2021/11/07 のログ
ご案内:「常世公園」に幣美奈穂さんが現れました。
幣美奈穂 >  
11月は日が沈むのが早い。
夕方になり、空が茜に染まる時間。
もう少し立てば暗くなってしまう時間です。
公園の外灯も既についているのですが。
常世公園の東口に数人の影・・いえ、「人」呼びできるのはひとりだけ。
美奈穂です。

「本日はありがとうございました」

お礼の青竹と林檎を差し出す美奈穂です。
お相手は大熊猫一家。
本日、急にお料理を増やすことになってお手伝いをお願いしたのです。
こう、物を第六指で押さえ挟んで掴めるその能力を見込んで。

くーくー。

いいよいいよ、という鳴き声のお答え。
特に動物と会話できるわけではないのですが、なんとなくで意思疎通している美奈穂。
別にアニマルテイマーとかではありません。
啼き声でどんな意味か判る時もありますが。
大熊猫、雑食性も残り、凶暴な時もある熊なのですが。

その場で食べていくご様子に、「失礼いたします」
と頭を下げて離れる美奈穂、その後ろにはおおきな影。
そう、カムチャッカオオヒグマです。
現在ではもういないとされるそのヒグマ、タイムスリッパーなのか次元超越者・・次元超越熊なのか。
それはご本熊の話や調べないと判らない事でしょう。
次に向かうのは、常世公園東口駅です。
そこから電車で一本で南に行けば東農業区の終点駅につくはずです。
来る電車を乗り間違えなければ。

幣美奈穂 >  
四つ足で歩かれても、背中は美奈穂より上になる大きなクマさん。
歩く人もびっくりです。

「明日は何のお鍋がいいでしょうか・・?」

ぐわぁと喉を鳴らす大熊に相談です。
思ったよりも河川敷に避難している方も多く、炊き出しとして結構ぎりぎり。
いつもならもっといる鍋ラー(適当に作った造語)も少なかったためです。
奉仕部でアルバイトを募集して人手というのもありますけれど、
そこまで潤沢なお金があるわけではなく、炊き出しは人の善意でほとんどできているようなもの。
支出はあっても収入がないのです。

お金を出来るだけ使わないでお料理というんもありますが、えてして、そういうお料理、
お金はあまりかかりませんが工夫が必要なので、人が必要になったりします。
あと、お肉が圧倒的に足りません。
圧倒的なお肉不足です――お肉は、いいお値段するからです。
100g68円のブロイラーの鶏もも肉でも、その100gのお値段でジャガイモ玉葱にすれば、
お腹いっぱいになるぐらいにできるのです。

猪でも狩ってこようか?、とこちらを見るクマさんの頭をなでり。
狩ってこられても、捌き方が判る人たちがいないのです。
う~ん、この前みたいにおうどんがいいかもしれません!

と、駅に着きます。
美奈穂は乗らないので、ここでお見送りです。
クマさん、立ち上がり毛並みの下に隠していた交通ICカードを取り出し、改札でぴっ。
立ち上がられると、美奈穂二人分より大きいので大迫力です。
キャスター荷物を通れる大きな幅の改札口も、クマさんは蟹歩きで横移動、狭いのです。
それよりも、ぴっ、いいなーとか見ていた美奈穂です。
カードとか持っていない美奈穂なのです。
改札口前で邪魔にならないように横にずれまして、電車待ちに並ぶクマさん。
迫力と大きさに、そのあたりだけ空きます。
こちらを振り返れば、お手てを振ってお見送りです。
電車が着て、降りる人優先。
のぞりと乗ると、ぎしりと電車がきしんだ気もする重量感。
身体を回してこちらにお顔を向ける姿に、周囲、静まり返ります。
ごっふごっふ。
締まる窓が鼻息で白くなるのを見ながらお見送りが終わりますと、
とてとて、公園側に戻る美奈穂です。
ここから暫く公園内を北に上がってから、暫くして右に曲がりいつもの商店街に入るつもりです。

幣美奈穂 >  
「あっ!、きゃっ!。あの、こんばんは・・!」

とてとて歩きながら、暗くなっていくお空。
星が見えてきます。
向こうからわんこさんを連れてジョギングしている方に気付かず、
吠えられてからびっくりしてご挨拶。

「あなたもこんばんは」

へっへっと尻尾を振る柴犬さんにもご挨拶。
しゃがんで、お顔を挟むようにしてわしゃわしゃします。
こっちが気付いてないので、ご挨拶として吠えたようです。
ドッグランで逢ったことがある子ですね。

ジョギングの続きと走っていく一人と一匹を見送りましたら、またとほとほです。
来週の初めは、常世神社に例祭の打ち合わせに行かないといけません。
月曜日は特に決まった仕事がないので、その時間で打ち合わせをするつもりです。

(どれが北極星かしら・・あっ、たぶんあれっ!)

美奈穂の地元に比べると灯りが多く、見える星が少ないのです。
ちょっと寂しい夜空です・・とか思うのですが。
これが繁華街だと、もっと見えないものです。
けれど、繁華街とか特に行かない美奈穂なのです。

ご案内:「常世公園」に杉本久遠さんが現れました。
杉本久遠 >  
 色が変わっていく空。
 秋空にしては随分と冷たくなってきた風に、うっかり薄着に冬用の上着だけ引っかけて来ただけの久遠は寒さに震えそうだった。

「――ったはー!
 今年は冷え込むのが早いな!」

 と、本当は夕飯のおつかいを頼まれただけだったのだが。
 軽く体を温めようとジョギングのために遠回りして、公園までやってきたスポーツバカである。

「ん、お?」

 その最中、犬とあいさつを交わす小さな姿を見つける。
 学園で何度か見かけた姿だ。
 名前までは知らなかったが、その背格好に対して学年が高いのでよく話に聞く。
 そう、ちっちゃな先輩だ。
 まあ、久遠からすれば立派に後輩だったが。

「こんばんは。
 この時間はもう、足元を見て歩かないと危ないぞ」

 そう、空を見上げる後輩に声をかけた。

幣美奈穂 >  
いつも通りな巫女姿、行灯袴が短いので、すらりとした細い脚を白いソックスで覆った美奈穂です。
夏でも秋でも変わらずの姿、冬は千早を羽織ったりしますが、だいたいお昼間はこの姿です。
暑くも寒くもあまり感じない、自身にも加護があり、神術的な拵えもあるその服装もありまして。

もっふもっふと、飼い主さんにきちんと手入れをされている毛並みな柴犬さん。
ご挨拶してお別れしてから、お星探し。
北極星を探すのは、まずは北斗七星を探すことから。

「――わっ!?、あっ!、こんばんはです!」

見上げていましたら、ぬうっと目の前に大きな影。
たんに外灯の灯りが消えただけですが、お空に影が現れたように見えたのです。
それでちょっとびっくりしたお声。
ですが、すぐにふにゃふにゃと花がほころぶような笑顔でご挨拶を返します。

「そんなことありませんわ。
 わたくし、きちんと足元も注意してますもの」

もうオトナだと自負する美奈穂です。
えっへんっ!
今日はまだ転んだりしてません、と胸を張ります。
河川敷までは奉仕部の面々が、それから後は先ほどまでクマさんに気を遣われ面倒を見られていたのに、
まるで気付いていない美奈穂です。
胸を張れば、背丈の割に大きめなお胸が少し前に主張します。

「お散歩ですか?
 あっ、パンダさんならさっき林に戻りましたわよ?」

ほのほの軽い感じで、まるで警戒心もなくお話かける美奈穂なのでした。

杉本久遠 >  
 驚いた顔が、すぐに愛らしい笑顔に変わる。
 なるほどと納得した。
 後輩先輩問わず、話題に上がるのはこの朗らかな可憐さがあるからなのだろう。

「たはー!
 それは余計なお世話だったか!
 すまんな、ついついお節介を焼きたくなる性分なんだ」

 胸を張る少女に幼いころの妹を思い出して、頭に手が伸びそうになった。
 ついつい撫でてしまいたくなる少女だった。

「ああいや、買い物に出て来たんだが。
 思ったより寒かったもんで、軽く走っていたところでな。
 ――パンダ?」

 どこからパンダが出て来たのか。
 首を傾げつつも、そういう事もあるか、で納得するのがこの男である。

「たしか、何度か学園で顔を合わせた事はあるかな。
 オレは杉本久遠、エアースイム部の部長だ。
 君は――すまん、良く話は聞くんだが、名前は覚えてなかった!」

 たははー、と笑いながら自己紹介だ。

幣美奈穂 >  
「ふふふなのですわ。
 わたくし、もうオトナですから!」

お鼻が伸びたら、つーんとなっているかもしれません。
なんかオトナポイントが上がった気がするのです。
でも、頭に手が伸びてきますと、つついとちょっと近づきまして、撫でられ体勢。
そう、美奈穂は撫でられるのも好きです。
もっと思春期とか迎えてたら、恥ずかしがったり怒ったりするかもしれませんが、
9歳から一人暮らしな美奈穂、自覚はないですがスキンシップに飢えている派なのです。

「あ~、お買い物。
 スーパーとか、今のお時間ですとお安くなってたりいたしますものね」

うんうんと、小さく頷く自分視線。
あまり遅い時間にスーパーで買い物をしませんが、お弁当などももう少し遅ければ安くなるとは聞いています。
コンビニ?
コンビニにはほとんど行ったことがないのです。少しお高めなイメージがあったりで。

「はい、パンダさんです。
 今日、お手伝いしていただいたのですが・・」

ついっと一瞬、公園の林の方に目が行きます。
あそこの林、かなり深く色々な動物が住んでいるのです。
首を傾げさせられると、何が不思議そうなのか判らない美奈穂。
鏡合わせな方向に、こてりと同じように小首を傾げさせるのです。

「あっ、かぐらお姉様と一緒のなのですか?
 ほら、お空びゅーんってくるくるってするやつです!
 あっ、わたくし、風紀委員の『みてぐらみなほ』と申します」

前に、浜辺で見た焔誼迦具楽様のことです。
機械とかまるでだめな美奈穂ですが、くるくると危なそうですけど楽しそうだったのです。
ちなみに美奈穂、健康状態は健康そのものですが、身体能力は年齢や体格から見てもかなり下の方なのです。

杉本久遠 >  
 頭が寄ってきてしまえば、ついつい撫でてしまうのは仕方ない。

「ははは、そうかそうだな。
 君も立派なオトナだもんな」

 大きな手で優しく撫でる。
 女の子を撫でるのに慣れている手つきだが、これは残念ながら妹相手に鍛えられたものであって、久遠が女子慣れしているわけではない。
 まあ、後輩にはよく慕われていたりもするのだが。

「ああ、それで夕飯のおつかいをな」

 特に安売りが目的ではなかったが、生鮮食品はやはり、商店街の専門店がいいモノに出会いやすいのだ。

「そうか、パンダと――うん、そうか?」

 揃って首が傾いているが、仕方ない。
 パンダと何をしていたのだろうかとか、危なくないのだろうかとか、色々疑問は浮かんだが。
 此処は常世学園だしな、というだけで納得した。
 常世島暮らしが長い分、自分の世界観の外との付き合い方も心得ているのである。

「かぐ――焔誼選手を知ってるのか!
 いや、まて、それよりも今、『みてぐら』と言わなかったか!?」

 焔誼迦具楽――常世島でのアマチュアスイマーの中では、近年で最も輝いていた選手と言える。
 そして、久遠にとっては憧れの選手だ。
 また、それはそれとして、『みてぐら』という名前もとても覚えのある名前だった。

幣美奈穂 >  
傍でもひもひとしていた小柄なうさぎさん。
ぴょんぴょんでなく、のたりのたりと美奈穂の足元にきまして、草をもひもひ。
まったく警戒されていない。
あろうことか、その草履を履いた足の上にちょこんと顎を乗せて、もひ~っと。
楽にしながら口元をもひもひする姿。
美奈穂もちょっとくすぐったいですが足があったかです。

頭を撫でられますと、ほにゃほにゃ。
ぱあっと花が咲き開くように、純粋な陽な気の喜ぶ雰囲気。
嬉しそうにお顔もほころばせます。

「お夕飯・・秋刀魚とか、茸とか美味しいですものね・・。
 大根おろしたっぷりで、スダチきゅっとさせまして・・」

うんうん。
なんとなく。お口に秋刀魚が欲しくなります。
今日のお夕食はまた秋刀魚にしましょう、と心に思う美奈穂。
週2で秋刀魚になっています。
商店街にある鮮魚屋さんに寄ろうと考えるのでした。

「はいっ、なんか大会でるとかで。
 くるくるって高いところまであがってくるくるってしました。
 くるくるって」

手を使って、上にあげてから下げてとしながらくにゃくにゃ動かします。
背伸びもしまして、一生懸命に表現しようとしてますが、エアースイム知らないかただと、
ふにゃふにゃダンスみたいです。

「え、あ、はい。
 わたくし、幣ですけど・・」

どうしましたの?、と。
きょとんとして、背の高さの違いから見上げながら、また首を隔離と小さく傾げさせる美奈穂です。

杉本久遠 >  
 本来臆病で警戒心の強いはずのウサギに懐かれる少女。
 撫でられて花咲く笑顔を見れば、この純真無垢さが人も動物も引き付けるのだろうかと、久遠まで表情が和やかに緩んでしまう。

「ああ、いいな秋刀魚。
 うん、秋刀魚も買っていくか」

 旬のものは旬の時期に食べておくに限る。
 この季節は秋刀魚が頻繁に食卓に乗るのは仕方ないのだ。

「そうか、大会――まだ、続けてくれるのか」

 そう、どこか熱の籠った呟きを漏らし。

「あ、ああ。
 珍しい名前、だと思ってな。
 ――もしかしてなんだが、君のお姉さんはエアースイムをやっていなかったか?」

 と、興奮を押し殺すようにしながらたずねてみる。

幣美奈穂 >  
まったりと落ち着くうさぎさんです。
ゆっくりとしゃがみますと、両腕で抱えて胸前にIN。
寒さは特に感じていない美奈穂ですが、生き物の暖かさは感じます。
自然なぬくぬくです。
そのまままた立ち上がりますが、しゃがんで抱えて立ち上がるまで、なんとも自然な動作。

「今の時期ですと、脂が甘くて・・あっ、牡蠣の土手鍋とかなんかも・・」

お料理のことになると、大好きな美奈穂はすぐには止まりません。
頭の中に牡蠣レパートリーが繰り広げられます。

「わたくしは怖くてできませんけど、とても楽しそうでしたわ?」

その後の苦悩とかまでは知らない美奈穂なのです。

「あ、はい。
 写真とかで見せて貰ったことあります!
 こう、ふわっとして楽しいとか。
 あとお義兄様もそこで一発で捕まえたとかいってました!」

歳の少し離れた姉のことを知っているらしい。
きゃっきゃっ、と嬉しそうなお顔を見せる美奈穂ですが、興奮しているご様子に少しのけぞり気味。
実際にやっているところを見に行ったことがなく、携帯で動画とかも見ていない美奈穂は、
姉が結構すごい選手だったことなんてまるで判っていないのです。

「あっ、今でも大学でやり始めたって夏休みに言ってましたわ。
 朱ちゃんも大きくなって落ち着いたからって」

姉の赤ちゃん、初めての姪はとても可愛く。
お姉様と呼ばれる気まんまんな美奈穂、残念ながら常世学園に来てますので、
長期の休みでしか会えなそうなのですが。

杉本久遠 >  
 大人しく胸元に抱きかかえられるウサギの様子に、感心。
 とはいえ、その年齢にそぐわない大きさの胸元をしみじみ眺めるには、少々罪悪感があるので視界に収めるくらいだが。
 それよりも、動作の自然さとしなやかさを見せる身体の方に意識が――と、書くのも少々怪しいものだが。

「ぬっ、牡蠣か。
 それも捨てがたい所だなあ」

 料理は出来なくはないが、男料理ばかりである。
 牡蠣と言えば鍋、くらいの発想しかないのは寂しいところだ。

「楽しそうだったか、うん、そうか。
 それはああ――何よりだなぁ」

 少し目頭が熱くなる。
 去年から、あこがれの選手がよもや引退かとも騒がれていたのだ。
 当人の葛藤を思えば、楽しそうに泳いでいたと聞けるだけで感極まりそうになるのだ。

「ああっ、やっぱり『みてぐら』選手の妹さんか!
 まさかこんな所でお会いできるとは!
 っと、すまない。
 いや、なんだ、恥ずかしいが、オレは君のお姉さんのファンでな」

 と、身を乗り出していた事に気づいて、恥ずかしそうに頭を掻いた。
 狭いマイナースポーツの世界である。
 アマチュアでもプロでも、目立った選手は注目されるのだ。
 この久遠も、一部では人気だったりもするのだが、こういうのは本人が知らないのが常である。

「朱ちゃん――ああ、娘さんか。
 当時は話題になったんだぞ。
 あの幣選手が、ってなあ。
 しかしそうか、また復帰してくれたのか――うむ、嬉しい限りだ!」

 拳をぐっと握りしめ、感動を表している。
 なんだか、そのうち感動で涙でも流すんじゃないかという雰囲気。

「素晴らしい選手だったんだ。
 あの騒動がなければ、プロのスカウトもあっただろうからな。
 まあ、幣選手が幸せでいて、エアースイムを今も楽しんでくれているなら、それがなによりだ」

幣美奈穂 >  
もひもひっ。
美奈穂の大きなお胸の前に抱えられたうさぎさん、じ~と杉本様を見上げます。
上から見たら、前に大きく膨らんでいる感じに見えるのでしょうが、
視界に入ると、同時にうさぎさんがじ~っともひもひしながら見ているのです。

「生牡蠣に、牡蠣フライ。
 牡蠣グラタンとか、夢があるのです」

目を瞑り思い浮かべる美奈穂、ゆるんだ口元から涎が垂れるのが幻視できそうなお顔です。
じゅるりっ。

「え? えっ?
 でも双葉姉様、もう旦那様がおられますわよ?」

ちょっと勘違いした美奈穂です。
こう、ファンと聞くと、お友達から聞く恋愛ドラマ話。
そう、ファンから――と、そこからお話が!
姉と杉本様のドラマの展開がどうなるのかと少しどきどきするのです。
・・勘違いでした。
朱ちゃんのことも知っているご様子、ちょっと目を反らしまして。
目元が少し桜色。

「そうなのですか?
 夏休みも合宿とかなんとかで、10日も逢ってない気がします・・。
 え?、そんなに双葉姉様、他の人が知ってるのですか?」

大好きなお姉様ですけど、そんなにエアースイムがお上手だと知ってびっくりです。
何事かと遊んでくれた姉ですけど、やはり兵法修練を一緒にやったことが一番よく覚えているのです。
就職するなら、叔母の後を継ぐのかと思っていただけに、プロのスカウトというのにびっくりです。

「あ~・・双葉姉様、いつも元気で落ち着かない姉様でしたから・・。
 エアースイムがきっとあってたのですね!」

実姉の活躍を、こんなところで知り聞けて、にこにこ嬉しい美奈穂です。
ゆるりと、なんとなく鮮魚店のある方向にと、もう少し北に上がってから東に向かうコースで、
ゆったりと歩き始めようかと。
視線は、身長の差からやっぱり見上げている美奈穂です。

杉本久遠 >  
 ウサギにじーっと見られると、何とも言えない気分になった。
 なりつつも、これだけ大きいのに姿勢が崩れていないのは素晴らしいな、と妙な所で感心する久遠なのだ。

「なんだ、君はお姉さんの活躍を知らないのか?
 幣双葉と言えば、アマチュアスイマーの間では有名だぞ。
 たしか――ああ、この試合は素晴らしかったなあ」

 愛らしい後輩に合わせてゆっくりと商店街の方へ歩みながら、自分の携帯端末を取り出して、保存していた動画の中から一つを再生してみる。
 それは少女の姉にフォーカスを当て撮影された、試合の動画だった。

「だはは、とても元気な人だったんだな!
 うむ、試合の様子にもそれがよく表れていたな。
 武術を応用したような動きが、とても洗練されていてなぁ」

 なんて、推しを語るファンというのは、話し出すとなかなか止まらないもので。
 ゆっくり歩みながら、少女に合わせて身を屈めながら端末の映像を見せて見たりと。
 

幣美奈穂 >  
歩くと、ゆったと小さく揺れるお胸です。
そこに半分後頭部が埋もれるようになりながら、横向きに見上げるうさぎさん、もひもひっ。
なんとも安定しているのです。

「はい・・あっ、写真とかは見たことあります!
 お友達とブイってしてるのとか!」

どれですか?、と。
出されたものに顔を近づけますと・・ぴちちっ、と小さな音が携帯端末から聞こえるかもしれません。
そう、美奈穂は電子機器とかととても相性が悪い。
幣家守り巫女に憑く火雷大神のせい。電化製品と体質的に相性が悪いのです。
まだ離れて見ているだけなのですが《視線》という気の通りができ、
携帯端末、ちょっと熱くなってきてるかもしれません。

「あっ、これ。双葉姉様ですか?
 わぁ、この頃だと髪、こんなのでした・・」

と、よく見ようと近づきますと、美奈穂の髪からふわりと甘い匂いや焚火の匂いに反して。
じじじっ、となんか不味そうな音が聞こえたり、匂いが携帯端末から・・なんてことになるかも。

杉本久遠 >  
 少女性愛の嗜好がある男だったらひとたまりもないような光景だが、残念? 幸い?
 久遠は筋金入りの朴念仁であり、すでに少女への視線は妹を見るような保護者の心地。
 近づいて甘い匂いがしても、微笑ましく優しい気持ちになるだけなのである。

「ああ、かっこいいよなぁ。
 そうそう、ここから、この後の動きが凄いんだぞ――?」

 端末から鳴る異音と、妙に加熱されている基部に首を傾げる。
 さて、二世代ほど前のモデルだからか、弱ってきたかななんて思い始めたりするものの。
 映像は幣選手が華麗なファイトを見せるあたりで乱れはじめ――、

「――どわっ、っちち!?」

 バチッとなるとともに、異常加熱した端末に驚いて手を放してしまう。
 カタン、カラカラ、と道を転がる端末は、エラーを表示したまま表示が固まっていた。

「な、なんだ?
 すまんすまん、どうやら寿命だったみたいだなぁ」

 頭を掻きながら、端末を恐る恐る拾い上げる。
 かなりの熱を持っていたので、すぐに上着のポケットにINされた。

幣美奈穂 >  
歩きながらだと、一緒になって見上げる美奈穂とうさぎさん。
小首を傾げさせれば、うさぎさんも首を傾げさせるシンクロです。
相も変わらず、足元見てなくてちょっと危なっかしい。

「わぁ、姉様もくるくるってしてますわ?
 あっ、この板みたことあります。
 うちにありますわ・・」

始めてみるような実姉の雄姿。
その中でもいつものように明朗闊達な、頼りになる姿です。
こうしている姿は、ますます叔母様に似ている気がするのです。
と、近付きすぎたのか、ばちっとなる音に。

「きゃっ!? あっ、あの大丈夫ですか・・?」

転がる携帯端末に、お目めぱちぱちとしてから。
杉本様に大丈夫?、と心配そうな目を向けるのです。

「へぇ~、こういうのも寿命があるのですのね・・」

ほむほむ。
頷く美奈穂です。
美奈穂は携帯端末とか持ったことがないので、そこらへんはよく判りません。
聞く話だと便利だなーとか思うのですが、相性が悪いことを常々感じてはいるのです。
風紀委員の連絡なども、口頭か掲示板というアナクロ生活なのです。

ポケットに入れば、《視線》から隠れるので、多少違和感があっても安定するでしょうか。
これが怪異とかなら、隠れていても気などを感じるところなのですけど、機械相手ではそういうのもなく。

「杉本様も、こういう感じでくるくるするのですか?」

みなさま、目が回らないのかしら?
そんなことがちょっと気になります。

杉本久遠 >  
 ポケットに放り込んだ端末が、じんわりカイロがわりになるのを感じつつ。
 明日にでも新しいのを買いに行こうと考える。
 今度は簡単に壊れないような高性能、高耐久のモデルがいいなと。

「うむ、電子機器にも寿命はあるぞ。
 まあ経年劣化、って言うんだが。
 こういう端末は使う頻度も高い分、消耗も早いんだ」

 少女の体質による影響だとはさっぱり思わない。
 なにせ超常的なものに関する感覚は、久遠はさっぱりなのである。
 五感に触れる物ならともかく、それ以外はむしろ鈍感なくらいなのだ。

「だはは、くるくるかー。
 うむ、くるくるもするぞ?
 まあオレの場合は、くるくるよりも、ビューンって感じだがな!」

 と、右手で大きく線を描くようにジェスチャー。

「気になるなら、そのうち体験にでも来ないか?
 実際に触れてみると、印象が変わるかもしれんぞ。
 百聞は一見に如かず、というだろう?」

 なんて、誘ってみる事は忘れない。
 エアースイムに縁のある学生は貴重なのだ。

幣美奈穂 >  
ふむふむ。
もひもひするウサギさんと一緒にお顔を小さく頭を上下。
真剣なお顔で、口元を少し尖らせるようにキュッとさせていますと、なんとなくうさぎさんとお顔が似てます。

「お爺様になっちゃったのですのね。
 ――なんとなくわかりました!。
 あれです、ダイコンのマンドラゴラさんはすぐに食べごろですけど。
 オタネニンジンのマンドラゴラさんは長いのと一緒・・でしょうか?」

美奈穂的には、寿命(食べごろ)が随分違う二つをあげたつもりです。
青首ダイコンは3か月ですが、
オタネニンジン、通常は高麗人参とも称されるのは、2年~6年なのです。

「そう、くるくるです~。
 くるくるでなくてびゅーんっなのですのね」

両手がうさぎさんを抱えているので、頭が動くだけ。
くるくる小さく体を動かせば、立ったうさぎさんの耳もくるりと回り。
ぴゅーんと横に振る仕草、耳が横に揺れます。

「えぇ・・ちょっと、高いのだめかもしれませんけれど・・。
 あの、大丈夫なのでしょうか・・?」

見るならともかく、自分がやるとかまるで自信がない美奈穂です。
ちょこりとうさぎさんを持ち上げ、その後頭部で口元を隠すようにしながら、
上目遣いでもしょもしょ、尋ねます。
興味はあるのですけれど、運動はちょっとだけ。
そう、たぶんほんのちょっとだけ苦手意識がある美奈穂なのでした。

杉本久遠 >  
「ん、ん?
 ああ、うん、そうだな、そんな感じだ!」

 久遠にはよくわからない例えだったが、それでも力強く肯定していく。
 雰囲気は掴めていそうなのでヨシ。

「はは、何も高く飛ぶ必要があるわけじゃないさ。
 気になるなら、見に来るだけでもいいし、なんなら、幣選手の試合映像を見に来るのだっていいぞ?
 それで、少しでも触れて見たくなったら、その時は体験してみるといい。
 オレでよければ、いつでもサポートするからな」

 そう快活に笑って、心配するなとばかりに。
 ただ、それ以上しつこく誘う事はしない。
 こういうものは、本人がやってみたい、と自分から踏み込んでくれないと意味がないのだ。

「――と、流石に寄り道しすぎたかな。
 幣――あー、それじゃお姉さんとわからんな。
 うむ、美奈穂と呼んでもいいか?
 ああ、オレの事も久遠なりなんなり、好きに呼んでくれて構わないからな」

 

幣美奈穂 >  
あってました!
と、傍からでも判るぐらい、明るい笑顔を向けます。
美奈穂はやれば出来る子なのです。

「えぇ~、高く飛べないのですの?
 はい、お時間ある時になら見てみたいですけど・・。
 あっ、他のもありますの?」

姉様の活躍。
言葉でしか聞いたことがありませんので、動いているのを見たのは今日が初めて。
一緒に鍛錬とかは、巫女術とか兵法ではしてましたけど。
そういうハイカラ?なのは丸で知りません。

どうしましょうか?
 どうしたらいいでしょうか?
と、うさぎさんの頭でお顔をちょっと隠すようにしながら、
もじもじと躊躇い悩んでいる姿なのです。

「お魚屋さんで秋刀魚買いませんといけませんものね。
 あっ、はい。大丈夫です・・。
 ――えと、久遠お兄様?」

こくりと、美奈穂と呼ばれても大丈夫と頷きます。
公園をそろそろ出ないといけないところですので、うさぎさんは下ろせば。
後ろ足で立って耳を振ってこちらを見てから、ぴょこんぴょこんと公園の方へ戻っていきます。
改めて杉本様を見上げましてから、お兄様呼びをしてみて、どう?、と首を傾げさせるのです。

杉本久遠 >  
「んー?
 もちろん高く飛んでもいいぞ!
 まあ、その時はまず慣れてからだけどな。
 お姉さんの試合映像なら沢山あるぞ?
 はは、なに遊びに来るだけならそんな気負う事もないだろう。
 オレはしょっちゅう浜辺にいるし、学園で声かけてくれてもいいしな」

 気になっていることは、もじもじしている姿からすぐに見て取れた。
 気軽に遊びに来てくれればいいんだぞ、とその躊躇う少女の頭を、ぽんぽんと撫でた。

「たはは、お兄様かー!
 なんだかくすぐったいもんだが、うむ」

 ウサギとわかれる姿を微笑みながら見送って、ウサギに自分も手を振り。

「よし、美奈穂も商店街だよな?
 折角だ、一緒に行こうか。
 帰りには暗くなるだろうし、送ってやりたいしな。
 ――あー、ほら、女性をしっかり送り届けるのも、紳士の務め、みたいな?」

 商店街の方を指しながら、同行を提案する。
 しかしつい、子供を送り届けるような言い方になってしまっていたのに気づいて、
 なんとなく、それらしく聞こえるように誤魔化した。
 

幣美奈穂 >  
「いいの?
 でもやっぱり高いとこ怖いし・・。
 そんなにあるのですか?」

高いところを飛べると聞くと目をきらきらとさせますけど。
すぐに不安そうになったりと、表情がくるくる変わります。
高いの苦手だけど、鳥見たりに高いところからも見てみたいという葛藤です。

うさぎさんに小さく手を振ってお見送り。
うさぎさんも立ち止まってこっちの方を見て、耳を揺らせば、ぴょんぴょんと林の方に。
あっちにお家があるのでしょう。

「そうですか?
 はいっ、久遠お兄様。
 ありがとうございます。
 あっ、うちはお魚屋さんのすぐ近くなんです!」

普段から普通に呼んでいるので、くすぐったい気持ちが判らないのです。
すぐそばの高層建物の屋上です。
あれ、と。20回以上ある建物を警戒心まるでなく指で示すのです。

「今日は秋刀魚、何尾買いましょうかしら?
 
うさぎさんがいなくなって手元のぬくぬくが無くなり、ちょっと手元がさみしい美奈穂。
杉本様の服の裾をちょこんと指でつまみます。

杉本久遠 >  
「はは、うむ、いい表情だ。
 おう、お姉さんは有名人だからな。
 いつでも見に来るといいぞ」

 目まぐるしく変わる表情が愛らしく、ついつい頭を撫でる手も可愛がってしまう。
 妹が幼かったころを思い出して、頬が緩んでしまう久遠である。

「おお、そうなのか。
 なら一緒に行けば大丈夫だ――な。
 ――おお、でかいな」

 あれは高級高層マンションではないだろうか。
 さすがは『みてぐら』のお嬢さんというべきか、立派な住まいだった。

「なにを作るかによるなぁ。
 うちは、とりあえず四尾もあればいいかな」

 なんて言いながら、裾を掴む少女の目の前に、ごつごつとした大きな手が差し出される。
 手を繋いでいこうかという意思表示だ。

「今日は冷えるなぁ。
 誰かが手を繋いでくれたら嬉しいんだが」

 なんて、似合わない台詞を言ってみたりしながら。
 

幣美奈穂 >  
「へぇ~、双葉姉様、そんなに有名なんですね。
 おうちだと、ごろごろしても煩く落ち着きませんのに」

くすくすとなります。
さらに上の、美奈穂より一回りも年上の姉に比べて落ち着きがない姿で、
あまり人のいるところに出掛けられなかった美奈穂には、一番の遊び相手な大好きな姉なのです。
頭を撫でられていても、それが子ども扱いされていると気付いてもおらず。
にこにこご機嫌な美奈穂です。

「あそこの、一番上なのですわ。
 毎日上に登って、下に降りてと鍛錬になります」

階段で上り下りもあまり気にしてない子。
ちょうどいい鍛錬だと思っております。

「うちは、おうちにゃんこさんが二尾で、わたくしが一尾です。
 あと、箒さんは・・いらないですわよね・・」

魔法の箒が秋刀魚を食べるとは思えないのです。
口元に指を置いて考えてましたら、手を差し出されています。
えいっ、とつい反射的に躊躇いなく両手で握ってから、片手を離します。

「あっ、本当。
 冷たいです!」

軽く手を振りながら、手と杉本様のお顔を比べます。
美奈穂の手、柔らかくちっちゃくて、握り壊せそうな感じですけど。
体温が子供っぽくてぬくりとした温かい手なのです。

杉本久遠 >  
「おお、そんなお姉さんの話も聞いてみたいな。
 そんなお姉さんが、オレにとっては、かっこいい憧れの人なんだ」

 憧れを遠くに置いておきたい人もいるが、久遠は親しみを感じられるならそれはソレとして嬉しいタイプの人間だ。
 選手としてだけでなく、少女の姉としての一面も聞けるなら聞いてみたい。
 にこにこと嬉しそうな少女に、つられて自然と笑顔になる。
 素敵な少女だと感じられた。

「一番上、か。
 うむ、確かにいいトレーニングになりそうだな!」

 久遠も肉体で語るタイプの人間。
 鍛錬になると言われれば、なるほど確かにそうだと同意するのだった。
 ツッコミは不在である。

「ん、おう?」

 猫まではわかったが、箒と聞いて不思議そうな声が出た。
 とはいえ、ここは常世島だし、そんなものか、と納得するのである。
 居住歴が長くなじみ過ぎた弊害かもしれない。

「はは、美奈穂の手は暖かいな。
 きっと美奈穂が心暖かくて優しい、いい子だからだろうな」

 小さな手を優しく握り返して、しっかりと手を繋ぐ。

「よし、それじゃあ買い物に行くとするか。
 いい秋刀魚さんの選び方があったら教えてくれ」

 なんて笑いながら、少女の歩幅に合わせて、商店街へ向かっていく。
 歩調を合わせて歩く道中は、繋いだ手のぬくもりだけでなく、心もじんわりと温まる穏やかな時間になるだろう。

幣美奈穂 >  
「この前の夏休みの時も、わたくしが通りかかったら。
 あつい~ってごろごろしてた双葉姉様、まるで蛇のように!」

にょろにょろっとやってきて一緒に水浴びすることになった話とかするのです。
にょろにょろ~は、手を伸ばしてどんな具合かゼスチャー。

「真ん中にエレベーターもあるのですけど。
 荷物が大きい時とかでないと、あんまり使わないのです。
 あの・・時々、壊れて止まったりしますし。
 エレベーターって」

実感籠った感じで、うんうん頷く美奈穂です。
美奈穂も、日々、鍛錬を忘れずにです。
他の方から見ればゆっくり体操に見えても、型だけはしっかりしてますし。
楽しくなってきて、ちょっとずつ手を振る幅が大きくなったりするのです。
 

「はい、でしたら久遠お兄様のお手てもぬくぬくにしますわ。
 あったかくな~れ♪,あったかくな~れ♪です」

弾むような、歌うようなお声で御呪い。

「秋刀魚は・・まずは目です!
 あとは胸が張ってて、ぴんっとしたのです!
 ほら、姿勢が良くて素直な秋刀魚さんがやっぱり美味しいのですわ」

胸が張っているのは、新鮮な証拠なのですけど。
元気だから美味しいと、美奈穂は思っています。
そんなお話をしながら、ご一緒にお買い物。
無事にぴんっと手に持ってもまっすぐ立つ秋刀魚をGETして、お家のとこまで送っていただいたのでした。

ご案内:「常世公園」から杉本久遠さんが去りました。
ご案内:「常世公園」から幣美奈穂さんが去りました。
ご案内:「常世公園」に深見 透悟さんが現れました。
深見 透悟 > 「ひぃ……ひぃ……土いじりだけでこんなに疲れるとは
 死んでからほとんど運動らしい運動してねぇからな……」

日も沈んでだいぶ経った夜の常世公園。
時おり冷たい風が吹く中、一体のテディベアが懸命に土塊を弄りまわしていた。
不格好ながらもどうにか等身大の人の形をしていると分かる土塊を前に、疲労困憊と言った様子で地べたに座り込む。

「けどまあ、これでどうにか……なったら良いが
 どうにかならなかったらどうするかなー、大人しくテディベアのままで居るかなー」

呼吸を整えながら見上げる空はすっかり星が瞬き、辺りには人の気配も疎らだ。
手足についた砂を叩き落としながら、テディベアはゆっくりと立ち上がる。
ちょっと休憩ー、とそばのベンチに飛び乗ってちょこんと腰を下ろし。

深見 透悟 > 「生きてりゃここでコーヒーだか買って飲むとこだけど
 生憎とコーヒー飲むための口も金も持ち合わせてねーんだなこれが!
 ……まあでもちょっとくらいぐったりしてよう。夕方から土いじりぶっ通しだったし。ふひー」

つかれたー、と情けない声を上げながらベンチに寝転ぶテディベア
空がきれいだなー、なんてのたまう姿はさながら仕事をクビになったサラリーマンめいて見える

「あっちの世界は今頃どーなってんだろなー
 誰か俺のこと探してんのかな。探してねーだろーなー、友達も多い方じゃなかったし。
 家族はそもそも俺が居なくなったことに気付いてるかどうか」

思い返すのは元居た世界のこと
碌な人間関係を構築できていないことを改めて実感し、あははー、と苦笑するほかなく

ご案内:「常世公園」にルリエルさんが現れました。
ルリエル > ベンチに座り込むテディベアの方に、ひとりの女性が歩いてくる。
冬の気配も濃くなってきた冷え込みの中、比較的薄手といえる服装。肌は白く、長い髪は銀色。
日本人多めの常世島において、ひと目で日本人でないとわかるだろう容姿。
外人さんか、それとも異邦人か。……実のところは異邦人なのだが。
種族としては天使だが、その容姿はパッと見では人間そのもの。

「ふぅー……すっかり遅くなっちゃったぁ。ま、お昼寝しちゃった私が悪いんですけどー……」

学園地区の方から歩いてくる女性の人影は、ちょうど人形が鎮座するベンチの前を通り、南の方へと往こうとする。
目ざとい方なので、独り佇むテディベアには気づくことだろう。
それより先に、そのテディベアが発する声に気づくだろうか? それはテディベアの反応次第か。
……ベンチの傍にこんもり積まれた人の形の土塊を見てしまえば、さすがに驚くかも。

深見 透悟 > 「元の体に戻りたさはあるけど……帰りたくはねーな、あそこ」

ぽつりと、そのつもりもなく溢した自分の呟きに、少しだけ驚くテディベア
いつの間にか元居た世界よりもこちらの世界の方が居心地よく感じている自分が居た事に気付いてしまった。
まあ無理もないかー、と思わず苦笑したり。

「こっちの世界のお姉さんがたレベルたっかいもんなー……
 あ、驚かせちゃった?ごっめーん、人が通るとは思ってなくってさー」

たまたま通りかかった女性に気付き、ほらなー、と目を細めるテディベア。
土塊に驚いたような反応を見せる彼女に、笑いながら声を掛ける

ルリエル > 「…………ひっ!?」

いくら夜目が利くとはいえ、公園の暗がりに人型の影が倒れ伏していれば、さすがに驚く。
詰まった声を上げるが、すぐにそれが人の形に盛られただけの土塊であることを見抜く。
……もっとも、その下に実際に人が埋まってる可能性もまだ否定できないが。なんとも嫌らしいいたずらだ。

「…………ひゃっ!?」

そんな所にさらに男の声がかかれば、ふたたび驚きの声を上げる。
ベンチにぽつんと腰掛けるクマの人形……そこが声の発生源に間違いない。
人形が喋る? そもそもこれは人形? その程度の不可思議はこの島では決して珍しくもないが。
それはそれとしても、夜の静謐の中でそんな遭遇が相次げば、やっぱり焦る。

「………お、驚きましたけどぉ……?
 あなた、喋るお人形さん? それとも機械? それとも……人形に見えるだけの、そういう種族?」

ふぅ、と自らを落ち着ける深呼吸をひとつすると、やや怪訝な顔を浮かべつつ人形の方に歩み寄って。
会釈するように腰を曲げ、小さなクマの人形を見下ろす。

深見 透悟 > 「やー、ホントごめんねー。明るいとこで見ると雑だけど、こう暗くっちゃよく分かんないわな
 え?俺?……ああ、えっとどう説明したもんかな。
 ただのお人形さん……に、幽霊が取り憑いて、喋ってるのー」

あと動くよ、と両腕を軽く振ってアピール。暗いところで知らずに見ると中々にホラー
こちらを見下ろす女性を見上げ、わーこれまたホントキレイなお姉さんだー、と喜びを露わに

「やー、お姉さんみたいな綺麗な人にそんなに見つめられたら照れちゃうなー」

きゃー、と両手で頬を押さえてくねくね身を捩ってみたり

ルリエル > 「ふぅん? 幽霊が人形に取り付いてる……そういうこともあるのねぇ」

天使という超常存在であるルリエル、幽霊や霊魂、憑依という概念にも馴染みはある。
テディベアにそう説明を受ければ、とくに驚きも見せずウンウンと納得の仕草を見せるが。

「……幽霊? じゃああなた、もう死んじゃってるのかしら? そうだとしたら……ええ、ご愁傷さまですけど……」

どこか哀れみを帯びた柔和な笑みを向けつつ、ルリエルはそっとベンチの上の人形を両手で掴みあげる。
喜びの表情を浮かべて身体を動かす人形は、確かに何らかの魂魄の内在を感じさせる。
それでいて触った感触は確かに人形のそれだ。彼の言うことは本当なんだろう。
なんとも可愛げのある生き物?だ。こうして照れた仕草でくねくねしている限りは。

「私はルリエル、学園で養護教諭をしてますの。あなたの名前は?」

見つめられたら照れる、と訴える人形のじたばたを物ともせず、自らの目線の高さまで持ち上げて。
鮮やかな翠の瞳をまっすぐ向けて、人形の名を問う。

深見 透悟 > 「まあこうやって熊になるまでにも色々あったんだけどねぇ……」

様々な出会いや厚意の末に現状がある、というのは片時も忘れないテディベア。
こうすんなりと自分の身の上を受け入れられると、それはそれで物足りなさを覚える。
幽霊などの概念に近い存在に親しみのある存在なのだろうか、と相手の事を推察しつつ。

「そそ、少なくとも生者ではない……はず?
 何しろ自分でも自分の死体を確認してないもんだから、もしかしたら生霊の可能性もワンチャン……?」

そういえば、と思い出す。死亡時の記憶は酷く曖昧だ。
気付いたら魂だけでこの島に居た、そしてそれを自分が死んだのだと認識して今に至る。
本当に死んでいようが死んでいまいが自分は霊魂だけの存在になっているので、あまり深く考えた事は無かったのだ。
……と、そんな事を考えている間に持ち上げられてしまい。

「わ、わ
 あー、ルリエルさん……ね。俺はトーゴ。深見 透悟だよー」

名前を問われればすぐに答える。
変に動いて手を滑らせられてはかなわないので、くねくねは一旦止めた。

ルリエル > 「トーゴ、フカミ・トーゴですね。響きからして日本人なのでしょうか?
 まあ今は……ふふっ、小さくて可愛らしいクマさんですけれど♪」

持ち上げられて焦ったのか動きを止める人形に、ルリエルは目を細めて笑みを浮かべる。
クマ人形の小さな腕の下に差し込まれた白磁の手はなおもフニフニと蠢き、人形の感触を確かめる。
いくら触っても人形は人形。なのに自ら動いてのける。不思議な存在ではある。

「……あら。死体を確認してない……。それはなんとも……哀れんでいいのか、希望を持つところなのか。
 もしあなたが幽体離脱をしてるだけだとするなら……ふふ。死んでいるよりは救いがありますね」

見る限りは愛らしい動く人形だが、そうなった経緯にはやはり複雑な背景がある様子。
彼が実際に死んでいるにせよ生きているにせよ、自分がその状況に対しできることはない。
であれば、重要なのは彼がいまの生き様に満足しているか、今後どうしたいかというところだ。
……と、土塊を弄っていて汚れているであろう人形の手先にこちょこちょと指を這わせて。

「ところでトーゴ。そこの人型の土のかたまり、あなたが作ったんです?
 そうだとしたら……なんのために? 来る人を驚かせるため……ではないですよね?」

軽い身体をぐっと引き寄せ、やや神妙な面持ちで人形の顔を覗き込みながら、問いただす。

深見 透悟 > 「いやー、出身は此処とは別の世界でさ。いわゆる異邦人ってやつ
 そう考えると異世界の俺が何で日本人っぽい名前してるんだろうな……?」

小さくてかわいいクマさんなのは否定しない。事実だし
座っていれば高さ20cmほど、立てば人間の膝くらいの高さまではあるが、一般的なサイズのテディベアだと思われる。
自分の感触を確かめるように手を動かされるのがくすぐったいのか、ふふ、と抑えたような笑い声を時折上げる

「まあしょーじきなところ俺としてはどっちでも、って感じなんだよな
 どうやらこっちの世界に俺の体の方は転移してないみたいだし、こうしてただ人と関わる分には大した苦労もしてないし」

幽霊だったときは半ば自業自得とは言え透明だったせいで不必要に人を驚かせてしまったりしていた
半ば楽しんで驚かしていた気もするが、そんな過去の事は忘れちまったなあ、と白を切る気満々である
手先を擽られれば、あはは、と耐えきれなくなって笑いを溢し

「ちょ、くすぐったい……ん?
 ああそうだよ、俺が頑張った土人形
 なんの為と言われたら……そうだな、テディベアの体は時々不便なときもあるから、やっぱヒト型の体を作っとこうと思って」

身体を引き寄せられれば、少しだけ身じろぎながらも大人しく
美貌に顔を覗き込まれて、照れながらも正直に目的を答えた

ルリエル > 「あら、あなたも異邦人だったんですね? ふふっ、お揃い♪
 ……ええ、この《地球》と似た別の世界もあるでしょうし、なら近い国や言語も存在しうるのでしょうね。
 きっとあなたの世界が日本と近い言語体系だったんでしょう。……私もここに来てからいろいろ勉強しましたよ」

この島に転移してからかなりの時間を過ごしたルリエル。他の異邦人や異世界の在り方についても学びは十分。
ではこのクマ、いや透悟は……と考えて、しばし思案にふける。
こんなボディでは、学園のカリキュラムに生徒として混ざるのはなかなか難しそうだが……。

「……んー。やっぱり。あの土のボディに憑依してみようと考えてたのですね。
 憑依のお話を聞いてから、そんな気はしてましたが……それって、うまく行くのでしょうか?」

ルリエルは首を傾げつつ、トーゴ人形を持ったままそっとベンチに腰を下ろした。
テディベアを太ももの上に置き、お腹に手を回して軽く抱きかかえる。
――むにゅり。人形の後頭部に、柔らかくて重く丸い2つの質量が押し付けられる。

「クマの人形に憑依してもクマのままなんですから、土の人形に憑依しても土の人形のままですよね。
 ……人に見られたら、絶対いまの姿より驚かれそうですけれど。私だったら即通報してますよ?
 小さい身体が不便なようでしたら、もう少し大きい人形に憑依するとか、そういう方向性のほうが……」

ルリエルはテディベアをむにゅむにゅと抱きしめながら、至極真剣な口調で彼の試みに対する意見を述べる。
まるで、そこに宿っているのが年頃の男の子の魂であることなど知るよしもないかのよう。
……まぁ実際、年頃のほどは正確に知り得ていないのだけれど。見た目はあくまでクマさん人形だし。

深見 透悟 > 「あら、ルリエルさんも異邦人だったんだ?
 まあ日本人離れした見た目してるから、外人さんかなとは思ったけど、出身世界も違ったのね
 俺だってまあ……こっち来てすぐは図書館に忍び込んだり、
 置き忘れられた教科書を見たりしてある程度勉強はしたもんよ。」

ふふん、と自慢げに胸を張るクマ
勉強は好かないものの、地頭は悪くない方ではあるので、必要とあらば知識を得るのは辞さないのだ。
テディベアに取り憑いた現在も、たまに図書館に忍び込んだりもしている。

「そゆことー……テディベアの体だと高いところに手が届かなかったり、
 物を掴んだりとか、手を洗ったらしばらく濡れたまんまとかだから。
 貰い物のテディベアだから、元の持ち主のためにもあんまり汚したくもないし?
 ……上手く行くでしょうか?ってどゆこと?」

ほ?と疑問を呈されて頭を傾ける
ルリエルからすぐに返答はなく、透悟が座っていたベンチにルリエルは座り、更にはそのままルリエルに抱きかかえられる透悟。
何だか後頭部に幸せな感触があるー、とほわほわっとした顔になったが

「…………なるほど、そういうことね
 大丈夫だいじょーぶ、その辺も勿っ論考えてるさ
 その土人形はまだ形を作っただけの準備段階!
 ここからもうちょっと人間の見た目に寄せてくから!そのつもりだったから!今日はもうだいぶ疲れたけど」

美人に抱き締められて若干テンションがアップ。自信たっぷりにルリエルの意見に答える
準備段階の時点で思ったよりも時間と体力を使い過ぎた気もするけど、と反省はしつつ目的達成は諦めないテディベア

ルリエル > 「あら。きちんと勉強に励んでらっしゃるのですね♪ 良い子良い子♪
 もしちゃんと学園に編入できたら、きっと優等生になれますね!」

憑依体という特異体質なりにきちんと勉強をしようという姿勢に、ルリエルはにっこりと感心する。
抱っこされた体勢でルリエルの体温をじっくり満喫する彼に、顎の下をこちょこちょとくすぐってあげたり。
……とはいえ、先ほど目にして驚いた土の人型については、やはり不安しかなくて。

「まぁ確かにトーゴの言う通り、人形の身体でも不便なことは多そうですねぇ。
 水が染み込むなら雨の日とか最悪でしょうね……お風呂に入れないのも、私だったら絶対耐えられないですし。
 ただ、うーん……土の人形も見た目を良くしても、すぐ崩れたりしそうじゃないです?
 お店のマネキンとか、そういうしっかりした造りの物体のほうが……って思っちゃってね」

あの土塊は、小さくても物理的な身体を得た彼なりの試行錯誤と努力の賜物なんだろう。
なればこそ、それが希望ごと崩れ去る光景はあまり見たくもないし、味わわせたくもない。
……それよりも、人形が完成する前に朝が来て、怪しんだ誰かに崩される可能性のほうが高そうだが。

「……そういえば。トーゴって、人間や生き物には憑依できるのかしら?
 もしできるなら……憑依しても良いって人を探して、頼み込んでみるってのはどう?」

抱っこした人形を豊満な胸肉越しに見下ろし、さも名案とばかりにひとつの提案を口にするルリエル。

深見 透悟 > 「まあ必要だからやってるだけで、偏ってる自覚はあるんだけどね……
 編入出来たら?……いやいや、さすがに学校でお勉強は勘弁願うわ」

感心してくれたところ悪いけど、と前置きして
顎の下を擽られるのも合わせて、いやいや、と首を振ってみたり
必要だから学ぶ、必要ないと思うところまでは学びたくはない。そんな気質は、さほど珍しいものでも無いだろう。

「そうなんだよ、地味に不便なタイミングがあってさー
 お風呂は……まあ、誰かに洗って貰ったりとか、すれば……まだ…
 ま、まあ!とにもかくにも一度試してみてから次を考えれば良いかなーってね!
 こう見えて元天っっっ才魔術師だから!それにほら、この世界の最初の人間は土から作られた、ってあったし」

雨天はまだ幸いにも遭遇していないから何とも言えないが、入浴に関してはアテが無いわけでもない。
それよりも、私だったらと語るルリエルの入浴シーンなどを想像して目元が緩む。
なおも心配してくれているルリエルの言葉に我に返ると、自信たっぷりに胸を反らしたが、頭が強い弾力に弾かれて姿勢を戻した。何だ今の。

「あー、人や動物か……そもそも俺、幽霊になったばかりで憑依があんまり得意じゃあないんだよね。
 確かに同意を得られれば人の体を借りる事も出来るだろうけど……どう影響させちゃうか分からなくて、怖くて。」

生き物への憑依の練習台として拾って来たハムスターを思い出す。
自分が及ぼす影響があまりにも未知の為、結局練習できずに今に至っていた。

ルリエル > 「ふふ。まぁ、学校の勉強だけが勉強じゃないってのも一理ありますね。
 とはいえ、あまり学園に関わらずこの島にいると、怖い人に目をつけられますから、そこだけ注意ですよ?」

幽霊や人形といった姿ならともかく、人間に近い身体を取り戻しつつも学園に入らずにいるのはまずそうだ。
不法入島者として風紀などに目をつけられる可能性もある。
聡明に見える透悟であれば承知の上だろうが、一応教諭職として釘を差しておきつつ。

「ええ、試行錯誤は良いことだと思いますよ。ところで、なるほど……生前は魔術師でしたと。
 それならあの人形も納得が行きますね……ええ、確かにそのような『人もどき』を造る試みはありましたね。
 まったく……ヒトは《神》が《混沌》より産み給うたモノですのに、どこでどう伝え違えたのか……」

おそらく《ゴーレム》の創造を試みたのであろう透悟の説明に、ルリエルは呆れたような返答をする。
……今でこそ違うが、元は神の忠実なる使徒であった天使ルリエル。
《ゴーレム》のような、人が神の代わりに人を作ろうとする試みには呆れるより他の感情を持ち得ない。
とはいえ、透悟にとっては必死の試行錯誤の過程であるし、実際自信もあったのだろう。
呆れるのも程々にし、ふ、と自嘲気味のため息を一つ漏らすと。

「まあ、いいでしょう。トーゴに自信があるのでしたら、作ってみると良いです。
 魔術の助けがあれば、きっとヒトに遜色ない人形を作れるのでしょうし。それはそれで楽しみではありますね。
 ……それはそれとして、人への憑依も練習しておく価値はあるかもしれませんね?
 もちろん許可なく誰彼にでも憑依するのは天罰沙汰ですけれど、頼めば許してくれる人もいるかも?」

太ももと胸の間に詰め込むように人形を抱きかかえながら、ルリエルは慈しみの視線で見下ろす。

「……試しに、私に憑依してみます? もちろん少しの間だけですが」

深見 透悟 > 「う……そうだよなあ、何か打つ手を考えないと……
 生徒になるだけなっといて、授業には出ない……とかはアリかなあ?」

ルリエルの忠告には心当たりが無いわけでもなかった。
ひとまず最優先は新たな体の完成で、その後の事はその時に考えようと思っていたのだが。
もしかするとテディベアのままでも不当入島者として扱われることもあるかも、と認識を新たにする。

「わーい、褒められた~。生きてた頃はついぞそんな事で褒められなかったからなあ
 まあ寸分違わぬ人体が必要、ってわけでもないし、『人もどき』くらいで丁度良いからさ。
 自律した生命体を作るわけじゃ無いし、それくらいなら神様も目を瞑ってくれるっしょ」

あくまで欲しいのは器であって人間そのものではない
そう主張するが、話しぶりからして相手は自分よりもその手の話に明るい様で怒られたりするだろうかと身構える

「……んまあ、一度始めた事は最後までやってみないと気が済まないし、やれるだけやってみるつもり!
 とはいえ、俺が知ってる魔術だとこの体じゃ難しいことも多くってさー
 その為にも『より人間に近い』体が欲しかったんだよね……
 人への憑依も……?そうかなあ、必要かなあ
 俺が憑依したことで体調崩したりとか、そういうのあったら申し訳なくてさあ」

小さく唸りながら思案する透悟だが、周囲が非常に柔らかくて今一つ集中できない

「ルリエルさんに? いやいやいや、さすがに初対面の相手にそれは……」

慎重といえば聞こえが良いが、どちらかといえば臆病ゆえの尻込み

ルリエル > 「なるほど、より魔術の精度を高めるための仮の身体というわけですか。合理的ですね。
 ……ふふっ。やっぱりトーゴ、かわいい見た目に反してとっても聡明な方なんですねぇ♪
 生前はどんな姿だったんでしょうね、気になりますよぉ」

透悟の丁寧な説明に、徐々に合点がいき始めるルリエル。
そして同時に、あまり人に迷惑をかけず段階的に人の姿を取り戻そうとしている努力も理解する。
今はもう神の失われた時代、人がどう造られたかなんて科学的にも立証されつつある情報社会だ。
なればもう、彼のアプローチを咎め立てする筋合いはない。
……心なき人に邪魔されないか、という点は未だ心配だけれど。

……そして、それはそれとして彼の憑依能力にはルリエル自身も興味があるのだ。

「ふふ。まぁそうですよね、憑依なんて、他人の身体に触るのよりも数段踏み込んだアプローチですものね。
 ……なーんて言いながら、私はトーゴのことしっかり抱っこしちゃってますけど。ふふふ♪」

彼が人間態であれば、いかに愛らしい男の子であってもいきなり抱っこすることはなかっただろう。
人形の姿であればこそつい及んでしまった接触。積極的すぎたかなとちょっぴり後悔もある。
とはいえ拒絶もされないのでずっと抱っこしっぱなしだが。

「あなたの無理のない範囲で、いろいろ試していくといいと思います。
 まぁでも私は天使ですから。自分の肉体と魂の扱い方なら、人間よりもずっと得意ですよ?
 他人への憑依はできませんけど、受け入れるくらいなら全然平気です。
 そして変なことされそうになったら即座に弾き出すくらいのことも。……まぁ、試したことはないですが」

なおも人形のふかふかのお腹をくすぐりながら、天使を自称するルリエルは事も無げに説明する。

――もし仮に透悟が誘われるままにルリエルへの憑依を試みるなら、それはすんなり為されてしまうだろう。
人形に憑依したときと同程度の難易度で。ほぼ完全に肉体の自由を奪えてしまうはずだ。
それでいてルリエルの魂も彼女の身体に残っていて、いつでも取り返せるという発言も真実味を感じさせる。
もちろん、実際にうまくいくかは透悟のコンディションにも依る所だろうが。

深見 透悟 > 「そりゃあ魔術師ってのは大抵合理的な生き物だし。
 聡明って……お、俺の居た世界だとこれくらい普通普通!
 元の姿も普通だって、気にされるようなもんじゃないって!」

今のところ自分の姿を立証する手立ては透悟にはない
テディベアの体から抜け出して、幽体になっても生前自ら施した魔術の所為で姿を見られることだけは無い。
故に謙遜にとられるかもしれなくとも、透悟としては本気で普通だという事を主張するしかなかった

「そ、そそそそうだから!触るよりよっぽど勇気要るから!
 まあルリエルさんはその……乱暴に扱うわけじゃないし、別嬪さんに抱っこされるのは悪い気もしないし……というか」

むしろ礼を言いたいくらいだがさすがにそれは引かれそうで口に出来なかった
けれど、もう少し喋るテディベアに皆警戒心を抱くべきだとは思う

「そ、そこまで言う……てか天使?御使い様だったのか、ルリエルさん?言われてみりゃそれっぽい名前だ……
 御使い様なら確かに俺らなんかよりよっぽど魂の扱いに長けててもおかしくはねえな……
 それなら俺が取り憑いても……いやいや」

くすぐられてもくすぐったさを感じない程度に色々と考え始める透悟
ここまで相手が厚意的に接してくれるのを無下にするのもきまりが悪い気もする。
しかし相手は美人でスタイルも抜群。そんな体に入って理性を保てるかも怪しい。場合によっては鼻血くらい出るかもしれない
ぐるぐるとそんな事を頭の中で考えながら、ふと失念していたことを思い出した

「あ……その前に、俺この体から出るの試してないや……」

憑依してから一度もテディベアの体を抜け出したことが無い
もっと言えば、憑依の解除が分かっていない