2020/09/19 のログ
ご案内:「常世公園」に日下 葵さんが現れました。
日下 葵 > 週末の夜。
人のいない公園。
街灯には虫も集まらないほどに気温が落ち着いた時期。
敷地の中にぽつぽつと点在する灯りに照らされるベンチ。

そこに深く腰掛けて、足を組んで煙草を咥える。

「すっかり気温も下がって、過ごしやすくなりましたねえ」

ポケットからライターを取り出せば、カチカチと押し込んで火を点す。
その小さな火が、風にあおられて消えてしまわぬように手で覆えば、
咥えた煙草の先端にあてがう。
そして一呼吸置くと、ふぅ、っと紫煙を吐き出して、
星なんて一つも見えない空に視線を移した>

日下 葵 > 「それにしても、ようやく落ち着いて来たって感じですね……」

煙草を咥えたまま息を吸うと、先端の火が少しだけ輝きを増して、
葉をちりちりと焦がしていく。
そして少し遅れて吐き出す息は、街灯の光に照らされて白く映り、
ゆらゆらと夜の公園に消えていった。

その立ち振る舞いはいかにも疲れ切った人といった感じで、
活力なんて言葉からは程遠い見てくれだ。
思えば最近は少々変わった出来事が多かった。
ガラにもなく人助けをしたり、お見舞いに行ったり。
自分のエゴの為に立ち振る舞っていたつもりだったが、
普段やらないことをやると無意識に疲れるようだ。

「明日も一応休み……っていうのがちょっとした救いですかね」

既に燃え尽きてしまった煙草の先にぶら下がる灰を、
トントンと指ではじいて落とす。>

ご案内:「常世公園」に山本 英治さんが現れました。
山本 英治 >  
退院した。秋の夜、外の空気はとにかく良いもんだ。
過ごしやすい気候だしな………

歩いていると、煙草を吸っている女性が見えた。
あの人……そうだ、前に会ったことがある。

「どうも、日下先輩」

ポケットから自分も煙草を取り出して。
あれこれとポケットをまさぐって。
火種がないことに気付いた。

「すいません、火ぃ持ってますか」

のろのろと歩いていってたはーと笑う。

日下 葵 > 煙草を咥えたままぼーっとしていると、誰かが近づいてくる。
最初は知らない人だろうと、特に気にも留めなかったが、
声をかけられたならそういうわけにもいかない。

キャップの鍔で足元しか見えないので視線を上げると、
そこには自分と同じ風紀委員の学生の姿があった。

「おや、山本さんじゃあないですか。
 退院したんですね、本当ならお見舞いに行きたかったんですが」

鍔に遮られている視界の中に、彼の全身が入ると軽く挨拶をする。
そしてベンチの端の方に寄って彼が座れるように場所を開けると、
ポケットからライターを取り出して彼に手渡した>

山本 英治 >  
煙草の匂いを嗅ぐとカァーっと破顔一笑。

「いや、煙草の匂いって良いもんですなぁ…銘柄は何を?」
「あ、どうも。それじゃ失礼します」

ヨッコイショと言って隣に座って。
ライターを受け取るとメンソールの煙草に火を点けた。

「いえ、良くなったのはここ数日でして…」
「お見舞いに来ていただいても何もお構いできませんでしたよ」

本当は良くなってはいない。目の下にはクマがある。
でもまぁ、煙草を吸う時くらい忘れたいもんだ。

深く紫煙を吐き出すと、秋の夜風に揺れて二人分の薄ぼんやりとした煙が混ざって消えた。

「仕事が溜まってていやぁもう大変」

ニヒヒと笑って冗談めかして言った。

日下 葵 > 「山本さんも吸うんですね、ちょっと意外……いや、見た目通り?

 そうですねえ、煙草の匂いには色々と思うことがあります。
 思うことがありますし、そういう人も少なくない気がします。

 ――私ですか?私はローライトですねえ。
   山本さんは何を吸っているんです?」

意外なんて言って見せるが、
見た目で言えば私の方が意外なのかもしれない。

彼が煙草を咥える姿は何というか、男らしさのようなものがあるが、
私に関しては地雷感がなくもない。
というか、昔知人に言われたことがある。

「そうだったんですね。
 本当は今回の件に関わった人たちの所には
 お見舞いに行こうかと思っていたんですが、
 逆に行かなくて正解だったかもしれませんねえ」

身体や心に余裕のない時に人が来ても迷惑なこともある。
それならいっそ、
こういう砕けた場所で話すほうがお互いに気が楽なのかもしれない。

「そのクマはお仕事のせいなんですか?」

冗談めかして笑う彼の言葉。
見たところ、以前BBQであったときにはなかったクマだ。
何となくそのクマが溜まりにたまった仕事を由縁にしているとは思えなくて、
でも本当のことを聴くのも憚られて、
冗談めかした言葉を投げかけるにとどまった>

山本 英治 >  
「どっちですか……? 喫煙者の肩身が狭くなっていくと言われて幾星霜」
「とうとう我々は夜の公園で蛍ですよ」

煙草の箱を見せる。マルクロメンソールライト。

「マルクロのメンソールが好きで好きで…退院するまで恋しくてたまんなかったですよ」

咥えた煙草を満喫しながらライターを返す。
慌てた様子で両手を左右に振って。

「ああ、いえ。迷惑だとかそういうんじゃカケラもないんですが」
「なんつーか……誰も彼も重傷揃いで調書待ちでして…」

ハハハと笑って。
今日も当時の状況を根掘り葉掘り聞かれた上で通常業務だよ。
でも忙しくしてると、少し安らぐ。

視線を隣に向けると、アッシュ系の髪が秋風に揺れていた。

「PTSDの一種ですね」

メンタルが弱くて……と誤魔化して。
本当のことをぶつけても、心配させるだけだ。

「マリーさんは今も入院中なんですかねー」

携帯灰皿に灰を落として、久しぶりの喫煙を満喫した。

日下 葵 > 「ちょろっと話したことある身からすると意外、
 見た目しか知らない身からすると見た目通り、といった感じでしょうか。

 そうですねえ、肩身は狭いし、値段は高いし。
 ただまぁ、異邦の文化として保護されている部分もありますし、
 規制はされずとも、時と場所をわきまえないといけないのは、
 些か面倒ではありますねえ」

喫煙者にしかわからない気持ちだろうな、これは。
そんなことを内心思って笑って見せる。

「入院中は吸えなかったでしょうから大変だったでしょう。
 迷惑、とまではいかなくても、
 一人でぼーっとしている時間は必要じゃあないですか?
 逆に誰かと話をしていた方が気がまぎれるってこともあるでしょうけど」

彼の場合はどちらだったんだろうか。しかし直接訊くのも野暮だろう。

「そうですねえ、別動隊で動いていた人たちは皆大変だったと聞きました。
 笑っちゃいますよ。
 怪我をしたらそれなりに時間のかかる人たちばっかり重い怪我をして。
 みんな無茶苦茶をやるなぁっと」

時々忘れそうになる。
怪我をしてもすぐに治らない人の方が多いということを。
だから、けがで入院と聞いても理解が遅れる。
自分はそんな経験がないから、乏しい想像力を働かせて、
”大変でしたね”と話題を合わせるくらいなものだ。

「トラウマってやつですか。
 それはもう向き合うしかないですねえ。
 それこそ一生、墓場まで」

事情は、深くは聞かなかった。
聞かなかったが、今の彼は昔の自分に重なる部分がある。
訓練をしていたころの自分に。

「まだ入院しているんじゃあないですかねえ。
 むしろ山本さんや神代君の回復が早いだけの様に思います」

自分に比べれば彼らの怪我の治りは亀の歩みの様だが、
一般人に比べれば徒歩と原付くらいの差はあるだろう>

山本 英治 >  
「それなー………」

あんまり話してないのに思ったより正確に内面を見られている。
まぁ、日下先輩が聡いのはわかるんだけど。
見た目より繊細な男なんだよな。俺。

「TPOを弁えて人に迷惑をかけない心構え……大事…」

口の端を持ち上げてニカッと笑って携帯灰皿を揺らす。
こういうグッズもまた、重要になってくる。
人に迷惑をかけていませんよ、というポーズのために携帯灰皿っぽい携帯灰皿を選ぶのも大切だ。

携帯灰皿っぽい携帯灰皿ってなんだよ。

「そうなんです、入院中は禁煙なので……」
「どっちも大事ですよ。一人の時間がないと余裕がなくなる」
「誰かと話していないと寂しくなる」
「人間ってのは二律背反した命題に常に追われるエゴイスティックな生き物です」

携帯灰皿に再度、灰を落とす。
薄汚れた月がぼんやりと雲間から顔を見せようとしていた。

「無茶苦茶やらないと無茶苦茶をやられるので…」
「無茶苦茶をやられるのは我々ではなく一般市民なので…」
「そう考えると無茶苦茶やる相手に無茶苦茶をやる無茶苦茶合戦になるのもむべなるかな」

さて、今私は何回『無茶苦茶』と言ったでしょうと呟いて空を仰ぐ。

「死ぬまで付き合いたくはねぇなぁ……」
「いつか。どっかで……手放したい…………」

その時、俺は親友のことを忘れてしまうだろう。
そして悪感情だけが残る。
それは何よりムゴいバッドエンドだ。

「ほら、俺ってば体力あるから異能治療に耐えられるんですよ」
「神代先輩は金かけて良い治療受けられますしね」

どこからか虫の鳴き声が聞こえた。

日下 葵 > 「ま、この島に住んでて見た目なんてほとんどあてになりませんけどね。
 悪い意味でステレオタイプを生むだけです。

 私はまぁ、あまり気にせず吸ってますけど、
 最低限は、ね」

最低限はわきまえる必要がある、
そうして、葉を燃やし尽くしてフィルターを焦がし始めた吸い殻を、
自分の携帯灰皿に放り込んだ。
蓋を閉めると、クシャクシャになったソフトケースを指先で叩いて、
二本目を咥える。

「私はきっと病室抜け出して吸いに行っちゃうなぁ。
 そうですね、どちらも大切な時間です。

 0か1でしか生きていけない人間にはなりたくないです。
 エゴだなんてとんでもない。
 むしろ曖昧な部分でふわふわしていられるのって、
 素敵なことだと思いません?」

私はふわふわしたまま適当に生きていきたいです。
こだわりなんて片手で数えられるくらいしかありませんし。
そういって、返してもらったライターで二本目の煙草に火をつけた。

「無茶苦茶合戦ですか。
 でもその合戦に参加する人が、
 いつも同じ人である必要はないと思うんですよねえ」

次の合戦では山本さんはお休み貰えるといいですねえ。
そういって、被っていたキャップを取って軽く頭を振る。
広くなった視界の上の方に、覗き見るかのように見え隠れする月があった。

「手放す、ですか。
 なら、手放せるうちに手放したほうがいいですよ」

手放して、どこかに捨てるには大きすぎる。
トラウマはいつの間にか大きくなって、手放す余裕すら奪っていく。
そういうものの様に思えるから。

「二人とも、どこかしら”逸般人”なんですよねえ。
 普通に考えたらもう倍の時間くらい病院にいても良いとは思うんですよ」>

山本 英治 >  
悪い意味でのステレオタイプ。
面白い考え方だと思った。
見た目で人を決めつけて先入観から入るより。
見た目なんて当てにならないと考えるのが何かと良いのかも知れない。

「ステレオタイプ」

目を丸くして復唱する。
正しく平和なインテリジェンスを持った人だ。

「メンタル不調なせいで病棟内を歩かせてもらうので精一杯」
「曖昧でふわふわしたまま……そんな中で境界も不確かな人間関係を築けたら」
「きっと少しだけ世界が平和になりますよ」

馬鹿にする意図はない。
四角四面に考えすぎると、途端に上手く行かないものなのだ。人間というやつは。

「こだわり多すぎだな……手料理はトルコ料理オンリーだし」
「ベルトは左から巻かないと落ち着かないし」
「腕時計は壊れないように胸ポケットに入れておくのが仕事の始まりですね」

胸ポケットからメーカーも怪しい腕時計を出して器用に片目を瞑って笑う。
携帯灰皿に煙草を押し付けて揉み消す。

「そりゃ確かに………」
「いつも同じ人がやってたら……」

遠くを見ながら、しみじみと言う。

「疲れてしまう」

疲れたし、お休みもらっちゃいたいなー。
そんなことを言いながらも。宿敵と戦うことばかり考えている。
次第に弱っていく体で。次第に霞んでいく視界で。
戦うことばかり考えている。

「……ですね」

月を眺めながら、手放す云々の話にどこか他人事のように答えた。

「存外に気遣われているなぁ……」
「時が病じゃなかったら、何もかも時間が解決するのを望みたい」

「……本当は焦りたくなんか、ないですしね」

日下 葵 >  
「ですです、悪い意味でステレオタイプです。
 はなっから期待しない、と言ってしまうと冷たいですか。
 でもあてにならないモノはあてにしないに越したことはないと思うんです」

意外と、ヘラヘラしている私みたいなのが
大真面目に考えて行動しているかもしれません。
そんなことを言って見せるが、どうだろう。
この例えはあり得ないかもしれない。

「とても平和だと思います。
 ええ、曖昧にしておいた方が、楽なこともありますし」

ただ、拠り所は欲しい。
確固たる芯の周りを、曖昧な色と境界で覆っていきたい。
そんな気持ちは間違いなくあった。

「そういうこだわりなら私にもありますね。
 ナイフは特注の奴でないと嫌だし、
 煙草の銘柄もこれじゃないと嫌だし、
 ってあれ、これは好き嫌いの話になっちゃいますか」

話していて、自分は案外そういう部分があるのだと気づいて苦笑い。
彼の言うことは、まさしくこだわりなのだろう。
別に料理の内容も、ベルトの向きも、腕時計をしまう場所も、
仕事や生きる上で特別必要なことじゃないのだから。

「気を遣っているように見えました?
 あまり気を遣っているつもりはないんですけどねえ。
 私の反応がわざとらしいからでしょうか」

わざとらしい、これはいつぞや同僚に言われた言葉だった。

「なんにせよ、手の届く範囲のことしかできないんです。
 やれることを一つずつ片付けていくほかないですよ」

どうしようもないものはどうしようもない。
疲れていたら戦えないし、
海の向こうの事件は解決できない。
死んだ人間は戻ってこないし、
落としたケーキは形を戻さない。>

山本 英治 >  
「なるほどねぇ………目からウロコ」

『人は見た目が九割』というのは、初対面の人間は視覚情報で印象がほぼ決まるという論法で。
そういう意味でも見た目から受けるインパクトはかなり大きい。
そういうのを捨て去った先にもまた、人付き合いはあるのだなぁ。

「はっきりさせるってとにかく角が立ちますからね」
「まぁ、風紀委員が言うこっちゃないのかも知れませんが」

思えば敵と味方も曖昧な世界で。
答えを焦って出す必要もないのかも知れない。
でも……俺には時間がない。

「へえ、ナイフにこだわりが」
「煙草は俺もこだわりがあるなー」
「好悪と日常に見出す儀式じみたこだわりは分ける必要があるかも知れませんが」

カラカラと笑って。
なんだか、不思議と落ち着く雰囲気を持った人だなぁ。

「わざとらしいっつーなら、この前に夏祭りで女性を口説いてる時に」
「喋り方が気持ち悪いって言われましたからね……」

俺、大分気取った態度を取ってたんで……と苦笑い。

「良いことを良いと言ってやっていくしかない、か……」

良いこと。なんとも漠然とした話だな……
俺は自分にとって何が良いのかもわからんねぇわ。