2020/08/30 のログ
■羽月 柊 >
「しかしまぁ、胡蝶の夢な…レム・カヴェナンターなんぞ大層な名前を…。」
訪れた青年の耳に、そう声が届いた。
これは男の異能に、学園側の診断からつけられた名前だ。
まだまだ細かい発動条件は分からないが、
親しくなった人間に対し、異能の類を借り受ける能力として、そのように割り当てがされた。
自他の境を失う胡蝶の夢、その夢で他者と契約を交わすように、と。
そんな名付けがされた、
三十路を越えた自分に発現したばかりの異能について考えていたが、
青年の声に現実に引き戻された。
肩と頭の上に留まっていた小竜たちが、首をぴょいと上げて視線を向ける。
「ん…? あぁ、君か。」
近くまで来れば、ふわりと涼しい空気が青年を撫でるだろう。
「これでも外回りの多い身でな。
夏場はまぁ、魔力消費はするが、冷気魔術を運用しながら動いている。」
■伊伏 >
「ちょっと意外ですね。建物から建物への移動が多いのかと」
羽月の傍まで、サンダルをじゃりじゃり言わせながら歩いていく。
伊伏はへらっと笑って小さな竜達に挨拶をし――教師の方には、愛想はあれどへらへらした顔は向けない。
どうやら動物向けの顔があるらしい。可愛いなぁと白い小竜を眺める。
「魔術使うと疲れやすいのがなぁ。
…そういやなんか、胡蝶の夢だか聞こえましたけど。禁書の方で面倒な品でも出ましたか?」
ついでにと、少し空けて同じベンチに座った。
冷気のおすそ分けを勝手に頂くつもりだ。
■羽月 柊 >
「訪問の仕事が多くてな。春夏秋冬だから…こうやってな。
…君は今日は何かの帰りか?」
そういって指をパチンと鳴らす。
おすそ分けどころか、柊の周囲を漂っていた冷気が、青年の方にも漂う。
それはエアコン下というほど涼しさは無いが、初夏程度には楽になる。
顰めづらとまではいかないが、男はそこまで親しみやすいタイプではない。
声に抑揚をつけるのは苦手であるし、
話自体も面白いかと言うと…本人も自信がない。
故に、羽月柊よりも、小竜と親しんだりする生徒は彼以外にもいた。
「あぁ、書じゃなくて、今のは俺の異能だな。
学園から大層な名前を"今日貰ったところ"だよ。」
■伊伏 >
チューブアイスを吸いながら、有り難く冷気を受ける。
自分の風魔術で涼しい風を使い続けるとなると、こうもいかない。
口元から微かに甘い梨の香りをさせつつ、自分のサマーカーディガンの裏から袋を出した。
「趣味モノの本を求めて、ちょっと買い物に。という感じですね。
一日かけて、じっくり本屋めぐりをしてきたとこです」
そう言いながら袋を開け、"当たり障りのない本"を取り出して、羽月に見せる。
【魔術との対話】 【野生動物図鑑・ポケット版】等など。自分の得意な分野、好きなものが丸出しという感じだ。
見せていない本には【本年度版薬品成分書】、【違法とされた植物たち】と言った少しディープな部類がある。
こちらは自分の裏の顔に繋がるため、紙一枚分を余計に包んでタイトルを察せないようにしてあった。
【野生動物図鑑・ポケット版】を片手にしたまま、伊伏はきょとんとした顔を見せる。
「異能?名前を貰ったってことは…おめでとうございます、でいいんですか。もしかして」
■羽月 柊 >
「古書店街の方にでも行って来たのか。
あの辺は入り込むと本当に出てこれないからな。
【魔術との対話】……書としては中級に片足が入るが、
解説が丁寧だった印象があるな……。
確か、自分の中の魔力をいかにして感じ取るかといった内容が特に。」
魔術関係の本は男も一通り、頭に入っている。
元来魔力を持たない男にとっては、魔術の習得には人一倍努力が必要だった。
初級から高等魔術まで。深淵を覗くことも稀にあるほどに。
『真理』について危険を犯してまで手を伸ばそうとは思わないが、
命が続くのならば、男はあまねく魔術の術を知っている。
その中で、魔力を持たないながらに使える魔術を扱っている。
「おめでとう…か。ひとまずはありがとう。
ただ、今年の夏に発現したばかりでな………。
"異能疾患"とまではいかないが、不随意な上に、詳細もまだ良くわからん。」
聞かれれば、ペットボトルを傾けて口を潤しながらそう話す。
"異能疾患"。それは今年の初夏にも騒動になった。
異能というのは、必ずしもメリットという訳ではない。
場合によっては異能そのものを"疾患"とし、異能が無くなることを願うヒトがいるほどだ。
今年の学術大会の時期には、『全ての異能は治療されるべき』
等と叫ぶ過激派が現れることもあったぐらいだ。
■伊伏 >
「学生通りの方で新書を見て、そのまま古書のほうにずるずるとですね。
あの辺はホント漁り始めると止まらないし…。おぉ、先生も読んでたんですね、これ」
読みやすそうだと買ってきた本だが、羽月の言葉を聞く限りは当たりのようだ。
「はいはい、"異能疾患"。治療強制騒ぎもあったんでしたっけ?
もはや個性とも化して、剥がそうにも剥がせないものを病気扱いしてくれんのは良いけど。
そういう事でこぶしを振り上げたり、弾圧するように騒ぐやつって、なんか主語がデカイから…」
あまり会話したくない内容なのか、伊伏の中の偏見もあるのか、べっと舌を出して嫌そうな顔をした。
猫のようなぎょろっとした眼で自分の仮想を斬り捨てるように視線を動かし、アイスの残りを吸う。
「あ、詳細が分からないってのは、まだ異能の扱いに余白があるって事ですよね?
物理的なモンだったとか、精神に感応するとか、そういうのもあやふやだったんですか?」
■羽月 柊 >
「本が好きだと、あそこに住みたくなってくるぐらいだからな。
学生時代はあしげく通ったものだ。
あぁ、魔術が関係する本はそこそこ読むようにしている。
自分のスタイルが確立しているにせよ、知識はあるに越したことは無い。」
全てを網羅することは流石に厳しいが、
研鑽を積むことを怠ってはいない。己は研究の徒である故に。
「異能疾患周りも複雑だがな。
実際に望まない異能を持って、それを疾患として治療を望むモノも居る。
例えば、『音を消去する異能に目覚めて、自他諸共に音を失くしたモノ』とかな。
とはいえ、そういう弾圧する連中は、
一切合切を含めて"平等"の名のもとに消し去ろうとするが…。」
男にとっては正直、関係の無いモノだと思っていた。
故に、自分に発現したこの異能に対する接し方に迷っている。
少し背を丸めて、膝上に肘をついて頬杖をし、息を吐く。
まぁ、世の中にはそんな異能疾患に対する差別どころか、
《大変容》が起こる前の世界に戻そうなんて活動する組織があったりするものだが…。
「扱いというか、発動条件そのものがあやふやで扱うも何も…という所だな。
何せ、端的に言うなら俺の異能は"コピーする"モノだとは思うが、
起きたのが2回、再現性が難しい……。」
■伊伏 >
空になったチューブの口を噛む。
羽月の言う「治療を望む異能者」の事もよく分かる。
自分はコントロールが可能な能力だから助かっているだけだ、という事も。
だから尚更、平均を極端なものに合わせてしまおうとする異端の言葉が、伊伏は嫌いだった。
内心の態度は舌打ちを連続でする様な悪いものだが、それは態度に出さないでいる。
嫌いな物に対する感情を、羽月にぶつけても仕方がない。流石に、そこまでガキでも無い。
溜め息じみた吐息を漏らす姿を横目に、歯の先でチューブを噛み続ける。
「コピーするってのは、事象関係なく…?何をコピーしたんですか。
まさかカラーイラストや名画をそっくり手元に模造(コピー)出来るとか、そういう…??」
■羽月 柊 >
頬肘をやめて背筋を戻し、
肩の上に居た小竜の一匹を手招きすると、膝上で転がすように撫でる。
もっふもっふしている。もふもふころころ。
男もそういった極端な平等主義は好きじゃない。
頭のカタイ馬鹿馬鹿しい連中だとも、思っている。
しかし、いざ自分が当事者になってしまうと、頭が痛い問題だ。
「事象関係無くという訳では無いと思う。
2回発現した時にコピーしたのは、"親しい相手の異能"だったからな…。
友人の教師は、他者に対する強い共感や同調、何らかの強い感情かもしれないと言っていた。
学園側からの診断見解にしてもそうだから、大層な名前を付けられた。
胡蝶の夢、《レム・カヴェナンター》とな。」
本来は入学時に異能診断を受けることが出来るが、
この男は在学中には"無能力"であった故に、必要が無かった。
今学園に再び舞い戻った身として、発現した異能が不随意性の不安定なこともあり、
かつて在学していたということを理由に、本来の形としてではないが、
簡易的に異能診断が出来る教師を頼ったのだ。
そうして名付けられたのが、この胡蝶の夢《レム・カヴェナンター》である。
■伊伏 >
「…………」
小竜可愛いなぁ。なんでこんな可愛い生物がいるんだろう。ありがとう、世界。
そんな感情を詰め込んだ眼で、羽月が小竜をもふもふころころしている姿を見つめる。
この人何かにつけてこんな行動を外でもしてんのか?という、中年のギャップ問題もついでによぎった。
まあ、可愛いから良いか。猫や犬、げっ歯類とも違う可愛さが長毛の竜にはある。絶対ある。
それを転がす羽月が可愛いかどうかは、伊伏の感性に封じておく。
「《レム・カヴェナンター》。綺麗な響きですね。
親しい相手の異能をコピーするかもしれない…という内容にしては、"胡蝶の夢"だなんて、少し寂しげだなあ」
咥えていたアイスの容器から口を離し、ゴミ箱へと投げる。
風魔術で軌道を整え、離れたところでカコンという音をさせた。ナイスシュートだ。
「…それとも、親しい相手だと認識しているからこそ、自分と相手の境界線を見失えて、能力のコピーを行うのかな。
聞いてる分にはかなり面白いし、発動の条件もロマンチックで良いですね」
早く内容が割れる事を祈りますよと、伊伏は楽し気に微笑んだ。
開花したての自分の能力に振り回されている他人ほど、面白いものはない。
■羽月 柊 >
小竜は男の手遊びに付き合う。
指の間を尻尾が交互に入り込む。手触りがとても良い。
人間、手触りの良いモノを永久に触っていたくなること、あると思うんですよ。
行動的に無意識的というか、手慣れた動きなので、恐らく良くしていることなのだろう。
「良いコントロールだな。
自分の魔力をちゃんと扱えている。」
頭の上で紫髪を乱しながらくつろいでいる小竜が、
手元の小竜に熱い視線を注いでいる青年を見つめている…。
「寂しいというのは良くわからんが、急に"背中から翼が生える"だのあった…。
名付けたモノも、そう言っていたよ。
親しい相手に対して、自他の境界線を越えるように、"契約"を行うようだから、と。
まぁ、この胡蝶の夢の契約とやらが、きちんと意識して行えるようにならん限りは、
下手をすれば異能疾患と変わりが無いがな…。」
■伊伏 >
「夢と現実の境目を失くして漂うことを、胡蝶の夢…っつうんじゃ無かったでしたっけ。
他者への強い共感、親しいと感じている相手への結びつきが"もしも"トリガーならば、
境目を失くしているものへの名付けにされてる"胡蝶の夢"という名前は、どこか寂しいように思えますね」
ハシバミ色の瞳が、揺れる白を見つめている。
小竜の白ではない白を視界に捉えたまま、最後の方は独り言のように呟いた。
それから、はっとしたように手を振って。
「まあ、あの、あくまで俺が思ったことなんで。
あまり気にしないでもらった方がいいかもしんないですわ。聞き捨ててください。
異能が初めて発現した時なんか、みんな同じですよ?疾患と同じかもなんて思う方が、どこぞの思うつぼです。
……貴方も学ぶだけでしょ、センセ」
視線がまた小竜に戻る。ああ、可愛い。どこか転がされ慣れているようにも思えるのが、また。
■羽月 柊 >
「いいさ、異能に関しては俺も一年生みたいなモノだ。
自分に関係が無いことと、触り程度しか学んでいなかったからな…。」
そういって男は息を吐く。
専門外のことにはどうにも疎い。
知っている事はどこまでも探求する故に研究者であるのだが。
こんな年齢になって新たに学ぶジャンルが増えたというのは、悩ましいことだが。
それでも、この教師は生徒と共に、友人と共に学んでいくのだろう。
「………まぁ、故に…《カヴェナンター》、契約者…になるのか。
俺も上手くは言えん。胡蝶の夢の状態から、きちんと結び…契約が出来るようにと、
名付けたモノは願いを込めたのかもしれん…。
…君にも異能があったら、そういう風に名前がついていたりするものなのか。」
指を甘噛みされていたりする。
手元のペットボトルの蓋に夏みかん味の水を注いで、彼らに与えたりする。
そろそろ空も、青年の瞳の色を通り過ぎようとしている。
じわりじわりと秋の虫が夜を告げようとし始めていた。
■伊伏 >
「俺のですか。俺のは単純に青白い火が扱えるってだけで…」
伊伏が自分の指先に息を吹きかけると、蝋燭が風に煽られた時のような火が揺れながら出現した。
その青白く燃える火を人差し指の背に移し、ゆらゆらと発火させ続ける。
「名前は自分でつけちゃいましたね。火遊び《No.9》って言うんですよ。
発現させるのに名前を声に出す必要はないんで、気合入れる時くらいですかね。No.9と呼ぶのは…」
好きなアーティストのアルバムから取っちゃいましたと、若者らしい名付け理由だった。
語るに、発現したのは最近ではないが、名をつけたのはここ数年の事らしい。
伊伏の指の背から手の甲へと、火は静かに燃え広がる。ただ、そこに熱は無いようだ。
羽月や小竜が青白い火に近づこうとも、風に吹かれた木の葉がそこへ飛び込もうとも、熱に焦がれはしない。
赤銅を焦がす夕焼け空に相まって、"火遊び"の色は目立つ。
空を見上げ、もうこんな時間かとぼやいた。
■羽月 柊 >
「火遊び…火遊びか。以前本の封じを行った時にも少し見たが、綺麗だな。
冷気の魔術に反応が無いが、熱が可変出来るのなら便利だろうな。」
揺らめく炎を桃眼に映しながら、僅かに眼を細める。
男の表情変化は少ない。親しいモノが見るならば、
少しばかり羨まし気に見えるのかもしれない。
「あぁ、自分で名付けたモノでも良いと言われたな、確かに。
俺はどう表現したモノかと悩んだせいで、さっきの名前になったが。
……さて、そろそろ陽が落ちるな。
俺も家に戻らねばならんな…。」
そう呟くと、手元の小竜がぱたぱたと飛び立ち、男もペットボトルの蓋を閉める。
傍らに置いていたコンビニ袋にそれを突っ込んだ。
■伊伏 >
羽月の表情の変化は、察せなかった。
ただ、綺麗だと褒められれば、伊伏は素直にありがとうございますと返す。
「あー…夏の終わりって感じだなぁ、風が…。俺も飯食ったら帰ろ」
本を入れ直した袋をカーディガンの裏へしまいなおす。
ベンチから立ち上がり、軽く背伸びをした。
頬へとかかる余計な髪束を耳にひっかけ、羽月に軽く会釈をして。
「じゃあまた――っつっても、もう夏休みが終わるのも秒読みですかんね。
またどこかでというよりは、学園ですれ違う方が早そうだ」
それではさようならと肩越しに挨拶をすると、手の甲へ息を吹きかけて青白い火を消す。
ご案内:「常世公園」から伊伏さんが去りました。
■羽月 柊 >
「ああ、もし授業やらで逢ったらな。
機会は少ないかもしれんが…。」
なにせ、研究者という本業の傍らの仕事なのである。
兼業教師というのは、この学園にちらほらといるのだ。
今のこの学園では、素性の知れないモノでも割と安易に教師になれる。
何かを教える事が出来るのなら、誰かを導くことが出来るのなら、
それは誰かの教師足り得るのだから。
青年が去っていくのを見送る。
冷気の魔術は少しの間、伊伏の元に残ってくれるだろう。
頭に留まっていた小竜も飛び立ち、コンビニ袋を持って立ち上がる。
男は新たな名を携えて、帰路についた。
ご案内:「常世公園」から羽月 柊さんが去りました。
ご案内:「常世公園」に日下 葵さんが現れました。
ご案内:「常世公園」に鞘師華奈さんが現れました。
■日下 葵 > 夕刻。 まだ日が沈んで間もない時間。
西の空が橙色を残している一方で、東の空は既に輝度を失い、
黒に染まる一歩手前であった。
「暑いですね……」
そんな時間帯の公園。
子供たちはとっくに帰って、時々犬の散歩をする人が通るばかりのこの場所に、
ベンチに深く座る人間の姿があった。
少し深めに被ったキャップの鍔を少し上げて、
ポケットから煙草を取り出して一本咥える。
ソフトケースの中からライターを取り出すと、
何回かカチカチと音を鳴らして、タバコの先端に火をつけた。
特に何もしない、ゆったりとした時間を楽しむように、
深呼吸を吐き出すように紫煙が吐き出される>
■鞘師華奈 > 本日は公安の仕事も非番だ。色々とやる事はあるが合間にゆったりとした時間は挟みたい。
ふらり、と特に目的も無い散策ついでに何処かで一服しようかと常世公園に足を踏み入れる。
最低限のマナーは心得ている為、なるべく人気の少ない場所を選ぶようにゆっくりと歩を進めていたが。
「――おや?」
進行方向の先、ベンチに腰を下ろして今まさに一服しようとしている私服姿の人物。
キャップを被っている為に一瞬、誰だが分からなかったが直ぐに気が付いた様子。
そのまま、のんびりとした足取りで彼女の方へと近寄りながら、少し遠間から声を掛けようか。
「やぁ、奇遇だね葵――今日は非番かな?」
と、気さくにゆるりと声を掛けてみようかと。こちらもスーツ姿ではなく私服姿。
とはいえ、私服はまだ持ち合わせがあまり無いので、バリエーションは限られるが。
彼女の傍まで歩いていけば、足を止めつつ一服する彼女を眺めようか。丁度いいから、彼女が良いなら隣で一服させて貰おうかと思いつつ。
■日下 葵 > 「ん……?
華奈さんじゃないですか。本当に奇遇ですね。
はい、今日は非番なので散歩でもと思って」
声をかけられた。
視線を上げて声の主を見やれば、いつか大時計塔で話した公安委員だ。
「そういう華奈さんもオフのようですね。
となり、どうぞ?」
どうやらお互いオフのようで、どちらも私服だった。
少し端によけるようにしてベンチを空けると、
どうぞどうぞと座るように促す。
「そちらも散歩か何かですか?」
キャップを取りながら質問をする。
先ほどまでちらほらといたはずの犬の散歩をしていた人たちは、
気付けばいなくなっていた。
しばらく、静かな時間>
■鞘師華奈 > 「ああ、そこも奇遇だね。私も今日は非番でね…やる事はあったけど、一先ず後回し。
で、適当に散策ついでに一服する場所を探してたら君が居たって訳さ」
常世公園は、実際仕事の合間や非番の時にちょくちょく足を運ぶのだ。
特に、人気が少なくなる夕方から夜は一服するにも丁度良いもので。
少し端に寄ってくれた彼女に、軽い会釈と「ありがとう」という礼をしつつ、そのスペースに腰を下ろして。
懐からジッポライターと煙草の箱を取り出せば、片手と指先でとんとん、と器用に一本だけ抜き出す。
「まぁ、そんな訳で葵と同じような感じだね……おや?」
丁度、煙草を咥えてジッポライターで火を点けた所でそれに気付いた。
――ブレスレットだ。ちょっとしたお洒落、だろうか?まぁ自分も首に黒い革製のチョーカーをしている。
お洒落にはかなり疎いし、女性らしいあれこれは未だに苦手だ。
とはいえ、気が付いたのならばまったりと喫煙タイムついでに話の取っ掛かりにもよかろう。
「葵、そのブレスレットは私物かい?この前は付けていなかったような気もするけれど」
いや、非番の時だけ付けているのかもしれないし、この前も付けてはいたが自分が見落としていただけかもしれない。
■日下 葵 > 「なるほど。
まぁ確かに、この時間帯の公園は雰囲気がいいですからね」
私も非番の時は時々この公園に足を運ぶ。
昼間は子供たちやその保護者の目があってなかなか一服とはいかないが、
この時間帯は静かで好きだった。
ぼーっとして、考え事をまとめるのに都合がよくて好きだった。
「え? あー……これは貰い物です。
プレゼントでもらったので。
そうでしたっけ?お風呂に入るとき以外は大抵つけているので、
この間あったときもつけていたとは思いますけど……」
私物かと聞かれると少し言葉を濁した。
風紀委員として働いているときも、今みたいに非番の時も、いつも身に着けている>
■鞘師華奈 > 「流石に、私も喫煙者として最低限のマナーは心得ているからね。
子供や人が間近に沢山居る場所では吸わないようにしてるから、人気の無い時間帯の公園とかは穴場なんだよね」
そういう意味では彼女と似たようなものか。喫煙者が周りに数えるほどしか居ないので喫煙者は親近感が沸く。
それに、確かに考え事を纏めたい時や、意味も無くぼーっとしたい時は丁度良い。
「へぇ、プレゼントか…うん?なら私が見落としてたのかな。制服姿だと手首が見え難いから気付かなかったのかもしれない」
公安が注意力無いのは駄目だなぁ、と内心で苦笑を浮かべつつ。まぁあの時はオフだったのだが。
ブレスレットについては、偶々目に留まっておや?と、思ったくらいで詳細は突っ込んでは尋ねない。
彼女が言葉をやや濁した事から、あまり聞かれたくないのだろうな、と察したようで。
「しかし、こうして喫煙仲間に会えるのは嬉しいね。私の知人友人はあまり喫煙者が居なくてさ」
それに煙が苦手な人も多い。だから、あまり頻繁には知人友人の前では吸わないようにはしている。
■日下 葵 > 「この島もなかなか喫煙者にとって肩身が狭かったりしますからね。
立場も相まって下手なことはしづらいですし」
だから、こういう気を抜いて煙草を吸える場所は貴重なのだ。
街中に置かれたガラス張りの喫煙ルームは押し込まれているようで、
あまり好きではないというのも理由だったりする。
「そう、プレゼントです。
多分あの時もつけていたとは思いますが、確かに袖に隠れていたのかもしれません」
ブレスレットについてそれ以上聞かれることはなかった。
プレゼントであることに間違いはない。
ただ関係が少し明かすには憚られたというだけだ。
彼女――フレイヤは私をご主人様と呼ぶが、私は彼女をなんと呼べばいいのだろう。
「そうですね。
私も煙草を吸う友人があまりいないので、
華奈さんのような友人はとても貴重です」
煙が嫌い、匂いが嫌い、いろんな理由で嫌われがちな立場である。
同じように煙草という嗜好品を楽しめる友人は本当に貴重だった>
■鞘師華奈 > 「そうだね、それにまぁ――未成年者だしね」
本土とは色々と環境が違うとはいえ、矢張り未成年の喫煙は色々とよろしくない。
――のは、勿論分かっているが。そもそも、それを言ったら隣の彼女は風紀だ。余計に大っぴらには吸えないだろう。
もっとも、こうして人気の無い場所で非番の時はとやかく言われまい。
それに、喫煙ルームやスペースは同じく苦手だ。最近は飲食店も禁煙や分煙傾向が強いし。
「プレゼントは――うん、言われるまでもないだろうけど大事にした方がいいよ」
無意識に首もとの黒い革製のチョーカーを撫でる。これも自分の”すき”な人から貰った大事な物だ。
ちらり、と紫煙を蒸かしながら横目に葵を見る。彼女のプレゼントのあれこれはまぁ、正直言えば気になるが。
「まぁ、公安の私もだけど風紀で喫煙者は…いや、結構居るんだろうけどあまり見掛けはしないね」
まぁ、そりゃ仕事中に喫煙する輩は…少なくとも堂々と吸ってる人はあまり居ないだろう。
喫煙者の肩身が狭いのは”外”でも変わらない。まぁ、いざとなれば止めればいいのだが。
(そう簡単に止めれなさそうな時点で、すっかりニコチン中毒だね私も)
などと内心で苦笑を零しながら、ベンチに座って二人並んでまったり喫煙タイム。
■日下 葵 > 「ふふ、それを言われてしまったらもう言い訳できませんねえ」
本土では”人間の場合”20歳未満は法で喫煙が禁止されているのだったか。
まぁ、人間と言っても私の様に既に身体の作りが人間離れしている者もいて、
どう区別するべきかわからない存在もいる訳だが。
「それはもちろん、大切にしますとも。
――華奈さんのそれ……チョーカーももしかしプレゼントだったりするんです?」
大事にした方がいい。
そう言いながら首に着けたチョーカーをなでる彼女を見て、
ちょっと気になって質問してみる。
意外と恋人とかからもらったものだったりするのだろうか。
「表立って吹かしてる人はほとんど見ないですねえ。
見られても文句言われないくらい仕事してる人とか、
そういう人たちが多い気がします」
私も喫煙していて注意されたことはないが、
もしやめるよう指示されたらどうしよう。
吸えるようになるまでに2年間我慢するのだろうか。>
■鞘師華奈 > 「そうだね…まぁ、でも私”たち”はそうそう止められそうもないよね」
と、肩を竦めて煙草をふかす。お互いすっかり煙草を吸う姿がそれなりに”様になってる”くらいには吸い慣れているし。
「――これかい?ああ、私も同じようなのを相手にプレゼントしたから交換、みたいなものかな?
…まぁ、相手は女の子なんだけどね。私はまぁ、そっち方面が同性寄りだからさ」
相手の名前とか詳細は流石に暈すけれど、性別が女性というのだけは明かしておく。
元より、恋愛やら性的方面が同性寄りというのを隠していたりする訳でもない。
まぁ、実際の所、色んな感情や思いが綯い交ぜになった”すき”という感じなのだけど。
「私はまだ公安入りして1ヶ月かそこらだからねぇ…あまり大っぴらには吸えないなぁ。
新人の辛い所さ――なんてね。まぁ、成人するまで我慢するのが一番利口なんだろうけど」
私も、そして隣の葵も。そう簡単に今から禁煙して成人まで我慢します!とはなれない気がした。
彼女とは喫煙者仲間であると同時に、そこら辺りの感性?おいうか考え方が割と似ている気がするのだ。
■日下 葵 > 「ですねえ、寝ぼけていても箱を開けて吸えるくらいには染みついてしまってますし」
動きも、匂いも。
ちょっとやそっとのことでは抜けないくらいに染みついている。
「なるほどなるほど。
いいじゃないですか。そういうのに性別は関係ないですよ。
そんなことを言ったら私のブレスレットも大概ですしねえ……」
彼女のチョーカーもまた、贈り物だという。
同性とか、そういうのは正直どうでも良かった。というより、よくわからなかった。
愛情や、好きという感情を、まだ私は理解できていない。
「そんなこと言ったって、もう今更やめるのも難しいですしね。
やることやってれば多少のことは見逃してくれる気がしますけど」
むしろ見逃してほしいという願望の色が強いが。
何にせよ成人までおとなしく待つという選択肢はお互いなさそうであった>
■鞘師華奈 > 「私はそこまでは――……ごめん、同じかもしれない」
とはいえ、寝起きだと手元が狂ったら火事になりかねないのである程度目が覚めてから、かもしれない。
「…大概?実は結構好奇心抑えてたんだけど、葵が差し支えなければ聞きたいかな、ブレスレットの経緯。
――いや、まぁ言いたくない所もあるかもしれないから、あんまり根掘り葉掘りは聞かないけどさ?」
お互い、誰かからのプレゼントを身に付けている、とという共通点もあると少し嬉しい。
そして、同時にやっぱり彼女のブレスレットのあれこれが気になるのも仕方ない。
普段はもうちょっと抑えるのだけど非番でリラックスしているのも大きいかもしれず。
「――うーん、私は風紀の方はよく分かってないからアレだけど、成果を出せばある程度は大目に…いやどうだろう?」
分からないな、と首を傾げつつ。まぁ、見逃して欲しいというか大目に見て欲しいキモチは分かる。
自分も、職場の同僚は一人吸っている人物が居るが、彼も堂々と吸ってはいない…筈だ。
■日下 葵 > 「いつも吸ってる銘柄の番号は覚えちゃってますしねえ」
今更やめられない。
生活の一部として溶け込みすぎている。
「あー、このブレスレット、とある女の子からもらったんですよ。
”ご主人様の証”って。
恋人とかではないですし、それこそまぁ……主従関係みたいな」
ところどころをぼかしながら説明する。
これが恋人からもらった物であればそんなに後ろめたさもなかったのだろう。
主従と言っても、特別私から何かを与える訳でも、行動を縛る訳でもない。
むしろ彼女にはのびのびしていてほしい。
でも、彼女、フレイヤが悲しい顔をするのは嫌だ。
そんな心の内を、少しぼかしながら吐露した。
「だって誰かに煙草や副流煙を強要してるわけでも、
ポイ捨てしているわけでもないんです。
息抜きにこっそり吸うたばこくらい、見逃してほしいです」
見逃してほしい。
そこまで言ったらもう願望である。
今のところとがめられることはないので、願望は叶っているのだが>
■鞘師華奈 > 「あー…確かに。けど、本土もそうだけど煙草はこれ以上値上がりはしてほしくないかなぁ」
いや、まぁ高いか安いか、というのは本土の方と比べた事がないのでよく分からないけど。
しかし、彼女とは喫煙方面のあれこれが本当に共感出来るなぁ、と少し嬉しそうだ。
「ご主人様??…成程、まぁ主従関係といっても、信頼関係とかがあればいいんじゃない?」
一瞬だがきょとんと目を丸くして。とはいえ、変に軽蔑したりはしないし変な目で見る事も無い。
彼女とその女の子の間に確かな絆があるなら、それがどんな形であろうと女は否定しない。
何しろ、それは外様がどうこう言うものでは決してないだろうから。
「だから、まぁ…何と言うか…どんな形であろうと、葵とその女の子がお互い思いあってるならそれでいいんじゃないかなって」
私が偉そうな事を言えたものでもないけどね?と、苦笑いを浮かべながら煙をゆっくりと蒸かす。
けど、どんな形であろうとそれが歪であったとしても――誰かを”想う”気持ちは大切なものだ。
「あーーまぁ、私も最低限のマナーは一応心得てはいるつもりだしね。
ポイ捨ては勿論しないし、人の多い場所は避けるし――葵の言いたい事は分かるよ、本当に」
ほんと、彼女とは気が合いそうだなぁ、と思う。まだ知り合ったばかりだが良い友人になれそうだ。
■日下 葵 > 「とても解ります。
いつも吸っている銘柄にあわせて小銭だしたときに、
店員や自動レジに『足りないです』って言われた時の驚きと言ったら」
そんな”吸っている人間にしかわからない悲しみ”を共有できるのは、貴重だ。
他の同僚にこの話をしても『やめればいいじゃん』と一蹴されるだけだから。
「信頼、ですか。
信頼してもらえているといいですねえ」
信頼してもらえるように頑張らないとですねえ。
少し間をおいて、煙を吐き出すようにそんな言葉が漏れた。
「いやぁ、なんだか恋愛相談をしたようで恥ずかしいですねえ。
……私が話したので私にも聞かせてくださいよ。そのチョーカーのこと」
偉そうなことを言えたものでもない、と笑う彼女。
その様子を見て私も質問してみることにした。
彼女はそのチョーカーを送ってくれた人を、
どんな風に想っているのか気になったから。
「”見逃してほしい”というより
”ほっといてほしい”の方が近いのかもしれません。
いい目で見られていないのは重々承知してるわけですし」
この話題は苦笑いが絶えない。
それでも、この話題で盛り上がるのは、今まで話せる相手がいなかったからだろう>
■鞘師華奈 > 「あーあー…それはすっごい分かるね。本当、せめて今の値段をキープしておいてくれないかなって」
流石に値下がり、なんてまず有り得ないのでせめて現状の値段を維持して欲しい。
なら、煙草を止めればよくね?という話でもあるが、そう簡単に止められないのだ。
「――まぁ、少なくとも。葵だってその女の子の事をしっかり気にかけてるからずっと身に付けてるんだろう?
だったら、信頼かどうかは私には分からないけどさ――絆はあると思うんだよ、どんな形にせよ、さ」
うーん、何か偉そうな事を言ってるけど、自分にも少し刺さるかなぁ、と苦笑いを深めて。
ゆっくりと、こちらも紫煙を吐き出しながら、今度はどうやらこちらの番らしい。
「そうだね――まぁ、ひょんな事から知り合った後輩の女の子なんだけどさ。
まぁ、ちょっと出会った場所が特殊だったのもあるんだけど…こう、一緒に居ると肩の力が抜けるというか。
私より全然しっかり者で”自分”をしっかり持ってる子でさ?もう何度も助けられてるよ。
…で、このチョーカーは、その子と常世渋谷でデートした時にこう、プレゼントされてね。
まぁ、私もその子にチョーカーをプレゼントしたんだけど…やっぱり大事な物だから常に身に付けていたいというか。」
もう一度、首に付けた黒い革製のチョーカーに触れる。…あれ?これなんか惚気っぽいな?
それに気付けば、何とも言えない表情を浮かべてから頭を振っておこう。
「ごめん、何か変に惚気っぽくなった気がする――まぁ、兎も角さ。
大事な子からのプレゼントって事……言ってて恥ずかしいなぁ、これ」
うーーん、と少し顔を抑えて溜息と同時に煙を盛大に吐き出す。こういうキャラじゃないんだけどな私。
「まぁ、確かにそうだね。けど、風紀や公安だからそうもいかないっていうね。周りの目に付き易いからさ」
彼女の気持ちはよーーーく分かる。ただ、風紀や公安だと人の目があるのは職業柄仕方ないものだろう。
■日下 葵 > 「ですねえ……これ以上値段が上がるとお財布が軽くなり過ぎちゃいますからねえ」
正規の店で買っている限り値下がり、なんてことはないだろう。
「気にかけているから……うん。気にかけてはいます。
気にかけてますし、大事にも思っていますよ」
絆、と呼ぶにはあまりにも不健全で歪なものだが。
それでも大事にはしている。
「……ほほう、いいんですよ、どうぞどうぞ続けてもらって」
気付けばにやにやして口角が上がっていた。
なんだ、クールな顔してちゃんと乙女しているじゃないか。
「なんで謝るんですか。
いや、確かに聞いていてこっちがちょっと恥ずかしくなるくらいには
甘いお話が聞けてちょっと背中がムズムズするのはあります。
いいですねえ。ちょっと嫉妬するくらいにはいいですねえ」
嫉妬。
好きとか、愛情とか、そういう感情を抱いたことがない身として、
こんなに人間らしく他人のことを話せるのがうらやましい。
○○せねば、そんな義務感ではなく、
純粋な好意を抱いて話す彼女は、見ていてとても素敵に思えた>
■鞘師華奈 > 「――まぁ、安く買える店も無い訳じゃないんだろうけどね」
非番とはいえ彼女は風紀。正規”じゃない”店で買えば珍しい煙草や既存品を安く買えたりもする。
が、流石にそれをハッキリとは口にはしない。彼女もそこは多分分かってはいるだろうから。
「――だったら、どんな形にせよ…うん、葵が何時か”納得できる”関係に落ち着けばいいね」
不健全でも歪でも。大事にしている、思っているならば自分かあれこれ言う事はない。
――一つだけ、言う事があるなら後悔はしない事だ。それは自分だけでなく相手も傷つけるから。
「――いや、そろそろ勘弁してくれないかな。流石に私にも羞恥心とか普通にあるんだよ」
隣の友人がニヤニヤしているのが見ないでも分かった。乙女ちっくなんて柄じゃないのだけど。
ああ、せめてカッコいい女子を目指したいのに何でこういう方向になっているのやら。
「――と、言うわけで私のほうはこの辺りでおしまい!
まったく、嫉妬されても私だって色々あるんだからね、本当…まぁ、気長にやるさ」
一つずつ、積み重ねて絆を深めていく…手探りだけど少しずつ私なりに頑張っていこう。
もう、傍観者で居るのは止めたのだ――”目的”も”彼女”の事も妥協はしたくない。
ゆっくりと、気を取り直すように紫煙を吐き出して…。
「嫉妬するって事は、少なからず葵もそういう感情に憧れてるって事じゃないかな?
――でもさ。そういうのは葵とその女の子の間で育むものさ。
私の感情は私だけのもので、葵の感情は葵だけのものってね。」
それに、人間何がきっかけで変化するか分からないのだから。私は身をもってそれを経験している。
■日下 葵 > 「あるっちゃありますけど、ほら、立場とかいろいろありますから」
言わんとしていることを察すると、
すっかり葉を燃やし尽くした煙草をポケット灰皿に放り込んだ。
「納得してないわけじゃあない、とは思うんですけどね。
”わかっていない”とでも言うんでしょうか。
誰かが正解と言ってくれればそれで安心できるのかもしれません」
そういう意味で、否定しないでくれた彼女の言葉は救いになった。
「えぇ~、うーん。まぁそうですね。
今日一日で全部聞いてしまうのはもったいないですね。
今後の進展とかを待ちつつまた話を聞くことにします」
恥ずかしがってこちらを見てくれない彼女をからかうように、
また話を聞かせてくれとお願いする。
「そりゃあ憧れますとも。
他人が持っていて自分が持っていない、なんてなったら。
私もいつか今の華奈さんの様に乙女をしてみたいものですよ」
フレイヤに恋心を抱くかどうかはわからないが、
保護者のような気持ちは抱いているかもしれない。
フレイヤがちゃんと成長して、
いろいろな人と友達をつくれる未来は確かに望んでいる。
だからこそ、今の歪な関係に疑問を抱いているのかもしれないが。>
■鞘師華奈 > 「まぁ、そうだね――お互いに苦労するよね、本当に」
いや、多分彼女のほうが大変かもしれないけれど。少なくとも風紀は公安より表舞台の活躍が多い。
それだけ人目にも付き易い――非合法な店で煙草をちょっと、というのも矢張りマズいものはあるだろうし。
「正解、かどうかは私にはどうとも言えないかな。何が正解で間違ってるのか、なんてきっと誰も分からないよ。
――少なくとも、相手が望んでて君が望んでいるなら…一方通行ではないさ」
否定はしない。けれど正解だ、と断定はしない。そも正解も不正解もないと女は思っている。
正解と言ってしまうのは簡単だ。けれどそれはその場しのぎの言葉みたいで、気軽にそう言ってしまうのは何か違う気がしたのだ。
「――うわぁ、絶対話の種にするつもりだよこの喫煙仲間は。
…まぁ、何かあったら相談とか話を聞いて貰うくらいはお願いするかもしれないさ。
――むしろ、葵のほうもなんかあったら私に話してくれると嬉しいかな…勿論、言える範囲でさ?」
それこそ、一方通行は良くないよ?とばかりに微笑んで。
自分の事を話すだけではなく、ちゃんと彼女の話も聞いてみたいのだから。
こちらも携帯灰皿に煙草の吸殻をねじ込みつつ、そろそろ行こうかな、とベンチから一足先に立ち上がる。
「無理に乙女なんてしなくてもさ…いや、私も乙女は柄じゃないんだけども。
葵とその女の子がお互い納得できる形になればいいと私は思ってるよ」
余計な口出しはしない、説教もしない、アドバイスは…あまり上手くできない。
だけど、折角出来た喫煙仲間で友人だ。彼女の悩みや疑問が少しでも軽くなればとは思っている。
――少なくとも。葵が納得できる関係と自信を持てるまでは相談くらいは乗りたいものだ。
「さて、私はそろそろ行くけど葵は?折角だし、この後に軽く何か一緒に食べていくかい?ジャンクフードでいいなら奢るけど」
と、笑って声を掛けようか。