2021/10/17 のログ
ご案内:「常世公園」に黛 薫さんが現れました。
黛 薫 >  
一般的に未成年者の飲酒、喫煙は有害である。

厳密に言えば、アルコールも煙草も年齢に依らず
有害だが……成人前の身体は特に純粋で悪影響を
受けやすい。法律の上で大人と認められてからは
自己責任で楽しむことが許される、という表現が
正しいだろうか。

(んなこたよーく分かっちゃいますが、ねぇ)

ベンチに座る少女はげんなりした表情で大きく
ため息を漏らした。違反学生黛薫、禁酒禁煙中。

何も別にこれを機に悪いことを止める、みたいな
大層な決意をしたとかではない。良くない匂いを
持ち込みたくない場所に立ち寄る予定があるだけ。

黛 薫 >  
正直なところ、酒も煙草も美味しいと感じた経験は
一度もない。ストレスから逃げる手段の1つとして
勧められ、好きにもなれないままずるずると依存を
深めてしまっただけ。

飲みたくも吸いたくもないけれど何となく購入し、
口をつけてやっぱり美味しくないな、と思いつつ
鈍る思考に安心感を見出そうとする。そんな感じ。

しかし、一時的にとはいえ絶ってみるとこれが
なかなかしんどい。鈍らない思考はきっかけを
見つけては苦しい記憶を呼び起こそうとするし、
トラウマの想起を警戒する神経は常に休まらず
何もしていないのにじわじわ心が疲弊していく。
おまけに禁断症状で頭痛までついてくる。

(もう少し、頑張って金貯めとけば良かった……)

酒にも煙草にも逃げられないときは薬物に頼る。
というよりは麻薬に頼れないインターバル期間を
酒と煙草で誤魔化しているのだが、さておき。

諸般の事情で薬物を買えていない期間が長くて
余計に飲酒量、喫煙量が増えていたのが原因で
禁酒禁煙が輪をかけてしんどい。

「はぁー……」

ノンアルコール飲料の缶を揺らしつつ再びため息。
味はアルコール入りと大きく変わらない……つまり
美味しくは感じられないのに、酔えないという点で
満足できない。

黛 薫 >  
雰囲気だけそれっぽく楽しむなら、おつまみでも
買っておけば良かっただろうか。普段からお酒を
飲むときにおつまみなんて買わないからすっかり
意識から抜けていた。

(……いや、やっぱ要らねーか……)

普段おつまみを添えていないのなら、ノンアルに
追加しても気分が盛り上がったりはしないだろう。
貧乏性が祟って、無駄な出費に気落ちする所まで
容易に想像できてしまう。

(んでも買っときゃ、鳩の餌にはなったのかな)

足元に寄ってきた鳩を見ながら益体のない想像を
膨らませる。デフォルメされた二次元の動物には
惹かれるものの、リアルな動物……鳩やら猫やら
犬やらにはあんまり興味がない。

黛 薫 >  
足元には鳩が2羽。ベンチの上には鳩が1羽。
庭にいる鶏ではないが、だんだん増えている。
ちょうど今しがたベンチの下から1羽出てきた。

「あーし、餌持ってねーんですけぉ……」

足を振って追い払ってやろうかとも考えたが、
ちょっと足を動かしただけで驚いて距離を取る
鳩の姿を見ると、少し可哀想に思えてしまって
諦める羽目になった。

足元で寛ぐ2匹の鳩は時折地面をつついている。
誰かがスナック菓子の食べかすでも落としたのか。
それとも近くで見ないと分からないような小さな
虫でも集まっているのか。

真偽は分からないが、周囲の鳩もそれを見て
何かあると感じたのかもしれない。だんだんと
数が増えていく。黛薫は動けない。

「……いや何で?」

足元に鳩が4羽。ベンチの上に2羽。ベンチの下にも
1羽潜り込んでいるし、すぐ近くの木の上にも2羽か
3羽くらい待機している。

黛 薫 >  
黛薫は元々霊体を惹きつけやすい体質である。
最近はそれが変質して、怪異や一部の人外さえも
強力に誘惑する迷惑でしかない体質を手に入れた。
具体的に言うと、魔力やら精気を糧にする種族は
状況次第では理性を失いかねないくらい。

……言うまでもないが、鳩は対象外である。

「せめて頭の上はやめて。やめろ。やめろって」

特等席を見つけたとばかりに、フードの頭上に
降り立って羽繕いをする鳩が1羽。羨むように
膝の上に陣取って抗議の姿勢を取る鳩が1羽。

近くにいるだけなら迷惑には……いや、正直十分
迷惑だが実害はない。しかし、流石に頭の上やら
膝の上は困る。くすぐったいし。

「あ痛っって!この、こいつ、こんの……」

追い払おうとしたらつつかれた。最初は軽く足を
動かすだけで怯えていた鳩の群れが、数を揃えて
段々ふてぶてしくなってきている。

黛 薫 >  
足元の鳩は今や7羽を超えている。ベンチの上で
寛ぐ鳩も右手側に1羽、左手側に2羽。膝の上にも
1羽いるし、何より頭の上にいる1羽が鬱陶しい。

「うっっわ、あーもぅ、コイツらマジか……」

左手側にいた鳩が狭くて邪魔だと言わんばかりに
ノンアルコールの缶を蹴倒す。転がり落ちた缶が
地面に落ちて軽い音を立て、色褪せて擦り切れた
ショートパンツはずぶ濡れになった。

缶を拾い上げる一瞬の隙をついて背中に1羽の鳩が
降り立ったが、流石に許す気にはなれずそのまま
身体を起こす。不満げに離脱した鳩は近くの木の
上に陣取って次の機会を伺っている。

大きく身体を動かしたお陰で、頭の上の鳩も一時
離脱したのが幸い……かと思っていたのに普通に
戻ってきた。

「あーしの上で巣でも作る気かこのやろ……。
いい加減散れっての、そろそろ蹴るぞマジで」

黛 薫 >  
脅しをかけつつも、実際に蹴ろうとはしないのが
黛薫の善性であり、損なところ。というか下手に
追い払おうとしたらまたつつかれる気がして怖い。
力関係で鳩に負けている。

「餌とか持ってねーって言ってんだろ、離れろよぉ」

弱々しい抗議の声もどこ吹く風、頭上の特等席を
巡って2羽の鳩がケンカを始める始末。ぽーぽー
ぽっぽーと囃し立てるような鳴き声がやかましい。

「どーーしてこーなった……?」

集いに集った鳩の数、およそ20羽弱。
ロクに動けないので正確な数は分からないが、
動けたとしても数える気にならなかっただろう。

黛薫は、鳩に埋もれたまま嘆息した。

"ぽっぽー" "ぽーぽぽー" "くるるる" "ぽっぽぽー"

うるせぇ。

黛 薫 >  
一体どうしろと言うのか。いや追い払えよ。
途方に暮れる黛薫。どんどん増えていく鳩。

しかし唐突に──鳩の群れが一斉に飛び立った。
代わりに、するりとベンチの上に飛び乗る影。

「うわ猫。……んぁ、コイツ……あん時の猫か」

白地に黒ぶち模様の子猫。いつぞや落第街で
見つけて、放っておけず表の街まで連れてきた。
あの時は散々引っ掻かれた挙句、今の鳩の如く
膝の上を占拠されていたが……今になって恩を
返しにきたとでも言うのだろうか。

「……まあ、そんなワケねーわな……」

全然違った。あの時と変わらず膝の上を占拠しに
来ただけだった。鳩はいなくなったが代わりに猫が
膝の上で寛いでいる。黛薫は動けない。

黛 薫 >  
せめてノンアルコール缶の中身が残っていたなら
飲み終えるまでの気晴らしと捉えることも出来た。
しかし缶はさっき鳩が倒してしまったので空っぽ。

好みの味ではなかったとはいえど、お金を出して
買った飲み物が半分も消費しないうちにズボンの
染みになってしまったという事実は結構堪える。

何より、飲み物がもうなくなってしまった以上
公園のベンチで無為に時を過ごす意味もなくて。

「あーしもう帰りたいんですよぉ」「にゃあ」
「にゃーじゃねーんですよぉ「なぁーご」

一応、穏便に膝の上からご退場願おうと試みたが
案の定と言うべきか、思いっきり威嚇されたので
諦めた。力関係で猫にも負けている。

黛 薫 >  
子猫が膝の上から退くまでたっぷり2〜30分。
落第街で拾ったときは痩せ細っていたはずの猫は
乗せていた膝が痺れるほど立派に育っていた。
喜ぶべきなのかもしれないが、正直有り難くない。

「あ゛ー……くっそ、膝痛ぇ……」

缶の中身をぶちまけられたお陰でショートパンツは
べたついているし、何より秋も中頃に差し掛かって
冷え込みも厳しくなりつつある時期。

「うわ寒っむ……ハンカチどこやったっけ……」

鞄の中身を引っ掻き回して使い古したハンカチを
見つけたものの、後の祭り。生乾きの布地からは
それ以上水気を取り除けなかった。

「風邪とか引かなきゃイィけぉ……」

ぼやきながら公園を後にする。

空になった缶は公園のトイレで綺麗に洗って、
丁寧に潰した上でゴミ箱に捨てていった。

ご案内:「常世公園」から黛 薫さんが去りました。