2021/07/07 のログ
神代理央 >  
「それが良い。微妙…なのはまあ、私も強く否定はしないが。
雰囲気も重要な味付けだという。多少衛生概念の怪しい屋台でも、美味く感じるものなのだろうさ」

映画館で食べるポップコーンと同義だろうな、なんて思いながら。
祭りを楽しみにしている様に見える少女を、微笑ましいものを見る様な視線で眺めているだろうか。

「…まさかお前に一般常識の類を疑われるとは思ってなかったな…。
しかし、チュールはまあ冗談としても。普通は利己的な願いを書くものなんじゃないのか?」

目を逸らした少女に、ちょっとだけ苦笑いを含ませつつも。
そういえば、そもそも皆どんな願いを書くのだろうな、なんて思っていたり。

「…ん。さっきまで空調の効いた会議室にいたから、温度差がきつくてな。
ああ、水があるなら是非貰いたいな。此処まで熱が籠ると、やってられん」

熱が籠る原因の一つは、夏場でもかっちりと着込んだ制服の所為でもあるのだが、其処は譲れないポイントなのか。
水ならある、と告げる少女に、暑さで覇気も消え失せた少年は力無くそれを求めるのだろうか。

ラヴェータ > 「それはそうだが...
チュール一年分でなくてももっとこう...こうなりたいとか、それこそ彦星らにちなんだ縁結びだったりではないのか?」

何かを一年分願うと言うのが不服な模様。

「そうでなくても貴様のようなひ弱な体格では厳しいだろうに...
こんな時期なんだから飲み物ぐらいもっておいたほうがいいだろう。
ほれ、水だ。好きなだけ飲め」

しれっと少年をコケにしつつ、気遣いつつ。
足元の陰に手を伸ばすべく腰を折って屈んで水を影の中から引っ張り出す。
少年になぜか冷えたペットボトルを手渡しする。

神代理央 >  
「ふむ…理想を叶える、ということか。
とはいえ、私は私自身の強さを誰かに願って叶えようとは思わない。
私は、私自身の力で世界に立つ。それだけだ」

それは、少年の矜持。
運分天賦。まして、天に祈って強くなるなどもってのほか、と言わんばかり。
しかし――

「…とはいえ、まあ。縁結びくらいはそういう祭りだからな。
否定はするまい。願って叶う様な縁が、長続きするとも思えぬが」

否定はしないが、バッサリ切り捨てた。
少年にとっては、素直に物欲に従う方がまだ懸命である、と本気で思っているらしい。

「……ひ弱言うな。否定は…しないが…。
……ん、ありがとう。これ、随分冷えているな。お前の影には、冷蔵機能なんてついていたのか?」

冷えたペットボトルを受け取れば、その冷たさに驚きながらキャップを捻って口を付ける。
こく、こく、と少しずつ冷水を飲み込んだ後、不思議そうに首を傾げるのだろう。

ラヴェータ > 「なかなか手厳しいことを言うじゃないか
世の男女ににらまれても知らんぞ?」

私も同じ思いだがな、と付け足しハハハと笑って見せる。
結ばれるような縁は願わずとも結ばれるものであるし、結ばなければならない縁は願っても結ばれることはない。
とはいえ物欲を正直に書くのもなんとも違う気がしてならない。
七夕の願いは気休めに書くものだと思っているのもあるのだろう。

「便利だろう?夏は涼しく冬は暖かいんだ
いまいち理屈は分からんが光があれば影があるように暑いところがあれば寒いところもあるぐらいの理屈なんじゃないか?」

いまいち理屈はわからない。
首をかしげる少年に苦笑いを向けつつ。

「ところで貴様は明日何か願うのか?せっかくの七夕なのだから貴様も何か願ってみてはどうだ?」

水を飲む様子をそれとなく眺めながら、聞いてみる。

神代理央 >  
「それくらいなら可愛いものだ。私が一体、どれだけの者に恨まれ、憎まれているか知らぬお前ではあるまい」

まあ、恋の邪魔をする者は馬に蹴られて…とも、言うらしいが。
その程度の事で済むならば可愛いものだと、笑って見せるだろう。

「……へえ。便利だな。住むに良し、保存に良し、とはな。
私も欲しいくらいだな。単独行動が捗りそうだ」

物質収納の異能や魔術の利便性は、今更語る迄も無い。
温度変換も自由に出来て、何時でも取り出せるとなればその有用性は推して知るべし、である。
羨ましがるその様子は、少しだけ仕事モード、といったところか。

とはいえ、そんな雰囲気も直ぐに霧散する。
今は仕事中では無いのだし…何より、暑い。
何度か水を口にして、ボトルを半分程空にしたところで…少女から投げかけられた問いに、視線を向ける。

「…願い事?そうだな、そんな事をする様な柄でも無いんだが――」

その一瞬。刹那。
嘗て戦争を愛し、戦争に狂った少女ならば、分かるかもしれない。
一秒にも満たない一瞬。僅かに世界が揺らぐ。
揺らいだ先に――浮かび上がる、世界。

全ての文明が燃え堕ちて、瓦礫すら残されなかった荒涼の世界。
その世界の中心に立つのは、機械仕掛けの巨大な――

「……そうだな。世界平和でも、願ってみるか」

それはほんの刹那の幻想。
テレビの見過ぎ、で片付けられる程の、僅かな揺らぎ。
消え去った幻想の後。世界平和を願う少年の言葉は、奇妙な程に――感情の籠らないものだった。

「……そろそろ帰ろう。何時までもこんな場所にいては、身体の水分がなくなってしまう。
明日も仕事だからな。無駄に体力を消耗したくはない」

よいしょ、と立ち上がった少年は、もう何時も通りだ。
相変わらず尊大で傲慢。立ち上がって数歩歩きだせば、少女の方に振り返って。

「……お前も、あまり遅くまで外をうろつくんじゃないぞ。
体調を崩さぬ前に、ちゃんとベッドで休む事だ」

と、告げて。
街灯の照らさぬ闇の中に、少年の姿は消えていくのだろう。

ラヴェータ > 「ああ、影の中は素晴らしいぞ
ただ仕事をするような場所ではないがな...
ひたすらに安心できる場所、とでも言おうか...とにかく良いぞ
残念なことに他人はいれられんが...」

この少女にとって影とは、自身の家であり、故郷でもある。
部屋でもあり、何よりも長くともに在り続けた存在の語りに熱くなっており。
とはいえ誰かを誘い込むことは出来ないのだからそれが残念でたまらない様子で。

「...理央...?」

それは気のせいかと見誤る程に短い時間の風景で。
確信を持てなかったからゆえの蚊のような呼びかけは少年には届かなかったようで、少年は言葉を紡ぐ。
少女も聞こえてなくても構わない呼びかけであったために、特に少年に再度呼びかけるようなこともしなかった。

「ああ、貴様もな、理央。
変に倒れでもして私に心配されぬようにな」

いつも通りの少年をわずかな戸惑いを隠しながら軽口と共に見送る。
少年の背が闇に消えたあたりで、顎に手を当てて考える。

「...気のせいだろう」

存外、自分も暑さにやられているのかもしれない。
そうでなければあんな...戦争の世界が広がるような。
そんなものが見えるなんてことは、きっとないだろう。
抑圧はなかなかに優秀で、戦争がしたいとは思わない、うずうずするようなこともなければトラウマが掘り起こされるようなこともない。
あの機械のようなものは少年の異形か、はたまた少女の異能か...
あの風景は本当に幻視だったのか、少年の異能か、外部の干渉か、自身の異能か何かが目覚めたか...

「...さっさと寝るか」

今は変に考えるより、休んだ方がいい。
夏の暑さは人を蝕んでいく。
首を横に激しく数度振って立ち上がる。
そのまま数歩進み、やはり納得も理解もならない様子ではあるが、そのまま影の中に落ちるように消えていった。
後には人の温度すら残ることはなかった。

ご案内:「常世公園」からラヴェータさんが去りました。
ご案内:「常世公園」から神代理央さんが去りました。