2020/09/24 のログ
ご案内:「常世公園」に水無月 沙羅さんが現れました。
■水無月 沙羅 >
ふと、目が覚める。
公園の芝生の上で横になっている自分がそこには居た。
今日の日付と時間を確認する。
最後に自分の意識があった時間と大きく離れていた。
少なくとも数日間、意識のない間に動いているという事が自分でも理解できる。
おそらくは、『椿』と名乗ったもう一人の自分が代わりに動いているという事だろう。
其れもこの一回だけではなく、最近は頻繁に起きていた。
デバイスでニュースや最近来ている連絡を確認する。
これと言って変わったこともなければ、平穏そのものにも見える。
知らない連絡先が何件か登録されているが、よく見ると新設ご丁寧に詳細情報が追記されていた。
どこで出会ったのか、どんな関係なのか、どのような会話をしたのかまで。
自分の代わりに動いている椿という人物は、どうやら自分の生活を崩さないように配慮してくれているらしい。
以前のような凶悪な事件が起きているわけでもない、というのが不可解ではある。
神代理央が病院で生死の境をさまよっている頃から、記憶が曖昧だ。
ニーナ、いや、ノースに似た少女に出会った記憶がちらりと頭痛と共に過る。
完全に記憶がない、というわけでもないらしい。
身体の節々が痛み、倦怠感がひどかった。
どうにも、椿は思った以上にこの身体を酷使しているらしい。
「……。」
曖昧な意識のまま、空を見上げる。
まだ、星は見えない。
唯一見えるのは、青空でもはっきりと輪郭の見える月位のものだ。
■水無月 沙羅 >
件の事件、自分の作成した書類の整合性をとるための任務をこなした後、デバイスにもたらされた急報に病院に駆け込んだ。
そこでレオと名乗る少年と出会ったことまでは辛うじて覚えているものの、その途中から記憶がぼんやりと霧の様に霞んでいる。
思い出さなくてもいい、そんな風に隠されている感覚。
結局自分のしたことは、自分の大切なものを失うきっかけに過ぎなかった。
そう考えた時の自分への失望感と、無力感、そして、彼が死んでいまうかもしれないという絶望はいとも簡単に自分の心を砕いた。
一命をとりとめた、ということは辛うじて覚えている。
何度か見舞いに行ったような記憶も微かにあったが、その時にしたであろう会話もぼやけていて思い出せずにいる。
自分が、彼らを死の淵に追いやった。
その恐怖に、今も体が震えていた。
その事実を受け止められるほど、自分は強くはなかった。
肺がきゅぅっと締まるような感覚に襲われ、呼吸もままならなくなる。
涙が流れるのと共に荒い呼吸が始まり、芝生の上をのたうち回っている。
「私はっ……何のために……っ。」
息も絶え絶えの中、口に出たのはその一言だった。
自分を殺して、この苦しさから逃げ出してしまいたい。
そんな願いすら、自分の異能と肉体は許してはくれない。
『死を想え。』
その言葉が、深く胸に突き刺さっている。
自分には遠く、しかし大切な人たちに降りかかるそれが、途方もなく恐ろしい。
■水無月 沙羅 >
また、自分だけが生き残る。
自分だけが取り残される。
大切なものは皆失われ、何もかも手元からこぼれ落してしまった自分だけが其処に居る。
人らしい感情も、家族も、死という概念さへ失ったあの頃の記憶がよみがえる。
「あ、あ、ぁ、ああああぁぁぁぁあああああっ!!!」
恐怖は絶叫に変わり、絶叫は呼吸不全を引き起こし、苦しさをさらに強めた。
脳に回る酸素が足りなくなり、意識が遠くなる、叫ぶ声すら酸欠によりか細くなってゆく。
叫び声とともに、地面には大粒の涙がこぼれ落ちていく。
自分だけが取り残される、その苦痛に、少女は耐えられない。
■水無月 沙羅 >
「けほっ……ぁっ、ぃ、や……、ひとりは……。」
薄れてゆく意識に、呼吸ができない胸を抑える。
口からこぼれるのは、其れでもなお孤独を拒絶する言葉だろうか。
もう、あの頃には戻れない。
ご案内:「常世公園」にレオさんが現れました。
■レオ >
「――――沙羅先輩?」
声をかける、青年が一人。
記載されているなら”最近一緒に仕事をしている”同僚の青年だ。
ベージュの髪は前に会った時と同じようにツンツンしていて、後ろで一つに縛っている。
背には竹刀袋を背負い、他に手持ちの荷物はない。
少女からすれば病院以来、青年にとっては、数時間か、数日前に会ったばかりだ。
―――泣いている?
泣いているのを見たのは、これで二回目だった。
前の時は、病院だった。
あの時は神代先輩が倒れて――――
それからもう結構な時間が流れた。
いや、一瞬のような時間だったかもしれない。
どっちにしたって、傷が癒えるには短すぎる時間だ。
飲み物を二つ買って、静かに近づく。
前と同じように、そのうちの一つをそっと、差し出した。
「―――飲めますか?」
■水無月 沙羅 >
「レオ……く、んっ……?」
呼吸もならないまま、地に這い蹲るようにして少年を見上げた。
なんとか立ち上がろうろして、芝生の地面を掴もうとして地面を爪がえぐる。
隙間に砂利が深く入り込んで、わずかに血液が零れる。
異物が邪魔している傷は異能では回復されず、痛みは続いている。
片手で胸を抑えたまま、声をかけてくる少年からわずかに距離を取るように後ずさった。
こんな姿を見せたくないという気持ち。
そして、自分と親しくなった人間が次々に事件に逢っていくこの現状に、親しくなった人間は不幸になるのではないかという妄想すら重なって。
小さな悲鳴と共に、怯えた表情で少年を見るのだろうか。
差し出された飲み物と、少年の顔を目線が何度も往復する。
そこに、頼りになる風紀委員の先輩は居なかった。
■レオ >
「――――」
傷。
血が出るくらいに爪で抉る、傷。
明かな動揺の顔、小さく漏れた悲鳴。
自分を見る眼は……不安と恐怖。
――――あぁ。
だから、言ったのに。
神代先輩‥‥‥これで、いいんですか。
こんなに苦しんでるのに、貴方がいなくなった後に、彼女が幸せに生きれるんですか。
本当にそう思ってるなら……
一瞬目を伏せ、そして、再度目の前の先輩の方を見る。
その目に映る自分と同い年の先輩は……常世島にくる以前に何度か見たことのある表情と、似た表情をしていた。
「……失礼しますね」
自分用に買っておいたのがミネラルウォーターでよかったな、と思いながら血の出た指先を手に取ろうとする。
無理に拒絶しなければ、そのままペットボトルの蓋を開けて、中の水で爪の砂利を洗い流そうとするだろう。
■水無月 沙羅 >
手を取られることに、びくりと震えるも、大きな拒絶をする事は無かった。
いや、拒絶する力すら湧いては来ない。
恐怖に固まった自分の体はほとんどいう事を聞かず、少年のすることを唯見つめていることしか出来なかった。
未だに荒い呼吸は治まらず、開いた拳は自分の胸元を握ったままだ。
水に押し流され、爪の間に入り込んだ砂利は取り除かれ、異物の無くなった傷口は異能によって見る間に塞がってゆく。
その自分の体のおぞましさに、慌てて手を引いた。
「ご、ごめっ、ん、なさ……っ」
過呼吸気味の息苦しさの中、何とかそれだけを言葉にする少女の紅い瞳は、左右に泳ぎ逃げ場所を探している。
■レオ >
「――――大丈夫ですよ。」
静かに言う。
傷がふさがるのを見て、そして、手を引っ込めたのを見て「あぁ、やっぱり…」と、静かに思った。
「……似たような体質の人に…よく、会う事がありました。
…沙羅先輩の体質も、実は最初から……感づいていましたから。」
そう、気づいていた。
会った時から、彼女が”不死”であると。
その身にまとう”死の気配”から…そうだろうというのは、分かっていたのだ。
そして、今どうして、ここまで動揺し、恐怖しているのかも。
なんとなく…分かっていた。
「―――死ねますよ、先輩は。」
こんな事を言うのは、普通ならどうかしてるとは思ったけど。
だが今彼女が抱え込んでいるものの救いになるのは…
少なくとも自分に言える言葉は、これしかなかったから。
■水無月 沙羅 >
「何、言って……。」
大丈夫と、そういう少年の言葉に疑問を持ち、その次の言葉には特に驚きはしなかった。
自分の肉体に近い体質の人間や異邦人は確かに存在する、それ自体はおかしくはない。
勘づいていた、というのには多少驚きはするだろうが、自分に関する書類さえ見ていれば知ること自体は簡単だ。
問題の言動は、その後だった。
自分が死ねる、という言葉の意味。
その言葉の意味するところは、沙羅の知る限りでは二つ。
己の異能の秘密を知っているか、『不死』である自分を殺せる術を持っている、という事のどちらか。
自分の異能の秘密を知っているのは、指で数えるほどしかいない。
それを『彼女』が教えるともおもえない、ならば彼は。
『水無月沙羅を殺せる』そう言っているのだ。
少年の言葉に、震える身体で立ち上がり、二、三歩後ずさった。
■レオ >
「――――不死斬り。」
ちいさく、話しはじめた。
「僕の師匠は、端的に……僕の”異能”を、そう名付けました。
力の内容は、名前の通りです。
”不死を斬れる”異能です。
”死なずの存在”に、”死ぬ”事を可能にするもの。
…不死が僕に傷をつけた場合、その人の”不死性”ごと、潰す事になる…らしいです。
とはいっても、ただの傷なら…僕が目の前にいる間だけ。
僕が目の前からいなくなれば、また普通に不死の性質が働きます。
ただ…首を刎ねたり、心臓や…核のようなもの。
それを貫いた場合は、話は別です。
僕が離れても、僕が与えた”死”っていう結果は、そのまま…残り続けます。
例えば……
再生するようなタイプの不死なら。
”僕につけられた傷は、僕の目の前にいる間、再生する事はありません。”
…試して、みますか?」
そういって、彼女の方を見ながら、風紀委員の腕章を留めていた安全ピンを外す。
そしてそれを掌に置いて、少しだけ彼女の前に出す。
彼の言っている事が本当であれば、目の前の唯の安全ピンであろうと…
彼の手で傷をつけられれば、彼の近くにいる限り、不死の力で再生する事はないという事になる。
それを確認するかどうかは、彼女に委ねるというように。
近づく事はせず、ただ、返事を待っていた。
■水無月 沙羅 >
「いらない……っ。」
震えた声でそれでも上げるのは、拒絶だった。
少女にとって、不死は忌まわしいことだ。
死にたいと思うこともある、何時だって普通の人と共に死ねたらいいと思っている。
それは間違いない。
愛する者に、大切な人々に残され、自分だけ生き残ることは辛い。
しかし、『人に殺される』のと、『自由意志で死ぬ』事とは大きく異なる。
だれかに殺されるという事は、誰かにその孤独を押し付けるという事に他ならない。
少なくとも、目の前の少年に其れを押し付けるつもりはない。
「死を想う事と、死を望むことは、ちが、ぅっ……!」
首を振って、涙を流して、ままならない呼吸のままで、訴える。
少なくとも、自分の望む死は、其れではない。
■レオ >
「―――それで沙羅先輩は”耐えれ”ますか?」
静かに問う。
■水無月 沙羅 >
「ぁ、なた、には、関係……ないっ!」
それは精一杯の強がり。
耐えられるのならば、人格が入れ替わるような歪さは現れないだろう。
その孤独に、その辛さに、絶望に耐えきれないことは己がよくわかっている。
だが、耐えられないからと言って、自分のことを知りもしない少年に其れを言われることも、任せることも。
『筋が通っていない』
■レオ >
「関係、ありますよ。」
否定する。
望まれていないのは分かってる。
拒絶されているのも分かっている。
が…関係ないと言われたら、それは、否定する。
「沙羅先輩が辛いのを見るのは、僕も辛いです。
僕は貴方と会いました。
病院の、神代先輩の手術の結果を待つ廊下で。
勝手な話だと思いますが、その短い時間に貴方に思うところが、沢山できました。
これは、他の先輩の受け売りですが…
”もう他人ではいられない”んです。」
白い髪の先輩に言われた一言を思い出す。
何で関わるのか、関係ないという言葉を否定するのかと言われれば……それが理由だった。
「……沙羅先輩がちゃんと、神代先輩といっしょにいて。
それで、ちゃんと幸せになれるなら、いいんです。
そんな人を殺したくない。
でも……もしも。
もしも神代先輩が死んで。
それに貴方が耐えられないと思ったのなら。
”死にたい”と思ったなら。
それが出来ないのはあまりに残酷だと、思うだけです。」
静かにそう告げながら、少しだけ視線を落とす。
感情の吐露。
歪んでるのかもしれない。苦しむのなら、殺したい、だなんて。
でも不死は……
死ねないのはあまりに、辛い。
それを見て来た。
そして今、自分も……厳密に”彼ら”と抱える苦しみとは違うかもしれなくても、同じような苦しみに、苛まれている。
だから、こそ。
「残される人間に”生きて”なんて――――そんなの、呪いだ。」
■水無月 沙羅 >
「だとしても……っ、それは、貴方にっ……頼むことじゃない……。」
彼が自分にどんな感情を抱いていたとしても、あの一瞬で何を感じたとしていたとしても。
もう他人ではいられないとしても。
「死にたいから、殺す、そんな、かんたんな事じゃない。
君にとってそれが、どんなことなのかは、知らない。
でも、わたしにとっては、それは。」
「とても、大切なことだから。」
どんなに死にたくても、どんなに呆気なく愛おしい人が死んだとしても。
死は一度しかないかけがえのないもので、軽々しく扱っていいものではない。
死にたいから死ぬ、何て、そんな都合の良いことは、許されない。
それが、自分の慕う彼女の教えてくれた教義だからこそ。
「残酷、だとしても、辛くても。
たえられ、なくても。
生きる事を、諦める理由には、ならない。」
少しだけ楽になりつつあった呼吸で、たどたどしく答えを紡ぐ。
答えを頭で反芻するたびに想像してしまう、最悪の未来は容赦なく沙羅の心を抉る。
「だから、貴方のそれは、間違ってる。」
胸の苦しみと痛みを抱えたまま、少年を拒絶した。
■レオ >
「‥‥‥‥」
――――あぁ。
強い人だ。
強くて、そして。
”優しい”人だ。
でも――――
「――――それなら」
知ってる事が一つだけある。
「沙羅先輩。」
そんな人ほど。
「―――改めて言います。」
不死の”呪い”は、心を突き刺していく。
だからこそ―――
「”僕を、使ってください”」
もう一度、かつて…最初に会った言葉を言った。
「―――貴方が僕に殺されるのを望まないなら。
それは構いません。
実際に…僕は貴方の事を、何も知らない。
まだこの島に来て間もない。
ただの、新参者です。
でも……だとしても。
”力になりたい。”
…どんな風に力になれるかは、分かりません。
それでも…
”貴方がそう望むのなら”
”貴方が生きるのを諦めたくない”と言うのなら。
諦めてしまうほどの苦しみに心を殺される前に。
貴方の助けになって、支えになって。
貴方の不安を、恐怖を解消する”力”になりたい。」
■水無月 沙羅 >
「……。」
少年の過去に何がったのかはわからない、しかし。
「ダメ。」
それでも少女は少年を拒絶した。
未だ酸欠で歪む脳内で、しかし少年を見据える紅い瞳は、何処か輝きを増す。
少女から伸びる手は少年を優しく引き寄せ、胸の内に抱き寄せようとする。
「力になりたい、その気持ちは、嬉しい、けれど。」
「貴方の、それは、人の言葉じゃない。」
「貴方は、人を殺す『物』ではない。
理央さんも、貴方も、システムでも、道具でも、ない。
どうしてあなた達は。」
どうして、自分の周りの人たちは。
「自分を大切にしてくれないの。」
少女が泣いている、その理由を。
少女を傷つけているその理由を。
少年に訴える。
ただ、それだけでいいのに。
其れだけでいいはずなのに。
貴方達の使う、その言葉は、何時だって。
自分を置き去りにするものなのだ。
■レオ >
「‥‥‥‥……」
少女に、抱きしめられる。
何度目だろうか、こうされるのは。
柔らかい…身を委ねたくなる。
でもそれは出来ない。
「‥‥‥‥‥沙羅先輩は、優しいですね。」
この人は。
とても、優しい。
温かくて、命を大事にしていて。
大切な人も、自分なんかの事も、何でも気にかける。
「……………神代先輩は、まだ…戻れますよ。
僕と違うから。
それでも頑ななら……”『鉄火』の代行者”として、僕が…あの人を無理矢理止めますから。
…僕の事は――――」
”気にしないでください”と言いたかった。
でも、言えなかった。
言ってはいけない気がした。
『なんで自分を大事にしてくれないの』
なんで……こうタイミングがいいのか、悪いのか。
ついさっき会った、別の先輩の言葉が鉛のように圧し掛かる。
『そしておまえがもし、大切に想われることがあれば、
おまえみずからのことも、大切にするように。』
―――あの人は、近いうちにこういう事を自分が言われるって、分かってたんだろうか。
「……まだ。
まだ……出来ない、と…思います。自分を、大事にすることは……
でも……
”そうできるように、なっていきたい”と、思う事にします。」
”大事にします”とは、言えなかった。
まだ、自分の事をそういう風には、思えない自分がいるのを分かっていたから。
だけど……
言われた言葉を。
自分を案じる人の事を。
無碍には……出来ない。
出来なかった。
■水無月 沙羅 >
「優しくなんて、ない。
我儘な、だけ。
だれにも、傷ついてほしくないだけ。
私の周りで、だれも。」
泣いてほしくない。
泣かせないでほしい。
笑っていたい、唯それだけ。
自分が願い続けることは、それだけの事。
でも、それは言葉ほど簡単ではない。
「……それは、私や、彼の、しなくちゃいけない事。
貴方が鉄火になる必要は、ない。
私は、貴方にちゃんと、言ったよ。
貴方は、あなた以外には、なれない。
代行者なんて、そんな詭弁、捨ててしまったほうが良い。」
それは、密かに抱いていたこと。
あの病院でも言った、言葉の意味をどういうわけかはき違えてしまった少年を叱咤する言葉。
代わってほしいなんて、頼んでいない。
「彼も、私も、自分の事は、自分で、解決しないと、いけない。
力を借りることは、ある、けど。
相談することも、話し合うこともするけど。
押し付ける事だけは、出来ない。」
それは、彼もきっと同じだと、信じている。
だから彼には、『自分の道』を進んでほしいと思う。
「自分を大切にするっていう、本当の意味を、私たちは考えていかないと。」
大切なものを、いつか取りこぼしてしまう前に。
少年の返答に、力なく微笑みながらそっと腕を離した。
また、距離を少しだけ開けて。
「君は、君だよ。 彼じゃない。」
そう言ったあと、力なく座り込んだ。
■レオ >
「……そんな名前で呼ばれ始めちゃったので」
小さく、苦笑する。
「……僕は、自分を大切にするっていうのが…出来ないんです、多分。
誰かに大事にしてほしくもない。
何も思われたくないし……想いたくも、ないんです。
機械であればいいって、思ってました。
ずっと…」
そうすれば辛くは、ないから。
誰かに心配されたくなかった。
”物”でありたい。
神代先輩が、システムとして、”物”として動いていて…それでこの人が苦しむなら。
自分が代わりに、”物”となって…
そして、神代先輩が”物”である必要がなくなって。
彼女が傷つく事がなければ、それが一番だと、思っていた。
「……いつの間にかそれも、沙羅先輩を傷つけてましたね。」
そう。
言葉を、はき違えた。
いや……聞いてすらいなかったのかもしれない。
「…変わらないと、いけないんですね。
沙羅先輩も傷つけてしまうなら……
あの子ももしかしたら…
それは…嫌だなぁ…
思い通りに…いかないなぁ。」
思い浮かべたのは、修道院で会った女の子。
あの子がどう想ってるのかは分からないけど…
既に少しずつ、自分の中で”大切な存在”になりかけている気がする、あの小さな、女の子も。
傷つける事になるのは…嫌だった。
そんな風に想っていれば、目の前の先輩が疲れ切ったようにへたり込む。
当然、か…
そっと手を差し伸べ、支えになろうとするだろう。
「―――大丈夫、ですか?」
■水無月 沙羅 >
「変わりたいと思うなら、ゆっくり変わっていけばいい。
人は、急に別人にはなれないから。
なりたい自分に、なれる様に、考えていくしかないんだよ。」
自分も、理央も、この世界で生きて居る人間だれしもがきっと、変わりたいと願っている。
それが簡単ではないからそこ、誰しもが苦しんでいるのだ。
目の前の少年も、例外ではない。
「……生きて行く間は、人とつながらないなんて、出来ない。
誰かに思われて、誰かを想って、そうして生きて行くのが人間だから。
機械には、システムには、なれっこないよ。」
彼が、その重圧に押し潰されそうだったように。
自分が、機械になり切れなかったように。
人間とは、そうできているから、そうなってしまう。
物になろうとすれば、歪みが産まれる、だからこそ何かを傷つけてしまう。
そうして、私たちは間違える。
人は、人以外にはなれない。
「すこし、疲れているから……もう、帰らなきゃ。
しぃ先輩の待つところに。」
気が付けば、夕日も沈み始めあたりの空は赤く染まりつつあった。
今頃、少女はどんな顔をして待っているのか。
朦朧とした頭でそなことを考えながら、少年の手を取り。
「生きるのって、難しいね。」
そう言葉を残して手を離し、少年に背を向ける様にして公園を後にするのだろうか。
■レオ >
「そう…なんですかね。」
人は機械にはなれない。
それは…少しだけ、悲しい気持ちになった。
一つの救いが消えたような、そんな悲しみ。
でも、もう…それを目指してはいけないのだろう。
それを、望まない人がいるのなら…
「そうですね、そろそろ、帰らな…えっ」
帰る、と言った目の前の先輩が続けて言った言葉に、少し目を丸くする。
しぃ…先輩?
しぃ……
しぃ先輩????
「…ひょっとして、神樹椎苗って女の子ですか?」
手を離そうとした彼女を一瞬引き留めて、つい聞いてしまった。
■水無月 沙羅 >
「……そう、だよ?
私の、大切な人。
私を、人間にしてくれた人。
私を、『水無月沙羅』にしてくれた人。
神樹椎苗、しぃ先輩。
私の、お母さんみたいな人。」
首をかしげて、掴む腕を見る。
■レオ >
「……………」
ぽかんとする。
けど、同時に少しだけ納得したというか……
ある意味での同族、だからこそなんだろうか。
いや、やっぱりぽかんとする。
いや、いやいやいや。
1日に色々な事が繋がりすぎてしまった。
「……最近、色々あって僕もお世話になっています…神樹さんに」
思わず頭を少し抱えた。
だって、まさかここで繋がりがあるなんて思いもしなかったから……
常世島、本当に……狭いな…
■水無月 沙羅 >
「……そう。」
あの人らしいな、と少し笑って。
「手を出したら、メッ、だよ?」
冗談っぽく笑って、こんどこそ公園を後にした。
手を出すの意味は、あえて口にはしなかったが。
■レオ >
「ぶふ…ッ!!!!」
噴き出した。
■レオ >
「しません…
しませんので…!!!!」
必死に、返した。
あぁ、あぁああああああ…‥‥
困った事になってきた…
「…と、とりあえず…送りますよ。
どうせ僕も神樹さんと会うと思うので…」
少し赤くなりながら、兎も角、と…そういって、拒まれなければ彼女を支えるようにしながら公園を去る事になるだろう…
ご案内:「常世公園」から水無月 沙羅さんが去りました。
ご案内:「常世公園」からレオさんが去りました。