2021/04/04 のログ
■藤白 真夜 >
「……!
……はいっ」
やっぱり。少しだけ、……ひねくれたというと、失礼でしょうか。
素直でない反応をされる薫さんの。
むしろ、私のしつこさに呆れさせてしまったかも、しれないけれど。
少しだけでも、私を受け入れてくれたような気がする言葉に。笑顔を、浮かべて。
「あっ。で、でも、おあいこにはまだ遠いですからね……!
これくらいでおあいこにされてはむしろ私が困りますっ。
もう、本当に、すごいことなんですからっ!
私が、1年……いや2年くらいかけてようやく出来る量を貴女のおかげで一度に出来てしまったといいますか……
あ、でも本当に別に貴女には何も悪影響はありませんからねっ!結局、血液の反応はアレきりでしたし、」
……そのまま、だぱーとすごい勢いで喋り続ける。
ほんの少しでも、貴女の心に触れられたような、気になっていたから。
「……あっ。す、すみませんっ、た、体調が悪いのに……!
……。」
ベンチに座る彼女を見つめて。
……私がどうにか出来ることは、きっと無い。
だから、彼女も大丈夫だと答えたのかもしれない。
彼女のしてくれたことには、正直現金を大分積んでもおかしくないほどのものだったけれど。
せめて、すこしだけでも。
「ちょ、ちょっと待っていてくださいね!」
すすっと走って公園の外まで行けば、自販機でアイスティーのペットボトルを買って。
「こ、これ……。
汗が、すごいので、額を冷やして少しでも、楽になれば、と……」
少しだけでも楽になればと、冷えたペットボトルをハンカチで包んだものを、手渡す。
……デフォルメされた犬が走り回ってる柄のハンカチでちょっと恥ずかしい、けど。
■黛 薫 >
聞く気がない、と言った手前深掘りするつもりは
ないが、やはり先日の件……ただ血液の入った瓶を
受け取っただけの邂逅を大袈裟に感謝されるのは
不思議な気分だ。
先日の会話と今漏れ聞こえた情報を照らし合わせる。
彼女が頼み事をした切っ掛けは自分の体質、つまり
霊的存在との親和性に起因する。本来なら年単位で
かかる何かしらの目的を、たったそれだけの行為で
成したとなれば感謝されるのも分からないでもない。
では、その目的とは何なのだろう。
(……あーし、そんな大したコトしてなぃのにな)
上の空のままペットボトルを受け取り、財布から
150円を出して差し出す。催促されていないのに
無意識にお代を返そうとするくらいには律儀。
ハンカチに描かれた柄を一瞥してペットボトルを
額に……当てるつもりだったが、持ち続けるのも
怠くて億劫だ。仕方なく動脈を冷やすように首で
挟む形に落ち着いた。
「……禊、とかかな」
口に出したつもりはなかった。
思考の帰結が無意識のうちに溢れただけ。
■藤白 真夜 >
「……はっ!
い、いけません、そ、それだけは~っ!」
お代を差し出してくる薫さんに、ああそういうところを考えていなかったとかわたわた首を振りながら……っ。
奢らせてはくれませんか……!何卒……!とぺこぺこ頭を下げながら、ふと。
薫さんの口から漏れた言葉が、耳に届く。
……そうだ。
この人は、知る権利がある。
だから、こんなに私が一人でわたわたしている変な人のようになっているのだし。
「……私は、おばけに取り憑かれてるんだそうです」
……また変な人になっているけれど、気にしない。
静かに、それこそ、懺悔するように、静かに。
「お祓いとか、色々試したんですけど、何もうまくいかなくて。
薫さんのような体質の方にも、何度も手伝っていただきました。
……でも、何一つうまくいかなかったんです」
困ったように、笑う。
……疲れ切った、笑み。
「だから、少しずつ……人助けや、良いことをしてるんです。
それだけでも、肩の荷が軽くなるような想いが、して」
「……でも、あなたが、少しだけ、軽くしてくださいました。
このおばけは、私に執着しているんです、きっと。
でも、少しだけ、貴女に目がいった。
……乗り換えるなんて、出来る筈が無いのにね」
……少しだけ、悲しい顔。
「……だから。
あなたは、私にそれだけのことを、してくださったのですよ」
でも、感謝を。
私などに憐れみがこぼれ落ちたことに、貴女を祈りの対象かのように、安らかな顔で見つめるでしょう。
「……、……お礼のお金とか、受け取ってください、ませんよね?
お祓いって、高いんです。本当に……」
なんて。
すきあらばお金を渡そうとする、怪しい人には変わらないかも、しれませんけれど。
少なくとも私は、この人にまっすぐに、応えるべきであったから。
■黛 薫 >
「ぁー……声に出てました?」
バツの悪そうな顔で髪の先を弄っている。
聞く気がないと言っておきながらこの始末。
罪悪感ともやや異なる居心地の悪さを感じる。
とりあえず差し出しかけた小銭はしまった。
異能や魔術、怪異に満ちたこの島でお化けや幽霊の
実在を今更疑う気にはなれないが……それが深刻な
悩みとして1人の少女に陰を落としていると聞くと
逆に怪しくさえも思えてしまう。
もっともそうやって霊的存在の実在に向き合わない
一般人が多いからこそ祭祀局という機関が必要に
なるのだろう、とも思い至ったので口にはしない。
「……うん、でもやっぱお金はいらねーです。
そーゆー仕事?でもねーのに受け取って良いのかも
分かんねーですし。あーしなんかがたまたま役に
立てたくらいで調子に乗るのも良くないすからね」
その言葉は貴女に近しく、しかし根本が異なる。
自己肯定感の低さ、自己への卑下に根差す貢献への
欲求と諦観は共通しているが、負い目から逃れる
ために善行に駆り立てられる貴女とは真逆で……
自分が貢献できたという事実さえも信じられない
自暴自棄に近かった。
「まあ、アレっすよ。色々やってダメだったって
言っても何とかしようと努力はしてたんでしょ。
あーしに会って禊に使えるかもって気付けたのは
何とかしたいって気持ちを持ち続けてたから。
あーしは唯のキッカケ。あーたが頑張ってたのが
ちょっと元の道から外れてたトコで実っただけ。
あーしに払って無駄にするお金があるんだったら
自分へのご褒美にでも使った方が有益じゃねーの、
って思ぃますよ、あーしは」
■藤白 真夜 >
「は、はいぃ……」
早くも差し出しかけていたお財布をしずしずと仕舞う。
本当は、お金で片付けることすら後ろめたい。
何か、恩を返せればと思うことばかりが、一人先走ってしまったけれど。
「……あ、あはは。
私に出来たことなんて、結局、自己満足みたいな、モノなんですけど、
――、」
……努力は、続けていた。
そうだった。
あまりにも無意味に思えて。何度も挫けながら。
それでも。
結局のところ、私は何もしてない。
ただ、幸運に恵まれただけだ。
この人に出会えただけだ。
その幸運のしるべが、私の努力を――認めてくれる。
音もなく、静かに透明な滴が頬を伝った。
無駄かもしれない。ただの自己満足かもしれない。
……けれど、その頑張りを認められたのは、初めてだった、から。
それは確かに、果てしなく続く暗い旅路に差し込んだ光だった。
「あッ、……す、すみませんっ。……えへへ。
ちょっと、疲れて、いて、その……」
慌てて目元を拭うけれど、それでも静かに涙は流れていた。
取り繕うことを諦めて、まっすぐに薫さんを見つめる。
「――有り難う。」
もう一度。
初めてあったときのように、彼女の手を取る。少しでも、想いが伝わるよう。
「どうか。
あなたが辛くて、挫けそうなとき。
……哀れな女を一人助けたことを、覚えておいてくださいませ。
それが、少しでもあなたの心の安らぎになりますように」
瞼から涙を溢しながら、笑みを浮かべる。
懺悔するように、彼女の手に額を当てて――もう何処にも届かない祈りを。
■黛 薫 >
「……泣くほど疲れてんなら、余計にあーしなんか
助けてる場合じゃなぃと思うんすけどね、ホントに」
呆れているような言葉、しかし声音は静かだった。
ペットボトルを包んでいた貴女のハンカチを使って
その涙を拭おうとする。己が汗を拭いて貰ったのと
同じように。
「っと、あー。何も考えずに使っちゃいましたけど
大丈夫すかね、汗の匂いとか……いぁ、すみません。
あーし、今キレイなハンカチとか持ってなくて。
このハンカチも可愛い柄ですし、あーしを拭くには
勿体なかったんじゃないかな、とか思ったり……」
このまま涙を拭い続けて良いのか迷って、行き場を
無くした手を彷徨わせる。霊的存在との親和性から
生じる錯覚、惹き付けるような芳香の幻を抜きに
して考えれば、彼女の躊躇も分からないでもない。
少なくとも年頃の乙女に感じられるような色気の
ある匂い──化粧品や香水、お菓子やスパイス、
素敵なモノいっぱいで満たされた匂いはしない。
強く感じられるのは煙草の匂いと、それを隠そうと
して失敗した消臭芳香剤の香り。……鼻が効くなら
その奥に血と消毒液の匂い、欲と汚濁の匂い。
「……はぁ、祈りで楽になるかは……祭祀に明るく
なぃんでしょーじき分かんねーですし、それなら
お金の方がまだ分かりやす……あー、いぁ。お金は
変わらず受け取る気ねーですし?あーたの祈り?が
無駄って話でもなくて、あーしが詳しくなぃから
分かんなぃってだけっす、はい」
日頃あれだけ求めている金銭が労せず手に入る。
そんな好機を前にすると、喜びよりも不安と疑念が
先に来て、頼まれても手を伸ばしたくなくなるとは
我がことながら捻くれている、と思う。
■藤白 真夜 >
「……す、すみません。……いえ、ありがとう、ございます。
……えへへ、いいんです。
貴女に、ああ言っていただけただけで、私は」
拭われるままに、瞳を閉じる。
やはり貴女とは似て非なるように、その手を信じて身をまかせながら。
今も香る、彼女の薫りは、予想は……ついていた。
あまり覚えの無い煙たいそれと、部屋にいくらでもある親しんだ消臭剤のそれ。
……そして、私は絶対に血の香りを逃さない。
どこか甘く濁ったモノと同時に漂うソレは、やはり、悪酔いの予感を伴って私を誘った。
「……はい。
私が勝手に祈っただけ、ですから」
私は、このひとを知らない。
このひとは、きっと、正直なひとだ。
自ら楽になることを選ばず、正しく在ろうとするひとなんだ。
……そして、正しい道とは、楽な道を意味しない。
傷ついた指先や、薫りの残り香でわかってしまった。
それは、私とはやはり、似ているが違う。
私は、幸運続きだ。
彼女は、きっと、まっすぐに生きて……歪んだ何かに呑まれたのか。
それはわからない。
でも、茨の道を進むことは、きっと同じだと、思ったから。
「……貴女にも、きっと、幸運があると思います。
私でさえ、そうだったのですから」
哀れみじゃない。同情でもない。
ただ、似て……同じものを見る瞳で。
少し涙が浮いた目で、あなたを見つめるのでしょう。
■藤白 真夜 >
「……あ、あはは。
す、すみません。また、変なこと言っちゃって……へ、変なこともしました、ね。
も、もう、泣きませんから」
……なんて、ようやく恥ずかしさが襲ってきたのか、わたわたと立ち上がって。
「……どうか、お元気で」
少しでも、彼女にやすらぎがあるように。
私の祈りは、きっと変なところに届いてしまうから。
心の中の、秘めた祈りを。
ハンカチは彼女に貸したまま、恥ずかしそうに立ち去ろうとするのでした。
■黛 薫 >
「……さぃですか。じゃあ、まあ……期待せずに
待つとしますかね。その……幸運とやらを」
手を伸ばした瞬間は、やらかしたと思った。
肌に、服に染み込んだ匂いは心地良いものでは
ないはずだ。特に違反学生でも2級学生でもない
普通の生徒にとっては。
しかし、向けられた視線は困惑でも嫌悪でもなく、
同情でも憐憫でもない。そう、親近感に似ていた。
何を以て彼女がそれを感じるに至ったのか。
推測出来ないとは言わないが、非現実的な可能性
ばかりが浮かんできて、納得に落とし込めるような
説明をつけるのは些か難しかった。
照れたように立ち去る彼女を呆気に取られた様子で
見送って……手の中に残されたハンカチに気付く。
「……余計なコト気にしたかも。返しそびれてるし」
今から追いかけるには体力も気力も足りない。
せめて汚さないようにと、丁寧に畳んで鞄の底に
しまいこむ。返そうと思ったら会いに行く必要が
あるのだろうか。或いは今日のような縁に期待して
ただ持っておくだけで良いのか。
貰ったことにして好きに使う、という選択肢が
自分の中に無いと気付いて、少しだけ自己嫌悪。
どこまで行っても自分は……落第街に馴染めない
半端者から抜け出せないようだ。
ご案内:「常世公園」から黛 薫さんが去りました。
ご案内:「常世公園」から藤白 真夜さんが去りました。
ご案内:「常世公園」に火光雷鳥さんが現れました。
■火光雷鳥 > 突発的な転移現象から数日経過――あの後は何とかかんとか下山して何やかんやで自室には戻れたけれど。
「――くっそ、アレから何となく気持ち悪ぃし変な違和感が消えねーし…あの野郎、何しやがったんだ。」
バイトの帰り道、自室まで真っ直ぐ帰るつもりだったが、いまいち気分が優れない。
途中、馴染みの或る公園で小休止だけしていく事にした訳だが、ベンチに座り込んで後悔した――動けん。
いや、こう物理的にどうこうではなく気分的に動きたくない、という感じであるが。
(いや、つーか何しやがったというか、俺の腕がエラい事になってたっけ…。)
赤い鱗、強靭でしなやかなフォルム、長く鋭い鉤爪…よくあるドラゴンの腕を人型サイズに落としこんだような。
今はもう完全に元の人の腕に戻っているし、アレからいきなり腕がまたドラゴンじみた事になる訳でもない。
ないのだが……。
「…益々凡人つーか平凡な学生生活から遠ざかっていくような気がしないでもないんだが。」
異能の制御だけ目標にしていればよかったのに、どうしてこうなった…。
魔術が全く自力では使えない体質だとか、突発的にヤバい場所に転移する変な現象とか。
正直、自称凡人としてはいい加減にキャパをとっくに超えているのだけどどうにもならぬ。
■束の間の幻視 > ――それは、何処か別の世界。
赤、青、黄、緑、白、黒――そして■。
――巨大な7つの影…否、異形の龍が犇いていた。
七つの色彩が揺れる。頭に時々ノイズが走ったような痛みが突き抜ける。
――その内の一体。赤く、紅く、緋く、ただ赫い龍がこちらを見ていた。
映像が乱れる、息が詰まる、自分の記憶にこんな光景は一切存在しない。
――そして、その口元が、牙を剥いて獰猛に――■を嗤ったように思えた。
■火光雷鳥 > 「うおわああああぁぁぁぁぁ!?!?」
ご案内:「常世公園」にセレネさんが現れました。
■火光雷鳥 > 「……っ!?……!?……あれ?」
思い切りベンチから飛び上がりかねない勢いで身を跳ねさせながら周囲を挙動不審に忙しなく見渡す。
…何の変哲も無い夜の公園だ。おかしい所は特に無い。
いや、偶々公園の傍を通り過ぎた若者から「何だアイツ」みたいな不審者的な目を向けられたけど。
「……お、おおぉ吃驚した……!!何だ今の…。」
落ち着けば一息零して改めてベンチに座り込んで背中を背凭れにふかーく預けた。
「幻覚の類…にしちゃすげーリアルだったな…いや、つーかアレ何処だったんだ…島ではねぇよな…?」
ぽたり、と前髪や頬から汗の雫が零れ落ちる。束の間のそれで、相当に疲弊していたようだ。
■セレネ > 日課の一つの夜の散歩。飼い猫である白仔猫を腕に抱えて公園内をゆっくりと歩く。
帰った後はあれをしてこれをして――なんて、予定をあれこれ考えていた所、
唐突に響いた絶叫に仔猫共々驚いた。
『……聞き覚えのある声ね?』
腕の中の仔猫は小さな耳をピンと張り、短い毛並みももっふりしてしまっている。
落ち着かせるように頭と背を撫でながら、大絶叫を披露した赤い髪の少年へと歩いて行こう。
「こんばんは、今日も元気そうですねぇ?雷鳥さん。」
ヒールの音を鳴らしつつ、流石にちょっと呆れた顔でそう言葉を投げかけよう。
叫んでいたにしては、かなり疲弊しているようにも見えるが…。
「何かありました?」
仔猫も青目を相手へ向け、緩く首を傾げているのが分かるだろう。
■火光雷鳥 > 何時もの叫び芸…いや、少年は芸のつもりは一切無いのだけれど。
兎も角、何時もと違うのは初めてリアルだけど何処か遠い出来事のような、そんな束の間の幻覚を体感したから。
と、そこで突然声を掛けられて挙動不審じみた仕草でバッ!とそちらに顔を向ける。
まず、髪の毛や顔が汗ダラダラだし、何よりちょっと瞳孔が開いているのがアレかもしれない。
で、一瞬の間を置いて声の主が誰かを脳が認識すれば、我に返ったかのように脱力した。
「…お、おぉセレネさんか。誰かと思った…こんばんわだな。」
と、力なく笑顔を浮かべて右手をひらひらと。彼女が抱く白い毛並みの仔猫にも軽く挨拶をしておこうか。
「んで、こんな時間にどうしたよ?アルミナちゃんと散歩でも?」
と、気を取り直してそんな質問を投げ掛けるが、汗ぐっしょりな事に気付いて無造作に顔を拭って確認。
…うわ、俺ってば汗掻きすぎじゃね?
■セレネ > バッと此方に振り向いた相手の顔は汗が流れ、瞳孔がやや開いているように見えた。
成程、何かあったのは明白だ。
「風紀委員でなくて良かったですね?
暖かくなってきたとはいえそのままだと風邪引いてしまうので、
汗拭いて下さいな。」
夜の公園で一人叫んでいたら確実に不審人物だろうななんて。
とりあえず相手の汗が気になるのでハンカチを差し出してみよう。
縁にレースがあしらわれた、白いハンカチ。
受け取ってくれたなら、ローズの香りがふわりと香ることだろう。
挨拶してくれた彼には仔猫もみぅ、と小さく鳴いてご挨拶。
「えぇ、散歩は日課にしておりますから。
貴方は…バイトの帰りです?」
相手が夜に外に居る場合、大体帰宅途中であったし。
ご案内:「常世公園」に火光雷鳥さんが現れました。
■火光雷鳥 > 「ふ、風紀委員は洒落にならんな…一発でアウト判定喰らいそうだわ。うん。」
未だに風紀委員会への苦手意識は強い。警察の代替組織だからしょうがない。
そもそも、風紀委員会の知人友人も居ないので苦手意識を克服する事もままならない。
と、そこで白いハンカチを差し出されて一瞬、躊躇するが汗だらだらで気持ち悪いので有り難くお借りする。
ふわり、と香るのはバラのものだろうか?ともあれ、顔の汗を拭いながら一息。
「悪い、今度洗って返すわ――って、俺?ああ、バイトの帰りだよ。
まぁ、ちょっと気分が悪いと言うか調子が優れなくて公園で軽く小休止してた。」
と、素直に語るが全てではない。気持ち悪かったのは勿論事実だけれど。
明らかに何時もと様子が違うのはバレバレだろうが、だからといってぺらぺら喋る気にも中々なれない。
(いや、つーかさっきの幻覚?もだけど、腕がドラゴンのそれになったとか、突拍子が無さ過ぎるしなぁ)
目の前の友人は、こちらの事情をある程度は把握してくれてはいるけれど。
気分を落ち着けるようにゆっくりと深呼吸。何時もの陽気なノリは流石にちょっと控え目だ。
■セレネ > 「…まぁ、流石に注意くらいで済みそうな気もしますけれど。」
不審なだけで誰かに危害を加えるつもりでもないのだろうし。
風紀もそこまで厳しくはない筈だ、恐らく。
一瞬躊躇いはしたが素直に受け取ってくれて内心安堵。
「いいえ、お気になさらず。
あらやはりそうなのですね?
…良ければ少し診ましょうか?」
バイトが余程キツかった、にしては疲労の程度が違うように見受けられる。
普段の調子も控えているようだし、己自身も気になるし。
彼の傍に膝をつき、仔猫は一旦ベンチの上に下ろして。
「痛む場所や身体に違和感はありますか?」
蒼を向け、穏やかに問いかけよう。
■火光雷鳥 > 「いやぁ、俺、風紀委員に苦手意識結構あるから、変に挙動不審になって余計に勘繰られそうな気がすんだよなぁ。」
何か風紀と因縁があるだとか、目を付けられているだとかそういうのではなく。
単に警察=お世話になったらあかんだろ!というのと、普段接しない職種だからだろう。
風紀は警察機構の代替らしいし、同じ学生が主体だとしても矢張り緊張してしまう。
取り敢えず、汗は一通り拭き終えつつも彼女の言葉に、「あ、そういやセレネさん医者だったなぁ」と呟くように。
忘れていた訳ではないが、普段の彼女は医者というより研究者肌っぽいイメージが矢張り強い。
「えーと、倦怠感と軽い吐き気、みたいな?熱とか頭痛とかは特にねぇかな。」
明らかに不調の原因は、青垣山(後日場所を確認した)に転移した時のあのドラゴン腕変化事件だろう。
実際、アレから微妙に不調が続いているのは否めない。
■セレネ > 「疚しい事がないのであれば普段通りにしていれば良いではないですか。」
己にはよく分からない感覚だからか、そこまで意識する事だろうかと不思議である。
…だいぶ前に風紀と公安との交流会にこっそり忍び込んだ際は、皆普通の人達であったから。
「その呟き聞こえてますからね?
――ふむ。眩暈がする、とかはありませんか。」
叶うならば相手の手を取り、指を手首に添えて脈を計ろうとしつつ。
嫌がられたりしたならば、脈を計るのはやめておこう。
体温も確かに正常そうだ。風邪の症状でもなさそう。
そうなると精神的なものだろうか。
頭の中で浮かぶ項目を一つずつ探り、消去していく。
「体調を崩す前何があったか教えてくれます?」
原因が分からなければ対処のしようがない。
出来るなら教えてくれると有難いと、言葉を添えて。
■火光雷鳥 > 「いや、警察の代わりって先入観が多分強すぎるんかなぁ、と。
別に本土居た時も警察のお世話になった事なんて全く無いんだけどさ。
なまじ普段接しない職種だし、自宅近辺とか交番も無かったから、気軽に接する事も出来んかったしなぁ。」
まぁ、これは単に自分がビビりなだけだろう。風紀の人達がやべー人達だとは思ってはいない。
…いや、待てよ?この島の風紀を守ってるなら、戦闘力とか含めてやべー人ばかりなんじゃ…?
「だって、セレネさん普段はほら、医者というか研究者っぽい言動や行動が多いし。」
そこは素直に印象を語りつつ、その間に脈を取られたりもしていた。
脈拍や体温は、今は少し落ち着いたからか比較的正常の範囲内だろう。
「――えーと、心当たりがあるにはあるんだけど、突拍子が無さ過ぎてなぁ。
…あーと、俺の体質あるじゃん?やべー場所にいきなり転移するやつ。
この前、またそれが発動して何処かの山林…あーと、青垣山だっけ?に飛ばされたのよ。
で、まぁ下山しようとしたらいきなり断崖絶壁に出くわして転落して――」
そこで言葉を一度切る。あの時の浮遊感と恐怖は記憶に新しい。むしろ早々忘れられん。
「――で、例の『奴』が語りかけてきてな。何か自分の力を一部だけ俺に渡すみたいな。
で、俺の右腕がこう――赤い鱗とでっかい鉤爪の…そうそう、ドラゴンみたいな腕になってさ?
その腕がまぁ、勝手に動いて色々あったけど、まぁ無事?に着地して事なきを得たっつぅ…。」
それからは何とか下山したが、腕は勝手に元の人の腕に戻っていた事も言い添えて。
そこまで語れば、軽く己の右手を左右に振ってみせる。
「まぁ、今はこの通り何時もの右腕なんだけど、あの後からどうにも不調ぽくてなぁ。」
■セレネ > 「正式な組織に所属している人達より、歓楽街やその周辺の人達の方が余程恐ろしいと思いますけどね、私は。」
組織に属している以上、一般市民や生徒に手出しは出来ない筈だし。
仮にそんな事をすれば査問にかけられるのは確実だ。
自分達の安全を守ってくれる組織を怖がっていてはおちおち散歩も出来ない。
「確かに私はデスクワーク向きですけれど。
生活委員でもないのに、医者としての面を出すのはあまり宜しくありませんし。」
そもそも学園側にその情報も伝えていないので。
バレるとちょっと困るのだ。
脈もほぼ通常か。そうと分かれば手を離す。
「新しい場所に転移した、と?
……へぇ、ドラゴン?怪我がないなら何よりです。」
転移云々の話より、己の興味がわいたのは腕が変化したという所。
蒼に浮ぶ感情は研究者のそれである。彼には見知ったものかもしれないが。
「紅い鱗の…ドラゴン。
その正体、私は知ってると言ったらどうします?」
変化した右腕自身が何かまだあるのか、それとも≪門≫が何か吸い込んでいるか吐き出しているのか。
蒼を凝らして両方を眺めながら、少しばかり不敵な笑みを浮かべて問いかけたり。
■火光雷鳥 > 「わーってるよ。俺が勝手に苦手意識抱いてるだけだし。
それに、落第街とかそっちの方がやべーのも理解してる。」
そもそも、こちらの治安などが保たれているのも彼らのお陰なのは勿論理解している。
別に悪感情がある訳では無い――本当にただ、苦手意識があるだけなのだ。
「まぁ、普段からそういう医者の側面を出してないって事は…あーー成程。」
自称凡人だが馬鹿ではない。彼女の語り口から、学園には医者の経歴などは伝えていなそうだな、と推測して。
勿論、こちらも友人として彼女が医者だ!と、ペラペラ語る気は毛頭無いが。
「ああ、青垣山っつぅのは下山した後に調べて知ったけどさ。
怪我は無かったけど肝が冷えたわ本当。この体質どうにかならんもんかねぇ。」
そもそも、門――異界接続者がレア物件らしいので、相談も何も出来ないのだが。
あと、友人の目の色が変わった。正確には研究者気質のそれに切り替わった、というべきか。
「――はい?え?セレネさん心当たりあんの!?そりゃ是非教えてくれ!
アイツに偶に聞いても全く教えちゃくんねーしさ。」
少なくとも、自分の脳内に居る奴の正体が判明する、という事なら知りたくない訳が無いのだ。