をきちんと見る余裕すら失わせてしまっていたというのに。

だから、先ずは謝る。
拳を握り、彼女の瞳を見つめて。少し気弱そうな声色で懸命に。
彼女に、己の非を詫びる。

水無月 沙羅 > 「まーだ分かってないですね。 このにぶちん。」

直ぐ近くにある少年の頬を、少しだけ抓る様にしてみょんみょんと真横に引っ張ってやる。
ちょっとばかり痛いかもしれないかもしれないけれど、鈍感すぎる彼には良い薬だろう。

この期に及んでまだ、自分で口にしているくせに気が付いていないというのだから全く、世話が焼けるとかそういうレベルではない。
もう病気だこれは。

「あのですね理央さん。 『普通の恋人』である必要、なくないですか?
 そもそも、普通の恋人って、なんですか?
 わたし、そんなこと一度でも望みましたっけ?
 普通の恋人らしく……なんて、たぶん言ってないと思うんですけど。」

そう、この期に及んでまだ、彼は『型』にはまろうとする。
そんな物、自分達には必要ないだろうと、少し頬を膨らませて。

「普通である必要はないんです、私は私らしく、貴方は貴方らしくいればいい。
 少しずつお互いを尊重して、直すべき部分はゆっくり直していけばいい。
 これから長い付き合いになるなら尚更、理想の恋人になる必要はないでしょう?」

言ってから、少しだけ苦笑いを浮かべる。

「まぁ、その長い時間に我慢ができなくてつい怒ってしまったから、こういうことになったんですけど。」

自分がそれを急かしたせいで、彼は苦しむことになったのだから。
自分が言うのは少々ずうずうしい気もする。

神代理央 >  
「あう」

みょんみょん。
頬を抓られれば、何とも力の抜けた様な声を漏らしてしまう。
ちょっと痛い…のはまあ事実だが、それよりも彼女に向ける視線に浮かぶのは疑問。
これから彼女が何を言うのか、と。そう尋ねる様な視線を浮かべていたが――

「……望んで、ない。俺が、勝手に思っていただけだ。
……普通の幸せを、お前に、与えてやりたくて。
お前の望む恋人でなければ、失望させてしまうんじゃないかと、思って」

自縄自縛。まさにその言葉が相応しいだろうか。
世間一般で言う所の恋人らしくあろうと。
彼女が求める姿を勝手に象って、それを演じようとしていた。
彼女は決して、そんな事は望んでいなかったというのに。

「……そう、なのかな。
俺はその、俺らしく振る舞う様は、決して褒められる様な事ではない、んだが…」

其処で、もごもごと口ごもる。言おうか言わまいか、悩んでいるかの様に。
しかし意を決して。ぐっと瞳に力を込めて。彼女に視線をぶつける。

「……普段から、偉そうに振る舞って、カッコつけたがるのも俺だ」

「つい仕事に熱中してしまって、皆に…お前に呆れられてしまうくらい、ワーカーホリック気味なのも、俺だ」

「落第街やスラムで、暴風の様に鉄火を振るうのも俺だ」

「……それを打ち明けられない儘、お前を傷付けてしまったのも、俺だ」

其処で、少しだけ息を整えて。

「……変わりたい、とは思う。変わろうと、努力はする。
でも、きっと直ぐには変われない。お前を傷付ける事だって、またあるかもしれない」

「お前の言う通り、ゆっくり直す、のにも時間がかかるかもしれない。これからも…その、手のかかる男かもしれない」

「………それでも。お前の傍に居たいんだ。俺がいなくても幸せになって欲しい、なんて思っていたけど」

「やっぱり、お前と一緒に居たいんだ」

感情をぶつける、とは違う。
まるで、隠し事を打ち明ける事にすら怯えていたかの様な声色。
様々な人に話を聞いて貰って。アドバイスを受けて。それでも。
自分はこうだ、と彼女に伝える事には、やはり勇気が必要だった。

「だから、お前がそれでも良い、と言ってくれるなら…その……」

最後迄言い切れないあたり、恰好がつけきれない。

水無月 沙羅 > そっと抓る手をほぐして、優しく少年の頬を撫でる。
愛おしいものを見る様に、守らなくてはならない大切な何かを見る優しい眼差しで見つめながら、少年の言葉を聞いていた。

「知っています、どの側面も、貴方である事。
 変わりたいかもしれない貴方、変わりたくないかもしれない貴方。
 どうしようもない貴方の一部。
 変わりたいなら、隣で支えます。
 変わりたくないのなら、やっぱり隣で支えます。
 貴方が貴方で居るためになら、私はどんな犠牲だっていとわない。
 貴方と一緒に居るためになら、私はどんなことをしたって貴方を守って見せる。」

くすりと笑って、少女は言葉を紡ぐ。

「共に居ると、誓ったから。
 貴方がそうありたい、貴方の為に。
 私は戦います。傷ついても、傷ついても、私は不死だから。
 貴方の隣に立つためになら、何度だって、立ち上がって見せます。」

口ごもる少年を胸に抱いて、そっと優しく頭を撫でる。
そして最後に。

 

水無月 沙羅 >  
 

「理央、私はあなたを愛しています。 いつだって、いつまでだって。」
 
 

水無月 沙羅 >  
 

彼には言えない、愛を囁くのだ。
 
 

神代理央 >  
胸に抱かれる。
柔らかな彼女の躰に包まれて、優しく頭を撫でられて。
――そして、言い切れなかった愛を、囁かれる。

「………ああ、俺も――いや、待て。待ってくれ」

ガバ、と。
抱かれた頭を持ち上げる。――大分名残惜しかったのだが。
此の侭、彼女に告げられた愛の言葉に応えるのは簡単だ。
此方も同じ気持ちなのだから、簡単も何もないのだが。

しかし。傷つけてしまった彼女に、全てを押し付けたかったわけではない。
何より、慰安旅行のあの夜。頼りになる様な、ならない様な同僚から、ヒントは貰っているのだ。

「いや、その。待ってと言うのはだな。別に否定とかそういう事ではなくて」

「…その、だな。やはりこういう事は…というか、ああもう!」

ガシ、と彼女の肩を掴む。
其の侭、忙しなく息を吸い込んで——―

神代理央 >  
 
 
「…水無月沙羅、さん!好きです!付き合ってください!」
 
 
 

神代理央 >  
今更である。
何を今更である。
それでも、それでも。

己の口から、この喧嘩を終わらせて。
もう一度、きちんと己の口から。
彼女に想いを、伝えたかった。

水無月 沙羅 > 「ぷっ……ふふ、く、ふふふ……あ、あははははっ」
水無月 沙羅 > 今更過ぎる告白に、つい大きな声で笑いを上げてしまう。
抑えきれない笑いの中で、一粒流れる涙をこすっては少年を見る。

「な、何て今更な台詞……、ふふ、でも、そうですね。
 私達、そんな当たり前の事すらしていなかった。」

始まりは、病室での私から『好き』を伝えたこと。
お互いがそうであったと自覚したから、そういう枠に収まっていただけ。
明確な宣言など、私達にはなかったのだ。
余りに今更過ぎるその言葉に、しかし最大級の好意を伝える言葉に、感動を覚えない筈もなく。

「えぇ、もちろん。 こちらこそよろしくお願いします。 理央さん。」

嬉し涙を流しながら、震えそうになる喉を殺して言葉を紡ぐ。
はっきりと相手に聞こえる様に、なるべく大きな声で。
きちんと想いも伝わる様に。

「バカ、遅いんですよ。 いつもいつも。」

最後にはそうして憎まれ口をたたいて。

神代理央 >  
「……そ、そこまで、笑うこと、ないじゃないか……」

大きな声で笑う彼女に、此方の顔はもう真っ赤である。
己の瞳と同じ様に紅に染まった頬で、むぅ、と言わんばかりに彼女に向ける視線。

「……普段から、その、お前に言われっぱなし、だし。こういうのは、その、ちゃんと、俺から言いたかったし……」

もごもご。普段の威勢は何処へやら。
気付けば視線も右往左往。彼女の顔を直視できず彷徨うばかり。
けれど。彼女から紡がれた言葉に、パっとその視線は彼女に向き直って。

「……有難う。これからも、宜しくな」

涙を流して微笑む彼女を、綺麗だな、なんて惚けた様な感想を抱きながら。
ふんわりと、嬉しそうに。笑みを浮かべて頷くのだろう。

「……鈍感というか、行動が鈍いというか。
先ず直すべきは、そこからかもしれないな」

紡がれた憎まれ口。
そんな言葉にも、嬉しそうな微笑みを崩さぬ儘。
穏やかな声色で、言葉を返すのだろう。

水無月 沙羅 > 「あ、でもですね、理央さん。 
 ちょっとそこでお互い、まだ距離は少し置いたほうが良いんじゃないかと思うんです。
 えっと、具体的に言うなら、同棲、やめませんか?」

涙を拭って、笑顔のまま少年に提案する。
今まで惰性のように続けてきたものを一度捨て去って。

「もう一度、一からやり直しましょう?
 普通じゃなくてもいい、けど急ぎ過ぎることもない。
 私たちのペースを探していくために。
 今のままだと近すぎて、近すぎるから見えなくなる物って、あると思うんです。」

悲しむわけでもない、残念がるわけでもない。
それはきっとお互いに必要な儀式だと思うから。
それで二人が離れ離れになるわけでもない。

「寂しいなら、いつでも駆けつけるし、電話だってできますから。」

ふわりと笑う。

「それに、今また出て行ったら、えっと、おかあさん?が悲しみそうで。」

頬を恥ずかしそうに指で掻く。
さて、天涯孤独の身に母と言って少年はどんな顔をするのだろう。